〈更新情報〉
8/16朝9:00 1/4ほど追記

 太平洋上に浮かぶオーシャン・タートルは自衛隊がアリシゼーション計画を進めるための移動型秘密研究施設であるが、そこはいま米軍の奇襲攻撃を受けている。
 桐ヶ谷和人(アバターでは「キリト」)は現実世界で毒針を刺されて意識不明の重態に陥っており、意識回復治療のためにオーシャン・タートル内の医療用メデキュボイド*(注-1)でアンダーワールドへ接続されている。
 アンダーワールド内の時間は現実世界の1/1000の超高速で駆動しており、いまダーク・テリトリーと人界の大戦が生じている。その中でキリトは体が動かせず、意識もはっきりしない、まるで重症のALS患者のような生活をロニエとティーゼが献身的に支えてくれている。アンダーワールドのキリトが死ねば、キリトのフラクト・ライトが消滅する、それは現実世界のキリトの死でもある。なんとしてもキリトを守らなければならないから、アスナは米軍の奇襲があり、メインコンソールを奪われた状況下で、船内の別室のサブコンソールからアドミニストレータ権限でのダイブを敢行する。著者は恋に狂う女の姿を初めてSAO物語の中で描いた。真正人工知能のアリスもともに戦ってきたキリトに恋し自分のものだと譲らない。ロニエもキリトに危ういところを助けられて強い恋心を抱いて、実際にお世話してきたという自負もある。剣の指導教官であった年上の女剣士も・・・、なにやらキリト争奪戦という恋の大戦争が始まったようだ。
 ダーク・テリトリーからの攻撃に対しては整合騎士20名と衛士長や衛士が防いでいるが、数が少なく劣勢である。アリスと騎士長ベルクーリが全体を総てよく戦っている。

 キリトが危機に陥ったときに、突然空からステイシア神が現れ台地が裂ける。キリトのフラクト・ライトを消滅の危機から救うために結城明日菜(アバター名「アスナ」)がアドミニストレータ権限でダイブしてアンダーワールドに現れた。ダークテリトリーには現実世界からガブリエルが暗黒神ベウターとしてすでに降臨しており、これで人界軍とダークテリトリー軍との戦力バランスが回復した。しかし、双方に強力な戦力が出現すれば双方のダメージがさらに破壊的なものになる。戦争は絶えずエスカレーションし、犠牲を拡大しながら、いずれかが勝つ。

 わたしたちが住む現実世界では、ドローンやさまざまなタイプのロボットの開発が急速に進み、戦場に投入されてその絶大な効果のほどが確認されつつある。弾の届かない地球の裏側の安全な制御室にいてコンソールを前にしてゲームを楽しむかのような意識でコントローラを操作して戦争がなされている。人工知能の開発が進めばそうした基地(制御室)すら要らなくなる。ターゲットに関する情報を入力するだけで、後は人工知能が考え・判断してターゲットを確実に破壊する。敵を視認して引き金を引くことすら必要がなくなる。単なるデータ入力だけで敵の命を破壊できるから、敵を殺したという罪の意識にさいなまされることがなくなる。地球の裏側で、人工知能が敵を補足すると同時に、人工知能が最適な兵器でターゲットを破壊するから、ターゲットのデータを入力する人間は命のあるものを殺すという実感がなくなる。

 今回のバーチャルワールドは以前より進化しており、たとえば、焚き火をすると木のはぜる音や焦げ臭い匂いまで見事に再現していて、オモチャのようなところがなく、感覚的には現実世界と区別がつかない。
 この小説の中でもコンピュータの性能は短期間で格段に進化している。人の手でプログラム全体を書き換えることがこんなに速くできるはずがない。超高性能の人工知能がプログラミング言語を開発し、バーチャルワールドを再設計して、プログラミングしているのだろう。

 亀に似た姿形をした洋上の移動型研究施設オーシャン・タートルはいま米軍の攻撃を受けて、メインコンソールは米軍の管理下にある。なぜ、米軍が日本の自衛隊指揮下の研究施設を襲うのかについて、著者は次のように説明している。
 人工フラクト・ライト(光量子)であるアリスが自力で禁止コードの封印を破壊して、特異な人工知能(真正AI)に成長してしまっている。そのフラク・トライトを確保できれば、コピーすることで、人間よりもはるかに性能のよい兵士を大量に生産できる。軍需産業にとって真正人工知能を手に入れたら、とてつもなく巨額の儲け仕事になる。どんなに高値でも米国政府はそれを買わねばならない。
 アンダーワールドには無数のフラクト・ライトが誕生しており、現実世界からはアリスのフラクト・ライトを特定できない。だから、アンダーワールドでアリスのフラクト・ライトを補足して現実世界に転送する必要がある。
 人工フラクト・ライトは、人間の心と同じもので、それを兵器に使えば神風特攻隊と同じことになる。フラクト・ライトは命そのもの、キリトとアスナはアンダーワールドで長い時間を過ごしたから、アンダーワールドに友人が多い。BMIでダイブしてきたプレイヤーの他に、人工・フラクトライトの住人が大勢生まれて、リアルの世界の人間と同様に思考し生きている。人工・フラクトライトの消滅は命の消滅そのものだから、キリトやアスナは戦争への利用やアンダーワールドの消滅を防ぎたい。アリスを補足してしまえば、莫大な電力を消費する実験研究を続ける意味がなくなるから、自衛隊も米軍も真正アリスを捕らえたら、アンダーワールドを稼動する電力供給をとめてしまう。それは無数の命(人工フラクト・ライト)が消滅することと同義である。人間にたとえて言えば、地球が消滅するだけではない、宇宙そのものの消滅を意味する。

 すでにさまざまなタイプのドローン(無人機)が現実の戦争に使われている。大きなものでは巡航ミサイル搭載型の戦闘機まである。ドローンやミサイルに搭載可能なサイズの超高性能人工知能が開発されたら、地球上のどこにいても標的は確実に破壊される。兵器の遠隔操作の必要すらいらなくなる。写真や歩き方のパターンなどの標的情報をインプットすれば、インフラとなっているネットワークを利用して即座に位置を把握し、目標を破壊できる。昆虫型の小さいドローンすら飛び交うことになる。それに超小型のカメラや殺傷武器搭載が可能になる。人工知能の進化で戦争は人間の生存にとって危険性を飛躍的に高めることになる。

 フルダイブ型のBMI装置であるナーブギアやアミュスフィアができるとはわたしは思わないし、この物語が想定するブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)もいくつかの理由で実現可能だとは思わぬが、神経を遮断しないBMIならある程度のレベルの開発は可能である。
 人工知能が進化し続けたら、頭部にBMIチップを装着したマン・マシンハイブリッド型人間以外は存在理由がなくなるだろう。BMIを装着することで、人間は人工知能のほうから簡単に操作可能な生物となる。BMIで感覚器官を刺激され、ドーパミンの分泌を操作されたり、痛覚をコントロールされたらアウト、人間は抗えない。

 科学の発展の果てに、利便性の劣る旧式の機械と化してしまう人間は存在余地がほとんどなくなってしまうのだろう。人間はどこかで、利益追求や利便性追求をやめなければならない、その限界となる時期は近づいている。そういっているのはわたしだけではない、世界的に著名な理論物理学者のホーキング博士も同じ警告を世界に向けて発している。


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(この本の語彙レベルは小学生高学年~中学1・2年生にお薦め、コンピュータや人工知能についての記述を理解するには多少の(理系の大学生レベルの)専門知識が必要かもしれない。ルビの振り方がほどよい。このシリーズはとても楽しい娯楽本であるが、さっさと卒業して、中学生のうちに文庫本の文学作品を50点ほど読んでおきたい。できれば、新書版も5~10冊くらいはアタックしてみたらいかが?)

*(注-1)メディキュボイドについて
 最初のSAOではナーブギアというフルフェイス型のBMIが登場した。外そうとすると強い電磁パルスが出て、プレイヤーを殺してしまう、プレイヤーはゲームをクリアするまで外せない。茅場明彦が設計した。最初のSAOでは、ベータ版のゲームに参加したプレイヤー4000人がナーブギアを装着して死んでいる。その反省を踏まえて第2世代のBMI装置であるアミュスフィアが登場する。電磁パルスの出力を弱めたタイプである。そしていま登場しているのが、医療用の箱型BMI装置である。いずれも電磁パルスを利用した非侵襲型のBMI装置である。
 侵襲型のBMIは研究が進んでいるが、極細の電極のようなものを硬膜や脳にたくさん差し込まなければならないので、感染症のリスクが大きい。電極の経年劣化も問題になっている。脳内の信号処理に利用されているのは電磁パルスだけではない、さまざまな神経伝達物質が存在しているから、電磁パルスだけでのBMIが実現できたとしても、非常に限定された機能しか発揮できない。しかし、超高性能人工知能は実現可能性が大きい。
  NerveGearは説明の必要もなさそうだ。「神経系に直接アクセスするBMI装置」という意味だろう。AmuShereはAmusementShereの短縮形だろう。NerveGearが命の危険を伴うBMIだったから、命の危険がなくゲームを楽しめるBMIとうことで命名されたのではないか。

cuoid:a solid object which has six rectangular sides at right angles to each other ・・・(OxfordAmericanAdvancedDictionaryより)
 直角に交わる6面体だから、直方体ということになる。MedicalCuboidを縮めてmedicuboidと綴るのだろう。医療用箱型BMIである。箱型のBMI装置に全身が包まれる。体を動かすこともままならず、意思を伝えることもできない患者に、その中では必要な酸素供給や栄養素の点滴、排泄処理などが自動的に行われるのだろう。『2001年宇宙の旅』に出てく宇宙ステーション内の冬眠装置のような外形を想像すればいい。
 専門用語ではBMIではなくBCIである。Brain-Computer Interface。


*novelization:何かを小説化すること。したがって、アニメを小説化することもノベライゼーションという。
weblioより
http://ejje.weblio.jp/content/novelization


*「資本論と21世紀の経済学」の5章「労働観と仕事観:過去⇒現在⇒未来」でSAOを採りあげている
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http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-08-02-2
Ⅰ. 学の体系としての経済学      6

1. <デカルト/科学の方法四つの規則とユークリッド『原論』> …6
2.<体系構成法の視点から見たユークリッド『原論』> …8
3.<マルクスが『資本論』で何をやりつつあったかを読み解く> …10
4.<資本論体系構成の特異性とプルードン「系列の弁証法」> …11
5. <労働観と仕事観:過去⇒現在⇒未来> …13
 
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*#2784 百年後のコンピュータの性能 Aug. 22, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-08-22

 #2779 『ソードアートオンライン 9 』:量子コンピュータ・オンラインゲームと心  Aug. 17, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-08-17-1

 #2804 『ソードアート・オンライン14』  Sep. 12, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-09-13

 #2882 ソードアートオンライン007 マザーズロザリオ Nov. 26, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-11-26

 #3051 『ソードアートオンライン・プログレッシブ』001~003を読む May 31 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-05-31




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ソードアート・オンライン (16) アリシゼーション・エクスプローディング (電撃文庫)

  • 作者: 川原礫
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
  • 発売日: 2015/08/08
  • メディア: 文庫