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#3097-0 資本論と21世紀の経済学(改訂第2版)-0  Aug. 2, 2015 [99. 資本論と21世紀の経済学(2版)]

#3097 資本論と21世紀の経済学(改訂第2版)<目次>  Aug. 2, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-08-15


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                   〈序〉
 

 この論文を書くことになった経緯を綴りながら、その特徴を述べておきたいと思います。

 
2014年の暮れにTOSS北海道代表(当時)水野先生から北海道教育文化研究所宛に経済学の講義依頼があり快諾しました。124日の勉強会用にと4週間ほどかけて講義用のレジュメを書き始めたら、A4版で40枚、四百字詰め原稿用紙200枚の書き下ろしになってしまいました。
 省みれば、16歳のときに前年から読み始めた公認会計士2次試験講座の『経済学』では飽き足らなくなって、根室高校図書室にあったマルクス『資本論』を百ページ読んだのですが、まるで歯が立たず、『資本論』の経済学諸概念がどういう構成と関係になっているのか突き止めたいと好奇心と闘争心がむらむらと湧き起こりました。
 公認会計士になるべきか、それとも経済学研究に没頭するか悩みつつ、専修大学商学部会計学科で学びながら、哲学科の市倉宏祐教授の一般教養ゼミの門をたたいたのです。3年間『資本論』と『経済学批判要綱』を第3分冊まで読みました。『資本論』全巻はともかく、『経済学批判要綱』は、経済学部の本ゼミでも扱いづらい、難解なテクストでした。一般教養ゼミは物怖じしない商学部の学生が主体でしたから、市倉先生は資本論の前段階の分析資料を確認したくて難解なテクストを取り上げたのだろうと思います。先生は二つゼミをもって学生を指導しながらイポリットの『ヘーゲル精神現象学の生成と構造』を翻訳中でした。

 
大学院の学内入学試験で起きたある出来事が人生の方向を決めてくれました。筆記試験が終わって、当日だったか翌日だったか忘れてしまいましたが、口頭試問がありました。広い会議室に設置された楕円形のテーブルに30人くらい教授がずらりと並んでいました。理論経済学担当の教授の言辞には多少の敵意が感じられました。商学部会計学科の学生が理論経済学を専攻するのは筋違いという気持ちがあったのかもしれません。「君は経済学を知らない」といきなり高飛車におっしゃった。「答案をみて判断されたのでしょうから、どこでしょうか?該当箇所を挙げてください」と告げると、「貨幣としての貨幣の規定とはなんだ」と侮蔑を含んだ笑いを浮かべておっしゃるので、「マルクス『経済学批判要綱』流通過程分析の中で貨幣の第三規定としてそういう規定があります」と答えました。とたんに、それまでざわついていた30名の教授陣がシーンとなりました。大学院長の隣くらいに座っていたその教授の顔がみるみる真っ赤になっていきました。都合の悪いことに、その当時の専修大学大学院には商学研究科がなくて、経済学研究科に間借りしているような格好でした。経済学部の教授は会計学をただの技術分野と見ており、学問的には見下していたのです。会計学やマーケティングが専門の教授もいる中で、会計学科の一学生と経済学の基本的概念で心ならずも論争することになり、理論経済学担当の古株の教授が完敗してしまったのです、お気の毒な偶発事故でした。どちらも悪気はなかった、理論経済学担当の教授が会計学科の学生に「君は経済学を知らん」というのはきわめて常識的な発言ですし、答案にも見たことのない貨幣の第三規定が書かれていたのですから、この学生は経済学を知らないと思ったのも無理はないのです。まさか、会計学科の学生が『経済学批判要綱』を読み通していただけでなく、貨幣の規定を全部記憶していたなんて考えられなかったのでしょう。わたしの研究テーマである経済学の基本概念に関わる部分ですから詳しいのは当然でした。しかし、経済学部にだってそういうレベルの学生はいたとしても例外的です。
 30人もの教授を前にしての口頭試問の場ですから
、指導教授になる先生の意見をお聴きする立場です。面識がありませんでしたので、答案を見てのことだろうとお訊ねしたわけです。大学院長の内田義彦先生が気を使って文学部哲学科の市倉教授にその日の夜に電話をいれたのはたぶんそいうことがあったからです。鼻っ柱の強い学生に多少の興味はもってくれたようでした。その前年はゼミ生の商学部の先輩が二人経済学研究科と哲学研究科へ進学していました。市倉ゼミはいったい何をしているのかと評判になっていたようです。市倉先生は口頭試問の席上での経緯はご存知ないのですから、「院長の内田先生から電話があった、異例のことだ」と喜んでくださいました。そのまま勉強を続けて2月の一般入試にもう一度トライしなさいというようなお話でした。学内試験も、2月下旬に行われた入試も、その年はだけは合格者なしという異例の年になりました。何があったのかは知りません、毎年30人から50人くらい受験して3人くらいを合格者をだしていました。

 市倉先生の哲学科の本ゼミのほうの同期の伊吹君がいま母校の哲学科の教授をしています。経済学研究科で戸塚先輩と一緒だった田口さんはよく勉強する人でしたが、情報科学部の教授で週に2回東大の授業をもっているとずいぶん前に聞きました。

 入学できると確信して就職活動は一切していなかったので、合格者なしの結果に驚き、4月になってから慌てて新聞記事の就職欄をみて就職を決めました。就職の経緯は、いい加減なものですが、仕事はきちんとやりました。仕事は経理のはずが、紳士服の生産企画に多少のセンスがあったようで、そちらのほうの仕事も担当させてくれました。小さな会社でしたが米国とドイツの紳士服のファッション誌を定期購読していました。毎月見るのが楽しかった、企画がよかったのはその二つの雑誌のお陰で、見事に業績がよくなりました。時代もよかったのでしょう。社員の一人ががんばるだけでも会社の業績が天と地ほども違ってしまう現実がありました。あのときに仕事の魔力に絡めとられてしまったのかもしれません。高校時代に公認会計士受験勉強をしていたので簿記と珠算の資格があり、経理関係なら簡単に職を見つけることができたのです。一生懸命に働けば、会社の業績はよくなるし、将来への希望ももてた時代でした。
 しかし経済学への思いやまず、28ヶ月後に大学院受験をするので職を辞す旨社長に告げましたが、引継ぎのため一ヶ月退職が延びました。1月末から、一月間は毎日約15時間勉強しました。普段から英語で書かれた経済学書は読んでいました。
その半年ほど前に数ヶ月間先輩の戸塚さんが A history of Economic Thought (Eric Roll)の講読に付き合ってくれました。池袋から程近い要町のアパートまで毎週
来てくれたのです。もう一度大学院を受験しろということだったのでしょう、ありがたかった。精読してノートに訳を書いて、戸塚さんの訳と比べてみましたが、どうしてそういう訳になるのかときどきわからないことがそのときはありました。それで生成変形文法の専門書を読みました。効果があって経済学の専門書なら、読めないところがなくなりました。
 
東経大大学院と一緒に母校の大学院も受験しましたが、また異例の合格者なし、それで吹っ切れました、縁がないのだと。職を辞していましたから最初に合格通知をいただいた東経大への進学を決めました。大学院を設置してから10年間も「基準に達する受験生なし」と開店休業状態を続け、文部省からクレームをいただいていた、「いわくつき」の大学院でした。大学院で1学年上の鈴木さんは慶応大学大学院も合格していましたが、「指導教授で東経大を選んだ、大学院試験の難易度は慶応と変わらない」、そう言ってました。当時はそうだったのかもしれません。わたしの年度は受験者が50人ほどで、合格者は3人でした。一人は中大大学院へ行きましたから、同期はわたしを入れて二人だけでした。先生の中には若手のすぐれた研究者が数人いました。

 昭和50年に3年間勤務していた紳士服の製造卸の会社を辞めて東京経済大学大学院経済学研究科へ。宇野学派の春田素夫教授がいたので東経大大学院を選んだのですが、その春に赴任してくる別の先生が担当に決まっていました。若手の春田教授との論戦を期待していたのです。学長の井汲卓一先生が構造改革論者の大物であり、景気循環論、恐慌論、国家独占資本主義の論客であったので、そのラインで理論経済学の担当教授を決めてしまっていたのです。四国の国立大学から四月に赴任された藤井速實先生の専門は恐慌論でした。宇野学派の春田素夫先生の担当は人脈を考えると無理なお願いだったのです。受け持ちの授業がなかったので春田先生とは一度もお話しする機会がありませんでした。藤井先生は授業で恐慌論を採りあげました、景気循環論の専門家で、恐慌論の論文しか書いておられなかった。景気循環に関してはマルクス経済学よりも近代経済学の議論のほうが面白かった。大学1・2年のときにエコノミストを読んでいたのですが、マルクス経済学者は現実の経済分析には非常に消極的でしたから、マルクス経済学の景気循環論研究者の研究姿勢にかたくなさを感じていました。わたしのほうは経済学諸概念の関係や体系構成を研究テーマとしていたので、「指導」は無理で、研究上の相談は一度もしませんでした。もちろん藤井先生もこちらのテリトリーに踏み込んでくることはなかったのです。

  ルイ・アルチュセールの若手研究者である今村仁司助教授もいました。この先生には研究上のことで数回お話したことがありました。授業の担当をお願いしようとも思いましたが、アルチュセールに関心のあるのはわたしだけだったので、遠慮してしまいました。もったいないことをしました。他にお一人すごい先生がいらっしゃいました、一橋大の学長の増田四郎先生が定年退官で東経大へいらっしゃっていたのです。当時の井汲卓一学長が熱心に口説き落としたそうです、「井汲君はな、学校の敷地のはずれにある池の周りを散歩して、授業はついでにちょっと担当してくれるだけでいいと言っていてのだが・・・」と笑っておっしゃいました。授業は一日だけお休みで後は毎日、それも多い日は三つ入っていたのです。私学だからそういう事情をわかってこられたようです。お住まいが近いことがあったのでしょう、授業のない日に男のお孫さんを連れてきて、ときどき遊ばせていました。一学年上の鈴木信雄さん(千葉経済大学経済学教授)の提案で同期で大倉財閥を研究していた須田喜俊君と三人で増田先生に特別講義(通称「特講」)をお願いして、リスト『経済学の国民的体系』を一緒に読んでいただきました。たった三人ですから気が抜けませんでした、強いオーラを感じるのです。口に出されることはありませんが、準備が不十分だと冷汗の流れる授業でした。先生は大塚久雄氏と並ぶ西洋経済史の大家です、学風に影響を受けました、至福の一年間でした。
 学生数8000人、院生7名の小規模な学校でしたから、図書館の書庫の中にボックス机があって、院生は自由に出入りして、書架から読みたい本を取り出してぽつんとおかれたボックス机で勉強できるようになっていました。こんな特別待遇は他の大学院では考えられません。いい学校でした。もっと、早く来るべきでした。
 理論経済学を勉強するうちに経済学の体系がいかなるものであるかを研究するだけでは飽き足らなくなり、『資本論』を超えて新しい経済学の可能性を明らかにしたい、そう心に決めていました。マルクスと同じ道を歩んだらきっと同じ限界にぶつかる、多少は迷いましたが、企業の最前線で働いてみないとつかめないものがある、そういう時は考えないことにしています。直感の命ずるままでいいのです。大それた企てだったと思いますが、正解でした。仕事に区切りがついたら手をつけるつもりでしたが、水野さんが背中を押してくれたと感じました。この機会を逃してはいけない、執筆に力が入ったのは無理ないことだったのです。
 TOSS北海道代表の水野さんのコーディネイトに感謝です。この論文は彼のお陰でできたようなものです。本来なら、もう数年して「私塾(ニムオロ塾)」をやめてから書くつもりでした。1月に作成した講義資料をベースにして、この1週間手を入れ、章編成を変えて四百字詰め原稿用紙換算450枚の改訂版ができあがりました。

 
この論文が他の経済学書と大きく違うところがあるとすれば、それは業種と企業規模を変えて4つの企業で働いてえた体験、自分の目で見て、自分の耳で直接聞いた事例がふんだんに入っていることです。こうした経験智なしには、『資本論』の公理系を析出して、日本人が育んできた伝統的な仕事観をベースにした公理系を対置することも思いつかなかったのでしょう。

 経済の発展(=拡大再生産による経済成長)は癌細胞の増殖に似ているような気がします。無限の経済成長追求の果てに何が待ち受けているのか漠然とした不安を抱いている人が増えています。感度のよい数人の経済学者たちがその異常性に気がつき始めています。2011年10月に胃癌で亡くなられた馬場宏二先生も過剰富裕化論を提唱されて、生産力の無限の発展が人間の生存環境を破壊して滅亡に導くと述べておられます。青森大学経営学部長の戸塚茂雄教授もそういう経済学者のお一人です。
 経済学とは異なる分野で研究を続けておられる理論物理学者ホーキング博士は、人工知能の発展が人類を滅亡に導く可能性があると、2月に世界へ向けて警告を発しています。第25章でとりあげ、紹介しました。
 わたしも、100年後にコンピュータが現在の2億倍の性能を持つようになるので、一辺が5cmの立方体に収まるような人工知能の開発が現実になり、旧式で性能の悪い人間という機械が生産過程から排除されるリスクに第5章で言及しています。それを避けるにはどうすればいいか、馬場先生の意見とわたしの結論(新しい経済学の創造)は似ています。
 純粋数学(幾何学と数論)の本であるユークリッド『原論』とマルクス『資本論』を結びつけて経済学の体系を論じた経済学者は世界中でebisuが初めてです。百年後の人類に待ち受けている滅亡リスクを回避するために、どうかこの論文を最後までお読みになってください。

 なお、本稿は随時追加して来年春ころに改訂第3版を公表する予定でいます。
 そのあとは、『職人仕事と21世紀の経済学』というタイトルで、四百字詰め原稿用紙で5001000枚くらい書くつもりです。こちらは職人関係の書籍がたくさんある大きな図書館でなければ資料がそろわないので、東京での仕事になるのでしょう。したがって、いつになるかはわからぬ、というのが本音です。1年間ほどかかります。

 とにかく、マルクス『資本論』が経済学としてどのような体系構成をもっているのかを突き止め、序(つい)でその公理系を書き換えて、新しい経済学の叙述をはじめてしまいました。
 経済学は19世紀から150年間停滞していましたが、21世紀になってようやく新しい経済学が誕生します。なぜ新しいのか、どこが新しいのかを学問の根源にさかのぼって解説しました。このような経済学書をわたしはいままでに見たことがありません。
 日本人が守り育ててきた伝統的価値観、商道徳を原理とする経済学は人類を破滅から救うことになるでしょう。理解するには経済学や数学に関する周辺知識が多少必要ですが、高校生が読んでもその違いがわかるようになるべくわかりやすく書きました。経済学の根幹に関わる論文に目を通してくれようとしている読者のみなさんに敬意を表します。
 

 東京は6日連続の猛暑日を記録し、日本一涼しい根室も33度観測史上最高を記録しました。窓からはいる涼しい風が穏やかに部屋の中を通り抜けていきます、長年遣り残し胸につかえていたものが風に乗って消えていきます。 
 

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