根室は明日(9/21)と明後日がさんま祭り、庶民の魚だから蟹祭りよりはずっと人出が多い。
 根室のさんまがどの程度放射能汚染されているか気になっている人が多いだろう、私もその中の一人だ。

 ネットで検索すると20Bq/kgという汚染データが出てくる。2種類の放射性セシウム、Cs134とCs137の合計値である。
 情報元は社団法人全国さんま漁業協会がまとめた資料だというので、オリジナルを探したらあった。

*「水産総合研究センターによる水産物放射性物質調査結果」
http://www.samma.jp/sanma201108.pdf

 2011年8月2日付のこの表の中に「第11権栄丸 採取日 7月3日」で20Bq/kgというデータがあった。他に11Bq/kgと9Bq/kgもあるが、他のさんまは検出限界未満となっている。
 この表のデータには検出限界がいくらなのか表示がない。使用したγカウンタの機種と検出限界値を表示するのが常識だろう。どの程度の精度の機器で検査したのかわからない。データの最小値は3Bq/kgであるからこの付近が検出限界であろう。逆に言うと2Bq/kgなら「検出限界未満」か「不検出」と表示されることになる。だが、当該検査機関の当該機種で測定した場合にそうなるだけで、サンプルのさんまに放射能がないことを証明するものではない。もし、これをさんま輸出の際に輸出されるさんまに放射能が含まれていない証明書として添付するというような利用の仕方をしているなら、それはほとんど詐欺行為に等しい。正直な日本人という国際的な評価を著しく傷つける行為であると言わねばならぬ。
 安物の検出限界の大きい機器ならほとんどが「検出限界値未満」となるだろう。今年のデータを見たがすべて「検出限界値未満」と表示されている。検出限界値の表示のない「検出限界値未満」が品質保証にならないことは自明だろう。普通の中学生にもわかる理屈である。
 

 水産庁のデータをみた。
*http://www.jfa.maff.go.jp/j/housyanou/pdf/1210-12_result.pdf

 EXCELファイルの10685行に10月17日に獲れたさんまのデータが載っている。データは「検出限界未満」と表示されている。サンプルは青森県沖太平洋で獲れたさんま。
 検出限界値はCs134が「<0.40」でCs137が「<0.52」、検査機関は「いであ(株)」となっている。
 水産庁に物申したい、いったいこのデータはどう読めばいいのか、読み方の解説が書いてあるべきだが見当たらない、これではわかる者にしかわからない。ありていに言うと、一般国民にはわからないということ。

 検出限界値に疑問がわく、最新の機器でこんなに検出精度が悪い?嘘でしょ?ネットで東京都内の各所で放射能を測定したビデオ画像をみたが、単位はBq/cm^2で小数以下第3位まで表示されていた。足立区の数箇所が2Bq/cm^2を超えていた。
 これとは単位系の異なるBq/kgが測れる機器の値段を検出限界値をネットで調べてみた。「参考資料」として最後のところにぶら下げておく。

 あれこれ検索していたら面白いブログがヒットした。

*ブログ「風の谷」「調べたらわかる」 原発推進派=再エネ推進派」
http://blog.goo.ne.jp/flyhigh_2012/e/99f9d328ef7dda22c196ee043404caed
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一番多いさんまで  セシウム合算 4.32+4.88=9.2ベクレル/kg (検出限界未満)となっています。

食品の基準値が100ベクレル/kg だから「あ、大丈夫じゃん」となりそうですが、ちょっと待ってください。いまは3.11以後の世界。基準値も3.11以後に作られたもの。だからサンマって3.11より昔はどのくらいの汚染度だったか調べてみてください。そんな時に役立つサイトは食品と放射能データベース
セシウム137だけですが 1977~1993年のあいだに5回調べて 最大で0.1ベクレル/kg。今年の10月のさんまのセシウム137 4.88ベクレル/kg。

つまり、3.11以前の最大値の48倍のセシウム濃度ということです
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 なかなかいい発想なので、引用されているデータの真偽の確認をしてみた。水産庁のデータが引用されていたので、オリジナルを拾う。 
http://www.jfa.maff.go.jp/j/housyanou/pdf/1210-12_result.pdf

 平成24年10月17日のデータ、ラインNo.10682にある。Cs134が「<4.32」 Cs137が「<4.88」となっている。この「<4.88」は「検出限界値が4.88未満」ということではないのか?
 その証拠に、セシウム合計値は「検出限界未満」と表示されている。検査機関は「宮城県」となっている。なかなか信じがたいことだが、使用している検査機器の精度が格段に落ちるか、測定時間を節約して検出限界値が上がってしまっているということだろう。
 検出限界値以上のものは不等号がつかない状態で表示されている。宮城県は「いであ(株)」よりも一ケタ感度が鈍い測定器を使っているということだろう。海洋生物研究所も検出精度が宮城県と変らない。

 わたしも以前このブロガーと同じ読み間違いをして情報を発信していたから笑えない。見当違いを恥じている。さんまや他の魚の放射能汚染濃度は、主婦にとっては自分の子どもに魚を食べさせていいものかどうかの重要な判断材料だから、水産庁は数字の読み方についてホームページ上できちんと解説すべきで、ぜひそうしてもらいたい

 ここまで書いて、まるで別の問題があることに気がついた。水産庁はさまざまな検査機関で測定されたデータを羅列しているだけで、相互の比較がまったく不可能だということに。
 資料の前処理の仕方を含めた測定作業手順は標準化されていないし、検査機器の精度も測定時間もバラバラだということが表を眺めたebisuの感想だ。内臓や筋肉、骨に分けて測定し、合計値あるいは丸ごとミンチの状態の測定も行うくらいの標準化はすべきだろう

 「1977年から1993年」の5回調査の最大値0.1Bq/kgというのが本当であれば小数以下二桁まで測定できていたと考えられる。
 なぜ20年後のいま、検出限界値が数ベクレルのなのだろう。使用機器と測定時間の問題がある。感度のよい機器は値段が高いのだろう。資料が増えれば処理能力を上げるために測定時間を「節約」しなければならない。測定時間を短くすれば検出限界値は桁違いに大きくなってしまい、測定に意味がなくなる。水産庁公表データはそういうデータがたくさんまじっている。宮城県や福島農業総合センター、茨城環境放射線監視センター、海洋生物環境研究所、九州環境管理協会などの検出限界値が数Bq/kgであるのは、たくさんのサンプルが持ち込まれて、高精度測定の処理能力をオーバしたので、測定時間を短縮して検査精度を下げて処理している実情が垣間見えるようだ。

 補助金を出してでも百倍くらいの処理能力の迅速検査機器開発を仕様を明らかにして有力メーカ数社へやらせることぐらいはできるだろう。
 放射能汚染は事実であるから、風評被害なんて嘘を言っていないで、正確な実データを計測して公表したほうが信頼を取り戻せる。食品としてダメなものはダメだと、厳しい安全基準で判別すればいい

 いまのままでは非常にまずい。このままでは食品の安全への信頼が根こそぎなくなる
 たとえば、ある検査機関がサンプルのさんまから放射能未検出という証明書を発行しても、さんまに放射能が含まれていない証明にはならない。精度の悪い機器を選んで短時間測定をしたら、検出限界値を上げて、恣意的に「検出限界値以下」の証明書が発行できるからである。
 食品の安全に関する日本の信用がなくなれば、日本製品の国際的なブランド価値が落ちる。価格が下がるということ、長期的にみたらたいへん損なことだ。

 ベトナム政府はさんまには放射能が含まれていない証明書を添付するように要求してきたようだが、こんな好い加減な精度での測定ならいくらでも「不検出」証明が出せる、大丈夫か?

 原子力規制委員会の専門部会が、水産庁のデータが使いものにならないような発言をしていたが、こういうことだったのか。

 作業手順の標準化と、使用機器の精度仕様、そして測定時間、検出限界値を決めなければどれだけデータをとってもほとんどが使いものにならない
 水産庁は厳しい精度管理基準と測定標準作業手順、指定検出限界値をクリアした検査機関のデータのみを利用すべきだ。

日本には数百年間守られてきた世界に誇れる商道徳がある。
  「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」


 【ebisuの結論】
 根室で水揚げされているさんまが安全かどうかはこういう好い加減なデータからは判断できない。

 ただ、さんまの回遊経路は濃度の高い放射能で汚染されてしまっているから、その中で餌を食べ成長することを考えたら、それなりに汚染されていると考えるべきだ。

 還暦を過ぎたebisuは昨日も朝晩と2度さんまを食べた、なにしろさんまが大好きだ、旬の時期は毎日食べても飽きない。しかし、妊婦や赤ん坊、成長期を迎えている若い人たちには勧められない。どうしても食べたければ骨は必ず外すこと、そして食べる頻度は少なくすること
 妊婦や赤ん坊は食べないほうがいいというのがebisuの意見である。
 こういうときは慎重なほうがいい



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【参考資料:Bq/kgの測れる機器と値段】
(株)エフユーアイ・ジャパン  BQ020  30万円  検出限界4.5Bq/kg
http://www.value-press.com/pressrelease/95443

チェルノブイリ原発事故現場の隣の国ベラルーシのメーカ製品「ポリマスターPM1406」という測定器が参考になる。
 ■ 検出精度が50Bq/kgなら測定時間は30分
 ■ 検出精度が10Bq/kgなら測定時間は1200分

 検出限界を上げるには、測定時間を長くするということだ。この機器を参考にすると検出精度を5倍にするのに時間は40倍かかることになる。とても効率が悪くなる。
 2次関数だとすると、「y=1.6x^2」である。
 この測定器では、実際上1Bq/kg未満の検出限界で測定ができない。

http://www.koekisozo.co.jp/sokuteiki/PM1406.html


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*#2411 さんまの放射能汚染(まとめ-2) Sep. 16, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-09-16-2

 #2410 さんまの放射能汚染について(まとめ) Sep.16, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-09-16-1

 #2390 サンマのI-131の濃度から放射能汚染水の大量流出は分かっていた Sep. 1, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-09-01

***上記#2390は削除処理しました***
理由: 「<0.4Bq/kg」を「0.4Bq/kg」と読んでいましたが、どうやら「測定値<0.4Bq/kg」、すなわち、「測定値は検出限界値の0.4Bq/kg未満」と読むべきだというのが今回水産庁のデータをあらためて見直してみたebisuの結論です。


 #1445 検証(2)福島原発事故⇒今年のサンマ漁に一抹の不安:杞憂に終われ Mar.26, 2011 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-03-26

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