<更新情報>
5/18 朝10時15分 <余談-2>追記 「事実とイデオロギー」についても追記

 前回#3293で教科書の出版元である東京書籍の「年間指導計画」を引いて、授業進捗管理の尺度にすればよいと書きました。この問題を取り扱うわたしの基本的なスタンスは、民間企業人の仕事の進捗管理です。民間企業人から学校の授業の進捗管理の有様を眺めたら、どのように見えるのか、学校教育村の皆さんに知ってもらいたくて書いています。

 今回は2年生をとりあげて、さらに具体的に解説します。

2年生「年間指導計画」:
https://ten.tokyo-shoseki.co.jp/text/chu/keikaku/sugaku/files/keikaku02_nencal.doc


 教科書の章・節別ページ数は次のようになっています。

第1章 式の計算
 第1節 式の計算 p.8-20
 第2節 文字式の利用 p.21-31
第2章 連立方程式
 第1節 連立方程式とその解き方 P.32-44
 第2節 連立方程式の利用 p.45-53
第3章 1次関数
 第1節 1次関数 p.54-71
 第2節 1次関数と方程式 p.72-78
 第3節 1次関数の利用 p79-90

 「年間指導計画」によれば、5月下旬に「連立方程式」の章(p.32から)に入らなければなりませんが、B中学校(発展クラス)は今日(5/17)の授業で22ページを終わりました。C中学校は20ページです。すでに5ページほど遅れているようです。
 小さな問題に見えますが、先になるほどギャップが拡大して看過できないものになります。たとえば、1月末時点でこのギャップが7倍に拡大していたとすると、予備時間を使っても最後の「確率の章」19ページ(p.156-174)をやる時間がありません。
 何年前だったか忘れましたが、B中学校で4月に確率の章をやっていました。「(当時の3年教科書では最後の章だった)2次関数の章は自分でやっておくように」と生徒に言い渡したのはこの先生だったかもしれません。2年の最後の章を3年の1学期にやれば、3年の最後の章をやる時間がなくなるのは当然のことです。先延ばしが繰り返され、最後のところでとんでもないことになります。
 進捗管理ができないということは、民間企業ではボーナスの査定にも、昇進にも影響する重大事です。2年続けたら、上司から退職勧奨がなされます。お客様と重大トラブルを引き起こしかねませんから、上司の責任も問われます。

<「充実クラス」へ全力投球するB中学校>
 B中学校は習熟度別クラス編成をしています。「発展クラス」と「充実クラス」の2編成ですが、充実クラスは「教科担任の先生+数学補助教員+英語補助教員+教頭先生」の4人体制で教えているようです。学年によって学力にばらつきが大きいので、この学校は機動的な対処をしています。問題のある学年に資源(先生)を多く割くというのは戦略の常道です。なかなかがんばっていますし、すごい、それは認めたい。その一方で、何が何でも「部活を停止した放課後補習体制」は敷きたくないようにもみえます。

<B・C中の数学だけの問題にあらず>
 似たような問題は同じ学校の他の科目でも、他の学校でも見つかるはずです。たまたまB中とC中の2年生の数学を採り上げましたが、個別の学校や先生を問題にしたいわけではありません、他の科目や他の学校にも共通する問題なので採り上げています、その辺は誤解のないようにお願いします。岡目八目、外部からの方がよく見えるものです。

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岡目八目:〔人の碁をわきから見ていると、打っている人よりも八目先まで手が読めるということから〕第三者は当事者よりも情勢が客観的によく判断できるということ。 『大辞林』より
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<外部へ問いかけてみたらいかが?>
 どんなに生徒たちの学力が低下しても、部活に影響させたくない、どうしてなのかわたしには理解できません。部活へ影響が出たら、問題が大きくなるからですか?長期的に見たら、部活を優先して、低学力の生徒を送り出し続けるほうがよほど問題が大きくなります。町の将来も暗くならざるをえない。問題山積みだが、解決できる人材がいないという根室の町の現況が30年前に勉強よりも部活を重視し続けた結果ではないのですか?どちらを選択するのですかと、市街化地域の3校共同で一度PTAや経済諸団体へ問いかけてみたらいかが?
 この問題は市教委がバックアップしてやったほうがよいでしょう。根室の町の未来設計に関わる大きな問題です。

<資源が枯渇しつつある水産業こそ優秀な人材が必要>
 いつまでこんな状況を続けるのでしょう?経済団体の皆さんは教育問題にほとんど発言しません、いいのですか、このままで。あなたたちの会社が採用する人材の学力が低下し続けているのです。浜中農協の石橋組合長、はこれからの農業には一部上場企業が採用するような優秀な人材が必要だと、昨年釧路で開かれた全国教育シンポジウムで(パネラーの一人として)言ってました資源が枯渇化しつつある根室の水産業の未来には、一部上場企業の新入社員以上の能力の人材が必要ないのですか?
 中学生のどういうことになっているかは#3290にデータを載せてあるのでURLをクリックしてご覧ください。2016年度と2014年度の3年生の学力テストの結果を並べて比較しています。五科目合計平均点で32.8点(300点満点)下がっています。学年によって同じ学校でも学力に大きなばらつきがあります。だから、全国学力調査の平均正答数による学校の序列化なんて現実は根室の市街化地域の3校にはありません。学年による学力差のばらつきは他の学校でも一緒です。北海道新聞が全国一斉の学力調査があるたびに「点数による学校の序列化が起きる」という「有識者」の意見を載せていますが、あれは事実とは違います、単なるイデオロギーです。思想や信条に基づいて発言するときに、人は事実が見えなくなりがちです。

<前年度進捗管理失敗と新年度授業への影響>
 話を元に戻します。C中学校は1年次の復習に時間を割いた授業展開をしていますから、B中よりも今日の時点でさらに2ページ遅れています。前年度の授業のやり方から当然そうなります。
 1年次の正負の四則計算は本来は1年次の1ヵ月間の予備時間で消化すべきものでした。授業の進捗管理が甘かったので教科書全部が終了したのは学年末テストが終わってからでしたから、復習時間が取れませんでした。敗因はそこにあります。
 このように、予備時間を復習授業に充当できなかったら、新年度の授業の進捗が予定通りに行かなくなります。前年度の復習に授業時間を割かなければならないからです。半数以上の生徒の部活を停止しないと、放課後補習ができません。中体連の成績にダイレクトに影響して、生徒や保護者からのクレームが怖い。これでは学力よりも部活を重視していると言わざるをえません。このような状態が正常だとは誰も言わないでしょう。優先順位が間違っているからです。

<事実が証明している>
 「年間指導計画」に沿った授業進捗管理が如何に重要で、「予備時間」の1ヶ月間に復習をしないと翌年の1学期の授業進捗管理が不可能になることが事実で証明できたのではないでしょうか。

<2年次も後半部分が難易度が格段に高くなる>
 2年次は重要な章が後半に並んでいます。

第3章 1次関数
第4章 平行と合同
第5章 三角形と四角形
第6章 確率

 「第3章 1次関数」は3年次の「2次関数」そして高校数Ⅰの「2次関数」、高2の「指数関数・対数関数・三角関数」「ベクトル」につながる重要な章です。たっぷり時間をかけて理解を深める必要があります。
 「第4章 平行と合同」では平行条件と三角形の合同条件を扱い、証明問題主体の章となります。証明問題は第1章でも「連続する自然数の和」の問題が出てきます。型を覚えるまでトレーニングを徹底する必要があります。
 「第5章 三角形と四角形」では二等辺三角形の性質や直角三角形の合同条件を扱います。等積変形もこの章で出てきます。第3章から難易度が格段にアップします。
 後半部分で難易度が上がるので、消化しきれなくなり、最後の確率の章をやる時間が短縮され、「すっ飛ばし」が行われます。「すっ飛ばし」とは手抜きと授業速度違反のことです。基本問題だけでさらっと流してしまうのです。その結果、高校生になってから、ほとんどの生徒が数Aの「順列・組合せ・確率」が苦手になってしまいます。中学校の進捗管理上のルーズさが、高校数学に大きく影響してしまいます。

 授業の進捗管理の徹底が大切なことがお分かりいただけましたでしょうか?


<余談-1:改革の兆しアリ>
 市街化地域の3校は、数学・英語・社会・理科の各科目で、章別テストを頻繁にやるようになりました。学力向上への取り組みがずいぶん熱心になされるように変わっていています。
 しかし、変わらないもの、変えられないものもはっきりしてきました。優先順位を考慮すると、「アンタッチャブル」である部活に手をつけないといけないほど、生徒の学力が低下している学校・学年があります。
 そこに手を付けなければ、30年後もいまと変わらぬ人材枯渇状態を免れません。地元企業の半数が経営破綻に追いやられることになるかもしれないのです。住んでいる町の衰退は悲しい。
 「教育村」の壁を取り払って、根室に住むわたしたちが教育に関するコンセンサスをまとめる必要があります。どういう町を創りたいのか、どういう町に住みたいのか、私たち自身が考え、答えを見つける必要があります。
 根室の市議たちはどのように考えているのでしょう?

<余談-2:C中の機動作戦の可能性>
 C中には数学担当ではありませんが、低学力の生徒に上手に数学を教えられる先生がいらっしゃいます。A中学校にいたときに、低学力の生徒に数・英・社の三科目の放課後補習を繰り返しやっておられました。友達に誘われて授業中に何度も教室を抜け出し、ついていけなくなった生徒数名が救われています。その放課後補習のお陰で根室高校へ入学できたとある生徒が感謝していました。
 成績上位層の生徒たちはどのような教え方でも理解しますが、低学力層の生徒はそうではありません。躓いたところを見つけてピンポイントでその生徒のツボにはまるような教え方をしなければなりません。引き出しにいろんな色の玉をもっていなければ対応できないのです。通り一遍の説明では理解できないから、低学力の生徒に教えるのが一番むずかしい。この先生を使ったらどうですか?3月で定年退職したS校長はA中学校の教頭時代にこの先生の放課後補習をそれとなく観察していたのでしょう。C中学校へ校長として赴任するときに、連れて行きました。わたしが校長なら、3ヶ月間限定で様子を見ながらこの先生を数学の授業に投入します。
 他にもなかなかと思わせる先生がいらっしゃいます。教わった生徒を通して、教えていらっしゃる先生の力量が伝わってくることがあります。
 どこの学校も生徒も先生も玉石混交、それでよい。生徒も先生も育て方はかわりません。ZAPPERさんが山本五十六の言葉をよく引用します。

 「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」

 石も磨けばいつか玉になる、そう信じます。他人も吾も元は同じですから、他人事ではありません、虚心に自分を磨きたい。
 


*#3293 授業進捗管理の徹底(1)  May 17, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-05-17

 #3290 授業の進捗管理と学力テストの平均点には因果関係がある May 13,
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-05-12-2
 
 #3287 アンバランスな授業時間配分は学力低下をもたらす May 12, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-05-11-1



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