標記講演会が8月6日午後6時から、根室市総合文化会館多目的ホールで開催される。

 講師:札医大学長島本和明氏 「北海道の食材で美味しく健康」
 主催:ねむろ医心伝信ネットワーク会議
 共催:根室市、大地みらい信金

 札医大の学長でなければ、なかなか楽しそうな講演テーマであると思う。北海道でただ一つの道立医科大学として札医大が、道東のとりわけ根室の地域医療にどのようなビジョンを抱いて対応しているのか学長である島本氏の思うところを訊いてみたい。
 どうしてこのような場違いなテーマになったのか、企画した人たちの心がわからぬ。根室市民の関心は、根室の地域医療の未来がどうなるかにある。
 ロシア200海里内でのサケマス流し網漁が来年から禁漁になるというニュースが流れたこの町で、いまのんびりと「北海道の食材で美味しく健康」というのはいかがなものか。イズシを漬けるベニ鮭はもう庶民に手には入らない。食べなれたベニでなければ美味しくないから、イズシを漬けるのをやめる家庭が増えるのではないか。イズシという食文化が風前の灯である。
  では、庶民の魚であり水揚げ日本一を誇る花咲港のサンマの未来はどうか?台湾の1000トンクラスの大型漁船が、十隻も北洋の公海上でサンマ漁をやり続ければ、資源が激減するのは目に見えている。根室の漁船は19トン未満が主力である。1000トンの漁船10隻が漁場に常駐して乱獲し続けたらどうなるのか?根室の水揚げの何倍もの量のサンマが箱詰めをされてすぐに船内で冷凍保管され、輸送船が順番に漁船を回り箱詰めされた冷凍秋刀魚を積み込む。品物は中国大陸へと運ばれ、漁船はそのままフル操業を続ける。
 中国人が新鮮な焼き秋刀魚を「香ばしい」といいながら舌鼓を打っているのをテレビで見たが、複雑な心境である。一尾たったの50円だという、産地の根室より安い。かつてなかったビジネスモデルが冷凍技術の進歩で成立してしまっている。公海上での1000tの大型漁船による漁獲と船内で箱詰め冷凍処理、そして輸送船による回収。
 ロシア200海里内のサケ・マス流し網漁禁止で、漁業会社や水産加工会社のいくつかが経営困難に陥るだけではない。市内には来年から仕事にあぶれる雇われ漁師が続出する。そのうちの何割かは出稼ぎ先で定職を見つけて家族を呼び寄せることになるから、根室市の人口減が加速するのはどうやら避けられそうもない。その影響は水産業だけではない、消費全体が落ち込むから、小売業や飲食業は打撃が大きい。そういう状態の2年後にサンマ資源の激減が襲うことも考慮に入れて対策を打たなければならない。補助金は一時のことで、結局は自ら何とかしないと、生き残れない。
市税収入も減るし、病院の売上も減る。TPPが締結されたら、医療費が上がっていく。韓国では米国とのFTA締結で薬価が1.5倍になったという。毎月薬をたくさん飲んでいる人は、TPPで薬代が1.5倍になることを覚悟して準備しなければならない。上がるのは薬価だけでない、診療費も混合診療で大幅にあがってしまう。日本の医療保険制度が深刻案打撃を受ける。

 市立根室病院は10年前に比べて赤字の幅が2倍の17億円前後になっている。旧建物を除却処分したときには損失額は20億円を超えたのではないか。なぜ、こんなに赤字が増えたままになっているのかについては、常勤医が減ってそれに替えて派遣医の割合が増えたこともかかわりがある。常勤医一人分を派遣医で肩代わりすると経費は年間8000万円を超える。3倍に人件費が増える仕組みになっている。もちろん、医師を派遣しているのは札医大だけではない。それぞれの科にはそれぞれの事情があって、派遣医を必要としている。
 もっとも、これだけでは赤字2倍増大の説明がつかない。ほかにも理由があるはずだが、何年たってもその原因が明らかにされたことはない。経営管理を目的として課を新設したり経営改善を業務委託したこともあるが、まったく効果がなかった。
 新病院建物に替わってベッド数は199床から135床に3割強減少、事業規模が縮小したはずなのだが、10年前には8億円前後だった赤字が17億円に増えた。弊ブログで実績値に基づき、その損益計画や予算のインチキぶりを何度も指摘したのだが、病院事務局は実に甘い損益計画と年度予算を公表し続けた。上場企業なら担当役員の首だけでなく、社長の首も飛ぶほどのいい加減な予算案や計画案だった。毎期、実績が予算を何億円も下回っていた、関係者はわかってやっているのだから、市民を愚弄するにもほどがある。北海道新聞は実際の赤字額すら報道しなくなってしまった。

 国公立大学は独立行政法人に衣替えされ、それ以来、各大学は収入増に一生懸命である。島本氏は2010年に札医大学長に就任した。収入を増やすためには、常勤医よりも派遣医の方が大学側からすると望ましい。収入が3倍にできるからである。そのこと自体を悪いとは言はない、独立行政法人化された道立医大が自分の利害で動くのはむしろ当然のことだろう。丸々呑む必要はないし、利害が対立するのだからお互いに交渉の余地はあるはずだ。

 大地みらい信金は釧路の医療法人孝仁会が札幌に進出するのに、資金面での後ろ盾をしていると、道新で報道されたことがあった。医療法人がどういう金融機関をメインバンクにしようとそれも勝手だから、だれにもケチはつけられない。大野病院を買収して、釧路から札幌への進出は通常の流れとは逆で、孝仁会の病院運営の巧みさを表していると素直にとっていいのだろう。
 このことから孝仁会は大地みらい信金の重要顧客であることがわかる。
 ①孝仁会⇔大地みらい信金

 大地みらい信金は優良な貸付先がなくて困っている。それは以前に元理事長が「財界さっぽろ」のインタビュー記事で語っている。優良貸付先として孝仁会が現れた。資金が必要となるようなことをするときは、必ずメインバンクには相談を入れるのが普通のやり方である。密接なビジネスパートナーの関係にある。

 次にいこう。経営手腕に優れた孝仁会理事長の斉藤孝次氏は昭和47年札医大卒業である。札医大学長の島本和明氏は昭和46年札医大卒だから、二人は1学年の差で先輩後輩の仲。
 ②孝仁会理事長⇔札医大学長

 さて、三番目はわが町の市立根室病院の病院長は東浦勝浩氏である。何年卒かわからないが、学長の島本氏や理事長の斉藤氏の同窓の後輩であることは間違いないだろう。
 ③孝仁会理事長、札医大学長⇔市立根室病院院長

 さて、②③の三人は同窓の関係にあり、①は利害関係を表している。

  最後は市長の諮問委員会「明治公園憩いとふれあいの森構想市民委員会」の委員長だった大地みらい信金元理事長K氏、一部の委員の反対があったにもかかわらず、異例の速度で審議終了し、明治公園の再開発事業40億円にゴーサインを出した。しかし、まだ市議会は承認しておらぬ。
 ④市長⇔大地みらい信金⇔オール根室村

 明治公園は観光の名所でもあり、根室振興局でも力を入れて宣伝している。赤レンガサイロが残っているのはここだけらしい。開発されたら、建物が建つ、土木工事もなされる、十年ほど前に使われなくて撤去された野外アスレチック設備のようなものも、子どもの人口が半分以下になっているのに自然を破壊して造られてしまう。25年後には人口はいまより1万人減少している、いったい誰のための再開発だろう?
 夕張信金が夕張市の箱モノ行政の片棒を担いで夕張市を財政破綻に導いたが、似たようなことをしているようにみえる大地みらい信金は大丈夫か?背に腹は替えられない事情がなにかあるのだろうか。万が一の時には道庁が肩代わりして、金融機関は貸付責任を取らなくでいいから、こんなに美味しい貸付先はなかなかない。浮利を追ってはならぬというのは日本の伝統的な商道徳ではないか。
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*#2334 大地みらい信金3期連続の増益そして地域経済は衰退 Jun. 19, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-06-19
「#2318 わけのわからぬ「根室市の家計簿」(1):広報ねむろより Jun. 2, 2013」 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-06-02

*財界サッポロ2012年2月号より元理事長の発言部分を抜粋
http://www.zaikaisapporo.co.jp/kigyou/intervew/115.shtml

「不安があるから預金が増える。地元の中小企業も設備投資を控える。資金需要がない。われわれとしても融資先がない。どうしても預貸率は下がります。」
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 根室市の監査委員の一人は、大地みらい信金元専務理事である。どこの都市でも、市の取引業者を監査委員に任命するところはないだろう、それほど監査業務の常識に反する。常識や監査業務の基本原則をないがしろにしている。「独立不羈の第三者」というのが監査人の立場である。
 ⑤根室市の監査委員⇔元大地みらい専務理事

 こういう人間関係や利害関係からどういう図柄があらわれるのだろう、考えてみたらいい。

 長谷川市長はとっくに市立病院経営をあきらめているのではないか。
 市立病院建物は国の補助金で造られたから、建物ごと市立根室病院を売却できない。もう選択の余地がないようにみえる。運営委託をお願いするしかないところにとっくに追い込まれてしまったのだろう。

 後はタイミングだけ。①②③④⑤をよく眺めてみたら、そのあたりも自然に見えてくるだろう。

 何も言わなかった市民に責任の半分があることは言うまでもない。
 市議会の三人の議員が病院建て替えに際して、長谷川市長に説明を求めたことがあったが、無視されたのだが、要求したことは賞賛に値する。長谷川市政の地域医療政策にはじめて異議を唱えたのだから。

 毎年17億円もの赤字を垂れ流し、でたらめな予算編成を繰り返しているのに、オープンな場で一度も市民説明会すら開催されたことがない。夕張市もこうだったのだろう。地域医療は市民にとっても、病院で働く職員にとっても重要である。

 市民無視の市政の中で何が起きたかをメモしておきたい。ネットで検索したら、2007年と2009年に車の中で出産した事例のニュースがヒットした。ひとつは別海病院への搬送中に23歳の女性が、もうひとつは18歳の女性が釧路の病院へ搬送途中の出来事であった。
 前者は生まれた赤ん坊の体温が34度まで下がっていたという。おそらく、これ以外にもあるのだろう。母子のいずれかが亡くなっても、あるいは両方が亡くなるリスクもある。
 万が一のことがあったら、誰のせいでもない、この町に住んで子どもを生む人の責任である。産科がないことを承知で根室の町に住むということは、そういうリスクがあるということだ。リスクを避けたいなら、若い女性は産科のある町へ移住するしかない。市立根室病院から産科がなくなってからもう8年もたつ。新病院建物には広い分娩室も産科病棟もあるが休業状態である。年間150人前後が生まれているのだから、死人が出ていないことは奇跡だ。出産が近くなると、釧路のホテルで待機する妊婦さんも増えている。だれかがついていなければ不安も大きい。
 運営が孝仁会に委託されても産科の再開は難しいかも知れない。若い女の人たちは、この町の地域医療がどうなるのか訊いてみたいだろう。

 私の心配の一つは、運営主体が変われば、ドクターも看護師をはじめとしたスタッフもほとんどが入れ替えになるということだ。そうでなければ大きな経営改革ができない、夕張市の先例が示している。どちらに転んでも困る人たちがたくさん出てしまう、ジリ貧とはこういうこと、わたしの心配が杞憂に終わってほしい。
 「ねむろ医心伝信ネットワーク会議」は本来はこういう地域医療にかかわる重大なことをオープンに議論するとか、具体的な提案をまとめるとかする場ではないのか?

 根室にはふるさとをこころから愛してやまぬパトリオット*が何人いるのだろう?

<処方箋>
 間に合わぬことは百も承知で20年後のために正論を書く。
 道東の医療に責任を持つ、国立道東医科大学の誘致運動を近隣市町村を巻き込んでやればいい。釧路管内、帯広管内、網走管内、根室管内の総人口は99万人である。これだけの人口のところに医科大学がひとつもないという地域は、この道東のほかには日本にはないだろう。
 釧路に国立医科大学を誘致し、道東の医療に責任を持たせるのが一番よい。根室に分院を開いてもらおう。
 30年も50年も正論を主張せずに来たから、ジリ貧になった。ふるさとの未来のために正論を堂々と主張し、あたりまえのことがあたりまえに実現できる町にしよう。
 

*#1030 nationalism とpatriotism :遠藤利國訳・幸徳秋水『帝国主義』May 17, 2010 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-05-17

 #343 国立道東医科大学新設と同附属根室病院構想 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-10-08

 #2811 大学病院新設と地域医療:Medical school in Sendai Sep. 16, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-09-16

 #2513 市立根室病院の経営状況について:財政再建特別委は機能しているか?  Nov. 28, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-11-28


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