わたしは縄文時代からカウントして1.2万年の日本列島の歴史で、はじめて迎える人口減少時代に、成長戦略なんてナンセンスだと考えている。思いっきり単純化してみたら誰にでもわかる。

     一人当たり国民所得×生産年齢人口=国民所得

 老人の年金収入もあるじゃないかなんてことは無視、大雑把な話の方がよくわかるから細かいことは言いっこなし。稼ぎ手が減れば基本的に国民所得は減ると考えよう。
 非正規雇用が増えれば一人当たり国民所得は減少するし、生産年齢人口(15~64歳)は激減し始めている。ピークには8700万人いたが2040年には6000万人を割るのである。一人当たり国民所得が横ばいでも国民所得の合計は3割も減少する。消費が26年間で3割以上減少するということだ。所得だけではない、電気もガスもガソリンも燃料用灯油も食料品も消費量が3割減る。人口縮小時代には原子力発電なんて無用の長物と化す。原発維持がしたくて成長路線を声高に言っているのではないのか。
 そういう人口減少時代にGDPをいまの規模で維持できるわけがない。だから成長戦略は幻である。成長ではなく減速戦略あるいは縮小戦略に切り換えるべきだ。そういう観点から日本経済を見直してみた方がいい。世界一高速で高齢化と同時に人口縮小しつつある日本は、考えようによっては世界最先端を走っており、戦略選択さえ間違えなければ、ハッピーな国になりうるのである。とるべきは経済の縮小戦略、減速戦略と小欲知足による幸せ志向である。

 長距離高速バスの規制緩和を例にとって、ほんとうに規制緩和はいいことなのか、国民を幸せにすることなのかをチェックしてみたい。
 長距離バス料金は競争激化により価格破壊が起きた、そのことは消費者にはメリットのように写っている。だがメリットだけか?デメリットはないのか?ある、事故が多発したのである。料金低下は事故が多発し安心して利用できなくなるという代償を伴っていた。
 ではバスを運転するドライバーはどうか?500kmを超える乗務で疲れ切って居眠り事故を起こすような過酷業務や連続乗務に追い込まれ、給料は低下した。
 バス会社はどうか?規制緩和で小さい会社が乱立し、収益力が低下し、ドライバーの賃金低下と労働強化をもたらした。そして会社の利益は減少したのである。
 旅行会社は長距離バス商品を競って販売し、価格低下を招いて利益を減らした。

 その結果、長距離連続運転に以前よりもきつい規制がかけられた。規制緩和だったのに、回りまわって長距離連続乗務の距離に規制(400km制限)がかけられるようになった。野放図な規制緩和は維持できなくなる物だということ。日本のさまざまな規制は当たり前のことだが全部が悪いわけではない。一つ一つ具体的にメリットとデメリットを比較計量して規制緩和か規制強化かを決めなければならない。
*国交省、全高速バスに400キロ制限 夜間の運転距離、7月から(日経新聞) 2013年2月12日
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1204X_S3A210C1CR8000/


 長距離高速バスを例にとって見たが、こうしてみると誰が得をしたのだろう?だれが幸福になったのだろう?関係者が皆、規制緩和以前よりも不幸になり安心安全が失われた気がしてならない。
 同じことはタクシー業界でも起きた。

 経済特区とか、規制緩和とか、成長戦略のために何かいい事のように喧伝されているし、そういうことを声高に叫ぶとんでもない経済学者もいるにはいるが、よく考えて判断したい。
 いま問題になっている記載緩和の最大のものは言わずと知れたTPPである。特定の経済圏の仲間内だけ抜け駆けしよう、甘い汁に預ろうという特定メンバーのみの規制緩和である。このなかで誰が幸福になるのか、そして誰が不幸になるのかが問われなければならない。
 グローバリズムは簡単に言うと地球主義である。規制緩和の果てに俟っているものは、低コストを求めて生産拠点が移動していく経済社会である。ある国が大量に生産し、他の多くの国々が輸入する、リカードの比較生産費説が貫徹する経済社会、こんな滅茶苦茶な経済社会は人類を幸福にするものといえるのだろうか?
 新しい経済学が生まれなければならない。それは職人仕事を中心に据えた経済社会である。もちろん貿易は強い管理貿易で、世界中の国々が自国内に雇用を確保できる経済社会でもある。

 アベノミクスの成長戦略は民間マターであり、政府にできることは規制緩和しかなさそうだ。その規制緩和は日本国民も人類も幸福にしないことだけはハッキリしている。
 あなたはいま政府が進めている規制緩和、グローバリズム、成長戦略、TPPに賛成できるか?



*#2660 庶民の物価感覚 : 消費は落ち込む Apr. 27, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-04-27

 #2631 職人仕事を中心に据えた経済学の創造(1) Mar. 31, 2014 
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 #2634 職人仕事を中心に据えた経済学の創造(2) Apr.7, 2014 
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 #2643 職人仕事を中心に据えた経済学の創造(3) Apr. 13, 2014 
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 #2561 物価上昇なんて経済政策はありえない話だ:経済アナリスト藤原直哉 Jan. 10, 2014 
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 #2245  円安はそんなにいいことか? Mar. 17, 2013 
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 #2627 消費税引き上げ+物価上昇>所得増加:三番目の矢はない  Mar. 22, 2014 
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 #2565 人口減少社会を問ふ(2) Jan. 17, 2014 
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 #2564 人口減少社会を問ふ(1) Jan. 16, 2014 
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 #2561 物価上昇なんて経済政策はありえない話だ:経済アナリスト藤原直哉 Jan. 10, 2014 
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 #2554 「日本の経常収支と円を考える」 東洋大教授・中北徹の論 Jan. 3, 2014 
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 #2549 アベノミクス批判 (2):内橋克人 Dec.31, 2013 
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 #2543 インフレと自己責任:リスク増大へ対処の方法はあるか? Dec. 27, 2013 
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 #2540 アベノミクス批判(1):『世界8月号』伊藤光晴論文 Dec. 23, 2013 
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*#2523 アベノミクスの行く末: 日本総研調査部長の論点 Dec. 9, 2013 
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 #2502 アベノミクスと企業経営 Nov. 18, 2013 
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 #2430 手詰まりの安倍首相 ついに消費税引き上げ決意表明 Oct. 2, 2013 
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  #2401 消費税値上げ延期なら国債価格は下落 Failure to raise sales tax 'could hurt bond prices' Sep. 9, 2013 
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  #2388 アベノミクス:雇用規制改革の正体 Aug. 30, 2013 
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  #2270 人口減少の衝撃: 2040年の日本の人口は1億727万人:"Japan's depopulation time bomb" : Apr. 21, 2013
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  #2256 マネタリーベース270兆円へ拡大:亡国の決断 Apr. 6, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-04-06

  #2245  円安はそんなにいいことか? Mar. 17, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-03-17

  #2185 各論(3):'Abenomics' Jan. 24, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-01-24

 #2170 各論(2):貿易収支赤字転落⇒? Jan. 3, 2013 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-01-04

  #2169 各論(1):国債暴落の可能性とその影響 Jan.2, 2012 
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-01-02

 2168 歴史認識を欠いた安倍新政権の歴史的役割(2):蔵相高橋是清暗殺 Dec. 31, 2012 
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 #2164 歴史認識を欠いた安倍新政権の歴史的役割は何? 
 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-12-28

 #2158 自民党圧勝294されど第2の危機民主党惨敗  Dec.17, 2012 
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 #2144 成長路線と金融緩和の罠 : 衆院選挙でナイトメアがはじまる 
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 #1828 ゼロ金利の罠: Fed targets and transparency Feb. 3, 2012
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 #829 国家財政破綻の瀬戸際  Dec.12, 2009
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 #346 これから10年間の日本経済のシナリオ
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