11月15日、NHK朝のラジオ番組「社会の見方・わたしの意見」で森永卓郎氏が標記のテーマで株価水準の評価と解説をした。論旨を紹介した後で、さらに突っ込んだ分析をしてみる。

 株価水準の評価方法には二つある、一つはPER(株価収益率)でもう一つはバフェット指数である。

 PER=株価÷(税引き後所得÷株式数)

 PERは株価が一株当たりの税引き後利益の何年分に相当するかという指標である。バブル期の1980年代後半から1990年代初頭には60倍に達していた。現在は15倍であるからPERからすると適正水準にある。

 もう一つの評価方法は著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏が開発した指標である。

 バフェット指数=上場株式の時価総額÷DDP

 この指数が1であれば適正水準、1.5だとバブル崩壊水準と判断されるのだが、現在1.3倍でバブル水準である。
  PERとバフェット指数は連動して動くのが自然だが、日本の株価はPERとバフェット指数が乖離している。
 その原因は企業が労働分配率を下げて利益を増やしているからだと森永氏は主張するが、その通りだと思う。労働分配率を下げると労働者の所得は減少するが、第2次安倍政権になってから実質賃金は3%減少した。所得が減少すれば消費が伸びない。消費が増えなければいずれ不景気になる。
 都心の不動産バブルについても指摘があった。銀座四丁目交差点の鳩居堂の地価が1992年に1.2億円だったが、現在1.33億円で、バブルの頂点を超えている。オリンピックがらみで不動産投資が増えているからで、投資ブームはオリンピック前に終わる。そうすると、値下がりがはじまり、銀行が融資を引き揚げる。資金手当てに不動産を売却したり、株を売却して資金を手当てすることになる。都心の不動産価格の暴落と株価の低下が避けられないから、ミニリーマンショックのようなことが日本国内で起きるという。その時期を早ければ来年、遅くとも再来年(東京オリンピックの前年)と予測している。

 さて、ebisuの分析をつけたそう。自動車メーカが利益を伸ばしている。第2次安倍政権の直前、2012年11月は80¥/$であったが、昨日は111.27¥/$、1.39倍の円安である。自動車メーカーは1.39倍の逆数である0.719倍に労働者の賃金を国際的には引き下げたことになる。4割の円安はドルベースでみると3割の賃金低下を引き起こす。2012年に日本の労働者の最低賃金が1600円/時間だとするとドル換算で20ドルだが、現在は14ドルということ。日銀の異次元の金融緩和とそれに続くマイナス金利導入で円安を演出した。アベノミクスは、結果として、日本人の賃金をドルベースで3割も下げることに成功したのである。だから安倍政権が始まってから、自動車産業のみならず、輸出産業が空前の利益を上げ続けてもおかしくはない。それは、輸出産業が強くなったのではなくて、国際的に日本人の賃金水準が3割も下がったためである。
 全産業に占める輸出産業の比率はいまや25%程度に過ぎない、他の75%の産業分野は円安によって原材料費が高騰して経営難にあえいでいる。これがアベノミクスの実態だ。

 大手臨床検査センターのSRLは1984年には売上高経常利益率が12%あった。それから数年して、急成長期が終わると、利益率は8%に落ちた。非正規雇用の準社員を全員社員と同等の待遇にすると、計算上会社の利益はゼロとなることに気がついた。そのあたりの事情は90年代後半になっても変わらなかった。売上高600億円で50億円の利益だったが、営業部門やラボ部門で働く準社員を社員と同等の待遇にすると利益はゼロ、そうした事情はいまも変わっていないのだろう。
 非正規雇用の拡大は企業経営を甘くしてしまう。一部の例外を除き、いまや大半の上場企業が非正規雇用の拡大で利益を増大させているといってよい。その一方で役員報酬は上昇を続け、1990年ころの2.5倍になっている。
 日本企業から、「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」の価値観がじわじわと失われつつある。株主と取締役、執行役員がよければ、あとは野となれ山となれ。これでは日本企業の永続的な発展は無理だろう。一生懸命に浮利を追っている。
 働いている従業員もよくなるためには、経営者の経営能力が成長しなければならないのだが、これがほとんど絶望的だ。コストカットで利益を増大させるというのは経営としては下の下であるが、カルロスゴーンのようにそういう(お金の亡者のごとき)経営者がマスコミでもてはやされてきた。毎朝イワシの目刺しを食べ、粗衣粗食に甘んじ、死後は家屋敷を寄付するという、金銭に恬淡としていた経団連会長の土光さんのような人がいなくなったということか。当時も土光さんのような人は希少種だった。この20年間で日本企業の実力は中身の充実がないがしろにされて、見かけ上の利益が増えている。
 わたしは軍事用・産業用エレクトロニクス輸入商社でも、SRLの子会社経営にタッチした時でも、合計5社の経営や経営改善にタッチしたが、赤字を黒字にするために経費を削ったり、人件費を削ったりしたことはない。「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」はやればやれるのだ。歴史の古い日本企業にそういう価値観が生き残っている。希望の星だろう。

*#3499 ドイツと日本:生産性比較 Feb. 6, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-06

 #3502 労働生産性向上の果実はどこへ? Feb. 9, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-08-1

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