日銀保有国債は、昨会計年度末には581兆円だから、今年度末には600兆円をはるかに超えてしまう。仮に長期金利が米国並みの3.5%になったとしたら何が起きるのか、簡単な計算で確認してみたい。

 あなたが10年物国債をいま1000万円で購入したとしよう。関係を簡単にするために金利はゼロと假定する。6月に10年物国債金利が3.5%になったとすると、6月に国債を1000万円購入したら、10年後には1350万円受領できる。
 1000万円×(1+0.035×10年)=1350万円

 10年後に1000万円にするには、6月にいくら国債を購入すればいいだろう?
 A円×(1+0.035×10年)=1000万円
 A=741万円

 この計算結果から、6月に金利が3.5%になった時点で、保有していた国債1000万円は741万円の価値しかないことがわかる。

 741万円x(1+0.035x10年)=1000万円

 あなたが5月末までもっていた国債は6月には741万円の価値しかない。
 個人所有ではなく、会社が保有していたらどうなのだろう?満期まで保有していれば評価損の計上は必要ない。日本の会計規則では、「満期保有目的の債券は所得原価で表示する」ことになっている。日銀も保有する国債については金利がアップしても満期保有目的だから金利がアップしても国債の評価損の計上をしなくてよいことになっている。日本銀行法「会計規程」に従うが、定められている。日銀は一般企業とは法令で定められた別の会計規則に従っている。
(*日銀会計規程「第13条有価証券の評価方法及び評価基準」には国債の評価についての記述はない。日銀法会計規程は国債の保有を前提にしていないからだろう。戦時中の赤字国債増発と財政破綻を経験したから、日銀会計規程に国債の評価基準を書き込むわけにはいかなかった。ところが、年度末には600兆円超の国債を保有することになる。日銀は黒田総裁になってから、大きく変質したとしか言いようがない。同じマクロ経済学者の植田氏が4月から日銀総裁だが、彼も長期金利は2%へアップできない。日銀経営破綻の引き金を引くに等しい。もちろん、政府財政の破綻も同時に起きる。)

 評価損計上の必要なしなのだが、実質的な損が出ていないかというとそうではない。

 日銀保有の国債を600兆円、平均残期間を7年、金利がゼロから3.5%にアップしたと假定して損害額を計算してみる。

 600兆円÷(1+0.035×7年)=482兆円

 600兆円の国債の現在価値は482兆円ということになり、118兆円の評価損ということになる。

<SVBの経営破綻と保有債券は株式の売却>
 3/10に米国のシリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻し、米国連邦預金保険公社の管理下に移された。原因は、短期資金の預金で集めたお金を長期資産で運用したためだといわれている。2022年に上場したハイテク企業やヘルスケア企業の44%に資金提供していた。3/9~10日にかけてSVB株価が86%下落し、経営破綻懸念が高まったので、法人が一斉に預金を引き下ろして、別の銀行へ預けたために、支払資金が不足したので経営破綻へ追い込まれた。
 SVBは慌ててもっている債券ポートフォリオを売却して換金し、18億ドルの損失を計上した。購入金額では売れない。大幅に値下がりした市場価格で売るしかないのである。この損失をカバーするために23億ドルの保有株式の売却をしようとしたが失敗している。損失がカバーできるような価格がつかなかったのだろう。急いでいるから買いたたかれる。それが欧米の市場の現実である。
*「SVBの預金者保護費用、銀行界が2兆円負担 米当局案」5/12日経新聞配信
**「SVB銀行破綻を解説」3/13ヤフーニュース

<まとめ:日銀はすでに打つ手を失っている>
 結論は、日本の会計原則上、保有している国債を満期まで保有するなら、評価損は計上しなくていいのだが、それはインチキ。実際には市場ではすでに購入した価格では売れないのだ。会社が業績悪化で保有国債を売却する必要が出たら、1000万円では売れない、市場では741万円になる。
 したがって、評価損を計上しなくていいという会計規則は「絵に描いた餅」。記帳や仕訳は事実を事実通りにやるのが原則である。価値が下がっているのに、取得原価での表示のままにするというのは、会計処理としては不適切である。

 日本でも日銀が長期金利を3.5%にアップしたら、政府は赤字国債を発行できなくなるし、日銀や市中銀行が保有している国債の実質価値が大幅に下がる。金利が3.5%にアップすれば、先の假定では保有国債は20%も市場価値が低下する。
 令和3年上半期の日銀総資産額は724.6兆円、総負債額は719.6兆円であるから、純資産額は4.9兆円しかない。金利が1%へ上昇しても債務超過は避けられない。だから日銀は保有国債を減らすべきなのだ。減らすためには金利を上げないと売れない。にっちもさっちもいかない瀬戸際に来ている。すでに日銀が経営破綻を回避する方策はない。2012年の第二次安倍晋三内閣スタートと黒田氏の日銀総裁就任は、日銀経営破綻と日本政府財政の破綻を目的にしていたようにしか見えない。「アベノミクス三本の矢」で、この10年間で日銀総資産は500兆円も増えている。中身のほとんどが国債購入である。財政規律はなくなってしまい、すっかり戦時中に戻った。

預金保険機による預金保証は1000万円のみ>
 日本の銀行の預金保証は1銀行につき1000万円が限度である。プライム市場へ上場している企業は、数百億円単位の預金を保有している企業がほとんどだろう。財務担当役員がリスク回避のために、海外の銀行へ預金を一斉に移したら、何が起こるだろう?都市銀行と言えどもひとたまりもあるまい。リスク回避措置をしなければ、財務担当役員は責任を問われる。株主代表訴訟の対象となるのは確実だから、取締役の職を失うだけではすまぬ。リスクを放置すれば、損害が出たときに他の役員も法的な責任を問われるだろう。
 プライム市場へ上場している企業が一斉に預金を引き出したら、邦銀が支払資金を調達できなくなるような事態が起きる。邦銀に預けっぱなしにした企業は会社の存続にかかわるような損害を被る、理由は簡単、1銀行当たり1000万円しか保証がないからだ。経営破綻した銀行が清算処理されて、いくら戻ってくるのか確定するまで預金は下せない。

 日銀は長期金利を3.5%にアップするわけにはいかないし、政府も新規赤字国債の発行が著しく困難となり財政が破綻する。公務員給与も支払えない「債務不履行」が発生する。

 富士山噴火でも首都圏でM7クラスの直下型地震が発生しても、東南海巨大地震・津波が発生しても、数百兆円単位の損害が出て、そのためには赤字国債を大増発しないといけない。
 巨大な災害が起きれば、日本はそのときに、日銀の経営破綻し、そして政府財政も破綻する。長期金利を5%くらいに設定しないと国債が発行できなくなるだろう。

 政府は何をやっているのだろう。
 国会議員は災害とその影響について、国会で現実的で具体性のある議論をしてもらいたい。

<最近1週間で全国各地で起きた地震>
 北海道日高東部・震度4(5/11)、青森県東方沖・震度4/M5.5(5/11)、千葉木更津市・震度5強/M5.2(5/11)、能登半島珠洲市・震度6強(5/5)、鹿児島県トカラ列島近海・震度4(5/11)震度5弱(5/13)、沖縄県宮古島近海・震度3/M6.1。

 北、太平洋沿岸、日本海沿岸、九州南岸、沖縄県と震源地の分布が広い。

<リスクヘッジにはなにがよいのか>
 金は本源的な貨幣である。換金にも不安はないから、金での保有がいい。問題は保管である。自宅に保管したのでは強盗に襲われるリスクがあるので、貸金庫がいい。
 法人が預金の半分くらいを金で保有するようなことになれば、金相場がさらに上がりそうだ。田中貴金属店のような金地金を販売する会社は、リスク回避のために法人客へ金購入を勧めたらいい。ついでに、売った金地金の保管会社をつくって、事業拡大したらいい。
 首都直下型の地震が来ようと、東南海連動型巨大地震が来ようと、大津波が襲おうと、富士山が噴火しようと、金地金はリスクに強い。

<余談:10年物国債金利が2%に上昇したら、日銀は28兆円の債務超過>
 政府は今年度の国債利払い費予算を1.1%で組んでいるので、その数字を使ってみる。日銀国債保有残高を600兆円、平均残年数を7年とすると、満期までに日銀が受け取る金額は、646.2兆円となる。
 600兆円×(1+0.011×7年)=646.2兆円
 仮に、金利が2%にアップしたとすると、満期に646.2兆円を受け取るために必要な国債の金額は計算上566.8兆円となる。
 646.2兆円÷(1+0.02×7年)=566.8兆円
 評価損は33.2兆円である。
 600兆円-566.8兆円=33.2兆円

 日銀の純資産は4.9超円しかないから、28.3兆円の債務超過となる。

 さて、一般の銀行なら、払い戻し資金が枯渇すれば、SVBのように経営破綻になるが、日本銀行は中央銀行である。中央銀行の経営破綻とは何かという問題がある。発券銀行だから、いくらでも資金供給できるではないか、したがって経営破綻はあり得ないとその点からは言えそうだが、本当にそうだろうか?中央銀行の経営破綻とは何かという問題を稿を改めて分析してみたい。



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