世の中、だれが言っているのかが問題になることが多い。仕事ができて実績があり、まっすぐな心根の者が言っているかどうかが問題解決の重要な鍵である。
報ステSUNDAYで震災瓦礫の問題を取り上げていた。84歳の植物生態学者宮脇昭翁が震災瓦礫処理に実に素晴らしい案を提唱し、一部地域で実証実験を始めている。
だが瓦礫の埋設処分にはさまざまな法的規制があって宮脇案が実施できない。いったい何十年実証実験をやればいいというのだろう?百年か?
世界各地で4000万本植樹の偉大な実績のある翁に実証実験を求めるということは彼の仕事を信頼していないということと同義である。森づくりで彼を信頼できないとしたら世界中で信頼できる者など一人もいないだろう。
翁は理不尽な要求に耐えながら、現状を打破できると信じて実証実験を続けている。時折見せる大鷲のような鋭い眼光にかれの強い意志を感じる。わたしたち国民が彼を支持し政府を動かそうではないか!
震災地域に限定した特別立法を制定するだけでいいから原案を作り国会で決議すればいい。正面切って反対できる党はないだろう。実に手間のかかる実証実験をやらせておいて、なぜすぐできる特別立法制定に動かないのだろう?
それには理由がある。私たちが政権交替時に期待した民主党は権力の毒に触れたとたんに腐ってしまってすでにない。民主党の面々がだらしなかったわけではない。権力とはかくも簡単に人を腐らせるものだということを私たちは学ぶべきだ。
幅100m高さ22mの命を守る森の防波堤をつくる材料に震災瓦礫が最適だという。翁の計算に寄れば1900万トンの震災瓦礫は必要な盛り土の4.8%。コンクリートの大きな瓦礫と木材の瓦礫を土台にして盛り土をしてその上にその土地本来の樹種を植えれば津波の被害を防ぐことができるというのが宮脇翁の提唱する命を守る森の防波堤構想。いま千載一遇のチャンスが訪れている。防波堤内部に積んだ隙間のあるコンクリート瓦礫を抱き込むように木の根が伸びていき、木材の瓦礫が腐って養分となり、植えられた木がぐんぐん伸びるというのだ。根が伸びるために適度な空間があるのがいいのだそうだ。
宮脇翁は津波の襲った無人島を調べて、タブノキが津波にも耐えたことを知る。平野部に建てられた家では周りに屋敷林のあるところはそこ(屋敷林)で流されてきた船などの漂流物が止まっていた。そして屋敷は無傷。きちんと実証的な調査を重ねている。そのときの翁の顔はじつに厳しい表情をしている。何物も見逃さないというするどい眼光が宿る。
朝日新聞デジタルニュースより
http://www.asahi.com/politics/update/0320/TKY201203200350.html
【細川元首相「がれきを森に」 野田首相に進言】
「野田佳彦首相は20日、都内のホテルで細川護熙元首相と会談し、東日本大震災の被災地のがれき処理について提言を受けた。細川氏は、がれきと土砂で造った高さ20~30メートルの高台に木の苗を植えて森にするプロジェクトを進言。野田首相は前向きに進める意向を示したという。
細川氏は終了後、「がれきの再利用は、環境省がブレーキをかけて前に進まない。国家プロジェクトとして総理から号令をかけて欲しい」と記者団に語った。横浜国立大学の宮脇昭名誉教授も同席した。 」
放射能汚染を全国へ広げないですむたいへんすぐれた案だが、すぐれすぎていて大きな問題がありそうだ。
廃棄物処理はお金になる。震災は瓦礫の輸送や廃棄処理、そして新たなコンクリート製の防波堤建設でそれぞれの業界がぼろもうけのチャンスなのだ。
民主党はヤンバダムや新東名高速にみられるように「コンクリートから人へ」の看板をいつの間にか下ろし、自民党と変わらぬコンクリート重視の政策へ舵を切ってしまっているから、宮脇翁の提案がすばらしいものだとわかっても乗れない。次の選挙で業界の支持を取り付けたいからだ。日本のことよりも自分たちの議席のことを優先している。
宮脇提言は百年後、数百年後に称えられる素晴らしいアイデアである。政党とか国会議員の席と選挙とかそういう私的利害をはなれて判断すべきだが、いまの民主党にそれができるのだろうか?
野田総理はなんとも歯切れが悪い、「がんばります」との返事。がんばるではなく、「1ヶ月で特別立法を案つくり、野党とすぐに協議して国会を通します」となぜ言えぬ。原子力事故対応担当特命大臣の細野豪志も同じようにこの件に関しては歯切れが悪い。同じ穴の狢(むじな)だ。
松下政経塾出身者に共通しているのは
宮脇構想(鎮魂の森、希望の森、命を守る森の防波堤構想)の全面実施をするためにただちに特別立法を制定すればいいだけであるが、野田総理の動きは悪い。消費税増税は声高に言うが、簡単にできる特別立法には消極的だ。
こういうところが政権をとる前の清廉潔白な姿勢とずいぶん違って見えてしかたがない。権力への妄執に囚われているのではないだろうか。
下世話な言葉をかりるなら「小ズルイ」とか「変節」といっていいのだろう、日本人が一番嫌がることだ。卑怯と言い換えてもいい。地位を手にすると人間はかくも情けない行動をとるようになる。全国のこどもたち、情けない大人どもをよく見ておけ。同じになるなよ。
仕事は正直に誠実にやるのが一番いい。
「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」、
小欲知足