〈最終更新日時〉 9月17日午前11時50分

 「平成26年度年金運用報告書」(以下「H26報告書」と略記)33ページには「参考3-1 年金積立金額(簿価・時価)の推移」が載ってる。データは平成元年から26年度末まである。平成13年度から括弧書きで時価が載っているのだが、平成13年度末簿価147兆円に対して時価144兆円で3兆円しか差がないのはどういうわけだろう。これは理由がわからないので「疑問その1」としておくが、理由の推測はつく、調べて次回取り上げる。
 平成26年度末積立金残高は簿価112.1兆円、時価145.9兆円、差額(時価-簿価)33.78兆円。この内13.7兆円は安倍政権(平成24年度)以前のものである。33.7兆円の8割ぐらいは安倍政権以前に購入した株の評価益だろう。
 何回目かに言及するが、安倍政権になってからGPIFのポートフォリオを変更させて買い増した国内株式で大きな損失が出ていることがデータで明らかになる。だれが責任を取るのだろう?答えは簡単明快、福島第一原発事故同様にだれも責任を取らぬのがこの国の常識。

〈 年金積立金は14年前から取り崩しが始まっている 〉
 年金積立金推移表は厚生年金と国民年金に分かれている。厚生年金の平成26年度簿価残高は104.9兆円(兆円の小数第2位以下切り捨て、以下同じ)、国民年金の簿価残高は7.1兆円である。国民年金の簿価は全体112.1兆円の6.3%に過ぎない。厚生年金積立金簿価は93.7%を占めている。

 簿価の残高を見ると、厚生年金は平成14年の137.7兆円がピーク、国民年金はのそれは平成13年の9.9兆円である。
 平成26年度末は厚生年金が104.9兆円、国民年金が7.1兆円である。12年間で厚生年金積立金は32.8兆円減少し、国民年金積立金は2.8兆円減少した。
 厚生年金積立金と国民年金積立金の合計額のピークは平成14年度末の147.6兆円であるが、平成26年度末には112.1兆円へ、35.5兆円減少した。

 GPIFは平成15年から年金積立金を取り崩しはじめたことがこの表からわかる。年平均3.0兆円の取り崩しである。ポートフォリオを変えたから、このペースを前提にすると今後は毎年「3.0兆円÷4=0.8兆円」の国内株式を売却することになる。でも、このペースはいままでこうだったというだけで、諸般の事情を考慮に入れると加速することを覚悟すべきだろう。

 ポートフォリオを変更し、12%から25%へ国内株式保有割合を増やした。37ページの「(1)運用資産・資産構成割合の推移」表を見ると、平成24年度末14.2兆円であった国内株式は、平成26年度末には31.6兆円に増えている。2年間で17.4兆円買い増したことになる。株価が上がるはずだ。新たなポートフォリオ限度額まで買い増したから、もうこれ以上買い増しはできない。積立金が取り崩されたら、国内株式も市場で毎年売却しなければならない。問題はこの買い増された17.4兆円の国内株式の平均単価である。株価はピーク時には2万円台だったが、26年度末の日経平均1万9206.99円に対して27年度末は1万6758.67円である。買い増した分に大きな穴が開いただろう。今月中に「平成27年度年金運用報告書」が公表されるが、公開された表を見てもポートフォリオ変更による買い増し分でどれくらいの損失が出たかはわからないから、なんらかの推計を試みるしかない。

 単純計算で30年後に年金積立金は90兆円減少して22.1兆円残る計算にはなるが、積立金の減少ペースが加速すればもっと早い時期にゼロになる。年金保険料収入しだいということだから、生産年齢人口減少下で非正規雇用をこのまま放置すれば、ずっと早い時期に年金積立金がゼロとなり、年金財政が破綻する。20年もつだろうか?社会保障・人口問題研究所の生産年齢人口推計値を使って、いくつか前提条件を設定してシミュレーションしてみたい。

〈 ポートフォリオ変更はなぜなされたのか? 〉
 株価下落を防ぐために政府はGPIFのポートフォリオを変更させて、国内株式保有比率をアップすることで、買入余力を増やしたのだろう。株高の演出である。
 その煽りを受けて最近2年間でGPIF保有の国債が大量に売りに出た。日銀が国債保有を増やしているのはここにもその理由がある。ほうっておいたら債券市場で長期金利が上昇してマイナス金利政策が破綻していた。

 次回は、簿価と時価との差額とリスクを取り上げようと思う。
 いろいろ疑問はある、年金給付金は年額どれくらいなのか、その金額の何倍の積立金があるのか、年金保険料収入の推移はどうなっているのかなど、「報告書」を読んでいけば明らかになるだろう。


*平成26年度年金運用報告書
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei/tsumitate/tsumitatekin_unyou/dl/houkokusho_h26_01.pdf


《 余談:同じ手口 》
 沖縄県を国が訴えた裁判(米軍普天間飛行場を辺野古へ移す件)の判決が昨日(9/16)出たが、予想されたとおり、沖縄県側の完敗だった。安倍政権は沖縄よりだった福岡地方裁判所那覇支部の裁判長を昨年異動させて、政府よりの裁判官に替えた。そして今回の判決である。
 同じことはGPIFでも起きている。ポートフォリオを変えさせたくば反対する理事を入れ替えればいいだけ。2-3年かければ思いのままにできる。
 日銀の独立性も同じ手口で奪われた。ゼロ金利政策に消極的だった白川前総裁をはずして黒田総裁に替えた。そしてゼロ金利政策の継続に反対だった理事を外して政府よりの理事を任命した。
 三権分立も日銀の政府からの独立性もこうして失われた。ブレーキが壊れてしまった暴走車はますます速度を上げ、今年2月からマイナス金利を導入、エンジン回転数はレッドゾーンに、壊れるまで速度を下げられない。
  マスコミはこれら三つの事象に共通項があるにもかかわらず、そのことを報じない。ああ、そういえばNHKも同じ手で政権側に抱き込んだんだっけ。

 自民党国会議員からもこうした政権運営の手口を批判する者が出てこない。自由と民主主義を守るよりも議席の安全が優先する。選挙で公認を外されることを恐れ、ものを言わぬ国会議員や地方議員ばかりでは政府財政が破綻して日本が沈没する。麻薬であり癌である政党交付金は廃止すべきだ。

〈 潔さ 〉
 民主党は女の党首に代わったが、またぞろ見飽きた「戦犯」たちがうごめいている。政権奪取後に無能力をさらけ出した幹部がさっさと議員を辞めなければ、名前だけ替えたって民進党は滅亡するほかはないのだろう。わかっていても政治家が職業になってしまっているから、幹部たちはいまさら政治家を辞められない。有権者はあきれている。

 健全な保守主義を標榜する勢力が台頭してほしい。


*#3416 年金積立金運用報告書を読む⑤:シミュレーション Sep. 18, 2016 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-09-18-1




      70%       20%