釧路医師会病院が病院譲渡へ

 数日前の北海道新聞に産科医が減少し道内各地に影響がでていることが報じられた。二つの地域が採り上げられたが、そのうちの一つが根室だった。2年前に市立根室病院の産科が休診となり、産科病棟は閉鎖のままである。妊産婦は車を運転して別海や釧路へ通院している。
 
 たいへんだなと思っていたら、釧路医師会病院が譲渡先を探しているというニュースが流れた。私は数ヶ月ごとに2年半ほど通院しているが、担当医が2度替わった。きちんと引継ぎがなされるので不安はないが、なれたドクターが病院を去るたびに一抹の寂しさを感じざるを得ない。
 病棟のベッドも2年前は稼働率が80%ほどあったのに、50%程度に落ちていたから、経営状況が心配だった。付属の医師会検査センターは1年ほど前に腫瘍マーカを自社導入したし、院内のX線CTは最新鋭の解像度の高いものに変えた。検査の迅速性や病変を解像度のよい画像で早期に掴まえるためであり、すべては患者のための投資だっただろう。
 ユーザーニーズを次々に呑み込み、経営を悪化させたある法人を仕事上知っていた。1社は救済のために買収し、もう一つは経営改善協力をした。よく似た事例である。より良い医療と経営の両立は多くの医者には無理のようだ。異質の才能を一人に求めることに無理があるのだろうか。医者でも臨床現場に携わらず経営に専念している者で優秀な経営者を私は二人知っている。
 経営は実に簡単なのだともいえる。より良い経営を成り立たせる仕組みややり方を知らないだけである。病院だけが世の中とまったく別の会計制度で動いている。ここを変えないと経営の健全化は実に難しいものとなってしまう。しかし、知らない人には難しいが知っている者には簡単なことだ。できない言い訳はいらない。どうやったら医師を集められるのか智慧をしぼればいい。プロジェクトチームは不要だろう。

 (市立根室病院を例にとれば、医師を集めて売上を増やし、病棟のベッド稼働率を改善することで赤字は大幅に縮小できる。医療需要はあるのだから、それに見合った人数の医師をそろえることに智慧を絞ればいい。それは簡単な算術が理解できるか否かにかかっている。具体策を言えば誰もがな~んだと言うだろう。難しいことではない。今年度4年続けて10億円の赤字を出すことになるが、これを一気に5億円以下に圧縮できる。30分もあれば中学生でも理解できる単純な理屈であるが、それで日本全体の地域医療問題が解決できるわけではないところが困る。同じ方法で半分くらいは解決できそうだがきつい歪も予測される。困っている地域が解決できるところと、完全医療破綻とに2色に塗り分けられてしまいそうである。普遍的方法ではないから一般化はできない。根室だけが救われる特殊な方法であると考えたほうがよさそうだ。短期間に打てる有効な手はあまりにえげつなく、地域エゴがむき出しになるので、他に方法があれば採るべきではない方法だ。本来は長期的展望に立ち、穏やかにやるのが一番よい。病院内に設けられた経営推進課が気がつくだろうか。たった一人経営センスのある職員がいればよい。
 いずれにしても、具体案ができたとして、実行権限があるのは市長であり、院長や病院スタッフではない。それも市議会にきちんと説明して、一部の反対を押し切ってもやる覚悟が必要だ。それぞれが自らの職責を全うすることだ。)

 釧路医師会病院の病床数は120、4人部屋には部屋ごとに広くて清潔なトイレが設置されており、ベッド周りも含めて、毎日何度も清掃がなされる。ベッドごとに専用の窓があり、採光や眺めがいい居心地のよいデザインになっている。患者を「お客様」として遇する、接遇の点でも優秀な病院だ。清掃の徹底は居心地のよい病棟、外来環境を維持する上で重要なファクターである。言葉の使い方も丁寧で親切であり顧客満足度が高く、ホテルで言うと接遇の点では阿寒湖畔の「鶴雅」に比肩できるだろう。釧路市立病院は患者への接し方で学ぶべき多くの点があるだろう。いい病院は自然にできるのではなく、そこで働くさまざまな職種の医療スタッフや掃除のパートさん、そして事務スタッフが協同して創るもののようだ。
 
 釧路医師会病院は旭川医大からの派遣医が多かった。臨床研修医制度変更の影響で本院の研修医が不足し、引き揚げが始まったのは2年ほど前からだ。その点では市立根室病院と一緒の事情がある。医師が減ることで、病棟のベッドの稼働率が著しく下がり、売上減少で採算が急速に悪化したことは想像に難くない。
 患者の2~3割は根室に居住する。だから、釧路医師会病院の問題は釧路だけの問題ではない、根室の問題でもある。

 根室には岡田病院があり、30代後半の消火器内科の腕のよい専門医がいる。他にも消化器内科の専門病院が一つあったはずだ。個人病院は病診連携の重要な環をひとつ失うことになる。数少ない紹介先の病院がひとつなくなってしまうと、地域医療に重大な影響がでる。
 内視鏡検査による病理標本採取ひとつとっても、場所によっては胃壁に穴をあけるリスクがあるので、消化器外科医のいるところでないと検査すらできない場合があるので、内科医と外科医のそろった釧路医師会病院は釧路・根室医療圏ではなくてはならない病院である。

 地域医療の崩壊を目の当たりにしながらも、なお思う。釧路医師会病院はとにかく患者にとってはいい病院である。それだけに万が一にもなくなっては困るし、病院運営の理念もいまのままであってほしいと切に願う。私も不便になるし、これから病気になる人たちはさらにいっそう困ることになる。

 一番よいと思われる解決法は、道東地域の医療に責任を負う「国立道東医科大学」の誘致運動を釧路・根室・網走支庁の市町村が連携して起こすことだろう。30年先をみた政治を道東各市町村の首長や議員ががやれるかどうかだ。任期中に結果は出ないだろう。それでも必要なら実現するまで努力する。そういう政治家がいまのところ一人もいない。誰がやってもいい。志の高い人、早くそのような人が政治の世界に出てくることを祈りたい。
 30年後に根室や北海道を担う人財の育成、正直で、まっすぐな人材の育成がニムオロ塾の見果てぬ夢である

 以下はネットで検索した11/28付けの情報である。
【釧路医師会病院が病院譲渡へ 医師不足で】
北海道の釧路市医師会(西池彰会長)は28日の臨時総会で、「医師確保が困難で、将来的にも確保が見込めない」などとして、医師会病院の経営を手放す方針を決めた。来年3月末まで経営を続けるが、今後、医師会に検討委員会を設置し、現在の機能をできるだけ残せる形で譲渡先を探すという。

 医師会の説明では、病院には循環器内科消化器内科、外科があり、これまで各科5人ずつで計15人医師がいたが、現在10人に減っている。
 道内の大学病院から派遣されていた循環器内科の医師4人のうち、2人が4月に抜け、来年4月にもさらに1人減ることも決まっており、同科の診療が維持できなくなる。
 また医師の減少などで約20の病床も約6割しか埋まらず、本年度は約5億円の赤字が見込まれるという。
 2008年12月3日 ebisu-blog#426
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