フランスでまたテロがあったとテレビ報道。MSNニュースでは、「ニースで花火見物客にトラックが突っ込み少なくとも73人が死亡100人以上が負傷」、テロかどうか判明していないと報じている。
 トラックはフランス革命記念日の花火見物客に突っ込み、2kmにわたって暴走した。悲惨な殺戮である。
*読売ニュース
http://www.msn.com/ja-jp/news/world/%e4%bb%8f%e3%81%a7%e8%8a%b1%e7%81%ab%e5%ae%a2%e3%81%ab%e3%83%88%e3%83%a9%e3%83%83%e3%82%af%e7%aa%81%e3%81%a3%e8%be%bc%e3%81%bf%e3%80%81%ef%bc%97%ef%bc%93%e4%ba%ba%e6%ad%bb%e4%ba%a1/ar-BBuljca?ocid=iefvrt


〈記憶に残る典型的なテロ事件〉
 わたしの記憶に残っているテロは1960年の社会党委員長浅沼稲次郎暗殺である。北海道新聞の一面に犯人の山口二矢が短刀を構えて壇上の浅沼稲次郎を刺殺する瞬間の写真が載った。小学6年生だったわたしの目に焼きついてしまった。丸い眼鏡が顔から外れかかって飛びのくようなしぐさをした瞬間のショットだった。
(浅沼氏があんなに太っていなければ、第一撃はかわすことができただろう。武道のたしなみはもっておきたい。)


〈テロとは何か?〉
 米国が9.11の貿易センタービル事件のときから「テロ」という用語を使い始めたが、わたしには違和感がある。

 テロとはテロリズムの略である、辞書を引いてみよう。
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[大辞林]
テロリズム:一定の政治的目的を実現するために暗殺・暴行などの手段を行使することを認める主義。また、それに基づく暴力の行使。
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[CALD]
terroism: (threat of) vilent action for political purposes
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 大辞林の定義では特定の政治目的をもたないものや不特定多数の殺害はテロに入らない。

 英英辞典のほうの定義も似たようなものである。「政治的な目的を達成するための暴力行為(の恐怖)」である。テロには明確な特定の政治目的がなければならない。

 浅沼稲次郎暗殺は有能と目されていた社会党委員長を殺すことで、左翼勢力拡大を阻止しようという政治的目的が明確であったから、典型的なテロリズムである。
*浅沼稲次郎暗殺事件
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%85%E6%B2%BC%E7%A8%B2%E6%AC%A1%E9%83%8E%E6%9A%97%E6%AE%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6

**テロ事件の一覧(ウィキペディア)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%AD%E4%BA%8B%E4%BB%B6%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7


〈同時多発テロはテロではなくて戦争である〉
 9.11の政治目的なんてあったのだろうか?不特定多数の殺戮、それ自体が目的だったとしか思えない。
 パリ同時多発テロも同じだ。宗教的には部外者の日本人から見ると、ユダヤ教とキリスト教とイスラム教の千年戦争のひとつのシーンに見える。異宗教間での戦争だから、宗教的動機に基づくものであって、特定の政治目的達成のためではないから、テロという言葉で処理するのは違和感がある。

 9.11にはサウジ政府機関が関係していたことはほぼ事実のようで、米国議会が作成した800ページ余の調査報告書のうちサウジ関係が載っているとされる28ページが公表されていない。オバマ大統領は当然読んでいるだろう。サウジ政府に不快感をあらわにしている。
 サウジ政府が9.11に関係したという情報は歴史的経緯を考えれば十分にありうることである。サウジはスンニ派で、ISはイラクのスンニ派の軍人たちが公職を追放になって集まり、軍事的指導をしている。。

 アラブ人の土地を奪い、ドサクサ紛れにアラブの地にイスラエル国家を建国をバックアップしたのは米英である。いまだにイスラエルの後押しをしている米国にイスラム諸国が恨みを抱いている。
 米国にはイスラエル国民と同数程度のユダヤ人が住んでいるから、そこをターゲットにするのは過激なイスラム教徒にとっては当然のことだろう。
 フランスの植民地だったシリアも歴史的な経緯から確執がある。英米仏がイスラム国から敵対視されるのは、宗教の違いによる千年戦争と石油や土地をめぐる利権でそれなりの歴史的な経緯があるからだ。

 テロリズムを「政治目的を達成するために行われる特定の人物の暗殺」とすれば、イラク戦争でフセインを殺したことは典型的なテロと言える。
 アルカイダの指導者を米国内のコントロールセンターから、標的の近くにある基地から飛び立った戦闘機に搭載された巡航ミサイルで、暗殺を繰り返すのも特定の政治目的をもった典型的なテロである。そういうことへの報復が米国やパリの「同時多発テロ」である。全体図を見るとこれは「ユダヤ教国とキリスト教国の連合軍対過激派イスラム教徒」の戦争である。

〈テロと戦争〉
 「政治目的を達成するための暴力行為(の恐怖)」の最後の部分「暴力行為の恐怖」というところに焦点を当てると、9.11もパリ同時多発テロも「テロリズム」の定義に当てはまるが、もうひとつの要件である「達成すべき特定の政治目的」を持たず、「異教徒の殺戮や報復を目的」とした宗教戦争と言わざるを得ない。
 そうでないと、米国による2度の原爆投下や10万人の使者を出した東京空襲もテロリズムと言わなければならなくなる。軍事施設のなかった根室市街地も一度の空襲で500人の死者を出している。
 戦争は本来は兵士同士の戦いだったはずだが、それが市民の殺戮へと大きく変化したのは第2次世界大戦である。ロンドンへのナチスのロケット攻撃、それの何百倍もの被害を出した米軍の日本の諸都市への空爆と原爆投下は市民の大量殺戮とそれによる恐怖を目的としたものである。戦争に勝つことだけが目的であり、特定の政治目的はない。

<結論>
 9.11もパリ同時多発テロも今回のフランスの町ニースでの殺戮もテロではなく、宗教の違いによる戦争である。それは不特定多数の異教徒殺害を目的としている。
 テロとは特定の政治目的を達成するために、特定の人物を殺したり、傷つけたりすることである。


〈 余談-1:根室空襲 〉
 根室では1945年7月14日と15日に二度にわたり空襲があった。今日が72年目にあたる。
 3月10日の東京空襲(死者10万人)でもそうだったが、市街地に円状に焼夷弾を落としてから、円の中に焼夷弾を集中させる。効率的に非軍人である市民(=異教徒)を殺し尽くす空襲戦略だった。「戦争」と言うよりも、「戦争犯罪」と言うべきだろう。
 ebisuの母親は何も持ち出せずに円の外側のホニオイまで逃げて助かった。市街地へ戻ると死体だらけで、リアカーに載せて弥生町の浜から海へ流すのを手伝ったという。一面の焼け野原、勤務先も焼けてしまった。生き残った人たちには一人ひとりに大変な苦労があったのだろう。
 択捉島蕊取村のY家の当主もこの日米軍機の放った魚雷攻撃を受け浦河丸で亡くなっている。一緒に乗船していた息子さんと娘さんは油まみれになりながら、岸まで泳ぎ着いた。
 「北の勝」の碓氷商店では倉庫の酒米を炊き出しにしたという。「酒米のおにぎり」で空腹を満たした人たちがたくさんいたのではないか。
  

〈 余談-2:「テロとの戦い」の意味するもの 〉
 実際は戦争なのに、「テロとの戦い」を安倍総理はイスラエル訪問のときと今回のモンゴル訪問で言及している。
 日本が国としてテロとの戦いに参加するということは、宗教戦争でユダヤ教国とキリスト教国の連合軍の側についたということで、どっちの味方か(敵か)旗色を鮮明にしたということ。いままでは日本は独自の宗教で、ユダヤ教徒やキリスト教徒の味方ではなかった、それゆえ、イスラム教徒の敵ではなかったが、旗色を鮮明にしたから、ISの敵となった。宗派な点から見ると石油の主要輸入国であるサウジアラビアも同じスンニ派である。
 国会でも反対の意見がないところをみると、どの政党も日本がヨーロッパと中東の宗教戦争に関わることに異論がないということか。
 日本人は自分たちがしていることに無自覚ではないのか、心配になる。バングラディッシュの事件は起こるべくして起きたのである。日本人は巻き添えになったわけではない。ユダヤ・キリスト教連合軍の側についた日本と日本人がターゲットになっている。
 安倍総理は自分が招いた災厄に無自覚のご様子。
 「美しい国日本。神の国日本」というからには、宗教面での米国追随だけはおやめいただきたい。

*#2711 集団的自衛権と宗教戦争 June 22, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-06-22-2


< 余談-3:侵略戦争概念メモ >
 「侵略」 aggression 」という概念は第一次世界大戦後のベルサイユ条約で成立した概念である。敗戦国のドイツに連合国側のすべての戦費の賠償責任を負わせるためのものだった。第一次世界大戦の責任はドイツ一国にあったのではないことは歴史が証明している。それぞれの国民が煽られて次々に参戦して、あれよあれよという間に世界大戦になってしまった。この戦争はマスコミに煽られた国民世論が以下に危ういものであったかを証明している。それは第二次世界大戦へも、イラク戦争へも共通している。
 言葉の定義をおろそかにしてはならぬ。「侵略」とか「侵略戦争」という言葉を使うときに、私たちはその淵源にまでさかのぼらなければならない。
 哲学者の長谷川三千子さんが解説している。

*「歴史を歪める学者はいらない」 ブログ「歩かない旅人」
http://blog.goo.ne.jp/furunokawamasanohiro2014_2014_/e/0ac7fc13204641e6849bf0a3c5e55e22


< 余談-4:クラウゼッツ『戦争論』の戦争概念の定義 >
 コメント欄にハンドルネーム「後志のおじさん」が外交史の専門家として「戦争」概念についての意見を載せたくれたので、紹介します。用語の定義(概念規定)はたいへん重要です。

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「英語しかできない」らしい私の専門分野ですので、一言だけコメントします。

戦争の目的も、かのクラウゼヴィッツの定義が、テロのそれと同一です。ここでテロとの違いとなるのが、行為主体が19世紀型国家の要件を満たしているかいないか、だけの違いだろうと私は考えています。

by 後志のおじさん (2016-07-16 08:16)
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後志のおじさん

外交史の専門家であるあなたにとって英語は単なる手段、わたしにとっても同様です、必要があったのと面白いからちょっとのめりこんだ時期があっただけ。

『戦争論』を本棚で探したのですが、見当たりません。上巻だけは買ってあったはずですが、40年ほども前のこと、棄てたのかもしれません。仕方がないので、クラウゼッツの「戦争の定義」をネットで検索しました。

戦争とは他の手段をもってする政策の継続にすぎない

テロも戦争も定義は一緒なのですね。戦争とは政治目的を達成するためのひとつの政治的手段に過ぎないと書いてありました。
ご指摘の通りテロリズムの定義と一緒です

ユダヤ教のイスラエルとキリスト教原理主義の米国は連合軍として機能して、異教徒であるイスラム教原理主義者たちに打撃を与えるために指導者の暗殺や領土の削り盗りを繰り返しやっています。
イスラム原理主義者たちは、イスラエルと米国に打撃を与えたくてテロに走る。
お互いに「それぞれの政治目的」を達成するために武器を手にして戦っています。

>ここでテロとの違いとなるのが、行為主体が19世紀型国家の要件を満たしているかいないか、だけの違いだろうと私は考えています。

ISは19世紀型国家の要件を満たしていないということですか。国という形がぐにゃっとしているところがISの強みであるかもしれません。
イスラエルが国家として認められたのは1948年5月14日のことです。
ISが国家として成立すれば、テロではなくてまぎれのない国家間の戦争行為となるのでしょう。
国家として成立すれば、イスラエルと米国の連合軍はやりやすい。イラクをつぶしたように理由をでっち上げて軍隊を投入して壊滅すればいいのですから。

ゲリラ戦が「輸出」され、当事国のいたるところで散発的に市民の大量殺戮が行われます。IS側もNATOの空爆で多数の市民が巻き添えになって死にます。
このままの状態が続けば経済統合体であるEUも深刻な影響を受けそうです。英国のEU離脱もそうした影響のひとつでしょう。

トルコでクーデター騒ぎが起こっていますが、背景についての報道がまだありません。
by ebisu (2016-07-16 11:11) 
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