大数学者の岡潔先生はたくさんの著書の中で、日本人の学問にとって最重要なものは心のセンターにある日本的情緒であると言明しています。岡潔はフランス留学しますが、フランスの文化には学ぶべきものがもうないとわかると、日本に戻って芭蕉の俳句の研究と仏道修行(禅)に数年間没頭します。その後、数学の難問とされていたものを3つ次々に証明してしまいます。数学にノーベル賞があれば3つ受賞していると、『国家の品格』の著者で数学者である藤原正彦がどこかで書いていました。とにかく明治以降で数学者の中では脅威の業績を上げた人です。晩年に日本の教育の現状を憂慮され、教育論に関わる本を何冊も出されています。

 わたしは大学院でマルクス経済学の公理を析出したあと、それまでの西欧の経済学とはまったく異質の経済学を創造するために二十数年間時々思い出しては考え続けてきたのですが、西欧経済学の公理である工場労働を日本的職人仕事観に置き換えることで新しい公理系に基づく経済学を創造できることに気がつきました。その概要をカテゴリー「資本論と21世紀の経済学」にまとめてあります。数年後に整理して3版を公表するつもりです。

 話を元に戻しますが、学問というものは必要なデータを整理・集積して分析した後で、さて、どうするかという分岐点に差し掛かりますが、そこで重要なのは心のセンターにある日本的情緒です。ビジネスでも同じことです。いくつかある選択肢の中から、最後にどれを選ぶかは心のセンターにある情緒が決めます。それほど情緒は重要な役割を果たしています。
 最近若い方から、弊ブログに投稿をいただきました。それをお読みいただければ、わたしが言わんとするところがよく伝わると感じたので、本欄にアップして紹介します。

#3424投稿欄より転載
(わかりやすくするために字句を追記しています)
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#1 Y
初めまして。
興味深い内容でしたので初めてコメントさせていただきます。

私の友人にこれから根室市立病院にコメディカルとして働こうと考えている人がいるのですが、この記事を見ると根室市立病院は公立病院とは名ばかりで先に未来が見えない病院であると感じます。
友人にとっては余計なお世話であるのはわかっているのですが、過去のebisuさんの根室市立病院の記事から推察するに、状況は好転していくと考えにくく友人が心配です。
私自身が経営に対する知識など何もなく、素人意見で友人の選択を見誤らせることはしたくないと思っています。

もしよろしければより深い根室市立病院の経営状況に対する見解をお聞きしたいです。
初めてのコメントにも関わらず長文での投稿、またお願いまでしてしまい大変失礼だとは感じていますがお願いします。
by よっち (2016-10-04 11:55)

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#2 e
よっちさん

初コメントありがとうございます。

市立根室病院は立派な公立病院です。特に建物はトビキリ上等、坪単価135万円で建て替えを行いました。建物自体は四十数億円だったようですが、もろもろ設備やシステムやらで70億円もかけましたから、減価償却負担がきつい、経営の足かせになっています。
高額機器の選び方も問題ありということは、過去ログを引いてもらえば何か出てくるでしょう。
院内システムについては何度も失敗を重ねているようです。建て替え時に電子カルテを前提に実務設計をすべきでしたが、実務設計や開発をマネジメントできる人材がいませんでした。いまもいないでしょう。どぶにお金を捨てているようなものです。3倍くらいかかっています。一度の更新に3~5億円程度かかります。

事務長や管理課長は頻繁に変わるので、仕事を知らないでしょう。いまいるかどうか知りませんが「惨事」職の方がいらっしゃたらご機嫌を損ねないように。不祥事があってお辞めになった事務長がいらっしゃいましたが、その方と「惨事」と市長の三人はウマが合うようで、「三羽烏」と元市立病院医師のどなたかがネーミングしていらっしゃいました。
漢字変換がおかしいですね、どうしてもこの字「惨事」が出てきてしまいます。

院内に全体をコントロールできる「チーフマネジメント」がいません。経営改善は毎年叫んでいるようですが、(実際には建て替え前からですが)建て替えてから実績はゼロ。経営改善のために課長職を一人増やし、効果なし。それで経営改善を外部委託、それもまったく効果なし。

院長の病院運営に不満があり、埒があかないので市長へ異議を申し立てた医師もいたようですが、けんもほろろに市長に拒否され根室を離れました、噂ですよ。もう3年くらいになるかな?
(こういうことはソースの異なる2方向からの情報が合致しなければ書きません。)

数年前までは孝仁会(メインバンクは大地みらい信金 道銀 10/13投稿欄で指摘があり慎んで訂正します)が出てくる予定があったはずですが、札幌の大野病院を買収したので、市立根室病院に出てくる人材的な余裕がなくなったでしょう。ここが出てきたら、医師も看護師もパラメディカルのスタッフも入れ替えになるので、お勧めできませんでしたが、そういう懸念はなくなったとわたしは判断しています。
市長はそういう線で構想して、旭川医大の引き上げで市立根室病院運営が危機に瀕したときに数人の医師と共に根室の医療を支え続けてくれた北大出のA院長を外し、現院長の体制ができました。

孝仁会については、万が一にも見込みが違ったらごめんなさい。そのときは、ほとんどの医師と看護師、パラメディカル・スタッフが解雇になります。
(同じ体制では経営改善できないですから、経営の観点からは当然のことです。)

こういう改善の兆しの見えない職場こそ、やる気にあふれた若者にはチャレンジし甲斐があるのかも。

黒字で順風満帆も結構ですが、赤字の会社を選んで入社し、社内の諸制度を整備し、経営改善を徹底して、店頭公開するというのも悪くはないと思います。

そういう仕事を何度かしたからそう思うのです。
(もちろん、経営内容の優良な企業にも勤務経験があります。SRLという臨床検査会社ですが東証Ⅱ部上場後、東証1部上場を果たしました。無借金・高収益の会社でした。16年間そこで働きました。赤字の子会社を2社黒字にしました、楽しかった。)

若い人は夢をもって仕事をしてもらいたい。この会社ダメと10人中9人が言うような会社こそ、チャレンジし甲斐があるというものです。

でも、そんな元気がなければ、安全な選択をしたほうがいいと思います。
安全とそのとき思った道のほうが、十年後にはずっと危険だったことに気がつくなんて話はよくあることなのでご用心。
目先で判断してはいけません。
ようするに、先のことなど誰にもわからないのですよ。

ふるさとの町の市立病院には、われこそが経営改善してやる、果敢に戦って根室の地域医療の現状を変えてみせるという、強い志のある若者たちが集まってもらいたい。

さて、これをどう読んでもらえるのか、なかなかむずかしそうですね。

by ebisu (2016-10-05 01:25)
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#3 Y
丁寧な回答を頂き本当にありがとうございます。
本当に有難いです。

考仁会が根室に来る予定だった話は友人も知っていたようで、大野病院買収の話からとりあえず根室市立病院での医療従事者の解雇はなさそうだという思いも少しあったようです。
友人は専門性を深めることと、社会人としてのスキルアップが念頭に入れているようです。
最新機器を過剰ではありますが取り入れているようなのでスキルアップ自体は本人次第でいくらでもできるのではないかと思いました。
友人は「俺みたいな若いやつらが地方の就職を嫌がるのはわかるけど、全てが地方から遠ざかるような姿勢では何も変わらない。
正直まだ若いしやりたいと感じたら突っ走ってみるぐらいでいいんじゃないの」というふうにも言っておりました。
友人がここまで情熱をもって根室に行こうと思っていることに対して正直驚いたの同時に自分の考えの未熟さに恥ずかしさも感じています。

根室市長の経営手腕だけでなく人格すら疑うような記事すらあったので、真っすぐな思いが潰され、叩かれ、心を痛めてしまうことが心配であったりします。
経営状況も試行錯誤?をしていますが実績は無く、リスクの高い選択になるとも思います
しかし、友人の志が実を結ぶかどうかは置いておいて、まずその思いを抱けるということ自体が私は本当に尊いことだと思い、心から応援しようと思います。
それにebisuさんの先の事など誰にもわからないとは全くその通りで私が心配ばかりめぐらすこと自体、友人からしたらはた迷惑な話でしょうし。笑

ebisuさんのご返答から友人に対する具体的な熱い思いも聞けました。
ただただ感謝するばかりです。
くどいようですが本当にありがとうございました。
by よっち (2016-10-05 16:09)
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#4 e
よっちさん

お役に立ててうれしいです。
すこしは若い人たちのお役に立ちたい、そう思っている団塊世代の老人は少なくありません。わたしもそういう中の一人です。
ありがとう。
by ebisu (2016-10-05 21:37) 
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〈 日本的情緒を育む音読トレーニング 〉
 日本的情緒を育むために、国語が苦手な中2の生徒に、8月18日に『日本の古典を読む④ 万葉集』(小学館)を渡して、毎日一句、現代語訳と解説で内容を理解した後に、30回音読を課しています。一日に二つをやってはいけない、五七調のリズムを体にしみこませるように一日一句をゆっくり味わえと言ってあります。現在までのところ忠実にやっているようです。言葉からイメージをつむぎだせるようになればあとは自分の問題、興味があれば和歌を中心に古典を読むことになるかもしれません。日本的情緒が心の中に根を下ろすことを期待しています。
 先週、音読トレーニング教材に使っていた斉藤隆著『日本人は何を考えてきたのか』(祥伝社、2016年3月刊)を読み終わりました。今週から同じ著者の『語彙力こそが教養である』(角川新書、2015年12月刊)を一緒に読みます。
 音読授業はやる心構えのできている生徒にだけボランティアで教えています。以前は全員にやっていたのですが、やる気のない生徒が増えたので、全員対象の音読トレーニングはやめました。厭々(いやいや)やっても身につくものはありませんから。

日本の古典をよむ 全20巻セット

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2009/03/03
  • メディア: 単行本

日本人は何を考えてきたのか――日本の思想1300年を読みなおす

  • 作者: 齋藤 孝
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2016/03/01
  • メディア: 単行本

語彙力こそが教養である (角川新書)

  • 作者: 齋藤 孝
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/12/10
  • メディア: 新書


〈 自我 (ego) について 〉
  データを集めて分析し、その結果自分に得か損かを考慮して行動するのはegoの作用です。
 ときに損得勘定を離れて、人として何をなすべきかという視点から物事を考え、行動する人もいます。
(「釧路の教育を考える会」にはどういうわけかそういう人たちが集まっています。地元経済団体(商工会議所・中小企業家同友会・ロータリークラブ)の会員、市役所職員、市議会議員(釧路市議会議長他2名)、学校の先生、弁護士、学習塾関係者等。学力低下の現状に危機意識をもった人たちが集まっていますが、集まったことで私的に得をする人はいません。学力低下に歯止めをかけられたらいいなとの思いから活動しています。会長の角田さんは元釧路教育長で好々爺です。現役時代にお会いしたかったと数名の会員が言ってます。彼のような骨のある教育長がいたら、腹を割って話してみたいとわたしも思います。)

 自分と他人を弁別する、自他弁別本能と数学者の岡潔先生がおっしゃっています。自他弁別本能は抑止しなければならない本能です。それはエゴですから、抑止の必要があります。
岡潔は自我の芽生える時期に祖父から、「自分をあとにして他(ひと)を先にせよ」という戒律を教えられたと書いています。

「造化が人に課した義務を果たしたのは、私の場合は祖父であって、私はそのお陰でどうにか人になることができたのであって、人の位を失わないように、今でも絶えず注意を払っているのである」
…『日本という水槽の水の入れ替え方』p89

 肉体と共に自我はあるが、真我は生命の流れそのものだから自他の区別がないという岡潔先生の意見にわたしは深く共鳴しています。
 もちろん、勝手に共鳴しているだけで、他人に強要するとか、これが正しい考え方だと主張するつもりは毛頭ありません。富士山の山へ登るルートがいくつでもありうるように、高みへ至る道は他にもあるからです。



*#3424 取材力:市立根室病院の赤字額はいくら? Sep. 29, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-09-29



 #3433 授業のレベル低下が先か、生徒の学力低下が先か? Oct. 10, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-10-09-1

 #3431 検証:基本問題のみの授業と学力テストのレベルの差 Oct. 9, 2016 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-10-08

 #3429 第2回フリー授業参観:C中学校  Oct. 6, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-10-06

 #3421 数学:低学力のメカニズムとその破壊 Sep. 24, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-09-24-1

*#3276 四月学力テストデータ分析: C中学校2年生  Apr. 24, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-04-24

 #2870 根室の中学生の学力の現状(2):C中学校  Nov. 16, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-11-16-1





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春宵十話 随筆集/数学者が綴る人生1 (光文社文庫)

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日本の国という水槽の水の入れ替え方―憂国の随想集

  • 作者: 岡 潔
  • 出版社/メーカー: 成甲書房
  • 発売日: 2004/04
  • メディア: 単行本

最初と最後に挙げた本は二度読みました、そして心が震えました。1970年代に読むべきでした。わたしにとって必要な遠回りであったのだろうと思います。若い人たちがむさぼり読むことを期待して紹介します。