日銀黒田総裁が29日、マイナス金利導入を公表した。

 出口戦略のない異次元緩和と年間80兆円ペースでの国債買入の行き詰まりが見えてきたので、今度はマイナス金利の導入だという。こういうのを「泥縄」という。出口戦略を失って「のたうちまわって」いる。21日の黒田総裁の国会答弁では、マイナス金利は副作用があるので考えていないと発言していた。わずか1週間で状況が変わったと判断したようだ。日銀金融政策決定会合で日銀政策委員会9人のメンバーのうち4人がマイナス金利導入に反対した。

 そもそも、日銀の国債買入がどうしてこんなに増え始めたのかというと、GPIFが安倍政権の要請で株式投資比率を25%から50%に上げたからである。大量の国債の売りがでるから、国債の暴落を防ぐために引き受け手がなくてはならなかった。
 そういう事情に加えて、BIS規制で日本国債のはリスク資産とみなされ、邦銀も国債の処分を急がざるをえなかった。
 日銀が動かなければ、GPIFと都市銀行両方からの強力な売り圧力で国債市場は暴落、長期金利暴騰の可能性があった。そうなれば、政府財政も道連れ破綻となる。国債がマイナス金利で発行できるように下地作りをしたのなら、あまりにもリスキーである。何が起きるかわからない、「異次元」のゾーンに突っ込んでしまった。
 通貨の番人であったはずの黒田総裁は日銀の独立性をかなぐり捨てて安倍政権を助けたのである。日銀総裁が白川氏から黒田氏に変わり、ブレーキの役割を放棄して、政権の忠実な犬になった。

 だが、当面の破綻を糊塗しただけのことで、年間80兆円規模で日銀の国債買い入れが進めばいずれ日銀と円に対する国際的な信任が揺らぐことになるが、その時期がいつかは誰にもわからない。起きてしまえば破綻の広がりは誰にも止められない。国際金融市場を揺るがす一大事が出来(しゅったい)する。

 いくら税収が増えても、プライマリーバランスの回復すらできないから、国債残高は今後も増え続ける。小泉純一郎が総理大臣のときに約束した2011年プライマリーバランスの回復は、2016年になってもいつなされるのかまるで見えない。

 日銀の国債保有残高は1月20日現在で281.2兆円で、発行残高のおおよそ3割を日銀が保有し、金融市場がマヒ状態にある。GPIFの国内株式保有額は50兆円で、一部上場株式の1割を占めている。異常な状態だが、このGPIF保有株はいずれ年金支払いで取り崩されるから、株式市場には巨大で恒常的な売り圧力となる。株式市場は長期低落が避けられない。政府部門のシェアーが大きすぎるのである。

*日銀の国債保有残高
https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/mei/

 さて、253兆円の日銀当座勘定だが、新規預託分からマイナス金利を課すとしても、それがどこに流れるのかが見えない。株式市場、国債市場、企業の設備投資への貸付金の三つが主要な行き先だが、人口縮小で日本経済は長期的に縮小に向かうから、一部上場株の株価の先行きは暗い。銀行はBIS規制があるから、株式投資を増やせない。もちろん、評価が下がった日本国債の購入もBIS規制で増やせない。残るは企業への貸付だが、人口減で国内市場が長期的に縮小していくので、経済成長の時代はすでに終焉しており、これも無理がある。一部上場企業は株式市場で資金集めができるし、内部留保が厚く無借金経営をしているところが多く、設備投資をしたとしても銀行借り入れを行う企業はほとんどないだろう。つまり、運用先のないお金が日銀当座勘定に253兆円ある。

 だから昨日の東京株式市場は日銀当座勘定に積まれた253兆円のお金がどこに向かうかが読めずに乱高下を繰り返した。
 どうなるかは誰にもわからない。
 財政再建という痛みから逃げるために異次元金融緩和という痛み止め薬を飲んでいたが、効かなくなって今度はマイナス金利というモルヒネを使い始めた。収入の2倍も浪費するのがすっかり癖になってしまった。収入の範囲で生活するのがあたりまえ、出血(歳出拡大)を止めるのが先ではないのかね。
  肝心の成長路線は雲散霧消、簡単に実現できる財政出動と異次元の金融緩和も行き詰まり、今度はマイナス金利導入。

     毒を食らわば皿までも

 日銀政策委員会メンバーの人事権を利用してこういう政策を推し進める安倍総理は保守政治家ではなく、革命家だ。奇手の連続、狂気の沙汰である。
 まっとうで健全な保守政治家はいないのか?




<余談-1>
 日銀はいずれテーパリング(金融緩和縮小)に踏み切らざるをえなくなる。国債買入れや国内株式購入を縮小することになる。そのときに国債市場や株式市場がどうなるか、想像すべきだ。
 GPIFも年金支払いのために50兆円買い入れてしまっている国内株式を処分するときが来る。恒常的な売り圧力となり、国債も株価も暴落が避けられない。
 歴史上初めて長期的な人口縮小時代を迎えている、そういう中で経済成長という幻想を振りまき、痛みを我慢せずに逃げてばかりいたらどうなるかは高校生でもわかることだが、与党政治家たちは自分の利害そして議席確保を優先しているというのが実情。

<余談-2:亡国の経済学者浜田宏一>
 浜田宏一(東大名誉教授・米エール大経済学部教授)が内閣参与として、安倍政権の経済政策を支えてきた。最近はマスコミへの露出が少なくなっている。成長路線で何度も何度も安倍総理が繰り返した「トリクルダウン」もこの人の指南ではなかったか。
 昨年8月に朝日新聞が行ったインタビューで、出口戦略に絡めて、国債が暴落して「さまざまな波及効果が出るだろう」といっている。「波及効果」という語彙は通常はよいほうに使うのだが、米国留学経験のあるこの人の語彙感覚はわたしたちとはよほど異なっている。投資家と国民も散々な目に遭うと言い換える必要がある。政治家ではないから、この亡国の経済学者、あんがい正直である。
 高橋是清が戦時体制下で必要に迫られて赤字財政を続けたた結果、戦後のインフレで国民が保有する国債は紙くず同然になった。異次元の金融緩和やマイナス金利はいつまでも続けられない。出口戦略に切り換えたとたんに、国債の暴落、金利上昇、急激な円安によるコストアップ・インフレ、政府財政破綻が同時に起きる。
 これが財務官僚が描く、国民生活を生贄にする財政再建の真実の姿かもしれない。


http://www.asahi.com/articles/ASH7W6J5YH7WULFA02P.html
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2015年8月12日 朝日新聞デジタルニュースより抜粋引用

<増税へ緩和継続と第四の矢を 浜田宏一エール大名誉教授>

 「『この道はいつか来た道』と、歌のように戻っていけばいい。金融政策は、雇用のため、国民所得のため、経済成長のため、インフレを抑え込みつつ実施していかなければいけない。ただ、問題は政治的に出口に行けるかどうかだ。出口政策を進めれば金利は跳ね上がり、国債保有者には、様々な波及効果は出るだろう。それが大変なのはわかるが、債券保有者のために金融政策があるわけではない」

 「出口の局面で日銀が含み損を抱えて、国庫納付金の減少を通じて国民負担につながるという議論がある。だが、よく考えれば、日銀は国債を買うことで政府の負担を肩代わりしていたわけなので、国民生活全体から見ればほとんど問題がない
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 2012年12月5日、ブルームズバーグが配信した記事を引用する。彼の論によれば白川から黒田へ日銀総裁が変われば数ヶ月でインフレがおき、好景気になるはずだったが、4年たってもさっぱり効果が見えない。こんな経済学者を政権のブレーンにすえるのだから、安倍氏には人材選定のセンスもない。
 安倍・浜田・黒田と眺めてみたら、類は友を呼ぶというのはなるほどと思う。貨幣数量を調節することで景気を回復させたり、経済成長を成し遂げようということ自体が、トンデモ学説なのだろう。少子高齢化による人口減少時代に突入した日本の現実をよく見たらいい。

http://togetter.com/li/753051
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浜田「白川方明総裁の後任が今以上の金融緩和を行えば、数カ月以内でデフレ脱却を実現できる」「日銀が2、3%のインフレ目標を設定すべき」