'Lesson 11' の全文を転載し、後半部分を解説します。前半の2段落は前回#3401をご覧ください。

  Thinking Outside the box

1□ One morning in 2009, the newspapers above were delivered to households in several cities in Chiba prefecture. What would you do if you found one in your letter box?

2□ The newspaper was in fact an advertisement warning against telephon fraud. At that time, one hundred million yen was stolen every day.  The art directors who coceived this idea, Ajichi Mutsumi and Aoyagi Yumiko, considered that telephone fraud was continuing because people thought that they themselves could not be so easily deceived.

3□ The two designed an advertisement which resembled a newspaper with a ten-thousand-yen bill sticking out of the top.  When readers opened the newspaper, they found a headline proclaiming, "You never know when you may be deceived."  Many people thought the bill was real, but in fact, they had been taken in.

4□ The art directors knew that simply warning people about fraud was not sufficient.  Instead, they wanted readers to experience for themselves that anybody can be deceived.  By altering their approach, Ajichi and Aoyagi created a very effective advertisement.

 2□段落目までは検討がすんでいますから、3□段落目で生徒が引っかかったところを説明しておきます。
 'the two' は二人のアートディレクターですが、生徒は 'The two designed' を一塊の句であると思い込みました。ここでは定冠詞が重要です、前出の 'The two art directors' を指していますから、それさえわかれば文の構造は単純です。
  The two designed an advertisement
  (二人のアートディレクターが詐欺に誰もがかかる可能性のあることを体験させる実験をデザインしました)
 1万円札を挟んだ偽物の新聞を使った詐欺手口をこの二人がデザインしたのです。'with a ten-thousand-yen bill' で、「挟み込んだ」という意味が出ます。 'sticking out of the top' はどこにどのように挟んだのかを補足説明する句です。the top とあるので、定冠詞は新聞の上の部分であることを示しています。四つに折りたたんだ新聞の上部に1万円札が斜めに半分くらい見えて「目立つように」挟んだのです。写真がこのページの上のほうにあるので確認できます。
 stick out 「目立つ、人目を引く」、 「固定する、外側へ」と考えてもいいでしょう。写真にある1万円札はそういう状態になっています。
  stick は「貼り付ける、固定する」

 proclaimはpro(前に)+claim(叫ぶ)です。「世間に公言する」という意味です。claimerの原義は「叫ぶ人」だったのです。

 読者(they)は新聞の見出しに書かれた「だまされる瞬間は、ある日突然やってくる」という文言を見ます。たくさんの人が、紙幣は本物だと思った、しかし実際にはだまされて(had been taken in)しまったのです。

 ◎ "You never know when you may be deceived." 
  (人は自分がいつだまされるかわからないものだ⇒「だまされる瞬間は ある日突然やってくる」)
 この文は従属節ではなくて、主節に否定詞があります。

 ひとつ忘れるところでした。ここではbillは「紙幣」で「お札」を表していますが、billは請求書という意味でよく使われる単語です。
 少し脱線させてください。レストランで請求書にミスがあるときには次のように言います。
 There is a problem with this bill.
 problem は「困った問題」という意味です。文頭にI thinkを付加すると、もっと丁寧な感じが出ます。日本語でも長ったらしくやると丁寧な感じが出るでしょう。
 「申し訳ない」⇒「たいへん申し訳ありませんでした」⇒「ご迷惑をおかけして、たいへん申し訳ございませんでした」
 英語も日本語もこの辺りは共通しています。
 ⇒ I think there is a problem with this bill. Are you sure?(間違いありませんか?)
 言い方も大事です、こういう場面では怒ったようにいうのではなく、請求書を見ながらにこやかに優しく言いましょう。
 

 □4段落目にいきます。
 二人のアートディレクターは単なる警告文だけでは充分ではないとわかっていました。警告文よりも強い作用のある、誰でもがだまされうるという経験を読者にさせようと目論んだのです。

 ◎ The art directors knew that simply warning people about fraud was not sufficient. 

 この文は従属節に否定詞があることに注意。面白いですね。

 やり方を替えることで、味地さんと青柳さんはとても効果的な「アドバタイズメント=詐欺の典型的な手口を用いた周知方法」を創り上げたのです。
 advertisement は「周知方法」くらいがいいのかもしれない。

 第2段落で出てきた advertisement に後志のおじさんがコメントをしてくれた。
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①簡単な方からですが、
an advertisement は、衆知くらいのイメージですか。
電話詐欺に対する警告をしている衆知
訳「オレオレ詐欺に警戒をうながすためのもの」

個人が、営利目的ではなく、多くの人に何かを知らせる行為を表す言葉が日本語には見当たらないので衆知くらいしか思い付かないのですが、行政が行うなら広報ですね。advertisementはこうした行動まで含んでいます。広めること。(営利、非営利は問わない。)
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 慥かに、advertisement に対応する適切な日本語が見当たらないので、自然な和訳するのがむずかしい。周知という語彙は後志のおじさんの案をいただいた。明治時代の文人がやって見せたように、切れる日本語=簡潔な表現を見つけるのは至難の業、どうしても冗長な「説明的和訳」になってしまうのは、漢文の素養がないからだ。日本のインテリ層が漢文の素養を取り戻せる日が来るのだろうか。特に情報関係専門用語の訳語にカタカナ語が氾濫しており危機感を感じている。
(衆知は「多くの人がもっている智慧」ですから、漢字変換ミスでしょう、わたしもよくやっています。アップした後で気がつくたびに直しています。周知は「広く知れ渡っていること。また、広く知らせること」)

< 後志のおじさんへのお願い >
 ◎印をつけた二つの文は、否定詞notがそれぞれ主節と従属節にあります。原則、主節の方に否定詞をつけるように生徒たちは学校で習ったと思いますが、このように実際の文では「なんでもあり」です。
 後志のおじさんが快刀乱麻を断ってくれたらありがたい。わたしも生徒の一人になって解説を聞いてみます。


< タイトルの訳に挑戦してみよう >
 タイトルの訳が残っていた。関係のある文が第一段落にある。
 What would you do if you found one in your letter box?
 (郵便受けに一万円札の挟んである新聞があったらどうする?)

 Thinking Outside the Box

 the box は「郵便受け」のことだが、比喩だろう。小さな箱の中で考えるのではなく、箱の外で考慮中ということ。
 アートディレクターの二人が、だまされないように警告文を何度発信しても、自分はだまされないと思っている人がいるかぎり、だまされ続けるということを詐欺実験をすることで体験させることで一般の人々に知らせようとした。そのことが「箱の外で考慮中」ということ。
 角度を変えてみると、もうひとつの意味が見えてくる。自分はだまされないという小さな箱に閉じこもっていたら、詐欺被害に遭うから、「自分はだまされない」という箱の外、つまり「だれでもだまされかねない」という風に、箱の外で考えるということだろうか。

 「自分もだまされかねないという前提で考えよう」


< 余談: 通貨偽造は殺人罪よりも重罪! >
 右側のページを見ると、二人のアートディレクターがデザインした朝日新聞の偽物の写真が載っている。表側の見出しは、「だまされる瞬間は、ある日突然やってくる」、裏表紙には「こんな電話は、まず疑ってください」とある。どちらも下段に大きな太字で「千葉警察署」と印刷してある。こういうことだったのか。警告用の印刷物をただ配布したって効果がない、体験することで理解してもらいたいというのが二人の企画の要点。
 表の面にはオレオレ詐欺事件の新聞報道がたくさん転載されている、裏面にはオレオレ詐欺の注意事項が7項目箇条書きになっている。なんと素晴らしい企画だろう。
 ついでに言えば、紙幣が表半分だけカラーコピーした偽物であることを書き足してもらいたかった。そうすればもっと内容がよくわかった。紙幣のカラーコピーは表裏をやったら、紙幣の偽造になるので言及を避けたかったのかもしれない。ならば、そう付け足せばよいと思うのだが、罪が極端に重いからリスクを避けたのか?
 通貨偽造の罪刑法148条に規定があり、「無期または懲役3年以上の懲役に処する」となっています、重罪です。
 軽いいたずらでカラーコピーをしても、とんでもない重罪になります。殺人事件並みの重い罪だと考えてください。こういうことをちゃんと知らなければとんでもないことになります。高校時代はしっかり勉強してください。
 職場で不満があり、何度か放火した事件が根室でありました。放火が重罪だとは知らなかったのでしょう、知っていたらやるわけがありません。ちょっとした仕返しのつもりでやったことで、だれも怪我もせず、死ぬ人もいなくても、放火は殺人罪並の重罪です。
 たとえば、刑法108条に定める現住建物等放火罪は「死刑、無期懲役、5年以上の有期懲役」です。2004年の改定以前は、殺人罪よりも重罪でした。
 これは昔、建物が木造で屋根も薄い板を敷いた柾屋根が多かったからです。風が強ければ町中の建物の半分が焼失するような大火が各地であったためです。
 高校時代に、こういう教材に接したときに、先生たちが通貨偽造や放火の罪について生徒にしっかり説明してほしいと思います。無知は大きな罪を引き起こすことがあります

 そういう観点からみると、英語の教員の採用を英米文学部出身に限定してはいけませんね。それこそ「小さな箱の中で考える」ことになります。英語の教員である先生たちは、こうした刑法に関する知識も必要であることを理解してください。いま知識のない人は、他の専門分野の本をたくさん読んで、一般常識と他の分野の専門知識を獲得してください。生徒たちが知っておかなければならないことはたくさんあります。己の無知でその機会を奪ってはなりません。プロの仕事とはそういうものだと思います。



*#3401 高3 :'Thinking outside the box' を読む(1) Aug. 28, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-08-28


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