東京の書店を散策していたら、面白いタイトルの本が目についた。
  数理論理学の本である。理系の学生は数理論理学は履修科目にあるのだろうが、文系学部で数理論理学の講義はないだろう。

  数学者の藤原正彦『国家の品格』にゲーデルの不完全性定理が出てくるが、その証明方法かいかなるものであるか門外漢のわたしには見当もつかないが、一度じっくり証明に目を通してみたいものだと思っていた。この本はゲーデルの不完全性定理の門の前まで案内してくれる本であるから、数理論理学の入門書と言ってよいのかもしれない。
  門の中へ入るには専門書を読むしかない。著者は教科書として鹿島亮著『数理論理学』朝倉書店2009年 を、専門書として菊池誠著『不完全性定理』共立出版2014年 を挙げている。

  著者によれば、「言語(記号)」と「公理」と「推論規則」がセットになって演繹システムが展開される。命題の真偽は「可能世界」や「モデル」が決まらなければ判定ができない。
  「記号」として四則演算記号のほかに命題を表す記号や述語論理記号(全称量化記号と存在量化記号)が具体例として挙げられている。公理についてはユークリッド平面幾何では「自明なもの」だったが、現代数学ではそうではない。群構造の公理が例として挙げられている。
  演繹システムの中でものごとは演繹的に定義されていく。
 
  自然数の定義が案外難しいことが述べられている。数理論理学ではゼロを自然数の端緒に措定する。そこから推論規則を使って演繹的に定義していくが、自然数は無限である。それを数学的帰納法で一気に倒してしまう。ドミノ倒しの論法である。高校数学で出てくる数学的帰納法が自然数の定義で重要な武器になっている。この方法は案外新しいが、現代数学の証明には頻繁に出てくるという。19世紀、数学者コーシの考案だと書いてあったような気がする。

  「仮定は、考えている世界で真偽が異なることがありえます。例えば、平面の幾何学で導入される仮定集合(平面幾何の公理と呼ばれる)と、球面の幾何で導入される仮定集合(球面幾何の公理と呼ばれる)は異なる集合です。したがって、球面幾何の仮定がすべて真となるとき、平面幾何の仮定はいくつかが偽となります。それゆえ、三角形の内角の和に対して相容れない定理が演繹されても不思議ではないのです。このような公理系(仮定集合の設定された世界)については第3部で詳しく解説します。」 p.184

  平面幾何では三角形の内角の和は180度であるが、球面幾何では180度よりも大きくなる。別の演繹システムということ。第3部のタイトルは「自然数を舞台に公理系を学ぶ」となっている。

  「集合と論理」は高校1年生の数1でやるが、興味にある生徒は視野を広げるために、この本で暇つぶしをしてみたらいい。

(経済学も演繹システムであり、数学と似た構造をもっている。したがって、何を公理に選ぶかで異なる経済学がありうる。カテゴリー「資本論と21世紀の経済学」の眼目はそこにある。欧米の経済学とは全く異なる「職人仕事」を公理に措定した経済学がありうる。日本的情緒や価値観を反映した経済学である。「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」。)

証明と論理に強くなる  ~論理式の読み方から、ゲーデルの門前まで~ (知の扉)

  • 作者: 小島 寛之
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2017/01/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)