田母神俊雄『日本は侵略国家であったのか』を読んで

  ネットで検索したら巷で噂の、田母神俊雄空幕長『日本は侵略国家であったのか』があったので読んでみた。教育に関して帝国大学に関する記述があったのでその部分のみ採り上げる。
 かつて帝国大学は9あった。6番目に創られたのが朝鮮の京城帝国大学(1924年)、7番目が台湾の台北帝国大学(1928年)であり、大坂帝国大学(1931年)や名古屋帝国大学(1939年)はそのあとに創られてた。朝鮮と台湾の現代教育の基礎は日本がつくったといってよいだろう。日本は明治維新後、法外な高給を支払って外人教授を招聘し、自力で学制を整備していった。
  すでにお雇い外人教授の時代ではない。日本人の優秀な学者を朝鮮や台湾に集めるためには帝国大学という格式が必要だった。朝鮮や台湾でも質を落とさない大学を創ろうという意図は明らかだ。なんのためだったのか。日本の近代化に学校の整備がどれほどの力を発揮したかはその後の歴史であきらかである。世界一の陸軍大国のロシアとの戦争で勝っている。白人国家と戦って勝利した唯一のアジアの国であった。アジアの独立のため、欧米の侵略から脱するためには教育の充実が重要な国家戦略であった。
 つまり、教育に関しては国内と同等の扱いをしたということだ。このようなことは欧米の植民地支配には例が見られない。英国はインドや香港に第2オックスフォード大学を創らなかったし、米国もベトナムで第2ハーバード大学を創らなかった。インドは戦後自力で大学を創った。それを日本は25年も前に植民地経営で実現しているのだ。そもそも植民地に大学を創るなどという発想は人種差別意識が根底にある欧米諸国にはない。欧米の植民地経営と対比してみると大東亜共栄圏構想もいくばくかの説得力をもつ。

 こういう事実を私たちが忘れる必要はない。侵略の事実と共に「大東亜共栄圏」という理念もたしかに存在した。当時は欧米列強のアジア植民地支配という現実があった。欧米列強からアジアの独立をという理念に燃えた者たちもいたのである。だから戦後現地の独立運動に参加し、ついに帰国することがなかった軍人が多数いた。欧米の植民地支配からアジアを解放すると言う理念の実現のために個人で独立運動に身を投じたのだ。
 あの世界大戦は、日本が侵略国家で連合国が自由と民主主義を掲げてファッシズムの国と戦った戦争であると単純には割り切れないものがある。どちらも帝国主義で、覇権同士のぶつかり合い、世界争奪戦の様相もあるからだ。

 著者は忘れたが、台湾の植物学は日本人学者が命をかけて現地調査をして、現地の学者を育てた。高砂族という首狩族が山岳地帯に住んでいた時代のことである。日本が台湾を統治していたときは治安もよかったようだ。あとから大陸から追われて逃げてきた国民党軍にくらべればよほど規律がよかった。だから80歳を過ぎた人には親日家が多いという。黄文雄の著作ではなかったかと書棚を探したが見当たらない。他の人かもしれない(⇒あった。やはり黄文雄『日本人が台湾に残した武士道精神』(徳間書店、2003年10月刊、11月23日追記)
 手元にあるの黄文雄『歴史から消された日本人の美徳』(青春出版社、2004年12月刊)であるがこの本ではなかった。朝鮮でもインフラ(電力・道路・学校など)整備を積極的にやった。収奪するより投資額のほうが多かった。

 田母神氏の主張はいくつか無理のあるこじつけが含まれているが、すべてが無茶苦茶なわけではない。個々に具体的な検討や議論がなされていいし、そうあるべきだ。

 いろいろな歴史解釈があるのが当たり前である。対立する史観相互で議論があるのが望ましい。
 だから時間のある人は、新しい歴史を作る会のメンバーである西尾幹二の著作『国民の歴史』(産経新聞社、平成11年刊)を読まれるといい。ただ、この本は773ページもある。私は目新しさに惹かれて三色ボールペンで線を引きながら味わったが、時間のない人には別の面白い本を紹介しておこう。
 松原久子著『驕れる白人と戦うための日本近代史』(文芸春秋社、2005年刊)
 松原さんはドイツにいてミュンヘンでこの書を著し、ケルンの駅頭で平手打ちを受けたほど物議をかもした書であると帯に紹介されている。さもありなんという内容である。ドイツ語で出版された原著の翻訳がこの書である。歴史には実にさまざまな観方があることを教えられる。ヨーロッパのほうが野蛮だったとする彼女の主張がドイツ人をいたく傷つけたのだろう。
 この本はたったの232ページである。英語に興味があり、通訳や英語を使った仕事に就きたい人にとくに強く薦めたい。日本の歴史や文化を知らずに「買い物英会話程度」で外人と付き合うのは実に危うい。まずは日本を知り、そして欧米を知れ。必読の書とさえ言っておこう、百聞は一見にしかず、理由は読めば分かる。

 *田母神俊雄『日本は侵略国家だったのか』はこのアドレスをクリックすれば見られる。
http://www.apa.co.jp/book_report/images/2008jyusyou_saiyuusyu.pdf

 2008年11月18日 ebisu-blog#404
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