#3228 晩産化は「介護・子育て族」を生む 淑徳大結城康博教授 Feb. 3, 2016 [99. 資本論と21世紀の経済学(2版)]
節分の今朝7時の根室の気温はマイナス7.7度で、最高気温はマイナス4度付近になるだろう。日没が40分ほど遅くなった今頃が一年間で一番寒い。
わずか10分弱のNHKラジオ番組だがなかなか興味深いテーマを採り上げることがある。「社会の見方・私の視点」(6時43分から)で、淑徳大社会福祉学部教授の結城康博教授が「晩産化は「介護・子育て族」を生む」と題して解説していた。
「1億総活躍社会」「全員参画社会」は日本では数百年も前から性差で役割分担して実現していたのだが、それが戦後の経済成長と公衆衛生レベルの向上、医療の発達で壊れてしまった。性差による役割分担=「男は外で働き女は専業主婦に徹する」という日本的分業はそれなりの安定をもたらしてきたのだが、それが破壊されてしまった。どのようなビジョンや価値観であらたな役割分担をすればよいのだろうという、実に大きな問題がここにある。
ここからは結城教授の説を紹介するが、( )でデータを補足し私の意見を述べたい。
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1950年代には第1子の平均出産年齢が24.4歳だったが、2014年には30.6歳へ6.2歳も「晩産化」が進んでいる。
(平均寿命データを補足しておくと、1950年[男50.06歳、女53.96歳]、2014年[男80.50歳、女86.83歳]、64年間で平均寿命が男は30.44歳、女は32.87歳も延びているから、介護の割合も年数も1950年に比べて問題がずっと深刻になっている。それを平均寿命が延びたと喜んでばかりいて何の対策も用意していなかったのである。いまそれが現実の問題になりつつある。
物事を相対的に見る視点を確保しておかないと大事なことを見落としたことに気がつかぬ。
*日本人の平均寿命推移
http://www.garbagenews.net/archives/1940398.html)
30歳で第1子を生むと50歳で子供の大学進学の時期を迎えると同時に両親が80歳になる。子どもの大学進学と親の介護の時期が重なるのである。
年齢別の介護率を見ると、
70-74歳 6.3%
75-79歳 13.7%
80歳以上 ???
50歳代で親の介護のために離職すると子どもの大学進学へ影響が出る。教育費で一番不安なのが2015年現在で大学進学である。一番お金がかかる時期に当たる。
(とくに大学のない根室のような地方から札幌圏や首都圏への大学進学は親元から離れて生活する費用が学費にオンされるので、大学進学率は全国平均の1/4しかない。
根室高校の進路データによると、H24,H25,H26年の同学年の根室市内の生徒数を260,250,240名とすると、大学進学率は22.7%⇒18.0%⇒15.8%と著しい低下傾向を示している。大学進学率で見る限り、根室高校生の学力とそれを支える親の経済力がこの数年間著しく低下していると見ざるをえない。自分たちのふだんのレジャー費用を節約しても子どもの進学費用を蓄えておこうという親が少なくなったという、価値観の変化も見逃せない。
*根室高校ホームページ進路実績資料
http://www.nemuro.hokkaido-c.ed.jp/?page_id=31)
社会保障給付費は年間約115兆円、そのうちの7割が高齢者関連費で、諸外国よりも高齢者への配分が厚いとされ、高齢者への給付費を減らして子育てへまわすべきだという議論があるが、それは間違っている。
高齢者への給付費を減らせば、負担は50歳代の「晩婚・晩産」世代の負担を増やすことになるから、孫の世代の進学に影響が出る。
高齢者施策と介護施策と子育て施策は50歳代を真ん中において密接に関連し始めているから、高齢化と子育ての両方に財源を配分しなければならないというのが結城教授の主張するところである。
財源確保が必要だが、たとえば子育ての財源については、雇用保険料アップでの対応もあるのではないか。
共稼ぎ世帯が増えている⇒保育ニーズ増大⇒雇用保険料アップ
現在、雇用保険料で育児休業費用をまかなっている。
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アベノミクスをうみだした内閣参与の浜田宏一東大名誉教授は50年も前の米国経済学者の学説を採り上げて安倍総理に吹き込んだ。日銀総裁を白から黒に変えれば3ヶ月で2~3%のインフレターゲットが実現できて、経済成長路線が軌道に乗り、中小企業やそこで働く人々もトリクルダウンで潤うと主張した。ところがインフレターゲットも経済成長もぜんぜん実現できないから、今度は「一億総活躍社会」と言い出した。
社会構造に関わる問題が絡んでいるから、そう簡単ではないことは、社会保障政策が専門の結城教授の解説でよくわかる。
女性の社会進出を進めれば進めるほど、親の介護も子どもの進学も困難になる。
高齢者が加速的に増大するのを横目に見ながら、政府の医療政策は2000年ごろから、療養型病床群のベッドを10万も減らして、在宅介護への切り替えを行ってきた。在宅介護を基本にすれば、家で子どもが介護せざるをえなくなる。だれが介護の主体になるのか、それは主婦だろう。介護の重要な担い手の主婦の社会進出をいうのなら、施設介護を増やすのが当然の理屈だが、減らしているのである。これではちぐはぐだ、そういう狭間で、この数年間介護離職が年間10万人を超えるような深刻な事態が生まれている。
女性の社会進出を増大させたいなら、国費負担を増やして施設介護を充実すべきだし、それがいやなら、専業主婦の重要な役割を認めて女性の社会進出を促進しないさまざまな施策をやるべきだ。、いったいどっちへ舵を切るのかはっきりしたらいい。ここでも泥縄で、「毒を食らわば皿までも」となにもかもぶっこわすつもりなのかね。
少子高齢化そして晩婚・晩産化という社会変化を無視して、事情のまったく異なる50年前の米国の経済学説をそのまま適用しようというのだから、東大名誉教授の中には自分の頭で考えられない大バカ者がたまにはでるようだ。そういう頭の硬直したご老人をわざわざ経済政策ブレーンとして迎える総理大臣もまわりの人々も「人を見る眼」がどうかしている。
安倍総理、肩書きでは力は測れないのだよ、淑徳大の結城さんの方がよほどまともだ。この人の院生時代の専攻は経済学だ。世にまともな経済学者は少数だがいるよ、米国の価値観、米国の経済学説をオウム返しにいうだけの学者は役に立たない。総理大臣ならもっと人を見る眼をもつことだ。国が傾いてしまう。
*#3227 毒を食らわば皿までも 日銀マイナス金利導入 Jan.30, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-01-30
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