「単語が違うと意味や使うシーンが違う、表現が異なればニュアンスも異なる、数学のような等値関係で考えないほうがよい」そういう話を折に触れて文例とともにしていたら、中2の生徒が教科書Sunshineの次の文に気がついて、どちらも「~の間に」という日本語が巻末の和訳に載っているので、「during と for はどのような違いがあるのですか?」と質問したそうです。

 I watched a movie for three hours. (10頁)
 I visited Nikko by train during "Golden Week". (14頁)


 先生はさぞかし戸惑ったことだろうと思います。横にいたアシスタントティーチャーとしばし協議してちゃんと答えてくれました。
 こんな質問、ドッキリですよね。わたしがその先生なら、たぶん目が真ん丸くなります、そして質問をした生徒を一生忘れないでしょう。
 「いい質問だと先生がほめてくれました」と喜んでましたよ。(笑)
 微笑ましいシーンです。敬語がちゃんと使えるところも偉い。
 生徒が先生を育てるということもあります。油断のならぬ生徒がいれば、教えるほうも勉強の手を抜けません。オーソドックスな受験参考書には説明があまり載っていないでしょう。だから、前置詞について書かれた「専門書(?)」2冊から、該当箇所を引用してみます。


 西村喜久『今までにない前置詞講義』に解説と例文が載っているので紹介します。
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参考までに、ある期間はforで表します。そしてその「期間中に」を表すのはduringという前置詞で、forを超えた期間がoverになります。

They are holding the exhibition for four months.
 (その展示会は4ヶ月間開催している)
They are going to hold a lot of events during the exhibition.
 ( その展示会期間中は多くの催し物が開かれる予定だ)
They are not going to hold the exhibition over four months.
 (その展示会の開催期間は4ヶ月を越えない)
               ・・・86頁
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     A ●===============⇒● B
   at             at  
forは、このA点からB点 あるいはB点からA点のように「ここからここまで」という動的な方向を表す前置詞なのです。   
               ・・・74頁
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 atは●の点をあらわします。forはA点からB点までの空間的な移動イメージが、時間軸に置き換えられて「(始まりと終わりのある)ある期間」という意味が出てきます。空間と時間は置き換え可能なんです。AからBまでの間の任意の位置に出現するものはforでは表せません、そこを補足するのがduringの役割です。
 たとえば、「夏休みに東京へ遊びに行った」とします。ずっといっていたわけではなくて、次の文では夏休み中のあるときに東京へ行ったということが了解できます。
 I visited Tokyo during summer vacation.


  もうひとつ紹介します。大西泰斗/ポール・マクベイ著『ネイティブスピーカーの前置詞』に載っている解説です。
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During

 duringは期間をあらわす語句を伴い「~の間に」という意味になりますが、forのあらわす「期間」とは別物です。

 I went on a diet for (*during) 3 weeks.(3週間ダイエットした)
 I went on a diet during (*for) the summer.(夏にダイエットした)

 duringが「いつ(ある出来事が)起こったのか」を意味するのに対し、forは「どのくらいの期間(ある出来事が)続いたのか」に力点があるからです。
 もちろんduringは、示された期間の間ずっとある出来事が起こっている場合もありますが(~の間中ずっと)、その期間に1度あるいは数度出来事が起こっていることもあります。要するに、臨機応変にということです。

 We'll be on holiday in Europe during the whole of July.
   (7月中ずっとヨーロッパで休暇)
  The students always fall asleep during Mr. McVay's lecture.
   (期間の中で1回あるいは数回)
                   ・・・156頁
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 大西泰斗先生は認知言語学からのアプローチ、いままでなかった前置詞の解説をしています。感覚的なものを抽象化した図(イメージ・スキマー)をもちいて説明していることが多いのですが、duringの条には図がありません。でもわかりやすいでしょ。前置詞の解説書はどの本も概して途中からこじつけのような説明になりますから、それが鼻についてばかばかしくなり、半分程度しか読めません。この本はひとつのイメージで全部を説明するのではなく、前置詞一つ一つの基本イメージ(本人)とそれを取り巻く特殊なイメージ(家族)、そしてその友人・知人たちという3段階での解説を試みています。本人がいて、家族がいて、その周りにそれぞれ友人が配置されている、というような展開です。イメージ・スキマーが随所にあるので理解を助けてくれます。これならひとつのコアイメージでずべてを説明する無理がずいぶんと緩和されますから、すばらしい方法だと感心しました。なんてことはない、一般・特殊・個別という哲学ではお馴染みの三段階です。学際的な研究、すなわちクロスオーバーが大事なんです。
 じつはこの大西先生の説明は、次に挙げるEnglish Usageの解説とまったく同じなんです。

 さて、ここからはわたしの論です、どちらの本にも載っていないことを補足しておきます。もちろん当たり前の話です。(笑)
 duringは現在完了の文と相性が悪いことに気がつきましたか?
  Collins COUBILD English Usagefor と during それぞれの項にある例文を挙げて検討してみます。この本は5億語のコーパス(データベース)から文例をピックアップしていますから、生きた文例ばかりで、この本のために作られた文例はひとつもありません。
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duration(期間)

 You use for to say how long something lasts or continues.
 I'm staying with Bob DeWeese for a few days.
 The five nations agreed not to build any new battleships for a ten-year period.

 You also use for to say how long something has been the case. 
 I have known you for a long time.
 He has been missing for three weeks.
 ...artist who have been famous for years.
 He hasn't had a proper night's sleep for a month.
       ...page 200
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during

1. 'during' and 'in'

 You usually use during to say that someting happens continuously or often from the begining to the end of a period of time.
 She heated the place during the winter with a huge wood furnace.
 This was evident in the weekly colum he wrote for the Guardian during 1963-1963.
 In sentences like these, you can almost always use in instead of during. There is very little difference in meaning. When you use during, you are usually stressing the fact that something is cotinuous or repeated.
      ...page 151
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 forの項の現在完了の文はその状態が現在まで引き続いていることをあらわしているので、「継続的な期間」をあらわしていますから、for がぴったりです。ところが現在完了の文で during を使った例を見たことがありません。
 duringの項に現在完了の文例はひとつもありません。何かイベントが継続的にあるいは繰り返し起きるときはduringを使います。

someting happens continuously or often from the begining to the end of a period of time」

と書いてありますから、何も特別なイベントが起きない状況、すなわち過去のある時点から現在まで同じ状態が続いている現在完了文には使えないと判断してよいのでしょう。このアンダーラインの部分と前述した大西先生の「duringが「いつ(ある出来事が)起こったのか」を意味する」は同じことを言っています。次に挙げるアンダーライン部も同じことに言及しています。
 二つの例文は「1963年から1964年まで毎週繰り返しコラムを書く」「冬の間中ずっと毎日繰り返し薪ストーブで暖める」、ある一定の期間に特定のことを繰り返す状況がイメージに浮かびます。
 When you use during, you are usually stressing the fact that something is cotinuous or repeated.

 forについても、「forは「どのくらいの期間(ある出来事が)続いたのか」に力点がある」という前述の大西先生の本とEnglish Usageの「You use for to say how long something lasts or continues」は同じことを言ってるのに気がつきましたか?


〈 単語の相互関係:意味のネットワーク 〉
 英語の単語は単独では意味や用法がわからないものがたくさんあります。もちろん漢字と違って表意文字ではなく表音文字であるという制限にも関係があります。動詞と一緒に使われるものがとくにむずかしいようです。動詞が運動を表し、前置詞(副詞)が運動方向や空間的な位置を表すので、抽象的な意味まで表現できます。
 ひとつの単語は類似の単語との関係でニュアンスの違い、使われるシーンの違いが理解できます。近い意味の単語はそれぞれ距離を保ちながら網の目を構成しています。西村先生や大西先生の解説を読み、for と during と over の相互関係が網の目になってイメージとして理解できたらいいですね。

7割くらいを包摂する便利な方法はある 〉
 前置詞と冠詞は日本語にはないので理解が難しいのです。前置詞はそれらが表す空間的な位置関係や運動方向がイメージできるようになれば理解が多少楽になります、全部は無理ですよ、屁理屈になります。前置詞に関するさまざまな本を読めば、ほとんどの本が途中から屁理屈になってしまっていることに気がつきます。大西先生の本だけは「一般⇒特殊⇒個別」の3段階なので素直に読めました。コア・イメージ(基本イメージ)から個別の用法の意味を直接取り出そうとするのは無理があります、理屈だけで一筋縄ではいかないと思ったほうがいいのです、悩ましいですね(笑)。

〈 多読によって帰納的に類推すべし 〉
 たくさん読んでさまざまな事例にぶつかるたびに繰り返し比較して考えてください。毎日15分でいいから声に出してさまざまなテクストで音読トレーニングを繰り返す、Hirosukeさんや後志のおじさんの方法がとっても効果的です。テクストはNHKラジオ講座がいいですね。自分のレベルに合わせて選択できます。
 「日本語の意味をイメージしながら音読トレーニング」がHirosuke流。「30回の同調音読、そして10回書き取り」、それが後志のおじさんの流儀。
 単純なトレーニングほど効果的ですが、辛抱できる人は少ない、それを十年二十年とちゃんとやってきた、世の中にはすごい人がいます。

〈 山はどこからどのように登るも可 〉
 わたしですか?訊かないでください、そういう方法がとっても苦手なんです。食わず嫌いではありません、後志おじさん方式もちょっとの間だけ試しましたから、効果のほどは実感しています。
 わたしは別の方法でやってきました。何度か書いていますが、専門書を読む必要に迫られてやっただけで、あまり一般的な方法とは思えませんからおススメしません。彼らの方法のほうが普遍的で優れています。
 でもね、山はどこからどのように登ってもいいとも思うのです。ゆっくり回るように歩きながら高度を上げていくのもよし、無茶ですが岩をつかみながら直登するもよし、目的が違えば登り方も違ってあたりまえだという感じが強いのです。
 とにかく8合目まで辿りつけたら見晴らしのよい景色がまっています、同じ景色を見ることになるんです。そこから先もやはりゆっくり登りつめるのがいいのです。頂上まで行けずとも見晴らしのよいところまで登るだけでもよいではありませんか。
 言語学者になるわけでなければ、英語は各自の目的に応じた手段にすぎません。わたしの場合は、経済学の専門書や会計情報システムの専門書、仕事で使うコンピュータ・システム開発の専門書、最先端の情報が載っている医学関係の雑誌を読みたかったから、その目的に応じた勉強法を採りました。

 強い動機が勉強の武器になること、そして学問には疑問のわくことが大切なこと、その二つを今日のテーマで高校生や大学生の皆さんに伝えたかった。英語は大嫌いだったけど、我慢して読んでくれた昔高校生の大人の方も、最後まで読んでくれてありがとう。

 中高生向けに整理し、簡素化した説明をつくってみたので、中高生の皆さんはこちらを読んでください。きっと役に立ちます

*#3318 'forとduring':中学生向けの説明 June 5, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-06-05-1



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今までにない前置詞講義

  • 作者: 西村 喜久
  • 出版社/メーカー: アスク
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  • メディア: 単行本

ネイティブスピーカーの前置詞―ネイティブスピーカーの英文法〈2〉

  • 作者: 大西 泰斗
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English Usage (Collins COBUILD)

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  • 発売日: 1992
  • メディア: ペーパーバック




前置詞がわかれば英語がわかる

  • 作者: 刀祢 雅彦
  • 出版社/メーカー: ジャパンタイムズ
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  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


*セインの本は数冊ありますが、一昨年に出版されたこの前置詞の本はまだ買っていません。そのうちに読んでみようと思って、リストに加えました。あとの3冊はぱらぱらめくって読みました。

ネイティブが教える ほんとうの英語の前置詞の使い方
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