この数年間の市立根室病院の赤字急拡大、なにがどうなっているのか、具体的な解説をいただいたので、弊ブログコメント欄から本欄へ転載して紹介する。
  常勤医を大切にすれば、採算はかなり改善できる。丹波柏原病院小児科を守る会のような心がつながる支援組織も必要だ。
 市側は日曜日に市民説明会を開いて病院の経営の現状について正直に具体的な説明をすればいい。地域医療維持にどれくらいのお金がかかるのか、どこをどれくらい節約できる余地があるのか、公に議論すればいい。理解と納得に基く市政が必要である。

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うーん、医師数が増えている? そう見えますか・・・。実際には上げ底だと思います。
通常順調な病院では医療収益は医師一人に付き1億円を目標にする処が多いですね。ですがこの数字、実際にはかなり医師にとってはキツい数字です。勿論診療科やそこの医師のcapacityによりこの数字は変わります。勿論ここで言う医師とは常にその地域に住んでいる”常勤医”が前提です。

病院側は医師数=常勤医+常勤医換算の出張医で表しますが、問題は出張医に掛かる経費です。根室の場合、出張医は大体札幌、旭川からやって来ます。先ずその旅費が馬鹿に成りません。往復の航空運賃が4万、中標津空港から根室までのtaxi代が市内3社の持ち回り契約で、片道2万台、往復約5万。何だかんだで一人の医師が根室にやって来るには交通費だけで往復10万ほど経費が飛びます。更にこの世界の慣例上、実際に仕事をしていない移動に掛かる時間も”拘束料”として報酬の対象に成ります。今大体大学からの出張は1日10万は下らないでしょうから、移動日にも同じ金額が加算されます。不味い事に根室の場合は中標津空港から1時間半は掛かりますので、千歳で始発に乗っても病院に着くのは11時と言う中途半端な時間に成ってしまいます。同様に復路は中標津の18時の採集に乗るためには4時には診療を切り上げなければ成りません。つまり札幌や旭川からの出張医は、日帰りの場合実働4時間(昼休みを1時間取ると)で1日分の10万以上の報酬を得る事に成ります。時給換算では2万以上の高収入です。大体常勤医の年収を実働時間で割ると現在は時給1万程度ですから、出張医には交通費を含め如何に経費が穴の開いたざる状態かお分かりになると思います。因みにかって産婦人科が釧路赤十字に集約され根室から常勤医が消えた際に北大産婦人科から間を置かないように出張医が来ていたことが有ります。その時は彼らに年間8000万の経費が掛かっていました。一つの科に医師が一人居る状態を保つのに年間8000万です。これが常勤医であれば精々2500万程度で済みます。ここでお気付きの方もいらっしゃるかと思いますが、出張医に関しては1度の出張が長い期間程無駄な経費の節約に成ります。その分のホテル代などたかが知れています。反対に小刻みに次から次へと出張医が変わるだけ経費は嵩みます。

市立根室はかってもっと医師が多かった時代には、毎日の当直には順番で常勤医が担当していました。しかし根室の場合も当直医は本来の”寝当直”ではなく夜間救急(時に夜間診療に化す)当番ですので、医師にとって非常な負担でした。旭川医大が引き揚げる頃には、外科の女医など月に5~6日も当直を担っていました。その様な事が大学にも知れ渡り医師引き揚げを加速した事は否めません。

旭川医大が引き揚げた後、病院側の反省として同じ過ちを繰り返さないために常勤医の当直は精々月に2回に抑えそれ以外は当直医を雇うことに成りました。それで日替わりで札医大から当直医が根室に来るように成りました。また病院としての医師数が不足していたために内科などは毎日のように札幌から出張医がやって来ます。

現在常勤医以外に手伝いの出張医がやって来る科は、内科、小児科、眼科、産婦人科で、出張医のみで繋いでいる科が耳鼻咽喉科、皮膚科、泌尿器科、脳外科、麻酔科です。出張医が来ない科は外科、整形外科、透析室くらいで、どれだけ根室は非常勤医に莫大な経費を注いでいるかが伺われます

公立病院には収支を度外視した地域の中央病院としての責務があります。それ故収取(収支?)が(ネットで)赤字の科だからと言って辞める訳には行きません。そこに根本の問題が有りますが、取り敢えず文句を並べても始まりません。

病院の収益を引き上げる診療内容は、内科での経皮的手技やや内視鏡手技、循環器の心カテ、整形外科や眼科の手術件数、それに安定した血液透析、お産の取り扱い数などですが、現在の根室はその中の幾つがクリア出来ているでしょうか。心カテが出来る医者が二人とも居なくなり、眼科は手術によっては大学から上級の医師が応援、お産は再開の目途が全く立たず、日常の外来診療でさえ手伝いを頼んでいる有様。これでは医師一人当たり1億円の売り上げなど夢のまた夢でしょう。

書類上で表される医師の数は売り上げに関しては斯様に現実の意味を持ちません。要はその医師が根室に住んでいる常勤医か否かに掛かっています。この意味は、例え常勤医でも単身赴任などで週末に札幌や旭川などに帰省するとなれば、医師一人の科では入院患者が居れば常勤医不在の間の出来事に対応する出張医を呼ばなくてはなりません。

賢い皆さんはもうお気付きの事と思います。以上を考えた時にもっとも賢いのは、現在働いている常勤医を大切にして手放さない事に尽きます。医師が変わらないと言う事だけでも患者さんは安心出来ます。少なくとも自分の健康状態を分かっていてくれるからです

しかし、根室はどうでしょうか。先ず医師が居付きません。その理由に経済的な側面は無いと思います。根室は北海道の公立病院の中では最も恵まれた給料の筈です。ですから金銭的な事以外に医師の熱意を奪い去る”何か”が有る事になります。それが地域住民の病院に対する態度なのか、はたまた病院内に問題が有るのか(医局内の問題か)。そこの所を押さえないで幾ら数字をいじくっても、所詮は”絵に描いた餅”に過ぎないでしょう


by 事情通 (2013-05-07 11:49) 

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 あらてめてコメントを読み、一つ疑問がわいた。根室市政は常勤医を大切にしてきたか、神経を逆なでするようなことを繰り返してこなかったかという疑問である。

 こういう具体的な説明は本来は病院長が日曜日に市民説明会を開いてしてくれるとありがたい。市民の大半は耳を傾け、市立根室病院へ信頼が増すだろう。
 投稿に感謝。

*#2297 地域医療対話(5): 旧弊の再生産とは?
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-05-14

 #2296 地域医療対話(4): 経営の問題点がよくわかる一覧表
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-05-12-3

 #2295 地域医療対話(3):非常勤医が増える仕組み
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-05-12-2

  #2291 地域医療対話(2) 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-05-10-1

  #2290 地域医療対話(1)
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-05-10

  #2287 「いまいる常勤医を大切にせよ」:市立根室病院の経営改善
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-05-07-2

  #2286 市立根室病院『改革プラン(改訂版)』と実績対比
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  #2285 市立根室病院『改革プラン(当初計画)』と実績対比
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 #2283 市立根室病院損益推計:7年後は年額22億円に赤字拡大か?
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