<更新情報>
11/20 午後2時 武藤久慶さんの条を追記

< 中学3年生の人数と高校入学定員 >
 根室西高校が廃校になり、来年4月から根室高校1校になります。現在の中3の人数が何人かをみれば、おおおよその倍率がわかります。
 市のホ-ムページに学年別人数資料があります。
http://www.city.nemuro.hokkaido.jp/dcitynd.nsf/image/35e638b6540badca49257f78002016ea/$FILE/第4編P27-33.pdf

 今年度の資料はまだアップされていないので、昨年の中2の生徒数が今年の3年生の生徒数ですから、247人ということになります。
 わたしの手元にあるデータでは、

  光洋中 76人
  柏陵中 78
  啓雲中 53
  合計  206人

 郡部合計は市街地の中学校の1/3でしたが、ずいぶん減りましたね。計算上はたった36人しかいません。資料の間違いではないかと心配になるほど少ない。

 根室高校の定員が普通科160人、商業科40人、事務情報科40人のようですから、合計240人です。例年、根室以外へ20人ほど進学していますから、それが10名に減っているとしても、「246-10=236人」で定員割れです。どの科かが定員オーバーしても全体としては定員割れすることがわかります。

 全員入学おめでとう、そういうことになります。
 来年は210人しかいませんから、30人の定員割れです。現2年の皆さん、高校合格おめでとう。
 再来年は216名ですから一人も流出しなくても24名の定員割れですから、受験予定の現1年生の皆さん合格おめでとう。
 ・・・

 これではますます勉強しなくなるわけです。学力低下の負のスパイラルが止まりません。

< 地元企業は人材面で弱体化が起きる >
 地元企業の経営者の皆さん、こんな現状に無関心でいて大丈夫ですか?
 根室高校卒業生という人材プールの中から自分の企業を担う人材の大半を採用しなければならないのですよ。学力上位10%は進学して戻ってきません。上位10-30%層も7割は戻ってきません。地元に残る人材の半数は高校入試で得点100点以下、百点満点に換算すると33点以下の学力が現実になります。団塊世代が高校進学した1964年は、根室高校には成績上位1/3の生徒しか入学できませんでした。地元企業を支えた人材の大半は根室高校卒業生です。これからは300点満点で百点未満の人材プールから半数以上を採用せざるを得なくなります。地元企業の未来に何が起きるかは明白です
 ふるさとの未来は変えることができます。教育に関心をもち、社員を大事にして、自分の会社を都会の会社に負けないくらいオープンな経営に変えませんか?
 経営改革をやることで、人材を育てることができます。そして優秀な若い人たちが何人も戻って来たくなるように変わりませんか?
 高校を卒業と同時に大海原に出て回遊し、ふるさとの川に戻ってくる鮭のようになってくれたら、何があろうとも根室の未来は明るい。

< 最近の学力テストデータでの検証 >
 最近のデータでちゃんと話をします。
 光洋中学校と柏陵中学校は学力テスト総合AとBの平均点が130点付近で一緒です。五科目合計点が百点以下をみると、光洋中は25人/76人(32.9%)です。平均点が同程度の柏陵中も似たような分布だと仮定すると、百点以下は25人です。啓雲中の平均点は総合Aが112点、Bが119点、Cが107点です。総合Cで百点以下をみると、25人/53人(47.2%)です。
 郡部の1/3の生徒が百点未満だとすると12人が百点未満です。
 学力テスト総合Cで百点未満の生徒が市内の3年生全部で87人ですから、受験者総数の35.4%を占めています。成績上位30%が進学してほとんど戻ってこないとすると、地元に残る卒業生の半数は中3の学力テストで五科目合計得点100点以下(300点満点)ということです。

< 日本語読解力の急激な衰え:自己肯定感の喪失 >
 このうちの半数(44人)は高校の教科書を読んで理解する読解力がないと推定されます。国立情報研究所が最近やったリーディングスキルに関する予備調査でも340人中20%の中学生が教科書を読んで理解できないと判定されました。だから、日本語読解力が低くて高校の授業が理解できない生徒が全国津々浦々に20%も存在しているのです。小学校4年生くらいから、硬いいすに座ってわからない授業を聞き流し、小学校4・5・6の3年間、中学校の3年間、高校でさらに3年間、合計9年間硬い椅子に座り続けています。こうして低学力の生徒たちは自己肯定感が根こそぎなくなってしまいます。全国学力テストと一緒に行われているアンケート調査にはっきり出ています。北海道の子供たちの自己肯定感全国平均よりも低いのです。

< CIEの「日本人の読み書き能力調査」 >
 昭和23年に連合軍総司令部民間情報教育部(CIE)は日本人の読み書き能力に関する全国調査を実施しました。調査は統計学的にきわめて厳密にデザインされ、当時の人口7755万人から17100人を選んで実施されました。
 ○ひらがな、カタカナ、数字が書けるかどうかをみる
 ○漢字の書き取りテスト60題
 ○文章題10題
 
 このテストの文章題が抜群に難易度が高いのです。大野晋『日本語の教室』(岩波新書)154-160ページにあります。
 テストの結果は、「仮名が書けなかった者が1.7%、漢字が一字も読めない者を加えて2.1%で、日本の非識字率は2.1%、識字率は97.9%であるとされました。
 「このテストで満点を取った人は4.4%不注意で間違えたのではないかという点で満点と認めてもいいという人が1.8%で合わせると6.2%が満点であると報告されています。ということは、全国ではおよそ500万人が満点だったわけです」。
 得点が80-90点の層が49.1%も占めています。
*日本人の読み書き能力調査(1948)の再検証
*https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/repository/metadata/2219/GKH020807.pdf
(121ページから126ページに問題文が一部載っています。難易度の高い万葉集に関する文章題や、長文読解問題が載っていません)

 昭和23年の日本人は現在と比べると比較を絶するほど日本語能力が高かったことがわかります。それが戦後の高度経済成長や国力をを支えていたとしたら、現在の子供たちの日本語読解力や語彙力の衰えは30年後の日本経済や日本人の情緒や精神構造にどれほどの破壊的な影響を及ぼすのか空恐ろしい気がしてきます。

< 学力が低すぎてマクドナルドでバイトができない現実 >
 過度な部活、スマホ、ゲーム機、テレビなどで読書時間がなくなっているので、本が読めません。読んでいるように見えても、読めない字をすっ飛ばして、字面を追っているだけで、意味は理解できていません。
 おおよそ15-25%、そういう生徒が各中学校に存在しています。社会人になったらどうなると思います?マニュアルを読んで理解できません。マックやモスバーガーでアルバイトもできません。商品名が憶えられないでしょう。注文を受けたら復唱しなければなりませんから。
 昨年釧路で開かれた全国教育シンポジウムで、元北海道教育次長の武藤さんが、実例を出して説明していました。

  「ダブルクォーターパウンダーチーズ、三つですね」

 マクドナルドのメニューのひとつですが、もちろんこれ一品ではありません、たくさんあります。そして季節やある日を境にメニューが変わります。英単語の暗記が不得意な人はバイトできませんよ。五科目合計百点未満はそういうレベルだということです。
  この低学力層の生徒たちは10年後に一人で生活して食べていけるでしょうか?五科目合計百点未満というのはそういう深刻な問題を抱えているのです。根室高校はいまやほとんどの科目が追試をやらなくなっています。低学力のまま、追試も受けずに進級し、卒業できるのです。統合前から低学力の生徒が増えてしまって、もう追試も面倒なのかもしれません、授業レベルは年々下がっています。例を挙げたほうが早いでしょう。数1Aの授業は十年前は1月20日に終わり、21日から数Ⅱをプリントでやっていました。いまは2月いっぱいかかっています。生徒の学力低下で、今度は高校が授業の進捗管理ができなくなっているのです。そのうちに教科書を難易度の低いものに変えることになるのでしょう。

< 生徒の大半は中小企業へ就職する >
 高校を卒業して専門学校や大学へ進学して、9割は中小企業に勤務することになります。新規に開業する中小企業の3割が十年後に消えてなくなります。20年後には約半数になります。単純労働はどんどん自動化され、機械やシステム、AIに置き換わります。20年後には現在ある単純労働は半分になっています。
 今年3月に羽田の手荷物受付カウンターが完全自動になっていたので、まごつきました。あそこで働いていた数十人の人たちはどこへいったのでしょう?仕事がなくなれば合法的に解雇できます。
 そのうえ、40歳くらいまでに4割くらいの人が会社倒産やリストラで転職せざるをえません。そのときに、仕事のマニュアルを読んでも意味が理解できなかったら、激減していくであろう単純労働すら職に就けません。もちろん、自動化によるリストラなら同じ職種につける可能性はありませんから、別の職種に就かなければなりません。マニュアルすら読みこなせなければ仕事があると思いますか?ベトナムやフィリピンなどから流入する「技術研修」の人たちと同じ賃金水準で働くことになります。運よく職にありつけたとしても職種が変わってゼロスタートですから最低賃金水準で40歳以降も働かなければならないということです。
 高校を卒業して、進学もせず、就職もしない若者がすでに10%います。「読み・書き」能力が著しく劣ったまま形式卒業した生徒たちがこの中には多いとは思いませんか?

 部活狂いして、文武両道をすっかり忘れている皆さん、大丈夫ですか?10年後20年後の未来を生き抜いていけますか?

< 北海道教育局元次長武藤久慶さん >
 「教育シンポジウム北海道」での武藤さんの「基調講演」要旨は弊ブログカテゴリー「教育シンポジウム北海道」にあります。2015年11月釧路で開かれた全国教育シンポジウムのときに初めてお会いしました。開口一番「もっと怖い人を想像していました」、これには大笑い。
 2014年2月15日に武藤さんは教育局次長として根室高校で講演会をしましたから、ご存知の人があるでしょう。わたしは授業があり出席できなかったのですが、#2214に書いています。そのころに、そろそろ文科省へ戻る内示があったでしょうと伝えたら、図星でした。わたしは3度出向したことがあるので、その辺のころあいがわかります。「内緒に願います、戻る前に根室でお酒を飲みながらゆっくり話がしたいと」申し出がありました。どこのお店を利用しても話は噂となって伝わり、根室の教育行政がびっくりするので、おやめいただきました。ebisuは北海道教育文化研究所ができたときに役員を引き受けています、そして「釧路の教育を考える会」の創立メンバーでもあったので、教育問題で意見交換をするパイプがありました。一度だけこの若手官僚と激しい議論をしたことがありました、それで「怖い人」だと勘違いされたのでしょう、好々爺ですよ、すぐに矛を収めました。お互いに立場があって譲れない主張もありますから、忌憚のない意見を一度は交わす必要がありました。
 2013年1月下旬に授業の進捗管理に関わる記事で、弊ブログが炎上したことがありました。彼はしっかりモニターしていましたよ。2週間後に授業の進捗管理に関する3課長連名の通達が道内すべての中学校に発信されました。道教育局は前から道内の中学校では授業の進捗管理が杜撰で学力低下の原因のひとつであることを知っていました。いい機会ととらえたのでしょう。電光石火の行動にわたしのほうがびっくりでした。あの件では根室市教委を巻き込む大事(おおごと)になりかかったので、火消しに配慮したつもりです。当時の根室市の教育長は何にも知らずに暢気なもので、危機管理能力ゼロでしたね。釧路の教育を考える会のメンバーには強硬論がありました。北海道に切れ者の教育官僚がいることを知ってうれしかった。
 中央官庁では課長職が国の政策を立案しています。彼は文科省に戻って、小中一貫教育に関する教育制度改革室の室長補佐をしていましたが、あるとき、ポルトガル語の勉強を始めたことに気がつきました。小中一貫校は重要な教育制度の変更ですから、その目処がつくまでは文科省が離さないのは当然です。オリンピックが近くなっているので、まさかブラジルへ行くなんて事はないだろうと思っていました。どなたかに能力を買われたようです。武藤さんはブラジルオリンピックの前に赴任、現在、ブラジル大使館で一等書記官としてご活躍です。
 文科省にいる間はこんな話を書くつもりはありませんでした。

*#3182 教育シンポジウム(7): 武藤久慶氏による基調講演⑤ Nov. 20, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-19-2

 #2214 北海道庁教育局義務教育課長「講演会」でどよめきあり Feb.16, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-02-17


< 余談:今昔 >
 10年ほど前のことです、根室高校普通科が珍しく定員オーバーで、Fランク150点で数人が不合格だったことがあります。当時よりも入試問題は簡単になっていますが、何人の生徒が150点を超えているのかは、興味あるデータです。
 学力テスト総合Cで、光洋中25人、啓雲中11人です。光洋中と平均点がほぼ同じ柏陵中学校が25人とすると郡部が12人とすると、合計73人です。
 10年前の150点で足きりすると、普通科の定員は2クラス、80人で十分なのです。

 五科目合計点が100点(300点満点)以下の生徒のほとんどは、高校の教科書を独力で読み、理解することができません。 小学校の算数やアルファベットから「学び直し」をすることになるのでしょう。
 生徒の質を維持するために、わたしは高校側に100点で足きりすることを勧めます。勉強する気のない者に門戸を開く必要はありません。中学時代に甘やかしたら、そのほとんどの生徒に打つ手がなくなります。
 わたしは、幼少期の育て方、躾の仕方が、中学生になったときの学力に大きく影響しているのだと思っています。小学3年生あるいは4年生ころに算数で落ちこぼれた生徒は、中学校では独力でほとんど這い上がることができません。嫌いな数学でも我慢して一時期やりきらないとアウトです。しかし、そういう低学力の生徒たちは、我慢する力も弱いのです。少年団活動や部活三昧して、勉強しなくてもずっと何も言われずに育ったのですから無理もありません。子供は育てたように育つものです。
 いやなことでも必要なことは我慢してやる、幼少期にしっかり躾ましょう。


#3348 英文和訳にはたしかな日本語ボキャブラリが必要 June 29, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-06-28-1 

#1861 "先生、みて!" : うれしい学年トップ Mar. 1, 2012
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-03-01

#1572 学力と語彙力の関係(2): 5科目合計点が高い⇔国語の得点が高い? July 6, 2011
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-07-05-3

*#1570  「学力と語彙力の関係(1):総論」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-07-05


#3495 根室高校出願状況 Jan. 27, 2017 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-01-27


      70%       20%      
 

日本語の教室 (岩波新書)

  • 作者: 大野 晋
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2002/09/20
  • メディア: 新書