企業の上場準備は諸規程類の見直しから始まる。就業規則や給与・退職金規程などの人事関連規程類、予算規程、経理規程類、組織分掌・権限関する規程など企業規模の応じてさまざまな規程が作られる。

 雇用問題について権利と義務は表裏の関係にあることをブログ「情熱空間」が具体的事例を通して丁寧に説いているので転載して紹介する。
 人に関する制度やルールは社会保険労務士の仕事分野であり、ZAPPERさんは社労士でもある。どういう就業規則を採用するかで、いろいろなトラブルが避けることもできる。
 事例に挙げられた具体的な問題はありがちなことだ。きっと役に立つから高校生や地元企業主もぜひ読んでもらいたい。上場準備を3回経験した私も勉強になったくらいだからお薦めする。
 2回分を一括して転載。

http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/6742005.html
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/6743236.html
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2013年08月27日

雇用の現場は「性悪説」か?(上)

5分の残業に対して、残業代(割増賃金)を支払わなければならないか?

答えはイエスです。仮に毎日5分残業をして、その月の所定労働日数が24日だった場合、残業時間計2時間(120分)分の割増賃金の支払い義務が生じることになります。よく、1日30分未満の残業を切り捨てとしている会社がありますが、それは違法(労働基準法違反)です。ただし、1ヶ月の残業(60分未満)の端数処理について、30分未満を切り捨て、30分以上を切り上げるのは合法です。

さて質問です。あなたは会社に対して、その5分の残業について割増賃金の支払いを求めるでしょうか? 社会保険労務士の仕事をしていて直面することが多い問題に、実はこうしたものがあります。

事例その一。大学生のアルバイトを雇ったところ、業務終了後の手仕舞い作業に関しての、日々の5分・10分の残業代を請求され困っている。もっともこの部分、会社側にも認識が甘い部分があると言えます。そうした問題が起こり得ることを想定し、残業を許可制にする等の策を講じておく余地があるからです。(具体的には、そうしたリスクを想定して、その対応策を織り込んだ企業防衛型の就業規則や各種規程を事前に整備しておくことで、およそ考えられる多くのリスクを回避できます)

事例その二。社員に有給休暇(年次有給休暇)の取得を申し出られ、業務に支障が出て困っている。これにも色々な対処法がありますが、それはここでは書かないでおきます。使用者は、年次有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければなりません。(これを「時季指定権」と言います)がしかし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合は、他の時季にこれを与えることができます。(これを「時季変更権」と言います)有給休暇取得届を文書で提出させるなどして「時季変更権」によるハードルを盛り込んでおくべきでしょう。

事例その三。出社時・退社時に制服に(制服から)着替える時間。その時間は残業であるとして残業代を請求された。 実はこのケース、判例においても同様のケースが見られる(
三菱重工長崎造船所事件、最高裁平成12.3.9判決)のですが、完全ではないにせよ、就業規則等において予防策を講じておくことは可能ですし、制服に着替える場所を、会社の更衣室でも自宅でも各従業員の自由にしてあれば、場所的拘束性がないため、着替えの時間は原則として労働時間になりません。

さて、こうした労働問題ですが、一昔前までであれば「労使関係の象徴」つまりは企業側と労働組合の対立により表面化したものが多かったわけですが 、現在では「個別労働関係紛争」が増えていて、そのための
個別労働関係紛争処理システムの整備がなされています。たしかに、サービス残業が常態化している企業があったり、人を単にコマとしか捉えていないような、いわゆるブラック企業もあるわけですが、それを差し引いてもなお、理不尽としか言いようのない労働者の申し立てが増えています。

自主退職しておきながら、その退職の理由はどうあれ、とにかくこの「私」が傷ついた 。この「私」が傷ついたのだから「補償(謝罪)」しろ。職務専念義務もへったくれあったものではありません。まるで小学生の喧嘩さながらに、やれ「謝れ」だの、やれ「謝罪しろ」だのと…。そして非常に残念なことに、特に若い世代でそうした(義務の履行はさておく形での)「権利の主張」が目立ってきています。そして時には、その親も我が子の理不尽な言い分に便乗してきては、一緒に騒ぎ立て…。

事例その四。入社した社員に態度の悪さを指摘したところ、二・三日出社して、以後は出社しなくなり連絡も取れなくなった。やっと本人と連絡が取れて、そして解雇を言い渡すも、反対に労働基準監督署を利用して解雇予告手当を請求された。これ、本人は14日を過ぎるのを待っていたんですね。~試用期間が始まって14日以内の者を解雇する場合に限って、解雇予告手続きは不要~ 労働基準法のこの規定を悪用したんですね。だから、15日目になって会社からかかってきた電話に出た。まさに知能犯。でも、その知恵は仕事に活かすべきなのに…。

雇用の現場では、もはや《性善説》ではなく《性悪説》が前提なのか…。そう思うこともしばしばです。義務の履行はどうあれ、自己の権利の主張だけは絶対に譲らない。その姿、何と浅ましいことか…。権利!権利!権利!己を省みることはしない。義務の履行などどうでもいい。権利!権利!権利!あるのはただ、権利の主張のみ。 この国の行く末が、本当に心配になってしまいます。(続く)

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雇用の現場は「性悪説」か?(下)

(続き)しかしこうした労働問題は、悲しいかな、現在の公教育のある部分と妙に符合するように思えて仕方がありません。人権教育。もちろん、それを全否定するものではありませんが、子どもに「権利」ばかりを教えて、肝心の「義務」に関しては実にお座なりになってしまっている。そうした印象を拭えないのです。

雇用契約は、双務・有償契約。つまりは双方の「権利」と「義務」が合わさったもので、そこに対価が生じるものです。もっとも、「使用者>労働者」という歴然たる力関係に配慮して圧倒的に労働者に有利になるよう、各法律で規定がなされているわけですが、しかしその大前提には《職務専念義務》というものが存在します。誠実にその業務を遂行すること。その対価として賃金請求権が発生する。前者は義務、後者は権利でありますが、権利と義務はまさしくセット。しかし子ども達には、なかなかそれが伝わらない。なぜなら、「権利・義務」という概念が希薄だから。

「権利」と「義務」は常にセット。子ども達にはそれこそを教えなければなりません。ところが学校現場は、構造的にそれに向いていないわけなんですよね。第一に、公務員には雇用契約が及ばないこと(公務員は、職業や職種ではなく地位をさすから)、第二に、それゆえに民間の労使の感覚に疎いこと。第三に、どこぞの教職員組合の存在が感覚の麻痺を後押ししていること。だからどうしても、「義務」を伝えることが苦手で疎かになってしまうのでしょう。(「権利・義務」という概念が希薄だから、自治労や日教組・北教組は暴走を続けるのでしょう)

しかしながら、企業側から言わせたならば、「学校教育の場においてこそ、権利・義務をしっかり教えて欲しい」となります。親が家庭が力を失い、また、それに呼応するかのように学校も力を失いつつあります。勤労の美徳、規範意識といったものが影を潜めつつあります。非正規労働者の増加が社会問題になって久しいですが、一方では労働力の質の劣化が進んでいて、そこには基礎学力問題と「義務」の認識の欠如、規範意識の形骸化が横たわっていることを感じています。

いわゆるキャリア教育ですが、何をさておいても子ども達に伝えなければならないのは、勤労の「権利・義務」の概念でしょう。「権利」と「義務」は常にセット。だからこそ、自らの仕事に打ち込む姿は崇高であって、勤労の美徳、規範意識というものが導かれるものでしょうから。

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