いつもならKJ対話なのだが、今日は釧路の教育を守る会のSことサブにご登場願う。話題は市立根室病院に医師をどうやったら集められるかという問題である。

K:会のあとの二次会だから、教育問題をはなれて地域医療問題について酒を飲みながらじっくりサブの意見を聞いてみたい。假りに市にホームページ上で医師の足りない診療科と年収額やその他の条件を明示して医師を募集した場合に起きる不都合を推測してもらいたい。
S:そりゃはなからムリだよ、大学病院が医師を引き揚げてしまう。病院はどこかの大学病院にまとめて医師派遣をお願いしなけりゃならない。
K:釧路の市立病院ならそうだろうな、500ベッドを越える大病院だ。
S:23科643ベッドの規模の総合病院だから、院長人事も含めて市政が介入する余地はほとんどない。
K:根室は134ベッドの小規模病院だから市政が介入しやすいのかもしれないな。それで、ホームページ上で診療科を明らかにした上で一般募集をした場合に、大学病院の対応に大きなリスクを抱えることになるというのがサブの意見ということか、なるほどね。
S:どこかにお願いして、そこが責任をもってやってくれたらそれが一番いい。

K:ところで、わたしは地元の専門医の紹介(当時の市立根室病院には消化器外科医がいなかった)で6年前に釧路医師会病院で巨大胃癌とスキルス胃癌で胃の全摘手術を受けたんだが、それから2年してあの病院はついに旭川医大が手を引いて閉院となった。施設も医者も看護師さんたちの対応も地域のお手本となるようなすぐれた病院だった。ホテルなら阿寒の鶴雅のような存在だった。道東の地域医療にとってはたいへんな痛手。医師を確保するのは根室ばかりでなく釧路もたいへんだね。
S:だからまるごと大学病院にお願いするのがいいんだが、撤退されたらそれまでという現実があることも認めざるを得ない。行政サイドとしては医療はまるごと大学病院にお願いしたいというのが基本的なスタンスだ。
K:ところでサブ、釧路の人口は根室の6倍だから予算規模もほぼ6倍とすると170億円×6で1000億円かい?
S:カズ、その通りだよ。
K:根室の市立病院は昨年度13.7億円の赤字をだして一般会計から補填している、来年建て替えが終わると償却負担が増えるから年間赤字額はほぼ市の予算の10%になる。釧路市なら年間100億円の赤字だ、一般会計から補填できる規模を超えていない?
S:カズ、それは大きすぎる。
K:非常勤医の契約は複雑らしい、そしてたいへんコストが高いようだ。だから、常勤医を増やすことができれば病院の赤字額は圧縮できる。
S:それでも公募すると大学病院とトラブルを起こすことになりかねない。だから、やれないね。
K:大学の医局に臨床科名を明らかにしたリストをもって事前に相談するというような根回しをしてもだめかね?
S:そこなんだが、非常勤医を派遣してくれているのは釧路の大病院や大学病院だろう?利害が対立するから、ムリと判断するよ。大学も独立行政法人だから収入確保に走らざるを得ない。非常勤医の常勤医への切り換えに大々的に市のホームページ上で公募するのはうまく回っている静かな池に石を放り込むことになりかねない。
K:なるほどね、ではやれる範囲は大学病院から非常勤医の派遣を受けていない診療科ということになるね。
S:どうだろう、波風たてることになりかねないからやら方が無難だろう。どこかでまるごと引き受けてくれる大学病院あるいは医師を常勤で派遣できる大病院の傘下になることが生き残る道だろうね。
K:臨床研修医制度が変わってから、大学の本院でも医師が不足するような事態が続いており、民間病院でも医師を充足できているのは東京都と一部の大都市のみという状況だから、民間病院でまるごと市立根室病院へ常勤医を回せる病院はほとんどないだろう。
S:地域医療はこれからますますきびいしいな。
K:サブが何気なく言ったが、臨床研修医制度の変更で研修先を都会の大病院を選ぶ医者が増えたことに加えて大学の独立行政法人化が収入重視へ走らせている側面を無視できない。大学病院も非常勤医の派遣で収入を増やすようなことをやらないと維持ができないのかもしれない。そうすると、非常勤医から常勤への切り替えのためのネット上で条件開示をした公募は波紋を起こさざるを得ない。これでは根回しはムリだ。
S:カズのネット上での公募話しを聞いて直感的にムリと判断したんだが、その通りの結論になりそうだね。

K:サブ、それではつまらないからもう少し粘って議論をしてみようと思う。療養病床に話題を転じよう。根室は5年ほど前まで75ベッド療養型の病院があったんだが、閉院してからゼロだ。市立根室病院で療養病床を持つべきだと地方医療協議会も病院職員アンケートでもそういう意見が出されているが市長は無視した。ところが、この分野に限っては大学病院とトラブルを起こさずにネット公募ができるんだ。「痛くない・こわくない・心配ない」で看取りを主体のターミナルケアなら、定年を過ぎた医師で十分だ。積極的な治療の必要はない。こどもの教育問題(自分のこどもを医師にしたい)も年齢からしてクリアしている。たとえば60歳以上に医師に限る、年収2千万円、2年契約でラムサール条約で有名な春国岱(シュンクニタイ)などの自然環境で週末をのんびり過ごしませんかと公募すればどうだろう。山小屋風の医師専用住宅を用意したっていい。
S:そんなにうまくいくかな?
K:スーパーマーケットはたったの3店のみ。電気店も60坪くらいの小さなものしかありません、空港もないので東京までのアクセスは不便です。釧路と中標津の空港までそれぞれ150kmと90kmと遠い。人口18万人の釧路まで120km、中標津まで85km、オホーツク海と太平洋に突き出した根室半島だから冬は雪が少ないが、海風は冷たい。不便な点や厳しい点を正直に書き並べる。
S:そんなこと書いたらますます来る人がいなくなるだろう?
K:正直に悪いところ不便なところをはっきり書いてあれば、それ以上の事はないから、着任してからいいところをたくさん見つけてくれる。案外集まると思うよ。100~150ベッドの療養型病棟を併設すれば市内でヘルパーさんの雇用も生まれる。慢性期の患者さんを扱う療養型と急性期の総合病院では診療方針に大きな違いがあるから、それはそれで病院運営上のことで院長の苦労は多いかもしれない。
S:なるほど、診療分野を個別に具体的に検討していけば何とかなりそうなものもあるんだね。でも新しいことは経験がないし、したがって前例もない、とても面倒そうだから何もしないのが無難。前例踏襲が一番楽だろうな。行政全部がそうだとは言わないが、そういう傾向があることは事実だね。
 ところで、そういう困難なコーディネートをだれがやるの?根室に人材はいるの?
K:痛いところをついてきたね。市民がもっともっと地域医療に関心をもち、市議たちが地域医療のビジョンについて議論を深め、市役所内部にコーディネートできる人材が揃わないとやれない仕事かもしれない。専門能力をもっている市民の協力が必要だ。
 サブ、酒の席で相談に付き合ってくれてありがとう、行政サイドの考え方が少し理解できたかもしれない。
S:どういたしまして。


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