NHKのお昼のニュースで加藤厚労大臣が新型コロナウィルス検査の社会保険適用の検討を始めると明言した。遅すぎますね。そして「検査能力を高める」とはどういうことなのだろう?
 業界トップの民間検査センターの技術水準をまるでご存じないようです。

 SRLでPCR検査を導入したのは87年ころだったかな、そのころ世界で一番厳しい米国品質管理基準CAPライセンス取得をしています。日本の精度管理基準では飽き足らなくて、創業社長である藤田さんの提案で、チャレンジしました。3000種類の検査の標準作業手順書を整備して、それを英訳したのです。2年後には標準作業手順書は電子ファイル化されて、メンテナンスが楽になりました。それ以来、2年ごとに米国からCAPライセンス更新のために、査察を受け入れています。SRLは品質管理でも、設備面でも、技術面でも、大学病院よりもずっと先を走っています。

 そういうわけでPCR検査は30年以上の技術的な蓄積があり、SRLではごく普通の検査です。
 新型コロナ遺伝子の遺伝子情報が公開されているでしょうから、PCR検査に必要なプライマーの提供があれば、いまからでも検査可能です。海外メーカの市販品もあるようです。
 いまどれくらいの人数がいるのかわかりませんが、SRL八王子ラボには30年には800人ほどの臨床検査技師が働いていました。93年ころに調剤薬局分野の事業展開のために薬剤師が何人いるか人事部へ問い合わせたら70人いました。ルーチン検査をしている社員の中には大学院卒もいます。検査に携わっているのは、業界でも圧倒的に有資格者が多いのです。

 あれから30年がたつので、プライマーも研究部か特殊検査部で製作できるのかもしれません。韓国は外国メーカの「検査キット」を使って数万人の検査をしています。先ほどのテレビ(恵俊彰さんがMCの番組)の説明では直近の最大値は13000/日です。日本では今までの合計値でも6000前後にすぎません。直近の1週間の平均値は900/日です。国立感染症センターや都道府県の衛生研究所にはそれぐらいの処理能力しかないということでしょう。PCR検査機器も検査技術者も足りない。民間検査センターのPCR検査処理能力は機器の数も検査員の数もケタが違います。

 日本で開発している「簡易検査キット」は機器と検査専用消耗品がセットです。値段が高そうです。国が「簡易キット」配置に関与しているようですが、関与する必要はありません。利権と思われます。国が関与すると価格が高くなる。民間検査センターはシビア―ですから、仕入価格はメーカーのいいなりにはなりません。

 日本の民間検査センターでトップレベルの企業は「簡易検査キット」なんかなくても新型コロナウィルスのPCR検査はいくらでもできます。SRLではPCR検査は30年間もルーチン検査に使われていますPCR検査に特別なスキルは必要ないのです。加藤大臣は何か勘違いされているように見えます。周りのスタッフ(厚生官僚)に問題がありそうです。いつまで騙されてるのでしょう。

 日本臨床検査学会が公表している日本標準臨床検査項目コードはSRLに管理事務局があります。そこで新型コロナウィルスPCR検査を新規登録すれば、ただちに全国の病院の医療システムへ配信・登録できますから、検査はすぐに始められます。25年も前に、産学協同プロジェクトを組織して毎月1回、5-6年の作業部会のすえにつくりあげたコードです。全国の病院と民間検査センターがこの標準臨床検査項目コードで接続されています。こういう非常時に、このコードは絶大な威力を発揮します。コードの標準化は1986年8月に提案した「臨床診断システムと専門医育成のためのCAIエキスパートシステム事業化案」がベースになっています。臨床検査項目コードを標準化しなければ、疾患群ごと臨床診断支援エキスパート・システムはつくれないし、そもそも世界市場を視野に入れたビジネス提案だったから、日本標準は世界標準臨床検査項目コード制定のたたき台のつもりでした。この分野では十数兆円の市場規模があるし、先に走った者の勝ちになります。20年前に通信速度もコンピュータの性能もこのビジネスが可能な域に達していますが、米国にもEU諸国にも標準臨床検査項目コードはないからら、いまでもこの分野では日本が圧倒的に有利です。
  厚生省は当時わたしたちが何をやっているのかすら興味がなかった。意味すらまるでわかっていなかったし、25年たったいまもそのようです。世界中で、臨床検査項目コードの標準化に成功した国は日本以外にありません。厚労省はその使い方もわからないのでしょう。国内のことだけ考えているから、グローバルな視点がもてないし、視野も狭くなります。
 検体の搬送ルートも通常のルートを使うだけですから、温度管理もトレースできるようになっており、公的機関への搬送よりもよほどしっかりしてます。
 加藤大臣の周りには、どうやら仕事のできる参謀がいない、そして官邸には大坪審議官のような人がいて、ダイアモンド・プリンセス号にも乗り込んで引っ掻き回しているだけのように見えます。官邸に集めた「お友達スタッフ」とそのまたごく親しい「お友達」では非常時にはまったく対処できないことがはっきりしました。

 官邸と厚生労働大臣が検査体制の整備にもたもたしている間に、新型コロナウィルスは感染拡大を続けています。非常時にこれではほんとうに危うい。

<余談-1>
 SRL八王子ラボで学術開発本部にいたのは89-91年ころのことです。PCR検査が始まってましたから、プライマー製作を自社でやれば、材料費が削減できるので、事業化ターゲットの一つに考えていました。あと2年いたら、暇を持て余して、研究部課長のT梨さん、特殊検査部長のH地さんと相談して始めたでしょう。学術担当取締役のI神さんは、わたしの提案にはなんでもOKだしてくれましたから。わたしも彼に頼まれた仕事は全部クリアしてあげました。win-winの関係でした。必要な予算は本社の管理担当副社長のY口さんへ電話すればいいだけ、経理担当役員は元上司、いくらでも自由。採算の合わないことは言わないし、帳尻合わすのは簡単。本社へ戻って予算編成や長期経営計画の担当になる可能性がありましたから、よく言うこと聞いてくれました。(笑) 八王子ラボ学術開発本部での2年余りの間の仕事は、沖縄米軍向けの出生前診断検査の開発や慶応大学産婦人科医との出生前診断検査基準値に関するプロジェクトのマネジメント、開発部業務(製薬メーカとの検査試薬開発)のPERTチャートを使った標準化、海外製薬メーカからのラボ見学要請への対応(3時間ほどのラボツアー)、米国の染色体検査会社V社の買収案件など。ナスダック上場で100億円の話でした。当時の国際金融機関が作成した買収交渉の資料がどういうレベルかよくわかりました、10年ほど前に他の会社で米国のその方面の尖端の専門書を原書で読んでましたから、よくわかった、面白かった。3日間でぶ厚い資料を読み切り、稟議書を書き上げました。自分で買収評価額の計算ができたので速かった。妥当な金額を算出してましたね。ベルトハイムシュローダーという当時世界有数の金融資本でした。
 業界ナンバーワンのSRL八王子ラボには面白い話、事業化可能なネタがごろごろしてました。業界トップの起業で仕事するというのは愉しいものです。

<余談-2>午後2時半追記
 いまやっているBS1チャンネルの韓国のニュースでは、韓国の新型コロナウィルスのPCR検体処理能力は7500/day、6時間で検査結果が出るそうです。必要な処理能力は20,000/dayだがまだ追いついていない状況。韓国政府に比べて日本は実に手際が悪いと言えます。
 韓国に民間臨床検査センターは32年前には存在しなませんでした。32年前に韓国人の臨床検査技師の技術研修を受け入れたのはSRLです。その後合弁会社設立の話をいただいたが、お断りししました。ブランドに瑕がつくことを恐れたからです。
 同じ体制が日本でとれたら、患者数は現在の数倍あることがはっきりするでしょうね。通勤電車が最大の感染源になるのではないですか?首都圏では1時間半程度の通勤は普通です。閉鎖空間に毎日罐詰ですから。

 東京オリンピックへの影響も大きいが、正直にやるべきです。盲点になっているのは開催時期の7月は南半球では冬だということ。南半球からも選手団や見物客が大挙してやってくるから、とうぜん、新型コロナウィルス感染者もいるでしょう。取り返しのつかぬ大失敗をやってしまったのです、不手際を認め、ギブアップ宣言して、オリンピックはロンドンでやってもらったらいかが?決断は早い方がいい。

 日本人としての誇りがあるなら、感染症でごまかすことがあってはならない、ここまで来たら日本という国の信用問題です。

 日本の公的機関80施設のPCR検査処理能力は1500/day。これではお話にならぬ。非常事態だというのに1か月以上も時間をロスしてしまった。これが戦争だったら、初動作戦の過ちで部隊は全滅です。
*https://tennismania1.com/new-coronavirus-simple-test-kit/



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