文科省初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室・室長補佐武藤さんの基調講演【基礎学力保障論】5回目、レジュメには「(2)基礎学力問題の中長期的インパクト」というサブタイトルがつけられています。
 前回は全国学力テスト小6算数の問題「(7) 4/5 ÷ 8 =」をとりあげ、時間軸を遡行してどこで躓(つまづ)きが生じたのかを推定し、さらに転じて中学生になったらそれがどのような学習阻害要因となるのかを武藤さんが検証してみせてくれました。
 今回は時間軸を高校課程に延ばそうというわけです。

 レジュメ19ページを転載します。
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■ 高校の一部では、
■ 主に国語、数学、英語において、
■ 中学校(場合によっては小学校)の学習内容など基礎・基本を重視した
■ 「国語基礎」、「高校数学入門」、「英語ベーシック」などの科目を設置。
■ 教材は、生徒の実態に応じて各学校において独自に作成
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 わたしは「高校数学入門」「英語ベーシック」という科目について何かで目した記憶があります。根室の高校統廃合で、新たにできる高校では普通科がなくなり、総合学科になるという説明資料の中で見ました。
 この問題を検討した関係者はこの科目がどういうものなのかわかっていたのでしょうか?「高校数学入門」は、その目的が「学び直し」ですから、小学校で習う「整数の加減乗除」「分数や少数の四則演算」からやることになるのでしょう。生徒は「高校数学入門」か「数Ⅰ・A」を選択することになりますが、総合学科ではどちらを選択しても同じ単位を与えることになるのでしょうから、同じ総合学科でも科目の選択如何で現在の根室西高校普通科と根室高校普通科の学力差がそのまま維持されます。地元企業の側からすると、採用の際には選択科目を確認して採否の参考にするということになるでしょう。
 生徒の側からすると、学習意欲のほとんどない生徒が1割以上入学してくるので、統合後の学校は確実に学力低下をきたします。
 同じ科目で学力レベルの差に応じた科目を設定できる、国語、数学、英語はよいでしょうが、そのほかの科目は別設定できませんから、学力に関係なく同じものを選択することになります。学力レベルに大きな差がある生徒たちが同じ教室で勉強することになります。たとえば、世界史、生物基礎など。
 小学校でも中学校でも、クラスに2~3人先生の制止を聞くことのできない生徒がいただけで学級崩壊を起こし、そのクラスの平均的な学力が著しく低下します。ところどころ聞き取れないだけで、話の文脈がつかめなくなるので、授業が理解できなくなります。学級崩壊を起こした学年は、中学校のふだんの学力テスト五科目300点満点で、平均点に30~50点もの差がついてしまうのが現実ですその学級崩壊が高校でも再生産されます

 どこの地域でも底辺校では英語はアルファベットから、数学は分数や少数の計算から学び直しをしているのでしょう。1年間学び直しに費やせば、その後順調に消化できたとしても卒業時点で標準的な高校課程の2年までの学力しかありません。 

 地域経済を支えているのは主として地元の高校を卒業した者たちですから、その者たちの学力低下が加速すれば、地元経済に長期的に深刻なダメージを与えることになります
 根室高校と根室西高校の統廃合に教育関係者の一人としてわたしは大きな危惧を抱いています

 わたしはこう考えています。道立高校入学試験に「足切り」を導入すべきです。300点満点で100点を超えられない生徒は不合格とします。33%未満の得点ですから、5教科合計点で「赤点」レベルですから、標準レベルの高校授業を理解するのは無理、高校卒業者に高校卒業程度の学力を保障するためには、「足切り」は不可欠です。
 「足切り」を100点と明示することで、中学校での過度な部活は完全に「文武両道」に切り替わります。勉強をほったらかして部活のみに血道をあげている生徒も親も、部活と勉強のバランスを考えざるをえなくなります、それでいいのだと思います。
 実社会で、野球がうまい、サッカーが上手だ、ゴルフが得意だといって、趣味に明け暮れ時間がないと、仕事に必要なマニュアルも専門書も読まないあるいは読めない、そういうことは通りません。

 何がどうなっているかの具体的な資料が7個ついています、武藤さんが挙げた「学び直し」資料はおそらくすべて実例です。全部転載しますのでどうぞ見てください。

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3.次の分の(1)~(8)の―部のカタカナを漢字で書きなさい。
(1)ヒッシに練習する。
(2)シンケンな表情を見せる。
(3)音楽活動にセンネンする。
(4)ゆっくりと息をハク。
(5)発表会に向けてフンキする。
(6)関心のドアいが高まる。
(7)プールに水をハる。
(8)ネバる相手を振り切った。

「3.」で間違った漢字を左のマス目で練習しなさい。(10×9のマス目あり)
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1.次の計算をしなさい。
(1) 0.2+0.5
(2) 2.3+3.6
(3) 3.25+1.63
(4) 1.36+5.23
(5) 6.12+2.54

(1)1.7+2.8
(2) 3.9+5.3
(3) 3.46+5.29
(4) 2.68+4.15
(5) 7.13+2.59
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1.次の計算をしなさい。
(1) 5+2
(2) 17-7
(3) 68+53
(4) 81-59
(5) 25×36
(6) 52÷4
(7) 8-4.7

(16) 3/2+2/7
(17) 2/9+4/7×21/8
(18) 8-(-4)
(19) 4×(-3)^2÷(-12)
(20) -4a+2a
(21) 5a-3-4a+2
(22) (2x;3y)/4 - (x-y)/3
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朝学習 数学 No.1   10月15日
1.次の方程式を解きなさい
(1) 3x+7=13
(2) 2(x-2)=6
(3) 2x+1=5x -7
(4) (5x-1)/2=4
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ベーシックスタディ・サンプル (数学)
 教科テーマ「100マス計算+分数の加減乗除」
1.次の100個のマスをうめなさい。
・・・マス省略

2.次の計算をせよ。
(1) 8/15+2/15
(2) 7/18+7/18
(3) 5/12+5/12
(4) 7/15-4/15
(5) 6/7-3/7

3.次の計算をせよ。
(1) 1/4+2/3
(2) 1+8/3
(3) 1+7/2
(4) 1-1/7
(5) 8/3-3/2
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  学校設定科目「英語ベーシック」 (高1)
英語ベーシック β
 次の日本語をローマ字にしなさい。
(1) あか
(2) あお
(3) くも
(4) むらさき
(5) ねこ
(6) いぬ
(7) さかな
(8) はこ
(9) まめ
(10) いす

(1) しろ
(2) つくえ
(3) ふね
(4) つち
(5) とうふ(トーフ)
(6) ふきん
(7) つみき
(8) さいふ
(9) XXX(ある地名)
(10) 自分の名前
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Time Attack  No.1  Date:  /   Time:
◎今日の課題  《アルファベット》 1

 ABCDEFG
 HIJKLMN
 OPQRSTU
 VWXYZ

  マス目欄省略
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 これらはすべて高校で実際に使用されていたプリントからピックアップしたものです。小学校や中学校の先生たち、嫌でも見てください。これが「学び直し」の現実なんです。
 根室市内のC中学校の先生たちは根室西高校の授業参観したはずです。自分の目で高校現場の「学び直し」授業を見ること、百聞は一見にしかずです。現実を見たら普通の教員なら、何とかしようと変わります。自分たちが何をしそこなったのか、何をすべきなのかよくわかるはずです。
 事実に目をつぶってはいけません。「学び直し」をしなければならない生徒がおおよそ20%存在します。

 底辺校では、高校卒業時点で標準的な中卒の学力しか身につけられないでしょう。それ以下の生徒が1/3くらいはいそうです。

 武藤さんは黒い画面に白抜きの大きな字で次のように書いています。
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 採用してくれと言われても・・・・・
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 全国47都道府県での北海道の特殊性は何なのか、そして根室市という地域にははどのような個別的な学力問題が存在しているのか。
 北海道根室市の個別的な教育事情を追加しておきます。

 根室には高校は2校だけ、再来年に統廃合されて1校になります。2校のうち根室西高校が「底辺校」に該当します。
 生徒たちの名誉のために書き添えますが、全員がこういうレベルではありません。数学はできるけど、英語ができない、あるいは英語は得意だけど数学はまるでできない、そういう生徒がたくさん混じっています。その中には、中学校最後の期末テストでクラストップの成績をたたき出した生徒もいます。英語が嫌いなので中学校の担任が根室西高校への進学を強く勧めてしまいました。まじめでおとなしい生徒なので、担任の指示に従いました。数学の授業は辛かっただろうと想像します。
 毎年数人ですが、学力レベルは根室高校へ入学できるのに、あえて根室西高校を選択する生徒がいます。根室高校での勉強が不安、友人関係など事情はさまざまです。

 再来年の高校統廃合によって、根室の子どもたちの学力レベルはさらに低下します。かつて一番学力テストの平均点がよかったB中学校は、学力テスト総合A・B・Cの平均点が135~167点の範囲でしたが、今年は100~110点(300点満点)です。
 5年前の北海道新聞の取材で、一番荒れた学校だったC中学校は学力テスト総合A・B・C平均点が100点台でした。今年は135点付近で全国学力テストでも全国平均値に近い点数を2年続けてたたき出しています。
 中学校は中小企業、「中小企業はオヤジしだい」、校長とそれに全面的に協力する教員が一人いたら、生徒たちの学力は短期間で劇的に改善できます。C中学校がやってくれました。部活では文武両道を部活担当の先生たちが生徒に直接言うようになりました。放課後補習体制も学校全体の取り組みになっています。教室内の整理整頓、背筋をピンと伸ばして座る姿勢も、集中力の維持や疲労軽減の点からも大事です。
 やれない言い訳は不要です、いくらでも改善できますから、やれるところから坦々とやりましょう。

 次回は、さらに未来へ時間軸を延ばして、基礎学力がないと社会に出てからどういうことになっているのかをいくつかの統計資料から武藤さんが読み解きます。
 資料の選び方も学んでみたいと思います。



 北海道教育文化研究所理事長のコメント欄への書き込みを紹介します。
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高校の一部では。

今回、時間の都合上か触れていませんでしたが、「一部」とは本道では6割強だそうです。つまり、北海道の公立高校では、6割強が小中学校内容を学び直す。釧路市内で言うなら、湖陵・江南・北陽以外。明輝・東・商業・工業・阿寒、それに郡部校すべて。

一部であって全部ではない。

教育村には便利で都合のよい言葉なんでしょうね。

by ZAPPER (2015-11-20 11:44)

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*教育シンポジウム北海道⑥学力問題の一気通貫」・・・ブログ情熱空間
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8245810.html




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