<更新情報>
2月26日22時40分<まとめ>追記

 ブログ「情熱空間」の「要するに練習不足ってこと」という記事へ考えているところを投稿したので、それに加筆修正してアップします。「数字のセンス」の育て方に関する議論です。
*http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8755588.html#comments

1.〈 問題演習量が減っている 〉
 これは合格先生とZAPPERさんの問題提起です。
 わたしもそう思うので、合格先生とは角度を変えて制度変更に焦点をあててみます。
 授業で問題演習に割ける時間が足りなくなっているんです。
 40代後半の世代が小中学校のときは土曜日も4時間授業をしていました。国語と算数(数学)がそれぞれ週1時間多かったのです。時間数が減ったことで「読み・書き・そろばん(計算)」の3つの技能がそろって落ちています。それに輪をかけて、家庭学習時間や読書時間減少しています。ゲームのプラットホームもソフトも高性能化が進み中毒症状を呈する生徒が増えています。そして10年前までなかったスマホの使用も生徒たちの生活時間を確実に侵食しています。そういうわけでこの10年間で読書量が大幅に落ちました。小学4年生程度の語彙力の生徒はいまや中学生の20%を超えています。この層は社員として働くことはほとんどできそうにありません。仕事に必要な専門書を読み、必要な資格をとることができないでしょう。
  第2土曜日休みの始まったのが1992年から、ついで第4土曜日の休みが1993年からです。学校完全週休2日制(土曜日休み)の実施は2002年4月からです。減った時間をカバーするには学習指導要領記載事項を教えることに注力して問題演習を減らすことしかなかったのでしょう。それが無理だったということです。
 北海道の教員の平均的なスキルでは、学校の授業で十分な問題演習時間がとれない、それが実態です。家庭学習時間や読書時間も減少しています。どくに読書習慣のない生徒が増え続けています。語彙力不足と読解力不足で文章題の問題文が読みきれない生徒が激増した、この10年間の大きな変化です。

 それでも、昔もいまも、家庭学習でしっかり計算トレーニングを積んでいる子は20%くらいはいるのでしょう。そういう子たちは「数字のセンス」がいいし計算も速い。たくさんやるから工夫をする機会も多くなります。
 珠算塾が流行らなくなったことも基礎的計算力の育成にはダメージでした。
 「読み・書き・算盤」の基礎的技能がそろって低下していることが、数字へのセンス低下につながっているようにみえます。
 家庭学習が足りないだけでなく、学校の算数・数学授業時間数も2割程度は減っていますから、学習指導要領で規定された事項の解説を優先することになるので、必然的に問題演習時間がカットされているという現実が見えてきます。

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*投稿欄をご覧ください・・・24日夜10時半追記
 ZAPPERさんが文科省の資料が載っているURLを教えてくれたので、資料から数字を拾って中学校の数学の授業時数の推移を書き込みました。中学3年間で団塊世代は420時間、50歳代の世代は385時間、20歳代前半までの人は315時間です。授業時数は1時間が50分計算になっています。
 いま気がついたのですが、国語の授業時数がひどいことになっています。団塊世代は3年間で525時間ですが、現在の中学生はたった350時間(3割減)です。これでは名品を一斉音読する暇なんてないでしょう。

*投稿欄から・・・25日12時追記
   だんだん見えてきました。
 ゆとり教育(=授業時間量削減)は昭和55年(1980年)から始まったのですね。総授業時間数が減ると同時に、国語や算数・数学などの教科授業時間が削られて「総合的な学習等」の時間が210-335時間も新設されました。
 平成10年(1998年)の改正のあと、さらに2012年から「脱ゆとり教育」が完全実施され、「総合的学習等」の時間が削られて、各教科へ割り当てられました。

 文科省の下段URL資料の「現行」というのは2012年以降のことで、「旧」というのは1998年の改正のことを指していると理解してよいのでしょう。
 国語と数学は現在は385時間になっているということ。
 団塊世代に比べて国語は140時間、数学は35時間減っています。
 国語が3年間毎週1時間少ないのですから、現在の中学生の日本語運用能力、語彙力、読む本のレベル低下が起きて当然です。

 官僚と専門家に教育制度を審議させていると、こういうことになるのですね。
日本人の日本語能力が著しく低下していけば、日本的情緒をもたぬ日本人が増えていきます。こころの芯が削られていくような心地がします。

「弱いものイジメをしてはいけない」
「卑怯なことをしてはいけない」

 千年以上も受け継がれてきた日本的な価値観や情緒が失われていくのはぞっとします。もののあわれ、和、大和魂・・・。
正規雇用を減らし、非正規雇用を増やすことで利益を上げ、役員報酬を増やして恬として恥じない経営者が増えています。「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」という商道徳も大企業経営者のこころにはなくなりつつあるのでしょう。

 惻隠の情も日本人のこころから失われつつあるようです。
イジメがはびこり、イジメを見ても敢然と身体を張ってとめる子どもがいなくなってしまった
子どもだけではない、大人がおかしい。大人が背中で教えなくてどうする?

 日本人の価値観や情緒は、古典文学や明治期の名品にたくさん書かれています。近いところでは山本周五郎や池波正太郎が江戸情緒を伝えています。幸田露伴『五重塔』も職人気質をしっかり書き込んでいます。そういう日本的情緒をたっぷり含んだ作品群を読み、その中に含まれている滋養を十分に吸収して大人になってもらいたい。
 国語の授業時間を525時間に増やすべきです。
by ebisu (2017-02-25 12:03) 
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2.〈 おおよその答えを想定して問題を解く 〉
 数学の得意な生徒は答えを予想して問題を解きますから、想定の範囲からずれると黄色信号がともるんです。それが違和感の正体。英語は別です。たくさん読み書きした結果、正しい語彙と用例がインプットされ、それが脳内にライブラリーとなって違和感を産み出します。

「なんだかヘン」

 これがないのがセンスの悪い人。どんな答えを出しても気がつかない。廊下の幅に関する問題の答えが2cmでも単位の間違いに気がつかないのは違和感が沸かないからでしょう。

 1をかけても1で割っても元のまま、1より大きい数(たとえば2)を書けたらもとより大きくなり、1より大きい数(たとえば2)で割ったら、答えは小さくなる(2で割ると半分になる)。
1より小さい数を書けたら、元の数よりも小さくなり、(0.5や1/2で)割ったら元の数よりも大きく(2倍に)なる。

 これだけでも、小数や分数の計算間違いをずいぶん減らせます。
 1より小さい数で割ったのに、
「あれ、元の数より小さくなっちゃった」
となるのでしょう。

 昨日中3の空間図形の問題(難易度Bクラス)をやってました。答えが整数なら、図形を見れば数秒でおおよそ見当がつきます。それから計算したらいい。分数で答えが出ても予想した整数に近ければ正解です。計算結果が予測値と離れていたら立式と計算過程をチェックします。これが標準手順になっているのがセンスのよい者。

 数日前の中2の生徒とのやり取りを例にとって説明します。

 「シリウス21 数学 Vol.3」207ページの平面図形と立体図形の問題をやっていました。
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問題3:図の四角形ABCDは、1辺の長さが15cmの正方形である。辺BC上に、BE=8cmとなる点Eをとり、∠DAEの二等分線と辺CDとの交点をFとする。FからAEにおろした垂線をFHとするとき、次の線分の長さを求めなさい。
(1)AH
(2)DF
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 (1)は△ADFと△AHFが2辺とその間の角がそれぞれ等しいので合同ですから、AH=AD=15cm。三角形の合同を利用すると問題が解けると気がつくこともセンスです。条件から、利用できる定理を考えればいい。中学数学で習った狭い範囲内でサーチすればいいだけですから、問題ごとに2-5個くらいに限定されます。
 (2)は図を描いてみたらわかりますが、DFはBEよりは少し長く、CFが7cmよりも少し短いので、答えが整数なら9だということが推測できます
 ここまでわかれば、DF=HF=xとして

  △ABE+△AEF+△AFD=15^2

とやれば、xが計算できます。三平方の定理でAEの長さを計算しておきます。あとは三角形の面積の立式ですから簡単です。
 推測値は9cmですが、ドンぴしゃり。これが20になったりしたときは、ありえない数字なのでどこかにミスがあるはず、立式と計算過程をチェックします。
 だから、途中計算はメモを残してチェックできるようにしておきます。暗算は厳禁、こうすると見直しが高速でやれます
 アッセンブリー言語でプログラミングすると見づらいので、1980年頃からストラクチャード・コーディングが普及しました。わたしが見たのはストラクチャードCOBOLでしたが、これでシステムを開発時の担当プログラマーと数年後にメンテナンスに携わるシステムエンジニアが別の人でも容易に読めるようになりました。すぐに簡易言語で高速のもの(EASYTRIEVE)が開発され、事務系のプログラミング環境は格段によくなりました。
 プログラミングに限らず、整理して後から見やすい形に書くことがいいのです

 文章題では「答えに当たりをつける」ことがとっても大切です結果が出たらあらかじめ予測した数値と突合してみる、突合すべき数字をもたないものはどこかにミスがあっても気がつきません。何よりまずいのは自分が出した答えに確信がもてないことです。
 「答えに当たりをつける」生徒は、ミスが少ない。ミスが減らせるのですから、センスがよいと言っていいのでしょう

 あと一つお付き合い願います。
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問題4:半径が2cmの円の円周上に3点A,B,Cがあり、△ABCは正三角形である。辺BCの中点をDとし、ADの延長と円との交点をEとする。次の問に答えなさい。
(1)ABの長さを求めなさい。
(2)DEの長さを求めなさい。
(3)BDEで囲まれた面の面積を求めなさい。
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 最初の問題は円に内接する正三角形の一辺を求める基本レベルの問題です。円の中心からBとCに補助線を引けば二等辺三角形ができます。∠BACが60度ですから、その中心角である∠BOCは120度、したがって、△BODは30度と60度の直角三角形です。これが見えるかどうかは「センス」でしょう
 この手の問題が初見で見つけられる生徒は高校生になったら、進研模試の数学偏差値が80を超えるでしょう。一度やったことがあればできて当然です。この生徒は優秀ですが初見でしたからギブアップでした。補助線さえ引けたら計算は簡単です、慣れですね。半径は2ですから、BCは2√3、暗算ででます。
 AEが直径で4cmですから、ADを引けばDEが求められます。BDEで囲まれた部分の面積は、図を描いて鳥瞰すればすぐにわかります。円の面積から内接する正三角形の面積を引いて1/6をかければいい。こういう手順がすぐに出るようになるには、問題演習量をある程度こなさないと無理です。この中2の生徒は中3の問題集を一冊やり終えつつあるところですから、不慣れなんです。なるべく答えを見ないで自力で解くように指導しています問題が解けないときはその生徒にとって最小限のヒントをあげます。この問題の場合は、

「円の問題で一番出てくるのは円周角と中心角の関係です、そのままで解けないなら、補助線を考えたらいい、特徴のある三角形が隠れています」

ヒントはこれだけ。
 いきなり答えの解説はいたしません。それだけでちゃんと最後まで解き切りました。ヒントが少なければ少ないほど達成感があります。それを味あわせるのが目的です。解くことが楽しくなります。「これを知る者はこれを好むものにしかず、これを好むものはこれを楽しむものにしかず」と言います。問題演習を通じて、問題を自力で解く楽しみを体験させます。
 円に内接する三角形の問題は数Ⅰの三角比で出てきますから、この手の問題を中学校でしっかり勉強しておくと、三角比でまごつくことがないでしょう。中学校の数学は高校の数学の布石の部分が多いのです。いい加減にすませた人は高校生になってからたまったツケを払うことになります。それでもいいのです。短期間、死に物狂いで努力して得意分野に変えてしまう生徒はいつでもいます。小数ですが。

 < まとめ >
 中学校三年間の数学の授業時間数が420⇒385時間(ゆとり時代は315時間)になり、学校の数学授業で問題演習量が足りなくなっています基礎計算能力の育成にはかなりの問題演習が必要ですから、問題演習量の不足は何らかの形で数学のセンス、とくに計算や数量関係のセンス低下をもたらしていると考えれれます
 数量に関する文章題は答えにアタリをつける生徒とそうでない生徒では正解率に大きな差異が生じると考えられます。アタリをつけた範囲からずれていたら、立式と計算過程をチェックします。その際に、チェックしやすいようにメモを書きながら計算してあると、高速で見直しができます。そういう一つ一つにこだわることも数学的なセンスを磨くことになります
 平面図形では補助線が見えるかどうかが、正解への鍵となっていることが多いので、必要な線を書き入れることができるというのも重要な数学的センスです
 正三角形の半分や、直角二等辺三角形は辺の比が既知ですから、そこに持ち込むと問題が解ける場合が多いので、そういう観点から問題を眺めることができるというのも数学的なセンスです。これらの数学的なセンスはトレーニングによって磨きをかけられます。わたしは個別指導でそういうことに配慮した指導をしています。一度に10人くらいまでなら個別指導が可能です。

 もう2題具体例で解説したいのですが、長くなったので次回へまわします。


 社会人になったときにこういう「当たりをつける」という勉強の仕方が役に立ちます。ドンぴしゃり出なくても、ストライクゾーンに入っていればほとんどの仕事はOKです。どの辺りがストライクゾーンかがわかっていれば、シミュレーションの結果がその付近ならOKなのです。

 じつはビリヤードも同じことなんです。キャロムゲームですが、撞いた後の球の配置がアバウト半径15cmくらいの想定したゾーンに入っていれば十分です。あとはそれをこなす技術をしっかりトレーニングしておけばよい。それでセミプロの腕前です。自在にそういうことができるのはトッププロ。スリークッション世界チャンピオン小林先生かアーティスティックビリヤード世界2位の町田正さんクラスです。町田さんはボークライン日本チャンピオン。3ゲームだけお付き合いいただいたことがありますが、それはそれは見事なものです。球の動きとキュー捌きが美しい。あのキュー切れは、鉄のキューで素振りを繰り返したからでしょう、類を見ません。町田さんのお父さんの方のビリヤード店に鉄のキューがありました。

<答え>
問題3:(1)15cm   (2)9cm
問題4:(1)2√3    (2)1cm   (3)2/3π-√3/2 (cm^2)

*#3507 数学のセンス(1):数字に表れる美への感動がセンスを育てる Feb. 16, 2017 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-15-1

 #3509 数学のセンス(2):「同型性」と「拡張」⇒どのように考えるのか Feb. 19, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-19

 #3511 数学のセンス(3):授業時間数減少、数量、平面図形 Feb. 24, 2017 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-23

 #3512 数学のセンス(4):空間図形 イメージ操作 Feb. 26, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-26


 #3514 数学のセンス(5):空間図形と論理的思考 Mar. 2, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-03-02




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