「読み・書きトレーニング」シリーズ3回目、どんどん面白くなります。乞うご期待。

 全国学力テストデータの知らしむるところは、釧路も根室も国語B問題と、算数・数学B問題の正答率が全国平均よりも低いということ。

 データからは問題文を理解するに足る読解力をもつ生徒が少ないということは言えそうだ、端的に言うと、読みの力の欠乏。なんだか、鉄欠乏性貧血みたいで、自分のことを言われているようだ。(笑)

 あるときに中1の生徒が文章題の意味がわからないというので、声に出して読んでごらんというと、「池の周りに」と書いてあるところを、「いけのしゅうりに」と読んでいた。「いけのまわりに」と読むんだよと伝えると、「なーんだ、意味わかった!」。漢字の音訓を読み分けられないと、たまにだがこういうことがおきる。質問があったら問題文を音読させてみるのは、読み方の声の「調子」や間の取り方で、どの程度読めたのかが判断できるからである。どの箇所の理解が不十分かが読ませるだけでわかる場合もある。これは教える側の技だ。
 読みの速度が遅くて、2行目を読んでいるときには1行目の文章を忘れてしまう生徒がいる。
 こういう例もある、大問の説明から条件を読み取る、そして(1)をやり終え、(2)を読むときに元の大問の説明文を忘れてしまいつなげて考えない、こういうケースもある。
 先読みができなければ、いま読んでいる箇所だけにしか目が届かない、したがって、読んでいるときに前後の文と比較しながら文意がサーチできない。
 そういう生徒は、脳の使い方が悪く、一時記憶領域が未発達で小さいから暗記が不得意である。高速で一気読みをしたほうが、長い文章全体を一時記憶領域に保持しやすい。もちろん、暗記も得意になる。
 速く詰め込むことで、一時記憶領量が拡張する増やせるのだろう。これが、「1文音読⇒1文書き」につながってくる。後志のおじさんの英語とドイツ語の勉強法である。日本語にも応用が利くから、普遍的な語学学習方法であるとebisuは考えている。もちろん、「それしかない」わけではない、他にも方法(わたしはまったく異なる方法(画像記憶)と技を用いた、この方法はstudyには便利がよいが、learningには向かない、条件が特殊すぎる)があるが、いまのところこれ以上のものが見つからない。


〈先読みの実際〉
 本をよどみなく読むためには、先読みの技が必要である。いま音読しているところよりもさらに前を頭の中で読む技である。脳は今読んでいる箇所を声に出すという作業をしながら、声に出さずにさらに先を同時に読むという並列処理をしている。先読みできない生徒の脳は「逐次処理」をしているのである。理解の深さも読む速度も比較にならないほど差が出てしまう。先読みする生徒とそうでない生徒は、脳の使い方が違うことがご理解いただけるだろう。
 中2の音読テクスト『国家の品格』から、先読みの例を挙げてみる。
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 新渡戸は日本人の美意識にも触れています。「武士道の象徴は桜の花だ」と新渡戸は言っています。そして桜と、西洋人が好きな薔薇の花を対比して、こう言っています。
「桜はその美の高雅優麗が我が国民の美的感覚に訴うること、他のいかなる花も及ぶところではない。薔薇に対するヨーロッパ人の賛美を、我々は分かつことを得ない」
 そして、本居宣長の有名な歌、
 敷島の大和心を人問はば、朝日に匂ふ山桜花
を引いています。
   藤原正彦著『国家の品格』(新潮新書)125ページ
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 「新渡戸は日本人の美意識にも触れています」の最後の部分である「触れています」と声に出して読んでいるときに、その先の「武士道の象徴は」という句を先読みしている。そうしながら、文の意味も追っている。同じ行内での先読みの技である。ひらがなが10文字以上続くと、どこで区切っていいのか迷いそこでストップする生徒が多い。ひらがなが連続する箇所は、意味まで判断して読まなければならないから、難易度が高くなる(適度な漢字の混ぜ書きが、意味を即時に了解しやすいことは、書くときに注意すべきだ)。同じ行内での先読みが第一番目。
 次は折り返し部分の先読みの技。「武士道の象徴は桜の花」の部分を一時記憶域へ放り込み声に出しながら、視線はその先の「だと新渡戸は言っています」を読んでいる。こういうように脳内で並列処理して読まなければ、ターン(折り返し)の読みがスムーズに行かない。生徒に音読させて折り返し部分に注目していると、先読みしているかどうか、簡単に判定がつく。
 よどみなく読む生徒は、意味も追いかけて3つ目の並列処理をしているから、頭の反応速度が速くなるのは当然のことだろう。文字面だけを追いかける読み手とは脳の活動が比較にならない。
 脳の一時記憶域から読むべき情報を引き出して文章を声に出すと同時に、先読みし、意味を追跡、そして文や単語の予測という4つの並列処理をする生徒は、初見のテクストをじつにスムーズに読むことができる。ちゃんとした音読が脳をフルパワーで駆使するものであることが理解いただけただろうか?

 音読トレーニングをして、先読みの技が身についた生徒は、国語のテスト問題の本文を高速で精確に読みきることができる。
 もうすこしやってみよう。「西洋人が好きな薔薇の花を対」というところを先読みしているときに、その後に来る語を予測している。意味の流れから「対」は「対比」だと予測して、折り返しを先読みして確認する。これが、意味の流れからの予測先読みである。
 こういうのは一種の技だから、芸事と同じで、指導して反復練習させればほとんどの人が身にけられる。誰でもできるlearningの領域であり、studyではない。勝手に読ませていたら、大量に読む1割の生徒以外は、こういう技が身につかない。
 「読み」においては、速度が遅いのは、文全体の意味が追えなくなるので致命的である。高速音読ができない生徒は、黙読も読みが遅くなるとともに読みの精度も低くなる。

 まとめておこう。
1.同じ行内での先読み
2.折り返し部分の先読み
3.予測先読み
4.前後の文と対比し、意味を追跡しながら読む文脈読み

  昔から言われている基礎学力の三本柱、「読み・書き・そろばん(計算)」は重要性の高い順に、そして優先順位の高い順に並べられている。なぜ、「読み」が最重要で、最優先なのか、その理由の一端がわかったのではないだろうか。
 このように先読みの技を意識してトレーニングすると、脳は4つの仕事を並列処理することになるから、次第に慣れてくる。そして四並列読みを無意識にやれるようになる
 反復トレーニングによって脳の機能(働き)が変容を受けると考えてよいのだろう。音読トレーニングを通じて脳の活動が活発になり、一時記憶量の拡張も起きるから、物理的には同じ脳なのにその機能がまったく違ってきてしまう。つまり、音読トレーニングのやり方しだいで学力が上がるということに、読んでいる皆さんはすでに気がついているだろう。わたしは当たり前のことを言っているに過ぎない。
 勉強をする前にする5分間の音読は、脳の機能を高める「準備体操」として実に有効

 読める漢字と書ける漢字は10対1、書ける語彙を増やすには、10倍量を読まなければならない。本を読まなければ、その語彙を使う前後の文脈やシーンがわからないから、覚えた語彙も文章の中で適切に使うことができない

 1.とにかく量を読む
 2.「てにをは」や漢字の読みを間違えずにちゃんと読む
 3.意味を精確に読みとる

 この三段階をクリアするには、適切な「先読み音読指導」が強力なサポートになる。中学生でこれが必要ないのは、濫読期を通過した1割の生徒たちだけ。

 「読み」の各論を展開したので、次回は「書き」を鍛える技の各論を取り上げるので、どんどん面白くなります。小学校と中学校の先生たち、見てね!
 次に何が出てくるのか、書いている私自身が知らないのだから、書くほうも面白い。書き上げてから、それを読んで、「なるほど!」と納得している。
 あ、一番大事な小中高の生徒たちを忘れるところだった、弊ブログ記事を読んで、自らを鍛えてください。

*#2853 『釧路市学力保障条例の研究(1)』東大大学院教育行政学論叢 Oct. 29, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-10-29


*#3154 日本語読み・書きトレーニング(1) Oct. 11, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-10-11-1

 #3155 日本語読み・書きトレーニング(2):総論 「読み」と「書き」 Oct. 12, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-10-12

 #3156 日本語読み・書きトレーニング(3):先読みの技 Oct. 14, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-10-14

 #3157 日本語読み・書きトレーニング(4):「書き」の「守・破・離」」 Oct. 15, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-10-14-1

 #3158 日本語読み・書きトレーニング(5):数学と「読み」のスキル Oct. 16, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-10-15

 #3159 日本語読み・書きトレーニング(6):数学と「読み」のスキル-2 Oct. 19, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-10-19

 #3195 家庭学習習慣の躾は小学1・2年生のうちにやるべし Dec. 4, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-12-04


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