英語が嫌いでやりたがらなかった高2の生徒が、1ヶ月ほど前から教科書「VIVID Ⅱ」の読破にチャレンジしている。
 昨日は1時間半の授業で「lesson 9」part 1~ 4をやり終えた。前回も1時間半で4パートをやったので、1時間半の授業で1章を消化するペース(速度)が確保できたようだ。最後の章の後に、読み物の付録が数点載っているが、cover to cover で全部やっても8月初旬には終わりそうだ。前半の章よりも後半の章はすこしテクストの構文レベルが上がっているのだが速度が落ちないのはよい傾向だ。

(次(第2段階)で予定しているのは3年生の教科書である、目安は3ヶ月での読破。第3段階は読みやすい小説を数冊用意して選ばせようと思っている。100ページくらいやればあとは自分で読めるだろう。第4段階はJapan Timesである。全部やりきれば偏差値は70を超えるだろうが、やり切れる生徒は少ない。)
 
 本人の弁によると、単語を引く回数が減ったという。引く場合でも言い付けた通りに意味に見当をつけてから引くようにしている。当たる回数が増えてきたと喜んでいる。学習にはこういう上達の手応えが感じられる仕掛けがあったほうが意欲がわく。

 1章(lesson)が4パートに分かれているが、それぞれのパートに、1・2箇所キー・センテンスがあるので、そこは重点的に解説している。昨日は、その部分に質問が集中していたから、腕が上がってきた。

 3~5回音読しながら和語に直してもらう。辞書そのままで日本語として成立しないような訳や漢語訳をそのまま使って硬すぎる場合は、「大和言葉落とし」をして、普段使うやさしい日本語に直させる。辞書に並んだ漢字訳語をそのまま並べて和訳ができたつもりの高校生や大学生が多いから、適宜「大和言葉落とし」で英文のイメージを語ってもらうのは語学のセンスを磨く効果がある。

 レッスン11はアフガニスタンンの反政府武装勢力の「武装解除」がテーマである。タイトルは、
  'The Challenge of Disarmament'

  これを生徒は、「軍縮へのチャレンジ」と訳した。パート4まで目を通して、辞書を引いたあとでこの訳ではダメ。「軍縮」の話ではなく、手持ちの武器を自主的に差し出させることを目的とするプロジェクトのようなものだから、「武装解除、やったるぜ!」くらいがよい。日本史では「刀狩」だ。

 「大和言葉落とし」とはこういう訳を謂う。関西人なら「武装解除、やったろうやないか」とやればよい。言葉が生き生きしてくるのが実感できるだろう。死んだ言葉では肝心なものが伝わらないことがある。しかし、全部を「大和言葉落とし」する必要はないから、大事なところを選び適宜試みたらよい。
 ここで生徒はdisarmamentを軍縮と訳したが、dis+armament、armは武器、armamentは「軍備」「武装」、写真や図を見ると武装解除という日本語が適切であることは一目瞭然、言葉だけでなく、図や写真をちゃんと見て文章や文中の語彙と付き合わせる習慣も養いたい。センター試験ではグラフを読む問題が増えている。

 パート1でピックアップした文章を示す。

 "War is over," said the President. Then, the soldiers had the weapons checked and gave them up.

 「大統領が戦争は終わったと言った」という文は倒置法で、新聞英語記事の冒頭部分でよく見られる書き方である。問題はその次の文である。ちょっと紛らわしい。こういうところをしっかり解説しておかないといけない。案の定、意味がつかめていない訳になっていた。デカルトの「科学の方法」「第二」にしたがって、必要なだけの小部分に分解してみる。

① the soldiers had the weapons checked
②  (the soldiers) gave the weapons up

 この二つの文が重文として統合された。①は「have+O+PP」で受験問題に頻出する文である。使役と受身の意味があるが、じつはどちらも受身である。

①-1 the soldiers had the weapons (which was) checked (by someone) 
    1-2 the soldiers had the weapons
     (兵士は武器を持っており)
    1-3 the weapons was checked by someone
     (その武器は誰かによって点検される)

  被害を受けるというコンテキストなら受身に訳し、そうでなければ使役「~してもらう、させる」である。

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 この項に関しては、江川泰一郎著『英文法解説』「191. Have+O+過去分詞」の記述が詳しい。3冊の中で例文も一番多かった。綿貫・マーク=ピーターセン共著『表現のための実践ロイヤル英文法』も引きやすかった。

 安井稔著『英文法総覧』は索引に「have+O+PP」の項があったが、「28.2.2」には一例が載っているだけである。「have+O+原型不定詞」の使役用法と比較しているので、前2書とは視点がちょっと違っており、これはこれで役に立つ。
  I had my room painted, and got the cupboard repaired.
  (私は自分部屋を塗ってもらった、そして食器棚を修理してもらった。)
  I had Tom paint my room.
  (私はトムに私の部屋を塗らせた。)

 全般的なことを言うと、この本には生成変形文法による「参考」や「解説」コラムがときどき顔を出すが、それと断っている場合と、示唆せずに踏み込んでいる場合があるが、いずれもきわめて初歩的なものにとどめているので、興味のある人は専門書を読んだらいい。生成変形文法はチョムスキーの普遍文法=構造言語学がベースなので、文系と理系の両方にまたがる学問分野で、理解できる日本人の英文法研究者はすくない。こういう分野は翻訳者と読者の両方が文系と理系の分野を自在に歩き回れることが条件になるので、翻訳書もほとんどないから、原書を読むことになるだろう。翻訳もたいへんだし、本が出ても読む人が少ない。日本人の手になる研究書は少数出版されている。
 構造言語学は自動翻訳の基礎理論でもあるから、日本人の研究者のニーズは小さくないだろう。興味を持って、構造言語学関係の本を読み漁る大学生が増えてほしい。
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 ②は主語を補うだけで文意が明確になるだろう。「the soldiers had gave them up」でないことだけはgaveが過去形だから間違えないだろう。

 「兵士たちは(自ら進んで)武器の点検を受けた後で(それを)引き渡した」

 さて、発展問題である。この文からandを抜くとどうなるか?
 英字新聞なら次のように書くのが普通だろう。高校英語では「分詞構文」は頻繁に出てくるが、こういう修辞上の配慮がなされた普通の文がでてこないのはとっても不思議だ。英字新聞での出現頻度は百対1ぐらいだろう。もちろん分詞構文が1である。そして分詞構文の出てくる記事はほとんどが日本人スタッフライターの手になるものだ。andでつないだ文の主語を省略するぐらいなら、ingをつけて句に書き換えるのが当たり前。読み手は前の文から主語を補って動詞の時制を合わせてすんなり読む。

 "War is over," said the President. Then, the soldiers had the weapons checked, giving them up.


 和訳に際しては代名詞はすべて元の名詞に置き換えて訳させている、日本語では代名詞はあまり使わないし、前述の名詞をかならず代名詞で受けないといけないという文法規則がないからである。
 代名詞をそのまま「それ」「それら」とイージーに訳していたら、わけのわからぬ日本語になる。

 パート2では次の文の質問があった。どういうシーンかを想像するために前後関係が必要だから2文ピックアップする。

 Seya used to work for the United Nations as a volunteer.  Then, asked by Foreign Ministry of Japan, she joined a disarmament project in Afghanistan.

 二つの文は関係があるので、つながりを意識して文脈を読まなければならない。こういう箇所に来ると、日本語の良質のテクストをたくさん読んでいるかいないかの差がはっきり出てくる。年齢相応に読書レベルを上げて多読していないと文脈が読めない。予期した通りの結果になった。
 「文法知識+文脈理解力」が問われる文である。本をたくさん読んでいる生徒は問題なくここを通り過ぎるだろう。

① Seya used to work for the United Nations as a volunteer.
 
 太字は受験英語のトピックのひとつだ。「かつては国連でボランティアとして働いていたことがある」ということは、現在はそうではないということだから、「いまなにしているの?」と文脈が読めた人は、次の展開が予測できる。後続の文は前の文の説明であることが多いのが英文の特徴のひとつだから、そういうつもりで読め!

② Then, asked by Foreign Ministry of Japan, she joined a disarmament project in Afghanistan.

 ②1 (being) asked by Foreign Ministry of Japan,
     1-2 as she was asked by Foreign Ministry of Japan,

 こういう変換は繰り返して読んでいるうちに慣れてきて、無意識にシンプルセンテンスに読み換えて瞬時に意味がつかめるようになる、「慣れ」が大事だ。
(だから、生徒と先生の「対面での技の伝授」が理想である。頭が人よりもすこしよければ、時間がかかるが理屈を聞いただけで自分でやれる。教えてもらわないとできないようでは、ものにはならぬ、職人仕事は親方の仕事を見て真似る
 教えてもらわなければわからないようでは、一人前の職人にはなかなかなれないし、まして自分で工夫して親方を超えることはできない。勉強も同じで、塾や予備校で手取り足取り教えでもらって一流大学へ入学したって、社会人になったときにはまるでひ弱で戦えない。どこかでだれのサポートも受けずに自力で学び始めなければならないのだよ。)
 
 askを「たずねる」と訳してしまった、
「それでは言っていることの意味がさっぱりわからないだろう?この訳語では前後関係がおかしいなというアンテナが働かないとアウトだ」
 違和感を大事にしないと上達しないから、小さな違和感が生じたら、まずは辞書をよく読むこと。「依頼する、頼む」という訳語がある。
 「日本の外務省が彼女に依頼したので」という訳が適切だ。ついでに言うと、United Nationsを国際連盟と訳した。国際連盟は第一次世界大戦の終戦処理でできたもの。ベルサイユ条約に日本が人種平等条項の折込を主張して、人種差別の激しかった米国と、白豪主義でボリジアニを差別していたオーストラリアが強硬に反対し採択されなかった。このことが次の大戦への伏線になっている。国際会議の場で堂々と人種平等を主張し、白人の世界支配を根底から覆しかねない有色人種の国、日本が許せなかったのだろう。だから日本を叩き潰すオレンジ計画を策定して、20年をかけて日本を戦略的に追い詰めていった。
(そういう周辺知識もあったほうが文意を取り違えない。受験勉強の範囲を出て、さまざまな本を読み、意見の違う人と議論する必要がある。受験知識だけでは偏差値70はなかなか超えられない。)
UNは国際連合である。第2次世界大戦の連合国という意味だ。敗戦国であるドイツと日本は70年が過ぎても大きな差別を受けており、いまだに安全保障理事会常任理事国入りができない。

「(国連のボランティアを経験した後で)日本外務省の依頼で、瀬谷さんはアフガニスタンの武装解除プロジェクトに参加した」

 このあとに地雷と地雷の除去作業の話が出てくるが、英文を読んで地雷がどういう状態で残っているのか、その除去作業がどのように行われて、周辺住民にその危険な作業がどのように受け取られているのか、英文からイメージできてはじめて適切な日本語になる。そういう作業を一緒にやって、稚拙な箇所を指摘し、お手本を示してやるのである。

 When they dug mines out of the ground, the residents appriciated their work. This, in turn, made them happy. In this way, the former soldiers gradually became ordinary citizens.

  この生徒はappreciateを電子辞書の筆頭に載っている「正しく理解する」のまんまで訳した。その時点で、この文の意味がまるでわかっていないことが判明する。「なんかおかしい?」という違和感、the sixth sense(第六感)が働いていない、トレーニングで感覚が呼び覚まされることを期待している。
 地雷を地面から掘り出す作業はたいへん危険で、まず地雷を確認するために地雷のありそうなところに歩いて入らなければならない。地雷を見つけたら、周りの土を静かに除去して信管を取り外すか爆発させるのだが、そのときが一番危険である。地雷が周囲に仕掛けられたままになっているので、その地域に住む住民は子どもを外で遊ばせることもできない。地雷の除去ができれば子どもたちは外で遊べるし、住民は周辺を安全に歩き回ることができる。地雷をひとつまたひとつと除去するたびに、それを見ている住民は危険な作業をする兵士に感謝の言葉をかける、兵士はそれを聞いて、自分の仕事が役に立っていると実感する。そのことが兵士をハッピーにする。
 こういう好循環を繰り返すことで、兵士は普通の市民へ戻っていき、二度と武器を手にすることがなくなる。

 文章を通して、どれだけ具体的なシーンをイメージできるかが大事なのである。あとはそのイメージを自分の日本語語彙の範囲で表現すればよい。

 この高2の生徒は8月初旬には高校3年生の教科書を読んでいるだろう。40s前半の英語の偏差値が60を超えるのがいつになるのか楽しみである、そしてそれがどこまで伸びるかは本人しだい。偏差値70をクリアできる科目があれば受験はずいぶん楽になる。


< 余談: 教員の英検準1級取得率 >
 今朝5時ころのNHKラジオ放送で、高校英語教員の英検準1級取得率が57%、中学校の英語教員は3割を超えているという解説があったが、これはデータがおかしい。
 おそらく「英検準1級相当」ということで、いろんなものが混ぜられて「英検準1級」にカウントされている。以前に弊ブログで論じたことがある。
 根室高校では最近準1級を受験した先生がいるようだが、合格していればただ一人である。ましてや、市街化地域の3中学校の英語の先生で準1級取得者は一人も居ないだろう。文科省は「英検準1級○名○%、英検1級○名」「TOEIC800点以上○名○%」とちゃんとしたデータを公表すべきだ。
 そうでないと根室の学校の英語教員は、異常に英検準1級取得者が少ないということになりかねない。こういう好い加減なデータ公表は誤解の元だ。
 根室市教委さん、市内の中学校の英語担当教員に英検準1級所得者がいるなら、どの学校に何名いるのかデータを公表してあげたらいかが?スキルアップに努力を惜しまない教員は大いにほめてあげよう。

< 余談-2:データ >
 中学校英語教員数 31,487人
 高校英語教員数   29,255人
       合計       60,742人 

 英検準一級年間合格者数は約4000人、合格率15%。
 このうち、3%が英語の先生になったとして試算すると、
  4000×3%×38年=4560人
  4560人÷60,742人=7.5%

 中学校と高校の英語担当教員で英検準一級「純正取得者」数の推計値はおおよそ7.5%である。これが20%なんてことはとても考えられない。「英検準一級相当」なんてインチキ・データではなく、本当のデータを検定の種類ごとに実際の数字を公表すべきだ。おそらく惨憺たる数字が出ている。文科省はデータを収集して知っているから、こんなあいまいで出鱈目な数字を公表しているのだろう。


*中学校と高校の英語教員数推計値(文科省:平成19年10月1日現在)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/082/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2011/02/18/1301726_03.pdf

  データから見る英検準1級
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/082/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2011/02/18/1301726_03.pdf


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