2日ほど前に広報ねむろが配布された。7ページ「企業会計」にH21下期の市立病院事業会計予算執行状況が載っている。
 外来患者は1日当たり平成20年度比で2.4人増でほとんど変わらずだが、常勤医16名体制になって入院患者数が増えた。H20年度比で23.7人/日の増加である。H20年度入院患者一人当たり売上は87,895円/日だから、この数字を使って計算すると入院収益は3億7654万円増加したことになる。常勤医が前年比4人増と仮定すればドクター人件費は1.5億円の増で、さらに赤字特例債償還分が1.4億円と前倒しでやったオーダリング・システム開発費償却費が0.4億円だから、差し引きたった0.4億円のプラスということになるだろうか。ところがマイナスになっているから、見えないものがおおよそ1億円近く増えているのかもしれない。ツケ回しや野放図なシステム開発をすると途端に損益が悪化する。
 
 下期「予算執行状況」によれば
  収益  20億9172万円
  費用  18億9884万円
  純利益  1億9288万円

 誰が見ても病院事業は黒字であるが、ほんとうだろうか?収益20億円とあるが半期の売上は11~12億円にすぎない。
 病院事業会計は実質12億円の赤字だ。どうしてこういうことになるのか?公的会計という企業会計基準とは異なる基準の数値だからである。わたしたちが普段目にする損益計算書とは似て非なるものである。ダブルスタンダードはインチキと同義語であるが、広報ねむろに載っている数字はそういう数字だ。市民を欺く数字である。

 平成21年度の決算書がないので、手元にあるH20年度の決算書で説明しよう。「収益」の中に一般会計からの補助金が入っている。これは病院事業の売上ではなく、一般会計からの損失補てん金である。
 
  その他医業収益 150,364,773
  一般会計負担金  27,505,142
  一般会計補助金 911,029,698
  他会計繰入金    47,149,000 
     繰入金合計  1,136,048,613
  当年度純損失    23,687,367
    実質損失額   1,159,735,980   
 
 これら4項目が一般会計からの繰入金である。一番上が国基準による繰り入れだが、それではとても足りないので、以下の繰り入れがなされている。「当年度純損失」は繰入金で補填し切れなかった分だから、合計11億5973万円が実質赤字額である。ところが「公的会計基準」では11.5億円の赤字が2368万円の損失に化ける。
 「一般会計繰入金」は予算では6億円程度ではなかったか?決算情報と予算情報を突合すれば、予算がいかに非現実で、辻褄併せにすぎないかがわかる。明細レベルの予算実績対比表を公表すれば予算の粉飾はできなくなる。市議会が市長へ作成と公表を要求すればいいだけだ。市議たちがそういう要求をしないのはなぜだ?

 広報ねむろに載っている収益はこういう損失補填金が含まれてしまっている。上場企業がこのような決算発表をしたら粉飾決算となる。もちろんこういう決算を監査法人が認めるわけもない。
  公的会計基準というインチキ会計基準が存在する限り、12億円の実質赤字が黒字の決算書に化けるということが起きるのである。病院経理が不正をしているわけではない、公的会計基準に基づいて適正な決算書をつくっている。

 民主党は公的会計基準を廃止して、公営企業は企業会計基準を適用すべきだ。そうすれば公営企業の赤字が表に出る。出れば市民が事実を知ることになるし、適切な手が打たれるようになる。
 黒字決算書をみて市民も関係者も安心する。黒字だから事業には何も問題は発生していない。ところが、夕張市のように突然破綻が襲ってくる。公的会計基準による損益計算書では一般会計から損失補填後の数字を見ているわけで、実質赤字額がどれほど巨額になろうとも、広報ねむろの公表数字のように赤字にならない。例外的に赤字になるのは一般会計から損失補填がし切れなかった場合のみである。
 もちろん、財務課の職員は専門家だからカラクリは承知している。病院経理も承知している。市長が「民間企業会計基準で決算数字を公表せよ」と業務指示をしない限り、広報ねむろに嘘や偽りのない損益決算書は載らない。知らないのは市議と市民だ。

 数ヵ月前の新聞報道によれば、平成21年度決算は実質12億円の赤字だったはずだ。根室市はホームページ上で市立病院事業損益計算書を明細項目レベルで予算との対比して公表すべきだ。
 広報ねむろで実態とはまったく異なる数字を公表するのは市民を欺く行為である。市長が市民へ真実を公表するつもりがあれば、「広報ねむろ」に載る数字はまるで違ったものになる。本当のことを隠してコンサルタントの提案の2倍の総事業費で強引に建て替えを進めれば、市財政や病院が近い将来どうなるかは火を見るよりも明らかだろう。

【病院建て替え後の採算について】
 病院事業の売上は「入院収益」と「外来収益」の合計額である。手元にH18年度とH20年度の損益計算書があるので両方見てみよう。費用は「医業費用」と「医業外費用」の合計額を並べる。
(平成19年度は、この二つの数字の間くらいだと想像していただければいい)
                       H18年度      H20年度   H21年度  
 売     上:    23.8億円   22.9億円     ?
 費     用:    34.1億円   34.7億円     ?           
 差し引き赤字額   10.3億円     11.8億円    12億円

  市立病院を維持するために毎年10億円を超える赤字補填がなされている。そして赤字の額は年を追うごとに増えている。このままだと5年後にはどうなるのだろう?市がいくら楽観的な数字を言っても、この推移を見るとまるで説得力がない。まだ建て替え前で償却費が増えていないのに、常勤医が前年比4人も増えたのに、赤字の幅はジリジリ広がっている。
 市民に公表される数字は数千万円の赤字あるいは黒字となっているから、経営上の問題はないように見えてしまう。それゆえ病院の経営改善はこの5年間まったく進まない。病院の経営状況に関して、市立病院事務局と市長は市民へ直接説明する義務があるのではないだろうか?「市立病院経営の現状と見通しおよび経営改善に関する市民説明会」を開催してもらいたい。

 さて、病院建て替え後にはこれに償却負担が加わる。当初の5年間はシステム投資と医療機器の償却費が大きいから、3~4億円程度の増加を見込むべきだろう。
 道から派遣されている医師の任期が来年、再来年に切れる。4名である。補充できなければ年間赤字額は最大20億円に達するだろう。一般会計にはこれほど巨額の年間赤字を補填する余裕はないから、根室市が夕張市になりかねない。
 すでに影響が出始めているのではないだろうか。若い看護師や助産師が集まらないのは市長にも幹部職員にも経営改善意欲がないからでもある。夢と希望を語れない幹部職員が多くなると、若い有能な人が集まらなくなるのは当然だ。
 30代40代の中堅市職員は自分たちの職がなくなるかもしれない瀬戸際にいる。未来はいま君たちの手の中にある。
 労組は指をくわえて傍観するのか?夕張では労組は職場を守れなかった。組合員の職や生活を守れなかったら、何のため誰のための労組か。
 市議会はきちんと議論して市政チェックの責任を果たすべきだ。市側の提案に賛成するだけなら市議は半分でも多すぎる。副業を言い訳に仕事の手を抜くようなことがあってはならない。

【市政チェックは市議の義務】
 広報ねむろを読んで、いささかうんざりしてしまった。このような子供だましのトリックにだまされる市民も愚かだが、チェックできる市議がいないのもこまったものだ。予算と決算をチェックできないのでは市議としてその職務を担う能力がないといわざるを得ない。ないなら、勉強すればいい。副業市議だって、市議ならそれくらいの勉強はすべきだろう。市側の提案になんでも賛成するような市議なら必要ないと、この間の市議会政治改革特別委主催の講演会で札幌のNPO代表が言っていたではないか。
 カラクリを承知している本田議員一人がインチキな病院事業予算に反対しても、共産党を除く他の議員が全員賛成ではどうにもならない。
 ところで、市議会定数削減問題はどうなったのだろう?
 システム投資も当初の5億円がいつのまにか7億円になり、総事業費から外されて別枠になってしまっているが、市の方からは市議会にも特別委にも説明がない。説明を求める市議もいない。この町はどうなっているのだろう?

 常勤医が前年度よりも4人増えたのだから、H21年度決算は少しよくなってもいいはずなのに、なぜ実質赤字が12億円を超えたのだろう。決算書を見ればその理由の一端がわかるだろう。H21年度決算書を入手したらまた続編を書こうと思う。

*double standard:CALDより
 a rule or standard of good behaviour which, unfairly, some people are expected to follow or achieve but other people are not