このところ、中学生の語彙の問題を採り上げることが多い。一昨日の中1の授業から・・・

 2月3日に実施された学力テストの報告を聞いてから数学の授業だ。このクラスは根室に戻って塾を開いて10年目だが一番問題の多いクラス。

 早く来た生徒が授業が始まるまで英語の教科書の予習をやっていいかと聞くので、認めた。早く来て教科書の予習をやっていいとはこの前伝えたが、珍しいことがあるものだとちょっと違和感を感じる。黒板に書いた英語の問題演習をいつも五分の一も書かない生徒である。
 授業が始まって理由がわかった。塾用の数学問題集も学校の数学のワーク(問題集)ももって来ていない。忘れたのなら、
「問題集もってくるの忘れました、申し訳ありません」
と素直に謝るべきなのだ。男は言訳をするな、間違ったらまっすぐに謝れと何度言い聞かせてもわからぬ。この生徒は問題集をもってこないことが多いのだが、塾へ来る前に点検してから来いといくら言っても屁理屈ばかりで、一向になおらぬ。
 三つの問題を抱えているようにみえる。

 ■悪い癖は直そうという素直な心
 ■お喋りをやめ授業に集中するためのセルフコントロール力
 ■生活習慣(躾け)

の三つである。友だちと目上の者に対する言葉の使い分けができないことも気になる。敬語を使った大人の表現ができない。彼の使える語彙には敬語がない。社会人になったときにきちんとできればいいが・・・普段やらぬことはにわかにはできないものだよ。
 しかたがないから、予備の問題集でやらせた。姿勢が悪いから何度も注意をする。姿勢の良し悪しは集中力とスタミナに関係している。姿勢の悪い生徒は特定の筋肉に負荷がかかるのでそれを調整するためにしょっしゅうぐらついてその都度集中が切れてしまう。他にも2人姿勢が悪くて注意を受ける生徒がいる。結局、注意90分かかってノート1ページの三分の一も書いていないから、ほとんど勉強していない。他の生徒からもなんどか"うるさい、静かにして"と注意を受ける始末。回りに迷惑をかけているという自覚はあるのだろうが、それが行動にならないのは自己抑制力が育っていないからだろう。こういう生徒は高校へ進学しても三人に一人も卒業できないだろう、だからクビにしたくない、いま直さなければダメになる。おそらくこの子にとっては最後のチャンスだ。
 授業中に周りの生徒とお喋りがはじまって、何度注意されてもすぐにまたはじめる生徒は当然のことだが成績が上がらない。3分おきに注意だ。このクラスは数人セルフコントロールのきかない生徒が半数を超えているが、塾を開設して10年間こういうクラスの経験がない。生徒たちに何が起きているのだろうと心配になる。
 この生徒たちの学校はこの3年ほどで学力テストの平均点が30点ほど下がり、以前は存在しなかったようなレベルの成績下位層がどんどん肥大化している。授業中に先生の声が聞こえないという生徒たちが増えた。4年前にはそういうクレームを生徒から聞いたことがなかった。生徒たちは授業に集中し、静かに聞いていたのである。成績が悪かろうはずがない。市街化地域の3校で学力テストの平均点が一番高かった。その中学校で成績下位層の"底抜け現象"とでも表現したくなるようなことがこの数年間続いている。B中学校である。

 一人の生徒が教科書の正多面体の問題がわからないと言うので該当箇所をみた。図をみれば一目瞭然なのだが、考えさせるために工作をさせた。正四面体を二つ逆さまに(?)してくっつけた六面体が正六面体ではない理由を言えという問題だった。
 「1辺5センチの正三角形を6個この紙に描いて、各辺に糊代をつける」
 作業をし始めたが、手を止めて
 「先生、「味付けしろ」ってどういうこと」
と聞くので、
「味付けではなく糊代と言っただろう?」
 前に座っている女生徒が
「何聞いてんの?先生、糊代ってさっき言ったでしょ」
 女の子たちは語彙が多いから、指示をきちんと聞き分けている。生徒が描いた正三角形の各辺に糊代を付け足してみせ、ここで折って糊で貼り付けるんだと説明する。

 口頭で指示したときに日本語語彙の貧弱な生徒の欠点がでてしまう。自分の知っている日常会話外の語彙だと理解できずに、頭の中で知っている語彙に変換してしまう。だから、意味がちんぷんかんぷんになる
 学力テスト国語の点数が10点台なら小学3年生の語彙力、20点台ならせいぜい4年生だ。40点以下は学力(五科目合計点)が伸びない。こういう生徒が成績下位層(30~40%)にはごろごろしている。
 頭の中では語彙変換がショッチュウ起きるから、授業の内容が理解できるわけがない。音読トレーニングでも読み間違いが頻発する。学力全般に影響し五科目合計点が上がらない。日常会話外の語彙が出てくると、彼らが使っている日常会話の語彙に勝手に変換してしまう

 生徒は正四面体を二つくっつけた六面体をつくる作業をしているがはさみの使い方をみたらとてもぶきっちょだ。ちょっと手伝ってあげたが、なかなか完成しない。見かねて女子生徒が三分の一の時間もかからずつくってしまった。
 さて、問題は正三角形6個で作られる6面体がなぜ正多面体でないかであるが、そこを理解させなければならない。

「天辺の頂点には辺が何本集まっている?数えてごらん」
「3本」
「側面、つまり横の頂点に集まっている辺の数は?」
「4本」
「じゃあ、正多面体の定義をみよう。教科書(東京書籍)144ページに正四面体の定義がある。
(1)どの面もすべて合同な正多角形である
(2)どの頂点にも面が同じだけ集まっている
2番目の方は説明が必要だね、問題集の説明だと頂点に同じ数の辺が集まっているというのがあるね、この多面体には3本集まっている頂点と4本集まっている頂点があるから、正多面体の定義から外れるんだ。わかったかい?」
「な~んだ、そういうことか」
「おいおい、な~んだじゃないぞ、しっかり覚えておけ、数学というやつは"定義"が大切なんだ」
数学で出てくる定義はぜ~んぶ暗記!口に出して早口で言ってみる、言えるようになったら書いてみる、書けたらOKだ、ここだけは英語の勉強と一緒だよ
 
 たまには工作させて確認しないと知識が身につかない。頭で理解してもすぐに忘れる生徒には有効な方法だ。"体験"というのは結構重要なのだ。

 やらせている間にもう一人がこんなことを言ってきた。
「先生、おれ立体の見取り図が描けないんだ」
「じゃあ、前に出てきてホワイトボードにやってごらん、わからないところから手伝うから」
・・・
 四角を描いたところで、上面の線が平行に引けずに戸惑っているので、見本を描いてみせる。
「ポイントはこの線とこの線を平行に引くこと、つまり平行四辺形を描けばいい」
 ポイントはこうだ。
 面を3つに分ける⇒上面の平行四辺形を描く⇒側面の平行四辺形を描く
 こうすれば誰にでもやれる。立方体の見取り図をを正方形と二つの平行四辺形に分割したわけだ。

(数学では「分割⇒総合」という操作が複雑な問題を考えるときに有効である。デカルトは『方法序説』で科学の方法を4つの規則の"その二"にある。彼は科学の方法を研究して四つの規則にまとめ上げ、その第二で「」必要なだけの小部分に分割する」ことと説明している。便利がいいので、私は折に触れてデカルトの科学の方法の使い方を生徒に教えている。デカルトは哲学者であっただけではなく優れた数学者でもあった。)

 ゆっくり線を引き始めたが、じつに遅い。別の女子生徒が横から口を挟む。
「もっと速く描かなきゃ」
 一理ある。高校生になると試験の問題量が多いから、こんなにのんびりやっていたら問題の半分も手がつけられぬから、スピードも重要な要素。
「出てきて、速く描くコツを教えてごらん」
 二人で作業をしている。何個か描いているうちに立方体は大丈夫になった。この生徒にとってはステージが一つあがったわけだ。
「先生テッシュの箱はどうやって描くの?」
というので、描いてみせたら、そうではないとテッシュの箱を持ってきて、この角度から見た見取り図だという。見本を描いたら真似ていた。今度はずっとスムーズだ。
 この生徒は30分ほどかかって直方体の見取り図も複数の角度からのものを描けるようになった。

 毎年、立方体の見取り図が描けない生徒がいる。いままでは女生徒だけだったが、今年初めて立方体の見取り図が描けない男子生徒が"出現"した。心配いらない、だれでも描けるようになるんだから。

 生徒9人のクラスだが個別指導だから実際の授業はこれら二つのことが同時進行し、他の質問が次々飛んでくる。やる気のない生徒はおしゃべりを始めるからちょっと長すぎるとストップをかけその都度「はい、おしゃべりはやめる、他人の勉強の邪魔はしない、自分の仕事に集中しろ」と注意が飛ぶ。
 手が完全に止まっている生徒がいる。
 机を回って歩いて、ノートを確認。
「30分経ってたったこれだけ?なにやってるの?」
 巡回確認の何度目かにやる気のなさに腹が立ってきた。
「たったノート三分の一しか問題やっていない、このままでは成績上がらないからどうしてもやる気がでないならいったん塾辞めていいよ、お金の無駄だから」
 家庭の経済的事情で通塾できない生徒たちが少なからずいる。どうして自分は幸せだと実感できないのだろう。親が塾へ通わせてくれることへ感謝の気持ちがあれば、もっともっとしっかり勉強しなくっちゃ申し訳がないという気持ちになれるだろう。
「この次やってこなかったら、もう見込みがないから塾を辞めるかしばらく休んでもらうことになる、困ったときは助けてやるが、自分でできることをやらない、塾長が指示したことをやらない生徒はどうしようもない、さっさと塾を替えた方がいい。」
「どうしようもなくなって戻りたいと言えばそのときは二つ返事で受け入れてあげるが、その代りこんどは問答無用で指示通りにやってもらうよ。」

 国語の点数が悪い生徒に音読テキストに使っている斉藤孝著『読書力』の漢字の書き取りを宿題にしているのだが誰ももってこない。やってこない理由は「ブカツが忙しい」、「やる暇がない」と言訳のオンパレード。一人も「申し訳ありません、次回は今回分も含めて必ずやって来ます」という者がいない。そのくせゲームやインターネットのモバゲー、ケイタイのメールには熱中して時間を費やしている。生活習慣が崩れているのだが直す意思すらない。一人だけ「家でやりました、もってくるのを忘れました」というので、次回もって来るように指示。
 言い訳はするな、まず「ごめんなさい」が先だといくら言ってもわからない。日本語が通じないのではないだろうかと心配になる。中学校で言訳をする癖がついたら社会人になっても同じことをやる
 毎日やること、毎週やることは習慣になる、習慣が数年続けばそれはもう悪癖とも言うべき性格となってしまう。性格を変えることなんてよっぽどのことがない限りできないぞ、だから、毎日やること、毎週やることをおろそかにするなと言うんだ。いまのままだと運よく就職できてもクビになる。
 ebisu先生は東京で業種をいくつか変えて26年間サラリーマンをした経験があるから心底から君たちの将来が心配だ。君らがそのまま社会人になって応募してきても雇うような甘い会社はひとつもなかった、都会は競争が激しいし、厳しい。そこには守ってくれる親もいない。

 国語の学力テストの点数が40点以下の生徒(各学校で30~40%を占める)のために言ったことを書いておく。
「小3あるいは小4の国語力だよ。さっきも「糊代をつけろ」というのを「味をつけろ」と聞き違いするようなことが起きるんだ」
 知らない言葉が出てきたら知っている言葉にかってに変換してしまう、このまま社会人になったら上司の指示が理解できない。口頭で指示されたことと違うことを度々やったら仕事はクビになるよ、だから国語力は大事なんだ相手の話しの意味がわからなければ外人も同然だね。英語もわからない日本語もわからない生徒を大量に作り出しているのが根室の小中学校の現実だ。英語は母国語である日本語以上にならないから学力の基礎は日本語能力。少し込み入った仕事を指示されてもきちんと理解できる基礎学力がなければ社会人として働くこともできないんだよ、わかったね。

(小学校や中学校のやるべきことは、卒業時にはその学年に要求される基礎学力を責任をもって身につけさせて送り出すこと。)

 毎回お説教でうんざり、生徒も楽しくないだろうし、わたしも楽しくない。1年生はイレギュラー扱いでもう1クラスあるがそちらのクラスの生徒は全員成績が上がっている。
 いままでの経験では辛抱していればがらっと変わるものが出てくるから、なかなかクビにはできない。このまま放り出したら、根室西高ですら授業についていけずに退学する生徒になりかねない。
 昔と違って高校全入時代のいま、中卒だと履歴書すら受け取ってくれない市内企業が大半だろう。勉強しなくても船に乗れば月収50万なんて話は昔のこと。
「ブカツにうつつを抜かして本業の勉強の手をいつまでも抜いているとたいへんなツケが将来回ってくるぞ」
 まあ、中学生にはわからんだろうが、高校2年生になれば進学や就職はもう目の前の現実問題だ。正社員の仕事なんか地元就職希望者の三人に一人以下しかない。高校であまり勉強に熱が入らず地元で就職がなくて専門学校に"進学"する生徒が多い。そこそこの大学を卒業しても正社員になれるものは3人に2人もいないだろう。お父さんやお母さんたちの世代とは就職事情がまったく違うんだから、勘違いするな。

【たった4つの守るべきこと】
 ①優先すべきはブカツではなく勉強
 ②優先すべきは日本語(と英語)の音読と宿題・予習
 (それらをやってから余った時間でゲームやモバゲー)
 ③みっともないから言い訳はしない
 (「ごめんなさい」が先、次回は必ず指示通りやり抜くこと)
 ④授業中は勉強に集中すること
 (姿勢はまっすぐ、おしゃべりをしない)

 これらのことを守って、塾でやっている日本語の音読トレーニング(テキストは斉藤孝『読書力』)とそこに出てく読めなかった漢字、書けない漢字を5回ずつ書いてくれば半年で国語の学力テストは70点を超えるだろう。そういう地道な努力がなかなかできないところが「生活習慣」に係わる問題なんだよ。自分に負けるな。

 次回は成績中位層の中学2年生の語彙力を採り上げるつもりだ。高校問題検討会の面々はぜひ読んでほしい。何が根室の中学校で起きているのかを知っておくことは高校統廃合を検討するうえで少なからぬ示唆を与えるはずである。


 #1843 真っ赤な顔で… :先週の中1英語授業から  Feb. 13, 2012
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-02-13

 #1839 中2成績中位層の日本語語彙 Feb. 12, 2012 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-02-12

 #1837 中学1年生 日本語語彙の現実  Feb. 10, 2012 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-02-09-1


 #1829 中1の語彙力の実例 : これでは先生たちの授業も理解できぬ  Feb. 5, 2012 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-02-05

*#1810 悩み Jan. 22, 2012 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-01-22

 #1823 激烈な競争から這い上がれ:団塊世代の友人からの手紙 Jan. 31, 2012 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-01-31




にほんブログ村