学校というのは「小さな村」ですから、学校の先生同士での研修そして相互に意見を述べあっても気がつかないことがあります。校長先生や教頭先生も立場上から授業の進捗管理や授業内容のマネジメントは仕事ではありますが、言いにくいこともあるでしょう。外部からの意見は利害がないので遠慮がありません。今日も子どもたちの学力向上を願って忌憚のない意見を書き綴ります。
(特定の学校の特定の学年の数学を取り上げていますが他意はありません、これから述べるのは市街化地域の3中学校に共通する問題です。)

 昨日の授業で中3の生徒が昨年度の学力テスト総合Bの問題をやっていました。学力テストの過去問を希望する生徒に配るのは結構なことです。生徒は自分の知識に穴が開いている箇所を見つけて、その穴を繕えます。
 いくつか質問が出たので、それを俎板に載せながら、学力テスト問題と教科書基本問題のみの授業、そして定期テストでは基本問題である「A問題」のみの出題の弊害を具体的に論じてみます。
 フリー参観授業の感想を書いた#3429や簡単すぎる定期テストの問題点を論じた#3421とつながりのあるテーマであるので、お読みでない方はそちらも併せ読んでいただけたら幸いです。

 大問が7つありました。「大問1」はそのほとんどが計算問題で通常24点ほどの配分があります。生徒から最初に質問のあったのは「大問3」の「問2」でした。

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大問3
 問2: 関数 y=ax^2、xの変域が -3≦x≦2 のとき、yの変域は 0≦y≦12になります。このときaの値を求めなさい。

 問3:関数 y=-2x^2 で、xの値がm から m+2 まで増加するとき、変化の割合は-8になります。このときのmの値を求めなさい。
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 2次関数の式と定義域(xの変域)が与えられていて、値域(yの変域)を計算せよという問題は教科書に載っているが、この「問2」の問題のように定義域と値域が与えられていて y=ax^2 のaを計算せよという問題は教科書には載っていません。
 定義域がマイナスからプラスへゼロをまたぐときには、値域を求めるのにゼロを考慮しろと、フリー参観事業ではT先生がちゃんと説明していました。この問題は、その上で、y=12 に対応するxの値が-3であるのか2であるのかを問う問題です。だから、教科書だけを勉強していたのでは97%の生徒が正解に達しないでしょう(教科書の基本例題から類推をして正解にいたる生徒は3%未満です)。
定期テストでは教科書準拠問題集の「A問題」のみを出題するので、そこにも出てきません。B問題にはあるいはあるかもしれませんが、毎回A問題からのみの出題の定期テスト問題に慣れてしまうと、ふだんB問題をやる必要のないものと判断して、やらない生徒が増えます。。

 「問3」の問題はx^2の係数がマイナスであることと、定義域が文字式になっているので、問題文を見た瞬間にパスしてしまう生徒が9割でしょう。
   変化の割合=yの変化量/xの変化量
ですから、これにそのまま代入すればよいだけですが、等式の右辺は文字式になります。左辺に-8とおいた方程式を解けばOKです。もちろん、教科書のみ、準拠問題集のA問題のみしか勉強していなければ正解できません。難易度Bレベルの問題です。

 各大問の「問1」は簡単だから全部やってみたらと伝えると、大問7の「問1」がわからないと声が上がりました。

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大問7
問1:次のように、2つの方程式 ax-y+8=0 (a<0) …① と、 x-2y+2b=0 (b>0)…② のグラフがあります。①と②は点(2, 4)で交わり、①とy軸との交点をB、②とx軸の交点をDとします。点0は原点とします。次の問に答えなさい。
問1: a,bの値を求めなさい。
問2:線分BDが対角線となる平行四辺形ABCDをつくるとき、点Cの座標を求めなさい。
 (問題に示されている概略図は省略)
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 「問1」の問題でもBレベルの難易度です。陰関数表示は教科書にはでていませんし、準拠問題集のA問題にも載っていないでしょう。この二つの式を一瞥しただけで、「できない」と判断する生徒は多いのです。見たことのないものを目にしたとたんに思考停止状態になります。90%以上の生徒に、いままで習ったことから未知のものを類推するという思考習慣が育っていないのです。獲得した知識をベースにして考える力は、「智慧」です。東京で30年前に3年間、ふるさとに戻って13年間教えましたが、知識はあっても智慧の力の未発達な生徒が増加している感触があります。

 問2は図形と一次関数の複合問題ですから基本問題を1としたときその難易度は2.5です。この問題に手をつけた生徒は1割いなかったでしょう。

 難易度1の「A問題」は学力テスト総合ABCでは60点満点で30前後の配分です。難易度2であるB問題が数題解ければ、30点台の得点が可能です。学力テストは複合問題は解けなくても30点台の得点が可能です。
 C中学校の学力テスト総合Aの平均点は16点でしたから、百点満点に換算すると26点です。半数を超える生徒が計算問題すら4割以上落としています。
 参考までに書いておくと、根室高校普通科で実施している全国模試(進研模試)の数学問題は6割がCレベルで、4割がBレベルの難易度です。中学校で難易度1の問題しかやらないことが、高校生になったときにどれほど深刻な影響を及ぼすかお分かりいただけるでしょう。新入生が初めて受ける7月の全国模試で数学の平均点が毎年20点台なのです。念のために書いておきますが百点満点です。

 ここからみえる問題は二つあります。ひとつは計算技能の問題、もうひとつは難易度2の問題を授業で取り上げ、定期テストに4割程度出題することです。
 根室市が中学生全員に配った計算問題集『カルク』を利用して、ページを指定して10分間で何題正解できるかやらせ、やらせたページと正解数を個人別に3回ほどチェックしてみたらいかがですか?最高速と最低速の生徒で50:1の開きがあるでしょう。上から3番目、下から3番目を比較しても10倍以上の差があるはずです。

   計算問題消化量=計算速度×時間

 速度の差は問題消化量の差になって現れます。速度の遅い生徒は速度の速い生徒の1/10しか問題数をこなしていませんから、ほうっておいたら計算技能の差は中学3年間でますます開きます。計算速度の問題は基礎学力に関わる重大問題です。

 易しい問題ばかりでは脳に負荷がかかりません、難易度2~3の問題をやらせないと、年齢相応の健全な脳の発達が妨げられてしまいます。中高の時代はやり方しだいで脳が爆発的に発達します。ふだんの授業でそういうことを意識してやってもらいたい。ebisuからの切なるお願いです。

〈 まとめ 〉
 教科書を使って基本問題を教えることはたいへん大事なことではありますが、基本問題にとどまっていたら、学力テストのB問題(約半分)に対応できません。ふだんの授業や定期テスト問題と学力テスト問題の難易度に差がありすぎるからです。

 C中学校では学力テスト総合Aの数学の平均点は16点(60点満点だから26.6%の得点)ですが、難易度の低い中間テストの数学の平均点は59点です。B中学校2年生も似たようなものでした。4月の学力テストで数学の平均点が34.8点に対し、1学期・期末テストの平均点は62.5、2学期中間テストの平均点が66.7点です。ニムオロ塾の生徒の半数が定期テストでは90点台の点数。

 授業でB問題を扱い、定期テストもB問題を4割出題程度出題するようにすれば、学力テストとの難易度の差は確実に縮められます。
 生徒の学力ダウンに合わせて定期テスト問題の難易度を下げるのはやめましょう、学力が低下するばかりでなく、高校生になってからの副作用が大きすぎます。

 根室高校の数学の授業と定期テストが、すでに崩壊寸前です。中学校と似たようなことが高校で進行中です。それだけでなく赤点の生徒に追試すらやらないように変わりつつあります。赤点にして退学させるのは教科担当の先生たちは嫌ですから、どんな点数でも進級、卒業させてしまいます。
 来年統廃合後の1校体制でどうやって授業するのでしょう?高校側は甘く見ているようですが、クラッシュします。学力差がありすぎて同じ教科書を使って教えられません。やってみたらわかることです。根室西高校の1年生に参加してもらって根室高校で採用している数学の教科書で事前に授業実験をしてみたらいかがですか?


*なるほど、そういうことか!(教科書「だけ」しかやらない)
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8616135.html


*#3429 第2回フリー授業参観:C中学校  Oct. 6, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-10-06

 #3421 数学:低学力のメカニズムとその破壊 Sep. 24, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-09-24-1

*#3276 四月学力テストデータ分析: C中学校2年生  Apr. 24, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-04-24

 #2870 根室の中学生の学力の現状(2):C中学校  Nov. 16, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-11-16-1


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