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#3971 神の不存在証明:中村文則著小説『逃亡者』より Apr. 24, 2019 [9. 相対的なものの見方]

 北海道新聞に(おそらくは全国各地の新聞との共同)連載されている中村文則の『逃亡者』という小説のある個所を読んでいてはっとした。論理運びが大数学者岡潔の最終講義に似ていたからである。岡潔先生の最終講義は森田真生著『数学する人生』(新潮文庫 2019年刊)に収録されている。
 『逃亡者』から該当箇所を引用する。

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<長崎 浦上四番崩れ 1868~>
 三尺の牢の中で、酷く痩せ一人で命を終えようとしていた安太郎のところに、仙右衛門が密かに励ましに行った。最後の間際に寂しいでしょうという仙右衛門の言葉に対し、彼はこう言っている。
「いや、少しも寂しくありません。毎夜、四ツ時(十時)から夜明けまで、綺麗な綺麗な十七、八歳くらいの、ちょうど聖マリア様の御絵に見るようなご婦人が、頭の上に御現れくださいます。定めし聖マリア様であろうと私は信じています。そして優しい女の声で、非常によい勧告をして慰めてくださるのです。しかし、このことは私の生きている間は誰にも話してくださるなよ」
 可能性としては(1)本当に聖マリアが現れた、(2)マリアは「実在」するが、彼が見たものは幻想、(3)そもそも神もマリアも「存在」せず、もしくは何千年にもわたり「よそ見」をしており、これも彼の幻想、の三つがあると思われる。しかし三つとも、恐ろしいかもしれない。
(1)なら神はこの拷問を了承したことにもなる。(2)なら、聖マリアは、自分ではないマリアと話す信者を黙って見ていたことになる。五日後に安太郎は死んだ。
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  安太郎は1m(三尺)四方の立方体の岩牢に長いこと押し込められており、歩くことはおろか立つことすらできず、身動きもままならぬまま、死の瀬戸際をさまよっていた。かれは三尺の牢の中で夜な夜な聖母マリアを見て、その声を聞いていた。そしてついに死ぬのである。

 そのあとの作者の分析がすごいと思った。この中村文則という作家のこの文は小説家や文学者のそれを超えている。これは哲学者の問であり、数学者の証明に見える。

 『サピエンス』と『ホモデウス』の著者ハラリは造物主は農業革命によって生み出され、科学技術が急激に発展する21世紀には不要な存在となったと述べている。病気も寿命もいまや分子生物学や生命科学に関する科学技術の発展で際限のない延長が可能になりつつある。サピエンスはホモデウスへと急速に進化=メタモルフォーゼン(蛹が蝶になるような変態)しつつある。生命をつかさどるのはもはや神の役割ではなくホモデウス自身となる。
 一部のセレブのみがホモデウスとなるようだ。サピエンスは動物園の檻の中の猿のようなもの、ありがたくないな。何千年にもわたって同じ哺乳類の家畜にひどい扱いをしたが、こんどは立場が入れ替わる。


数学する人生 (新潮文庫)

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