中2の生徒が中3の英語の問題集をやっているのだが、文法がわからないところがあって不安だという。習った範囲の英文法はほとんど理解しており、学力テストで英語はいつも9割を超えているのだが、それでも文法に不安があるという。話が曖昧模糊としていてどこに問題を感じているのかチェックしたくなった。

 内容語と機能語の説明と音読の話をしようか、五文型を説明しようか、語順の話をしようか、冠詞の話をしようかとメニューをいくつか提示してから、最初の項の説明をはじめた。文法専門用語が中学生には不案内であるから、限定詞とは何か、たとえばthisは名詞を修飾する限定詞と「これ」や「上述のこと」を意味する指示代名詞の二通りの機能があるが、機能の違い、文法用語の概説もしなければならない。説明を途中でやめた。テーマごとにレジュメを渡してやるべきだと気づいた。こういうときは方向を変えたほうがよい。

 何か具体的な質問があるかと訊いた。そこから探ればよい。英作文で手も足も出ない問題があるというので、問題文を見た。

 「太陽は東から昇り西に沈む」

 中学校の教科書にはこういう文は出てこない。太陽がsunであることは知っていたが、定冠詞をつけなければならないことは知らない。「地球人」が太陽といったら、それは毎日見ている太陽だから、定冠詞がつく。冠詞の知識が足りないことがわかった。まだ中2だからあたりまえだ。
 東から上って西に沈むのは毎日繰り返されることだから、単純現在形で表現する。もっと高級な言葉で言うと「普遍的な真理」を高校では習う。これも文法事項だろう。
 「水は百度で沸騰する」"Water boils 100 degrees Celsius."

 「昇る」はrise、これは自動詞で、「持ち上げる」はraise、「raise the Taytanic」という映画があった。沈没した豪華客船を「浮上させる」という意味だ。climbも「のぼる」だが、こっちは「登る」ほうでclimb the mountain 、句をセットで覚えるといい。句とは何か、節とは何か、文とは何か、これも文法用語の定義が必要になる。
 「沈む」はsinkではなくてset。sinkもsetも頻出動詞だから不規則変化である。「(東に)昇るは」 from the east ではなくて、in the east だ。「東の空に昇る」くらいの意味だろうが、これは知らないとできない。こういう語彙や用法を知っていないと「太陽は東から昇り西に沈む」という簡単な日本文も英文にできない。

 学校の教科書を読むだけではインプットがあまりにも貧弱だから、英語の力はたいしてつかぬ。たくさんの英文を読めば語彙力は拡張できる。「読み・書き・ソロバン」である。この生徒はいま斉藤隆著『語彙力こそが教養である』を音読テキストにしてトレーニング中なので、日本語・語彙力の重要性はよく承知しているから話は簡単だ。英語も同じことなのだ。
 日本語で書かれた優れた文をたくさん読めば読解力が育つ。そしてたくさんの文をインプットすることで、用例が蓄積され、書けるようになる。見て書く「視写」のようなトレーニングもやる必要がある。3回英文を読んで、それを書くトレーニングが効果が大きい。日本語も英語もスキルアップの仕方は似たようなものだ。
 「太陽は東から昇り西に沈む」という短い文ですら、中2程度の語彙力では手も足も出ない。
 
 The sun rises in the east and sets in the west.

 「高速道路を時速60マイルで車が走っていた」という問題にもてこずっていた。熟考の末に次のように書いた。

 Car drived on the highway.

 おいおい無冠詞のcarでは具体的なイメージがわかないので困る。ここでは a car だが、carを主語にしたら「車が運転している」というヘンな文になってしまう。driveは不規則動詞で過去形はdroveだが、ここは過去進行形を使う。進行相を使うということがわかっていないようだ。どういう場合に単純現在形を使い、どういう場合に過去形を使い、どういう場合に過去進行形を使うのかという判断があいまいだ。だしかにこれらは文法に関連してはいるが、実はインプット不足が一番の原因だ。正解は次の文だ。

 A car was running on the highway 60 miles an hour.

 解答には along the highway となっていた。along の本義は「(長さのあるものの)最初から最後まで、全体の」が基本義*。along the river では「川沿いに」となるが、along the highway だと「高速道路上を」という意味になる。どちらでもよい。

 「走る」が人間が走るrunningのも車が走るのも同じ単語だというのも語彙知識。日本語でも、「人が走る」「犬が走る」「車が走る」「電車が走る」「川が走っている」とみな同じ「走る」である。

 「何が足りないと思う?」とその生徒に訊いてみた。
 「単語を知らない、そして文法がわかっていないのだと思います」
 「どうすればよいかもうわかっただろう。、たくさん読み、書くことだ。大事なのは「読み・書き・そろばん」、インプットが不足しているから語彙力が貧弱で教科書以外の語彙を使う英作文ができない」

 ハンドルネーム後志のおじさんが、NHKラジオ基礎英語の利用を推奨しているので受け売りしてみた。30回同調音読と書き取りトレーニングである。
 中2だから「NHK基礎英語2」がいい。簡単だったら「NHK基礎英語3」をやればいい。1年間音読トレーニングを積めば内容語や機能語を意識して上手に読めるようになる。
 「数学は楽しいのでいくらでもやれるが、英語のトレーニングは続けられる自信がありません」
 「いいんだ、3ヶ月でもやればやっただけ効果は出るから心配要らない。そして少し期間をおいてまたやったらいい。」
 音読が上手になったら、高校教科書3年分を9ヶ月くらいかけて塾の授業で読む。並行して" Grammar in use Intermediate" か 『マーフィのケンブリッジ英文法』のどちらかをやる。その次のステップは英字新聞ジャパンタイムズの記事だ。
 これくらいで日本国内の難関大学英語二次試験はクリアできる。

 毎日15分間のラジオ講座を録音して、繰り返し音読トレーニングを30分間やり続けるのは男の生徒にとっては結構辛い。男子生徒はこういう単純な繰り返し作業に向いていない者が多い。3ヶ月やっても効果はあるから、1年ではなくてとりあえず3ヶ月がんばってみたらいい。音読のコツがつかめたら、読むものを増やせばいい。とにかく、大量にインプットして、語彙力を拡張することが肝要だ。

 録音装置は最近はいいものがでているので、ネットで調べたらいい。ソニーのレコーダ付きラジオとMP3プレイヤーがよさそうだ。わたしは5年ほど前に買ったサンヨー製のラジオレコーダーICR-RS110Mを大事に使っている。
 ジャパンタイムズの購読をやめたので、NHKラジオ「ニュースで英会話」を聴いている。読むのとは違っていて楽しい。語彙の収集が自然にできて便利この上なし。


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