<更新情報>
3/2朝8時10分 末尾に追記⇒「日本は明治期に素読文化を棄て、・・・」

 中学生で本をまったく読まない生徒が増えています。
 斉藤孝『読書力』や藤原正彦『国家の品格』、林望『すらすら読める風姿花伝』を音読テキストに使って、中学生にトレーニングを始めてから、もう10年たちました。
 本を読まない中学生たちは、小学3-6年生用の語彙力問題集『言葉力ドリル実戦編』で50点取れない者が少なくありません。

 では、大学生はどうなのか、今朝NHKラジオを聴いていたら、数字が流れました。一日30分以下の大学生が半数を超えています。驚き、桃の木、山椒の木です。ビックリポン。

 数字のネタ元は、「第51回学生生活実態調査」(全国大学生活協同組合連合会)でした。クリックしてご覧ください。

*http://www.univcoop.or.jp/press/life/report.html

 サンプリング調査だから、サンプル特性に注目しておかなければなりません。国公立大学生が6277名、私立大生が3463名である。国公立大生の割合が母集団よりも大きくなっているというのが、このサンプリングの特性のようです。

 【図表-14】が「1日の読書時間」の推移を折れ線グラフにあらわしたものです。2004年から2015年までの各年ごとの割合がプロットされています。
 2004年と2015年のデータを階層ごとに並べますので、ご覧下さい。

 0分           38.7 ⇒ 45.2%
 30分未満       10.8 ⇒ 10.6%
 30分以上60分未満 23.8 ⇒ 23.3%
 60分以上       25.3 ⇒ 20.0%
(注:全部足しても100にはなりません、元データがそうなっているので、そのまま写しました) 

 読書時間が30分未満の大学生は55.8%です。まったく読書しない大学生が45.2%もいるのは驚きです。
 国公立大学製の割合が多いので、全数調査したらもっと数字が大きくなるでしょう。

 ニュースはスマホ、本は読まずにゲームやLINEやツイッターに時間を費やすいまどきの大学生の姿が浮かび上がります。
 

<中学生の語彙力低下に警鐘を鳴らす>
 『言葉力ドリル』からランクAとランクBの語彙をリストアップしておきますから、中学生の皆さんはこっそり語彙力をチェックしてみてください。中1年生で7割以上意味がわかった人は合格です、カウントしてみてください。
 小学生用の問題だからレベルが低いと侮る無かれ、中3年生は各語彙ごとに用例を三つ作文してください。ランクAとランクBの合計で9割できたら、学力テストの五科目合計200点(300点満点)は確実に超えているでしょう。「読み・書き・そろばん(計算)」、基礎学力を支える3本の柱の内、2本がしっかりしていたら、学力が高いのはあたりまえです。
 さあ、チャレンジしてください。

 【ランクA 最重要語100】
 
 あざむく       あわただしい
 いそいそと      意図
 いなめない      イベント
 いやす        後ろめたい
 有頂天        うながす
 厳(おごそ)か    おびただしい
 おもむろに      回想
 過程          感化
 気が置けない    義務
 客観的         供給
 教訓          形相(ぎょうそう)
 許容          具体的
 形式          権威
 権利          故意に
 肯定          心置きなく
 コスト         コミュニケーション
 細心          さまたげ
 強(し)いる      自我
 システム        したたか
 自負          周知
 じゅうなん       需要
 消極的        象徴
 ずさん         生計
 世間          積極的
 切実          切ない
 せんさい       先入観
 洗練          率直
 第三者         たしなめる
 建て前         丹念に
 重複(ちょうふく)   重宝
 直視          費やす
 つたない       体裁(ていさい)
 テクノロジー     典型的
 当事者        途方に暮れる
 なげく         なけなし
 になう         認識
 はかない       図る
 はぐくむ       漠然
 はばむ        反発
 風潮         ふきゅう
 福祉         風情
 プライド       分別
 閉口         偏見
 保守         まことしやか
 報いる        むじゅん
 面目(めんぼく)   モラル
 やおもて       優越感
 指折り        由来
 余地         理にかなった
 臨時         臨場感
 
 『言葉力ドリル』のランクBには50語リストされていますが、中3年生で500点満点で400点近い生徒でも、本をあまり読んでいない生徒は、半数くらいの意味がわかりません。もちろん適切な用例も挙げられないのです。

 <ランクB 50語>
 あさましい   あどけない
 いきどおり   いそしむ
 いたたまれない  いぶかしい
 いましめる   うき足立つ
 うそぶく     上(うわ)ずる
 おおらか    おくゆかしい
 おざなり     おぼつかない
 かたくな     気後れ
 気さく       軽べつ
 けなげ      けんお
 ごうまん     心もとない 
 さげすむ     ジレンマ
 そそくさと     打算的
 つつましい    なじる
 入念       ねたむ
 はにかむ     晴れがましい
 ひくつ       ふがいない
 ふてぶてしい  へりくだる
 放心       ぼくとつ
 向こう見ず   メンタル
 もどかしい    物おじ
 ものごし      やおら
 やりきれない  ゆううつ
 ゆだねる     利発
 わずらわしい  わだかまり

 日常会話で出てくる語彙(ごい)も10個ほど含まれていますが、残り40個は文章語ですから、本を読んでいないと目にも耳にもとまりません。
 ランクCには日常会話に頻出する語彙は出てきません。
 つまり、文章語は文章を読まないと知らないままになるのです。人間は言葉を使って考えますから、語彙数が少ないと思考も単純になります。複雑な思考はたくさんの語彙に支えられています。

 中学生で友人から、「あなたの話はとこどきわけがわからない」と言われたら要注意です。会話に何度も同じ言葉が出るようならアウトです。
 「うぜー」
 「それそれ」
 「すごい」
 「やばい」
 「なるほど」
 「たしかに」

 思い当たる人は、それぞれを、シーンに応じて3通りの言葉で表現してみてください。そしてそれを日常会話で使ってみてください。

 中学生になれば、授業で先生たちは文章語を使って説明しますから、先生がしゃべることを頭の中で直ちに漢字に変換できなければ発話された文章の意味がわかりません。成績の悪い生徒は、語彙力が極端に貧弱な場合が多いのです。そういう生徒は30人に6~9人はいますよ。

< 余談 >
 根室ではほとんどの生徒(95%)が、漢和辞典や国語辞書を引く習慣がありません。おそらく釧路も似たようなものでしょう。読書好きな生徒、なかでも児童書やアニメのノベライズのようなものを卒業して、読む本のレベルを上げていく生徒は国語辞典も漢和辞典もよく引きます。
 国語辞典と漢和辞典は毎日引いて習慣にしましょう。まずは「一日一語」でよいのです。そのためには文章語のインプットが必要です。名著といわれている本は語彙がすぐれているばかりでなく、文章表現や思考もぬきんでているので、ドンドン読んで、辞書を引きましょう。最初は自分が読みたいと思った本を読みましょう。数十冊読み進むうちに読む本のレベルを意識して上げて行けばよいのです。
 先週のことですが、中1の生徒に自分が読みたいと思う本を本屋さんで手にとって選び、読んできなさいと伝えました。その内の一人が本屋さんで買って読んだ本を持ってきました。
「読めない漢字に丸印をつけてきたら、振り仮名を振ってあげるから、あとで国語辞書を引いてみなさい」
 そう伝えてあったからです。たくさん丸印がついていましたが、約束ですからぜんぶ振り仮名をふりました、1冊半です。ちょっとしんどかった、でも遠慮しないでいいよ。(笑)
 中1の生徒が選んだ本は次の2冊です。

■ 吉村達也『生きているうちに、さよならを』集英社文庫
■ 山田悠介『パズル』角川文庫

 吉村達也の本は、ルビが少なく、語彙の少ない生徒にはちょっとしんどいでしょう。山田悠介の本はルビがたくさん振ってあるので、読みやすい。語彙力アップには最初のうちはルビがたくさん振ってある本を選ぶのがいいでしょう。
 斉藤孝の音読派シリーズは総ルビで名著が6冊並んでいます。


<余談-2:分布変化に相似形がみえる> 29日朝、追記
 気になる現象を追記しておきます。
 スマホやパソコンへの依存が大きくなり、ラインやツイッター、ゲーム時間が圧倒的に増えてしまい、その結果の読書離れは中高生も同じです。
 生活時間の3時間以上もこうしたスマホやパソコンに奪われてしまって、「読み・書き・そろばん」の三つとも、能力が充分に育たないようになってきているように見えます。
 読書をぜんぜんしない人が45%もいます、極端なんです、授業で先生が話す日本語を適切な漢字に変換できない生徒が2~3割も占めているというのが根室の実態で、おそらく釧路も同様です。
 根室では親が100冊以上の蔵書をもっている例はめずらしい。
(5月の連休に行われているボランティアによる「古本市」の活動は実に貴重です。古本屋が卒倒するぐらい格安ですから、ずいぶんな量の本が市民の間で流通しています。)
 親がスマホやゲームにのめりこんでいる例が増えているのが現在の30-40歳代です。

 読書階層ごとの数字の変化は、この12年間に根室の中学生の学力テストの得点分布の変化によく似ているのです
 成績上位層(読書1時間以上)が1/4以下に激減し、成績下位層(読書0分)が肥大化しています
 学力分布の変化は階層ごとの読書時間の変化よりももっと極端で、劇的です。おそらく学力分布の変化が大学生の読書時間変化の先行指標と言えるのでしょう。
 表にしてみて分布の変化が相似形であることに気がつきました。

 これら二つの分布変化には有意な相関関係が読みとれます。理屈の上でもそうなるでしょう、「読み・書き・そろばん」の読みの時間が小さくなり、そろばん(計算)トレーニングの時間もスマホやパソコンに奪われていますから、学力の土台である「読み・書き・そろばん」技能が衰えるのは当然です。
 音読も、文章を書くことも、計算も反復トレーニングで技能が高まりますから、時間を十分にとってやらせなければひどいことになります。

  日本は明治期に素読文化を棄て、戦後30年をかけてそろばんという計算技能を失い、コンピューターとソフトの飛躍的な発達で世界一の読書量を誇っていた読書文化をなくしてしまったのです。基礎学力の土台の「読み・そろばん(計算)」が崩れてしまったのですから、子どもたちの学力が以前の水準を保てずに著しい低下をしつつあります。この国の教育が土台のところから崩れていくのが見えませんか?
 あくなき便利さの追求、欲望の拡大再生産、利潤の追求を最優先する生き方、私たちが染まっているのに気がつかない無意識・無自覚な価値観が他にもいくつもあるでしょう、そういうものを一つ一つ点検し、失った価値観についていま点検すべきときがきている気がします。



      70%       20%      
 

生きてるうちに、さよならを (集英社文庫)

  • 作者: 吉村 達也
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/10
  • メディア: 文庫

パズル

  • 作者: 山田 悠介
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2004/06
  • メディア: 単行本

言葉力ドリル 実戦編―中学入試

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 学習研究社
  • 発売日: 2008/06
  • メディア: 単行本





語彙力こそが教養である (角川新書)

  • 作者: 齋藤 孝
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/12/10
  • メディア: 新書

 

斎藤孝の音読破〈2〉走れメロス (齋藤孝の音読破 2)

  • 作者: 太宰 治
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2004/10
  • メディア: 単行本

斎藤孝の音読破〈4〉五重塔 (齋藤孝の音読破 4)

  • 作者: 幸田 露伴
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2005/03
  • メディア: 単行本

斎藤孝の音読破〈1〉坊っちゃん (齋藤孝の音読破 1)

  • 作者: 夏目 漱石
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2004/06
  • メディア: 単行本


<音読トレーニングで使用しているテクスト>
①中1年生

読書力 (岩波新書)

  • 作者: 齋藤 孝
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2002/09/20
  • メディア: 新書

②中2年生

国家の品格 (新潮新書)

  • 作者: 藤原 正彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/11/20
  • メディア: 新書

③中3年生

すらすら読める風姿花伝

  • 作者: 林 望
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2003/12/13
  • メディア: 単行本