4月10日実施の文教(北海道教育文化協会)学力テストから、数学の問題を取り上げて、低学力の実情を具体的に明らかにしたい。
 普段の学力テストよりも問題の難易度が上がった感じがある。市販の教材では普通のレベルである。弊塾で使っている教材はこれよりもレベルが少し高い。

 この学年の生徒たちが小学生のとき、一部の生徒の授業中の立ち歩き、そして私語が多くて「崩壊状態」であったことは前回書いた。そのC中学校の2年生は6割を越える生徒の数学の得点が20点以下である。平均点は22.5点。#3028の表を再掲する。

C中
国語社会数学理科英語合計平均
中150.947.754.352.5 205.451.4
中253.633.922.539.451.6201.040.2
 差2.7-13.8-31.8-13.1 -4.4-11.2



 では問題文を三つとりあげて検討をしてみたい。

<大問3の問2>
 あきお君は傘を忘れたお父さんを駅まで迎えに行きました。家から分速60mで駅に向かい、駅で10分間待った後、父と分速50mで家に戻りました。家を出発してから家に戻るまでに掛かった時間は54分でした。家から駅まで道のりは何mになりますか、求めなさい。

 この問題がさっぱりわからないという生徒から質問があった。ニムオロ塾では速度の問題と食塩水の濃度の問題は同型なので、まったく同じ表で解かせている。表に問題文の数字を入れていけば誰にでも式が立てられる。併行して線分図も使う。
 3回ほど読ませたが、表にきちんと数字を入れられない。ヒントを出した。
「あきお君とお父さんの歩いた時間は何分ですか?」
「・・・54分です」

 句点の後の文章を読むときに、もう前段の文章が頭の中にないのである。「駅で10分間待った」という句が後段の文章と関連付けられない。この生徒は平均点を越しているから、8割の生徒が似たような状態かもしれない。
 小学生用の『言葉力ドリル』をやらせたら数学が20点以下の生徒の大半が40点以下の得点しかとれないだろう。文章語はほとんど理解できないから、中学校の国語・数学・社会・理科、5教科全部の授業が理解困難だろう。

 先生やお母さんたち、小学校で少年団活動とゲームやインターネットをやり放題、家庭学習習慣を育まず、年齢相応の本を読ませなければ、子どもたちは高い確率でこういう風になってしまう。中学校の先生だってお手上げです。

<大問2の問4>
 A地点からB地点までの距離をはかったところ、測定値は17mになりました。この測定値の誤差の絶対値は何cmですか、求めなさい。

 9割の生徒がこの文章から小数第1位が四捨五入されていることを読み取れない。日本語の読解力が育っていない=貧困だとこういうことが起きてしまう。もう数学以前の問題で、日本語の教育をしなければならない、このレベルは中学校の授業が理解できない。日本語の語彙力や読解力が足りずに授業内容が理解できないということを学力障害と定義するなら、である。半数以上の生徒が学力障害に他ならない。
 誤差という言葉の意味もわかっていない生徒が少なくない、信じられますか?
 測定値が17mということは、実際の値をa とすると、aの範囲は、
       16.5≦a<17.5

 誤差は「17-16.5」あるいは「17.5-17」で計算できます。引き算で0.5mになりますが、「何cmですか」という句を記憶していなければアウト。もちろん、解き終わって答えを書くときにざっと問題文を読み直し、答えの書き方が適切かどうかチェックするのは当たり前です。だから、「精確に速く読む能力」が要求されます。
(頭の中に、いま何をサーチしながら読んでいると意識している自分と実際にポイントを絞り込んでサーチしている自分が並存している状態が創り出せる生徒は学年トップクラスです。脳の中に自我を二つおいて自在に操り、並列処理をしています。三人までならトレーニング次第で並列処理できるようになります。これができると、何かテーマを絞って思考を深めるときに、視点の違う三人に一つの脳内で議論させることができます。多面的にものごとが眺められるようになり、大局的な視点が得られます。この段階では思考を集中させるのではなく、意識を緩めます、集中は緊張状態、並列処理は弛緩状態にする。要領は筋力トレーニングと同じです、緊張と弛緩を繰り返す内に自在になります。脳の使い分け、面白いですよ。)

 もとにもどします、誤差という言葉の意味がわからない生徒は、こんな質問を投げてきます。

「先生、どうして引き算なのですか?」
「誤差の差という言葉はどういう意味をもっているの?」
「・・・」

 そこで、黒板にこう書きました。
 「和・差・積・商」
 「まだピンと来ないのかな?」
 「足し算の答えが和、引き算の答えが差、掛け算の答えが積、割り算の答えが商、小学生のときに何度も教えたよ」
 「誤差の差は真の値との差、つまり引き算を意味しているのです」
 「3と15の差はいくつ?そうだね、12、正解だよ、ところでいま引き算しただろう?」
 「そういうことか」
 「そういうことだ」

 生徒の頭の中の引き出しには情報がちゃんとあるのです、しかし、それを目の前にある問題と結びつけることができない。


<大問2 問5>
 半径4cm面積が6π(パイ)cm^2の扇形の中心角を求めなさい。

 この問題文から、円の面積と扇の面積、そしてそれぞれの中心角が比例関係にあるということが読み取れない生徒は正解に到達できない。だから、この問題ができたのは学年47人中5人程度(1割)でしょう。数学の文章題は標準的な日本語読解力がなければ解けない。そしてその標準的な日本語読解力を身につけている生徒はC中学校2年生では1割ほどしかいないのである。

 昨年からa:b=c:dという比例式を6年生で習い、問題演習するように変わったから、状況は改善されるかもしれない。塾では小学6年生に「内項の積は外項の積に等しい」と掛け算の方程式におきなおして解かせる。もちろん、文字xも使ってしまう。


 点数の分布を書いておく。70点台はたった2人、70点台が学年トップでした。60点台と50点台がそれぞれ3人、40点台は2人、30点台が3人、20点台は6人、20点以下が28人です。受験者総数47人。

 いいですか、学年によってばらつきはありますが2~3年に1学年くらいの割合で、こういう学力レベルの学年が出現しだしている。
 生活習慣が関わっているので、その大半が中学校では救えない。生活習慣はなかなか改められないのです。高校ではどうでしょう。中2の生徒たちから根室では高校が1校体制になる。低学力層はますます勉強しなくなるでしょう。低学力のまま高校へ進学しても、高校の授業は中学時代よりももっと理解困難になります。
 こういう低学力の生徒たちは根室から出て正規雇用の職につくことができるでしょうか?ほとんど無理。根室の歴代教育長は「生きる力」を教育の目標に据えてきたがその結果がこのような悲惨な状況。
 低学力層は社会で生きていく力が弱い。女子は都会で風俗関係の仕事に就く者が増え、男子は非正規雇用で最底辺の生活を強いられる。
 都会で就職できない者たちは、地元に残り、高い確率で親に寄生してニート、あるいはアルバイトを繰り返すことになる。あっというまに20歳代がすぎ、非正規雇用のまま30歳代を迎える。年収は100~150万円で何年たっても年収が上がることはありません。歳をとるほどアルバイトを探すのもむずかしくなります。同年代の都会で働く正規雇用職に比べて、30歳代半ばで年収で300~600万円もの差がつきます。男は結婚も難しい。親が退職したら面倒は見切れないから、高い確率で生活保護予備軍となります。
 そういうわけで学校も地域社会も低学力層の膨張現象を放置してはいけない

<とりうる対策>
 生活習慣化してしまっているので、対策ははなはだきついものになる。C中学校2年生を例にとるのがわかりやすいだろう。わたしの処方箋はこうである。

■ 3ヶ月部活停止
■ 日本語音読トレーニング
■ 漢字書き取りトレーニング
■ 語彙力強化トレーニング
■ 基礎計算トレーニング
■ 家庭学習の強制

 放課後毎日3時間、土曜日は4時間、学習会に強制参加、これくらいのことを本気でやらないと救えない。はっきりした学習障害で、ほうっておいたらほとんどの生徒が治らない。他に代案がある方がいらっしゃったら、どうぞ弊ブログ投稿欄に書き込んでください。

 根室市議会文教厚生常任委員会のメンバーの方々は遠慮なくご意見を寄せてください。あなたたちは、選挙で一人の例外もなく「市民のために働く」と車の中から何度も叫んだのですから、言った通りに行動してください。それがなかなかむずかしいことは十分承知しています。困難な課題から逃げない市議が数人出てきてもらいたい。


*#3029 根室市議会議会報告会(顛末) Apr. 18, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-04-18

 #3028 C中学校1年生と2年生の学力テストデータ比較分析 Apr. 18, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-04-17 



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