<更新情報>
7/2 9時 <余談>他追記
7/2 10時45分 製品別原価計算に関する説明を追記
7/2 17時 <余談-2:対岸の火事?>

 ハンドルネーム相川さんが、道新電子版(7/1付け)のニュースを#3067のコメント欄で知らせてくれた。花咲線廃線をJR北海道が検討しているという。第三者委員会が道内7路線8区間を利用客が少ないので廃線を検討対象に例示した。今朝とどいた道新を見たが、どういうわけか社会面にこの記事が載っていなかった、根室にとっては重大ニュースである。

 民営化とは結局こういうことで、採算の悪いところから切り捨てていく。
 原価計算の専門家にインタビューしたら、不採算路線を次々に切り捨てていくと、今まで採算があっていた路線も次々に不採算となり、ついにはJR北海道が潰れるというだろう。
 昔(40年以上前のことだが)、製品別原価計算制度を導入した企業がいくつか倒産したことがある。多品種の製品ラインをもつ会社が製品別原価計算をして、売上実績とデータを突合することで、製品別損益計算書が出来上がる。それをみた学力の足らぬ取締役たちが不採算製品のカットを要求することになった。データの裏づけがあるからそのまま取締役会承認事項となって、半数以上の不採算製品ラインが打ち切られる。売上は激減、製造間接費の配布先が半数になり、残った製品の製造原価がアップするから、また不採算製品がリストアップされ、そして「製造中止⇒売上減」と負のスパイラルに陥る。団塊世代には「何である、アイデアル」というキャッチコピーを記憶している方がいるだろう。当時は傘業界ではナンバーワンだったはずだが、製品別原価計算の導入とおろかな取締役たちのために消滅した。
 原価計算や損益分岐点もわからぬ、ど素人の第三者委員会の提言なんて馬鹿を絵に描いたようなもの。提言どおりにやってみたらいい、JR北海道の各路線は次々に不採算となり、切り捨ての果てにつぶれることになる。簡単な計算でシミュレーションできるだろうに、そんな基本的な操作もやらなかったのだ、やっていたらまるで別の提言になっただろう。
 どうやら首都圏との学力格差は北海道の子どもたちより北海道の大人(なかでも大きな組織の重鎮)たちのほうがひどい。経営に必要な基本的な勉強をしていないようだ。

 ①学園都市線(札沼線) 北海道医療大学=新十津川 47.6km 81
 ②石勝線 新夕張=夕張 16.1km 117
 ③留萌線 深川=増毛 66.8km 142
 ④根室線 滝川=新得 136.3km 277
 ⑤日高線 苫小牧=様似 146.5km 298
 ⑥宗谷線 名寄=稚内 183.2km 405
 ⑦根室線 釧路=根室 135.4km 436
 ⑧釧網線 東釧路=網走 166.2km 466

 一番右端の数字の昇順にデータが並んでいるが、これは「1kmあたりの1日平均輸送人員」となっている。この数字が小さいほど1km当たりの利用客が少ないということ。花咲線は7番目、436人となっている。
 135.4km×436(人/km)=59,034人

 逆算すると花咲線は1日あたり5万9千人もの利用があることになるが・・・。これは計算のマジックで、「根室⇒釧路」へ一人が行くと135.4人となってしまう。だから、これを「根室⇒釧路」と「釧路⇒根室」の半々の移動人数に換算すると、1日たったの218人ということになる。
 釧路から根室へ来る人が218人、根室から釧路へ行く人が218人だ。ずいぶん少ない。1日8往復の便が出ているから、「釧路⇔根室」1便当たり27人の乗客。

 436人×2490円=108.5万円/日

 年間4億円弱(108.5万円×365日)しか売上がない、これでは採算が合うわけがない。

 第三セクター方式は二つの理由で不可能である。
 一つは、根室市には第三セクター方式で事業をやっても経営能力のある人材がいない、市立根室病院事業の赤字拡大が論拠である。10年前に比べて経常損失は2倍以上に膨らんでしまった、そしてなすすべがない。
 理由の二つ目は、年間売り上げが4億円では保守点検・補修など鉄路維持と人件費をまかなえず大きな赤字になる。鉄路維持と営業に必要な人材を半分くらいをボランティアで集められたら採算の試算をしてみる価値はあるだろう。

 普通に考えたら、どれだけの売上があれば採算ベースに乗るのかは計算するだけムダだろう。損益分岐点運賃が何倍にもなって利用客がいなくなる。あっと驚くような案がほしい。

 こうしてみると、花咲線の廃線はJRが6つに分社して民営化したときに決まっていたようなもの。根室本本線の起点終点であった根室は花咲線の起点終点になった。根室本線の終点が釧路に移ってしまった。歴史上、根室本線の終点は根室に決まっている。なぜ当時の根室市議会が「花咲線」への名称変更に反対しなかったのか理解できない。歴史と文化の点からは重大問題だったのである。
 中標津とは違って根室には空港もないから「陸の孤島」の感が強くなる。心理的な影響=閉塞感も無視できない、人口減少がさらに加速しそうだ。実際に、観光客は減るだろう。

 観光シーズンに入った東根室の駅には、鉄路で来た客が毎日数十人降りて観光バスに乗る。観光バスで根室半島を周遊し、東根室の駅から鉄路に乗り換える観光客もいる。バス1台でおおよそ30人だから、年間を通して計算しても観光客の利用が1/4はあるのではないだろうか。
 (根室に向かって汽車が)厚岸を過ぎると湿原を縫うようにディーゼル車が走る。車窓から景色をのんびり眺めるのは楽しい。道路(44号線)とちがって、鉄路は厚床から太平洋沿いに散在する駅を巡るので迂回しながら走る。道路よりも10kmほど多い。湿原を走ったり、森林地帯を走ったりと景色がいい。たまには鹿が線路に立っていて警笛が鳴り突然汽車が停まる。実にのんびりとした気分になれた。廃線になればそれができなくなる。廃線はなんだか敗戦に聞こえる。
 何かの戦いに負けたのだろう。根室には空港もない。中標津か釧路空港を利用しなくてはならない。

 稚内も宗谷線が廃線になれば影響が小さくない。網走も釧網線がなくなればますます寂れるだろう。夏場は少なからぬ観光客がこれらのローカル線を利用している。

 汽車通学の生徒たちが困るだろう。どこにどのような影響が出るのか根室市は調べてアナウンスしたらよい。

 3連続パンチ、弱り目に祟り目である。
 一撃目は市立根室病院の経営赤字額が10年前の2倍以上になり17億円を超えてしまっている。二撃目はロシア200カイリ内のサケ・マス流し網漁が来年から禁漁になりそうなこと。そして三撃目は根室花咲線が廃線検討の俎上にあること。
 弱り目に祟り目、廃線を前提に対策を用意する必要があるが、果たしていい智慧があるだろうか?根室だけでなく、廃線検討対象地域である網走や稚内そして留萌のためにも、いい智慧があればコメント欄へご投稿ください。

<余談>
 標津線(厚床⇔中標津⇔標津)の廃止は1989年だった、線路は撤去されていまはもうない。標津線の利用のピークは1965年だったという。団塊世代が中学校や高校を卒業し始めたころのことである。鉄路がなくなっても代替のバス路線ができた。なぜ廃線になったかというと、「中標津⇔根室」間の利用客が1965年以降減り続けたからである。1970年代には北海道最大の缶詰工場の日本合同缶詰が経営破綻している。四工場800人を超える女工さんが働いており、根室管内からも多数出稼ぎに来ていたから、女工さんたちの帰省利用客も多かっただろう。春に来て、12月初旬に切り上げ、そのあと数ヶ月は失業保険手当てで食いつなぐというのが当たり前の時代だった。
 中標津空港は海軍標津第一航空基地として生まれた。戦後払い下げが行われ、1965年に丘珠空港と西春別空港の定期便が移ってきた。定期便の運行はここから始まったようだ。鉄路の利用客がピークを打ったときに飛行機の定期便運行が始まっている。これで中標津が根室管内の交通のハブとしての地位が固まった。その後1989年標津線廃線の年に現飛行場建物ができ、2008年にリニューアルとなって、いまにいたる。
 中標津は空港があって運がよかったともいえるし、空港を再開する努力をしてぎりぎり間に合わせたともいえる。
 根室にも戦後ホロムシリのあたりに空港を建設する計画が持ち上がったが、当時の「オール根室」が反対だった。先が読めず、「オレがオレが」と他の人がいいアイデアをだし実行しようとすると、結束してその足を引っ張るのが「オール根室」だった。こういうときは「根室村」の住民は結束するのである、おろかな話だ、町を良くするために結束すればいいのにやることが逆だ。その当時とはメンバーが全員入れ替わっているが、役割はいまもかわらない。
 こうして世代を超えて受け継がれ再生産される根室の構造こそが、「根室の旧弊・悪弊」である。いままたそのツケが回ってきた。
 そろそろそうした旧弊とはお別れしよう。市議会は花咲線廃止についてその影響と対策を具体的に議論したらいい。総合文化会館で市民と日曜日に何度かオープンな議論をしてみたら、町の雰囲気が変わる。こういう小さなことを一つ一つ積み重ねることが根室の町の活性化につながっていくんだよ。
 
<余談-2:対岸の火事?>
 根室花咲線と釧網線が廃線になれば、釧路の求心力に多少なりとも影響がでるだろう。根室から釧路へ土日に買い物に出かける人は少なくない。鉄道を利用する人は少なくても、根室が寂れれば人口減少と一人当たり購買力低下が掛け算となって、影響を強めてしまうだろう。釧路にとっても対岸の火事ではありえない。釧網線と根室花咲線の廃線は釧路・網走・根室管内経済にマイナスの影響を与える。さて、どうしたものか・・・


*道新ニュース 電子版
「JR廃線拡大の可能性 第三者委、7路線8区間を例示」
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/society/society/1-0151312.html

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 JR北海道が留萌線の廃止を検討していることが表面化したのを受け、さらに採算が厳しい路線を中心に他の道内ローカル線が廃止検討の俎上(そじょう)に載る公算が強まっている。JRの経営を監視する第三者委員会は、学園都市線(札沼線)の一部区間など7路線8区間は特に乗客が少ないと指摘しており、存続は予断を許さない状況だ。政府の支援があってもJRの資金繰りは綱渡りで、鉄路の「リストラ」が各地で焦点となりそうだ。 

 第三者委の「JR北海道再生推進会議」は26日にまとめた提言書で、路線廃止を含めた「聖域ない検討」を求め、札沼線の北海道医療大学―新十津川間や、石勝線の新夕張―夕張間を「利用が少ない区間」に挙げた。同会議の関係者は北海道新聞の取材に対し、「札沼線や石勝線も、営業を続けられるか注意しないといけない」と明かす。

 いずれも2014年度の輸送密度(1キロ当たりの1日平均輸送人員)が500人未満で、赤字ローカル線の中でも極端に採算が厳しいのが実情だ。一方、重大事故が続いたJRは安全運行体制の強化に向け、当面は総額2600億円を投じるが、15年3月期の営業赤字は約390億円と過去最悪で、長期借入金など固定負債も最多の約1600億円に膨らんでいる。このため、JR幹部は「数年後の資金繰りを考えると、今の事業規模では経営破綻の可能性すらある」と廃止対象路線を広げる可能性を示唆する。

 国はJRの資金繰り支援のため、16~18年度の3カ年で計1200億円に及ぶ資金支援を30日にも決める見通しだが、900億円は返済が前提とされ、安全強化に並行して、乾いた雑巾をさらに絞らなければならない状況に変わりはない。第三者委メンバーの高向巌・北海道商工会議所連合会会頭は「JRに時間的余裕は少ない。将来の路線網をどうするか、検討を急ぐべきだ」と提言する。
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*#3067 ロシア200カイリ内サケ・マス流し網漁:先手必勝 Jun. 25, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-06-25


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 マルクス『資本論』を超える21世紀の経済学がここにある。四百字詰め原稿用紙300枚、ebisuのライフワーク。中部大学の武田邦彦教授もブログでebisuと同じ労働観を主張し始めた。西洋労働観に日本の仕事観を対置している。弊ブログ#2951と#2952の二つと読み比べてほしい。
*武田邦彦ブログ「人生を知る(3)日本の勤労観とヨーロッパの悪しき考え」
http://takedanet.com/archives/1031718315.html


*#2935 『資本論』と経済学(1):「目次」 Jan. 25, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-25

 #2936 『資本論』と経済学(2):「1.経済現象と日本の国益」 Jan. 26, 2015 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-26

 #2937 『資本論』と経済学(3):「円安はいいことか?80⇒120円/$の威力」 Jan. 27, 2015 
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 #2938 『資本論』と経済学(4) : 「経済学とは?」 Jan. 27, 2015 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-27-1

 #2939 『資本論』と経済学(5) : 「『資本論』の章別編成」 Jan. 27, 2015  
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 #2942 『資本論』と経済学(7) : 「デカルト/科学の方法四つの規則」 Jan. 29, 2015
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 #2943 『資本論』と経済学(8) : 「ユークリッド『原論」 Jan. 29, 2015   
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 #2944 『資本論』と経済学(9) : 「何をやりつつあったかは残された文献に聞け」 Jan. 29, 2015    
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 #2952 『資本論』と経済学(15) : 「ヨーロッパ労働観⇔と日本の仕事観」 Feb.1, 2015
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 #2953 『資本論』と経済学(16):「仕事がキツイ!に潜む心(仕事観)の問題」 Feb.1, 2015 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-01

 #2955 『資本論』と経済学(17):「要領の悪いものほど忙しいとぼやく」 Feb.3, 2015
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 #2958 『資本論』と経済学(18):「教育の職人」 Feb. 5, 2015
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 #2960 『資本論』と経済学(19):「日本経済の未来」 Feb. 6, 2015
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 #2961 『資本論』と経済学(20):「経済成長の天井 山田久氏の論」 Feb. 7, 2015
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 #2964 『資本論』と経済学(21):「過剰富裕化論」 Feb. 8, 2015 
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 #2966 『資本論』と経済学(22):「相対的貧困率上昇と富裕層増大」 Feb. 9, 2015
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 #2967 『資本論』と経済学(23):「ピケティの空想的所得再分配論」 Feb. 10, 2015
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 #2968 『資本論』と経済学(24):「浜矩子 予算案と公共性について」 Feb. 11, 2015
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 #2971 『資本論』と経済学(25):「村落共同体と税:自由民と農奴について」 Feb. 12, 2015
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 #2972 『資本論』と経済学(26):「文部科学大臣下村博文「教育再生案」について」 Feb. 13, 2015
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 #2973 『資本論』と経済学(27):「注-1~5」 Feb. 13, 2015
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 #2974 『資本論』と経済学(28):「注ー6」と主要文献リスト Feb. 14, 2015  http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-13-1

 #3015 人工知能の開発が人類滅亡をもたらすホーキング博士(資本論と経済学-補遺1) Apr. 2, 2015
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