SSブログ

#3414 年金積立金運用報告書を読む③  Sep. 17, 2016 [94.年金]

< 「疑問その-1」 >
 前回の弊ブログで、平成13年から年金積立金の簿価と時価での両建て表示が始まっており、その差が3兆円しかないことを取り上げて「疑問その1」とした。
 調べてみたら、平成13年4月1日付手年金資金運用基金が設立されており、その前の組織から年金基金を時価で引き継いだのだろうと推測される。その後1年間で(平成13年度末に)評価益が3兆円出たということ。
 平成18年4月1日に年金積立金管理独立行政法人が設立されて現在に至っている。

< 公務員共済年金積立金もGPIFに統合された >
 公務員の共済年金は昨年10月にGPIFに統合されているから、公的年金積立金合計額は時価で約200兆円あるようだ。これで公的年金は一元化された。

< ババをつかまされたGPIF >
 GPIFのポートフォリオ見直しは平成26年に閣議決定され、10月31日に公表された。
 株の買い増しがなされ、国内株式比率は12%から25%に増大した。平成26年から27年にかけて17兆円の国内株式が買い増されている。政府がゼロ金利やマイナス金利で円安誘導し、株高誘導をする中でGPIFが大量に買いを入れたので、過去10年間で一番高値の時期にGPIFは株式を購入してしまった。
*日経平均株価の推移
http://ecodb.net/stock/nikkei.html

 いや、GPIFがわずか2年の間に国内株式を17兆円(共済年金分を含めると約26兆円)も買い増したから株価が上がったともいえるのである。安倍政権によるゼロ金利政策と円安誘導、そして公的年金のポートフォリオ変更による大量の買いという2重の演出によって株高が生じた

< 国民に回ってくるツケ >
 ツケは国民に回ってくる。GPIFは年金積立金を将来大きく毀損するリスクを抱えることになったし、国民は1700兆円の金融資産から受け取るべき利息34兆円(2%で計算)を毎年マイナス金利政策で失い続ける。安倍政権の3年間で100兆円もの増税が行われたに等しい


< 株価の変動とリスクの程度 >
            日経平均      NYダウ   為替レート
 平成25年度末 14,791.99円  16,532.61$ ¥103/$
 平成26年度末 19,206.99円  17,776.12$ ¥120/$
 平成27年度末 16,758.67円  17,603.32$ ¥110/$
(平成27年度末のNYダウと為替レートは4/5のもの)

 平成26年度の資産運用「収益額」は、14ページの「図表2-6 年金積立金全体の運用実績表」によれば15.2兆円である。これは、国内株式、外国株式、国内債券、外国債券での運用益の合計額である。10年物日本国債の金利はゼロに近い、米国債も今年2月にはマイナスになっている。平成20年3月末は0.792%である。だから、運用収益の90%以上が国内株式と外国株式の運用益による。
*米国財務省証券の金利推移
http://www.mof.go.jp/jgbs/reference/interest_rate/data/jgbcm_all.csv

 平成25年度末、26年度末、27年度末の3期にわたる日経平均を眺めれば、平成27年度末には約9兆円の国内株式運用損が出ていることがわかる。
 GPIFは平成14年から積立金の取り崩しを行っている。ポートフォリオの変更でこの2年間は国内株が買い増されたので株価が上昇したが、25%の保有限度に達した後、平成28年からまた元に戻って株の売却が始まるから、長期的な売り圧力となって株価が低迷することになる。
 日経平均が15,000円を割れば、平成26年度の報告書にある15兆円の運用益は吹っ飛ぶ。

< 積立金取崩し速度は大きくなる >
 株式運用のリスクよりも気になるのは、平成14年から始まっている取崩しで年金積立金が半分になるのはいつころか、ゼロになるのはいつころかということ。団塊世代の退職でこの4年間で生産年齢人口が448万人減少(#3311)した。団塊世代の退職が完了すると、この数字はもっと穏やかになるが、総人口よりもはるかに急速に生産年齢人口が縮小するのは事実であるから、年金保険料収入は激減していく。その結果毎年の年金積立金取崩し額も加速的に増えることが予想されるが、社会保障・人口問題研究所の推計データを利用してシミュレーションしてみたい。
*#3311 有効求人倍率1超はアベノミクスの成果?:ご冗談を(笑) June 1, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-06-01-1


< GPIFはマイナス金利政策を批判すべき >
 長期運用するものの半分を市場で価格変動の激しい株式に投ずるのはこのように大きなリスクを伴うが、政府が日銀と一緒になってマイナス金利政策を実施しているので、GPIFは国債での運用の道を断たれてしまっている

 政府は金融市場への介入をやめるべきだ。もっとも、介入をやめたら国債金利が暴騰して、ただちに政府財政が破綻する、つまり、にっちもさっちも行かないのだ。ゼロ金利の出口戦略はなく、状況はさらに悪化し、今年2月にマイナス金利導入に追い込まれた。「H26年年金運用報告書」を読むと、GPIFのポートフォリオ見直しは政府の財政金融政策の一環であったことがよくわかる。アベノミクスの2本の矢は国際通貨としての円の不信任と政府財政破綻に向かって飛び続けている。日銀の純資産はわずか7.7兆円しかないのに、350兆円もの国債を保有しているから、金利が上がれば純資産の数倍の損失が発生する。日銀が債務超過に陥るリスクが大きいから、日銀は純資産額の何倍もの国債を抱えてはいけないのである。すでに40倍を超える国債を抱えてしまっている。
 どうして経済界も自民党国会議員もこのような異常事態を批判しないのだろう?健全な保守主義の立場からは容認できない政策である。
 GPIFは年金積立金の運用を任されることで年金受給者の利害を代表しているのだから、理想論から言えば堂々とマイナス金利政策を批判すべきだ。しかし、そうした途端に理事の椅子から滑り落ちてしまう。わが身がかわいいのはGPIFの理事も、日銀政策委員会のメンバーも国会議員も同じである。信念と気骨を持ち合わせた人材がどの分野でも枯渇してしまったかのようだ。しがらみのない若い人たちが変革を担うしかない。

 
*平成26年度年金運用報告書
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei/ts


*#3416 年金積立金運用報告書を読む⑤:シミュレーション Sep. 18, 2016 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-09-18-1


*#3327 日銀による財政ファイナンスは財政法違反 June 13, 2016 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-06-12-1

*#3319 安倍晋三とはどういう人か:日銀破綻リスクが浮上  June 7, 2016  http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-06-07 
      70%       20%      
 日本経済 人気ブログランキング IN順 - 経済ブログ村教育ブログランキング - 教育ブログ村


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0