市内の高校2校の前期中間テストは今日(6/8)で終わりだ。12時を過ぎたが勉強をしている生徒が多いだろう。2年生が二人、あわてて明日のテストの数Bのベクトルのところを確認に来ていた。

 さて、今回は6月6日付け北海道新聞夕刊の記事を紹介したい。日本政府が経費をもつ「ビザなし交流」とはいったいどのようなものなのか、その実態が語られている。

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 ロシア側第1陣到着
  ビザなし交流 青少年ら49人
【根室】北方領土ビザなし交流で、本年度のロシア側第1陣となる青少年の訪問団が6日、日本の民間チャータ船「えとぴりか」(1124㌧)で根室港に到着した。今年から使用されたえとぴりかでロシア側訪問団が来訪するのは初めて。
 国後、択捉、色丹のロシア人島民で12~17歳の児童生徒と同行者49人。岸壁で根室市民の歓迎を受けた択捉島のイリーナ・ブザノワ団長(32)は「ロシアと日本の子供たちの交流を深めたい」と述べた。えとぴりかについて、男子中学生(13)は「新しい船はすごくきれいで快適」と笑顔で話した。
 主な訪問先は秋田県で、6日に根室市を視察したあと、7日に釧路市から空路出発。同県では高校生らとの交流や民俗芸能などを体験し11日に根室に戻り12日に島へ帰る。
 船には日本外務省の人道支援により根室管内で治療を受けるロシア人島民4人、日本語習得のため札幌市などを訪れる10人も同情した。本年度のビザなし交流ではロシア側から12訪問団、軽336人を受け入れる予定。

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 根室に一日いるだけですぐに秋田へ出発する。観光旅行のために根室に上陸、通過しただけの話し。これではビザなし交流ではなくてビザなし観光だろう。元島民を愚弄するにもほどがあるのだが、「引揚者の団体」は歓迎している。おかしな構図だ。

 内閣府の北方領土対策本部のホームページには次のようになっている。
 http://www8.cao.go.jp/hoppo/henkan/11.html
「 北方領土問題解決のための環境整備を目的として、北方四島交流(いわゆる「ビザなし交流」)の実施を支援し、日本国民と北方四島在住ロシア人との相互理解の増進を図っています。
 日本国民と北方四島在住ロシア人が相互に訪問し、ホームビジット、文化交流会、意見交換会等を通じて、相互の理解と友好を深め、ロシア人住民の北方領土問題に対する理解を促すとともに、日本に対する信頼感の醸成が図られています。平成4年度に事業が開始されてから、これまで日本側と四島側双方合わせて、のべ16,393人(平成22年3月31日現在)の人が交流を深めています。
 この事業の対象者は、北方領土に居住していた者、その子供及び孫並びにその配偶者、北方領土返還要求運動関係者、報道関係者、訪問の目的に資する活動を行う学術、文化、社会等の各分野の専門家等となっています。」

 「北方領土問題解決のため」になぜ秋田県への観光旅行が必要なのかよくわからない。百歩譲って日本国民と北方四島在住のロシア人との交流なのだろう。だが、それと北方領土問題解決を結びつけることはとうていできない。
 「ホームビジット、文化交流会、意見交換会等を通じて、相互の理解と友好を深め、ロシア人住民の北方領土問題に対する理解を促す」となっているが、領土問題に関する意見交換はロシア側は明確にノーである。ロシアは実に明解だが日本側(外務省と返還運動諸団体)は実にあいまいである。

 こういう見方ができるだろう。本来は元島民やそのこどもたちや孫たちと北方領土に住むロシア人との「ビザなし交流=領土問題の相互理解」が理想なのだが、そうしたらロシア側から参加の希望がほとんどなくなるから、ビザなし交流は自然消滅してしまう。
 ロシア人からみると、「領土問題についての相互理解」を公に拒否しても費用は日本政府もちで観光旅行に招待してくれる、ビザなし観光旅行は大歓迎ということになる。
 つまり、北方領土問題の解決など本気で考えていない外務省はアリバイづくりのためにビザなし交流=観光という餌でロシア人を集めているのである。経費は日本政府もち、お金のかからぬ観光旅行だから「ビザなし交流」希望者はいくらでも集められる。観光場所は毎年変えればいい。そうすれば何度でも同じグループの人々が飽きずに毎年ビザなし交流に参加する。予算をとって恒例行事化すれば北方領土返還運動をやっているという実績がつくれる。
 しかしこれでは日本外務省は観光業者並みの存在だし、けっこうな予算配分を受けているビザなし交流自体が日本側とロシア側の両方で利権化するだろう、だいじょうぶか?一人1回30万円程度(?)かかっている費用がタダ、船も新しくなった。費用は日本政府もちの「観光旅行」を楽しみにする人が増えるだろう。

【返還運動諸団体とは元島民ではなく元島民のうちの引揚者だけの団体】
 お袋も叔父も叔母も択捉島で生まれそこで育ったがいわゆる「引揚者」ではない。お袋は一度も墓参に行くことなく昨年亡くなった、叔母も同様で5年前に亡くなった。関係諸団体から一度もビザなし交流の連絡とか通知をいただいたことはないから、北方領土対策本部の上記の定義は間違いではないのか?「北方領土に住んでいた者」ではなく「北方領土からの引揚者」と正確に書くべきなのだろう。
 その上でのことだが、引揚者とそうではない元居住者と区別をする理由は何か?さっぱりわからない。墓参ひとつ考えても道義上区別をしてはならぬとわたしは考える。

*千島歯舞諸島居住者連盟を検索して初めて知った。これは引揚者の団体である。これではムリだ。どうりで引揚者ではないお袋や叔母や叔父に何の連絡も通知もない理由がはっきりした。引揚者だけの補助金運動だ。引揚者ではない元島民と引揚者との間に大きな溝をつくってしまった。おろかとしか言いようがない。組織内部で五十数年間だれもそうしたことを言わなかったのか?そうだとしたらそのような団体などこれからも領土返還運動の妨げ以外の何物でもないから解散した方がいい。
「千島連盟は、ソ連の不法占拠によって日本固有の領土である北方領土から強制的に退去させられた元島民とその後継者で組織する全国唯一の社団法人で、北方領土の復帰等の解決促進と、元居住者等の福祉の増進を図ることを目的に設立されました。」
 六十数年間にわたり一人も戦略を描けるもののでなかった「引揚者の団体」だが、今後に期待できるのだろうか?人のよい引揚者たちが中央の政治にいいように利用されているだけではないのか。

【人材枯渇假説とそれを乗り越える方法】
  関係諸団体がどうしてこいいう稚拙ともいえる運営を続けるのか理由を考えてみた。假説がひとつみつかった、それは人材不足である。ひとつの団体を公平で効率的に動かせる仕事のできる人材が60年間いなかっただけ。いや、北方領土返還の具体的な戦略を描く能力のあるものが一人もいなかっただけ。引揚者だけの閉鎖的なサークルが政府の補助金目当てに動いているにすぎぬ。そしてこれを利用する全国組織の者たちがいる。
 もしこれが当を得ているなら寂しい話しである。団塊世代を起点にしても根室は40年以上にわたって学力の高い人材を都会に供給し続けたことは事実である。心根のまっすぐな学力「中の上クラス」の人間は少なからず残っているが自分や家族や親戚へのさまざまな軋轢をおそれて発言をしない、温和で穏やかな性格の人(典型的な根室人)が多いということだろう。かくして一部の者たちが恣意的に振舞っても健全な批判が起きないし、個人的な利害を離れて広い視野で物を言う者もいない。こういう構造をわたしは根室の旧弊と呼んでいる。
 関係諸団体に仕事のできる有能な人間が数人いればもっともっと北方領土返還運動は国民の共感を呼ぶやり方で進められたに違いない。
 おそらくいまからだってできるのである。謙虚に正直に誠実に仕事をすればいいだけなのだろう。内部のことをよく知らぬ島民2世のつぶやきである。

【避けられぬ根室の町の運命?】
 さて、返還が実現すると確実になくなる組織がある、それは北方領土返還運動関係諸団体と担当行政機関である。補助金もなくなる。返還が実現して困る人々が返還運動をしているという不思議な構図が根室にはある。航路追尾装置のスイッチを切って越境して「密漁」をしていた羅臼の漁師たちも返還されたらその水域は国後島の漁師の前浜だから水揚げが激減するのだろう。返還されては困る人々がここにもいるのである。北方領土返還運動にとって敵はロシアだけではない。特殊な利権構造が堅固に出来上がってしまって関係者の数はすくなくない。お互い同じ地域内で生活しているのだから事を荒立てたくないというのが本音だろう。領土問題はそれでいいのかも知れぬ。しかし、旧弊をそのままに維持していれば根室は夕張市の轍を踏むことになる。残念だが時間はあまり遺されていない。避けることのできぬ根室の運命なのだろう。

【北方領土を取り戻す具体的な戦略論アリ】
 具体的な領土返還交渉具体論を2008年に書いているのでお読みいただきたい。ぶっそうな議論かも知れぬがこれなら返還交渉成功間違いなしだ。四島まるごと返還を実現できる現実論がここにある。


*#195「少し過激な北方領土返還論」MIRV(多核弾道ミサイル)開発・組み立て・解体ショー
ロシアをぎゃふんといわせ北方領土を返還させるための具体論
 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-06-07

 #465「"Japan sent uranium to U.S. in secret"は北方領土返還運動の好機か?」
 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-12-30

  #1401「ロシアがフランスから新型軍艦を購入し北方領土へ配備、対抗措置はあるか」
 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-03-1

 #1892 映画「マーガレット・サッチャー」と北方領土 Apr. 6, 2012 
 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-04-06



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