<更新情情報>
6/16 朝8時10分 1988年ころ世界一厳しい精度管理基準であるCAPライセンスを取得 
    1990年当時の韓国の臨床検査技師たちは学卒ではなかったか?
6/16 11時30分 ウィキペディアより引用、他数箇所追記
6/17 9時 <余談-2:1988年ころエイズ検査室は遺伝子組み換えのできるp3仕様>
6/17 10時 <エボラ出血熱とBSL4>:ジャパンタイムズ記事解説の弊ブログURLを追記 ⇒高校生や大学生は英語の勉強と感染症の勉強が同時にできるから、リストした弊ブログ記事を丹念に読んでみたらよい。
6/17 10時半追記 <HIV関連弊ブログ記事のURL>
6/18 0時15分 <facts>追記 死亡者数20名、感染者数162名、隔離者数6500人
6/18 23時 死亡者数は23人になった。
6/19 9時 日本の貢献⇒京都府大グループがダチョウを使ってMERS抗体の大量精製に成功した。これで予防薬がつくれる。

 MERS(Middle East respiratory syndrome「中東呼吸器症候群」)が韓国でいっこうに終息しない。韓国内では空気感染の可能性まで言われだしている。飛沫感染と空気感染ではまるで対応が異なる。そんな基本的なことすらハッキリしていないのでは医療水準を疑わざるを得ない。
 病原ウィルスはSARSコロナウィルスに似たコロナウィルス(β型)で2012年に発見されたとウィキペディアに載っている。
*https://ja.wikipedia.org/wiki/MERS%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9
「2015年5月30日現在の合計では、1149人感染(韓国12人を含む)、431人死亡[3]。感染地域は2015年5月に韓国、中国に広がった」

<facts>
 17日現在のデータを並べておく。
○死亡者数20人 
○感染者数162人
○自宅や医療機関での隔離者数6500人
○致死率は12.3%(SARS重症呼吸器症候群の致死率は9.6%(774死亡数/8098症例数))*データは国立感染症センター
○有効な治療法はまだ公表されていないし、特効薬もない。
○潜伏期間は2~14日間。
○感染者の半数80人は(サムスン電子グループの)サムスンソウル病院で感染
 サムスンソウル病院は韓国最高レベルの医療専門家と設備を備えているが、そこで80人もの2次感染者をだした事実は、韓国の医療レベルがどの程度のものなのかを如実に現しているのではないか?

*国立感染症情報センター SARS致死率
http://idsc.nih.go.jp/disease/sars/QA/QAver2-01b.html
 
<韓国の臨床検査業のレベル>
 もうずいぶん昔のことになる、1990年ころだったから25年ほど前のこと、わたしは国内最大手の臨床検査センターの八王子ラボの学術開発本部で仕事をしていた。そのころ韓国から臨床検査の研修に来ていた人がいた。研修が終わり、帰国してから連絡があった、臨床検査業を立ち上げるので、私のいた会社の名前に「韓国×××」という文字を足して企業名にしてよいかという打診である。まったく資本関係も技術提携もないのに、韓国子会社のような印象を与えるので返事はノー。
 東南アジア諸国でも臨床検査業を立ち上げたいという人はいた。当時はこれらの諸国では平均所得水準が引く過ぎて大衆相手の臨床検査業は成り立たない。数十年間は高所得層に限定した臨床検査業になると予想していた。それゆえ、海外市場は打って出るほどの魅力のあるマーケットではなかったから、現地で臨床検査業をやろうという志の人たちのために研修受け入れをした。

 私企業でも業界ナンバーワン企業はアジア全域を考えて、何をなすべきかという視点で仕事をしているから、昭和初期にも大東亜共栄圏という視点から行動していた経済人や企業がすくなくなかったのではないだろうか。否、業界のリーダ企業の多くがそういう視点から対アジア政策を考えていたのではないかと思う。長期戦略として教育・訓練ということを重視したからこそ、韓国と台湾に帝国大学を設置し、厳しい日本の財政からインフラ整備のために莫大な予算を投じたのだろう。韓国を併合し、韓国を近代化することがロシアの南下を止める術(すべ)だった。韓国自身が独力で近代化を果たすことは当時は不可能だった。

 韓国の臨床検査業は日本よりも20年(特殊検査のSRLは1970年創業)遅れてスタートした。今回のMERS騒ぎを見て、患者が3箇所病院を替わるも、MERSの診断がつかなかった背景には、臨床検査業の未成熟さが関係していたのではないかと、そういう印象を受けた。あれから25年たったが、韓国は1990年の日本の臨床検査業の水準にまだ追いついていないのかもしれない。
 日本では1990年ころ、業界ナンバーワンのSRLが世界で一番厳しい品質管理基準である米国臨床病理学会CAPライセンスを取得した。3000検査項目の標準作業手順書を日本語と英文の両方で作成して審査を受けた。学術開発本部内に精度管理部があって、そこが担当したのだが、手が足りず、学術情報部も本部スタッフの東さん(米国で20年間の臨床検査関係の仕事の経験があった女性で、一回りくらい年上だったのでebisuにとっては「お姉さん」、いろいろ仕事を教えていただいた)とわたしも手伝った。開発部だけこのプロジェクトには参加していなかった。3000項目もあれば、新規項目の追加や検査試薬や機器の変更などに応じて標準作業手順書が頻繁に更新されるから、翌年にすべて電子ファイル化した。こういうところは人材の投入もお金の投入も糸目をつけないハッピーな会社だった。1億円以内ならすぐにOKが出たから、会社は儲けないと嘘だ。高収益会社でないと業界のリーダとして社会貢献できる仕事すら不可能になる。その後、業界の2番目3番目の会社が追随して、CAPライセンスを取得している。トップ企業が走り出したら、2番手3番手はその後を追いかけざるをえないのである。だまっていたら水がどんどんあいてしまう。
 日本の精度管理基準をクリアしていれば何の問題もないのに、SRLはあえて世界一厳しい基準で仕事をしようとした。そういう「蛮勇」に業界2位と3位の会社が追随するというのも楽しい。この辺りにも日本人の職人魂を見る思いがする。仕事をするなら全身全霊、渾身の力でやりきるという職人魂があらゆる分野の職人に宿っている。職人魂は日本人が受け継いできた重要な伝統文化や精神のよりどころのひとつである。日本人はそういうことを当たり前のことだと思っているが、そうではない。世界にまれな文化なのである。韓国や中国は形は真似るが、精神をコピーできない。そこに彼らの仕事の陥穽がある。
 韓国にはもう一つの懸念材料がある。韓国で流行っているのは美容整形である。感染症分野の臨床医が少ないのではないだろうか。だとしたら、韓国のMERS騒ぎはしばらく収まらないのかもしれない。

 しっかりした病院があり、感染症の知識のあるドクターや人工呼吸器を扱える技能の高い看護師が多数いて、診断を助ける精度の高い臨床検査業が存在すること、これら三つが揃って国民の医療を支えうるのである。医療のインフラともいうべきこういう基本的なところが成熟している日本ではあれほどの混乱は起きないのだろう。でも油断は禁物だ。SARS騒ぎのときにも問題になったが、爆発感染した場合に治療に必要な人工呼吸器が日本の病院には十分なだけ揃っていない。しかし、数千人規模の感染拡大なら対応できるだけの設備はある。

 韓国は困っている、日本は韓国に何かしてあげられることがないのだろうか?
 韓国と日本は人の交流が多いから、韓国のMERSの沈静化を助けることは、日本人への感染拡大というリスクを小さくする。「情けは人のためならず」という言葉があるではないか。ギクシャクした関係も、こういうときの対応次第でいくらかは改善できる。

<京都府大グループ MERS抗体大量精製に成功!>19日9時追記
 グッドニュースだ。ダチョウを使ってMERS抗体の大量精製に成功したというニュースが流れている。これで予防薬がつくれる。
*産経ニュース
http://www.sankei.com/life/news/150619/lif1506190009-n1.html

「韓国で感染が拡大している中東呼吸器症候群(MERS(マーズ))コロナウイルスに強く結合する抗体を、京都府立大大学院の塚本康浩教授(動物衛生学)のグループが、ダチョウの卵を使って大量精製することに成功した。共同で研究を進めている米国陸軍感染症医学研究所で検証中だが、すでに韓国、米国に配布、スプレー剤として大量生産を開始した。抗体によって覆われたウイルスは人の細胞に侵入できなくなり、感染予防に大きな効果があるという。・・・
 抗体はMERSの感染が拡大している韓国のほか、米国にも配布治療薬として認可されていないため人体へ直接投与することはできないが、抗体を使ったスプレー剤はマスクやドアノブ、手などに噴射すれば感染予防になるすでに大量生産しており、医療従事者や韓国と日本の空港への配布を考えているという。」


<余談:韓国の病院検査技師さんたちのラボツアー>
 八王子ラボの学術開発本部には開発部、学術情報部、精度管理部で構成されていた。わたしは本部スタッフとして開発部の仕事である製薬メーカとの検査試薬の共同開発案件を2つとPERTを利用した共同開発業務の標準化、米軍から要望のあった出生前診断検査(MoM値)に関するシステム開発案件などを担当していた。それらに加えて学術情報部の仕事であるラボツアーの内、海外からの見学者希望者を担当をしていた。学術情報部は国内顧客のラボツアーを担当し、海外からのラボツアー要請には本部スタッフのわたしが対応するという仕分けになっていた。見学ご案内の後報告書を書くことになっているが、保存している報告書ファイルを見たら、国内の大学病院からの見学希望者も同じくらいの数を消化している。

 そういう行きがかり上韓国からの見学希望者5名のラボツアーをしたことがある。いらっしゃった韓国の臨床検査技師の中で一番年配の人は日本語が堪能だった。ほかにも日本語が話せる人がいた。彼らはラボに着いたとたんに中央線から見た日本の住宅の狭さを日本語で話題にしていた。そんなに狭いかと問うと、韓国の彼らの住居(マンション)は150~200平米あり、それが普通だというのである。普通の水準がずいぶん違う、韓国の臨床検査技師はずいぶんと社会的地位が高く、高給取りなのだと驚いた。
 韓国は儒教社会であり学歴を重視する。中国同様にこの点では欧米の考え方に近い。あのときの印象では一人は院卒、あとは学卒の臨床検査技師ではなかっただろうか。専門学校出では、韓国社会であれほどのプライドはもてない。当時の韓国では民間臨床検査センターはまだ存在せず、臨床検査技師に対する需要も病院内に限定されており臨床検査需要が小さいから、専門学校がなかったのかもしれない。
 このラボツアーには免疫血清部のH山部長が一緒に対応してくれた、韓国語が堪能だったからである。H山さんがアンニョンハシムニカと挨拶したら、とたんに表情が変わった。堅苦しい感じが取れて笑顔になり、日本人の住宅が狭いというような否定的な話題がなくなり、空気ががらりと変わった。そのあとなごやかなラボツアーになったのはありがたかった。2時間半ほど時間をかけて各検査部・課の検査項目や検査機器の説明をしながらラボ内をご案内した。
 初めてお会いする人には、その人の母国語で挨拶するのがいい。

<余談-2:p3レベル実験室仕様のエイズ検査室>
 SRLでは1988年ころに、エイズ検査が急増したので、検査員の安全を考えてp3実験室仕様に改造した。p3実験室とは遺伝子組み換え実験が可能なレベルのもので、当時民間の臨床検査会社では最高の仕様の設備だった。外部に空気を排出しない陰圧仕様の部屋で、定期的に交換するヘパフィルターもハイレベルの高額のものだった。
 p3仕様の検査室は法的な義務があってやったものではなく、検査に従事する社員の安全を考えて自主的に導入を決めたものである。こういう決定は実にすばやい会社だった。検査室ではたらく社員たちの話だが、
「ラボ内でここが一番安全、だって他の検査室にもエイズ患者の検体が混じっている可能性があるから危険だ、ここは全部の検体がその可能性があるという前提で扱っている」
 エイズ(HIV)検査ではない検査に、感染検体が混じる恐れがある、そっちのほうが怖い。当時、毎日1~2例ほど陽性がでていた。厚生省(当時)の公表データと大きく異なる。1988年の厚生省公表データでは、HIV感染者数はたった23人*だけ、AIDS発症新規患者14人とあわせても37人。厚生省のデータは医師からの報告だから、HIVキャリアとAIDS(後天性免疫不全症候群)発症患者を分けて集計している。すでに報告済みのHIVキャリアがAIDSを発症した場合は二重にならないようにカウントから取り除かれている。表の解説を読むと、凝固因子製剤による感染者もこの統計から除外されている。
 わたしが知る限りで、厚生省が国内ナンバーワンの企業にエイズ検査陽性が年間何件あるのかを問い合わせてきたことは一度もない。HIVキャリアとAIDS患者を分けるとか血液凝固製剤を統計から除外するなどさまざまな理由があり、現場の医師からの報告データから集計するという基本方針だったようだから、検査センターに問い合わせを行わなかったのだろう。集計は医師からの報告のものと民間検査センターのものと二本立てでやるべきではなかったのか?医師からの報告ではキャリアの数が実際の数十分の一に過小評価されてしまい、初期対応を誤ることになった。
 SRLではスクリーニング検査で要請となった検体は、すべてウエスタンブロット法で確認検査をしていた。当時ですら陽性検体は年間500件ほどあった。厚生省のHIV対策は著しく遅れ、他の諸国が新規感染者を減らしたのに、日本は感染者を増やし続けた、データを見ていただくとそのことがよく分かる。2008年までHIV感染者が増え続けてしまったのは、塩川委員会が実際のキャリア数とは大きく異なる医師からの報告データのみを公表し続けたからで、初期対策が何年も遅れてしまった、重大な失政であったとわたしは思う。
*厚生省公表データ
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2250.html

 なお、現在はp3レベル仕様とは呼ばない、(バイオセーフティレベル)BSLという用語を使う。
 BSL-4レベルの実験室は国立感染症研究所にあるだけ。もちろん自衛隊がそうした施設をもっているのは常識だが、軍事機密なのであるともないともいわない。エボラ出血熱のような病気が国内でアウトブレイクしたら対応できないということは前に#2848に書いた。
 BSL-3とBSL-4の説明をウィキペディアから以下に引用する。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%82%BB%E3%83%BC%E3%83%95%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%83%99%E3%83%AB
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グループ3
ヒトあるいは動物に生死に関わる程度の重篤な病気を起こすが、普通ヒトからヒトへの伝染はない。有効な治療法・予防法がある。黄熱ウイルス狂犬病ウイルスなど。

グループ4
ヒトあるいは動物に生死に関わる程度の重篤な病気を起こし、容易にヒトからヒトへ直接・間接の感染を起こす。有効な治療法・予防法は確立されていない。多数存在する病原体の中でも毒性や感染性が最強クラスである。エボラウイルスマールブルグウイルス天然痘ウイルスなど。
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<エボラ出血熱とBSL4>
 BSL4問題はエボラ出血熱のところで以前とりあげている。高校生や大学生は弊ブログで感染症と英字新聞記事読解の勉強をしたらいかが?

*#2842 エボラ出血熱1-1: 'The worsening ebola crisis' Oct. 18, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-10-17-1

 #2843 エボラ出血熱1-2 :'The worsening ebola crisis' Oct.19, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-10-18

 #2844 エボラ出血熱2-1 :'Spain case shows holes in plans to treat Ebola' Oct.19, 2014  
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-10-19

 #2846 エボラ出血熱2-2 :'Spain case shows holes in plans to treat Ebola' Oct.19, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-10-19-2

 #2847 エボラ出血熱2-3 :'Spain case shows holes in plans to treat Ebola' Oct.21, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-10-20

 #2848 エボラ出血熱2-4 :国内の体制はどうなっている? Oct.22, 2014  
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-10-22-1

<HIV関連弊ブログ記事>
*#769HIVイベント「高校生の、高校生のための、高校生による」 Oct.25, 2009 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2009-10-25

 #2024 高校生のためのホットな性感染症知識:HIV感染の実態と新薬  July 23, 2012 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-07-23

 #2026 高校生のためのホットな性感染症知識(2):国際エイズ会議 July 25, 2012 
  http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-07-25
 
 #2584 北海道の高校生や大学生のためだけの(?)HIV知識 Feb. 6, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-02-06





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