生産年齢(15~64歳)人口が急減しだした。労働力が足りないので、労働市場への供給を増やすために、女性の進出促進をするのだと安倍総理はのたまっている。

#2645より引用
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 総務省が4月15日に発表した平成25年10月1日時点の人口推計によると、外国人を含む総人口は前年に比べ21万7千人減の1億2729万8千人で、減少幅は3年連続で20万人を超えた。このうち15~64歳の生産年齢人口は、116万5千人減の7901万人で、32年ぶりに8千万人を下回った。・・・

 生産年齢人口データを並べてみよう。
 2010年 8174万人
 2012年 8018万人
  2013年 7901万人
 2040年 5787万人
 30年間で2387万人(29.2%)の減少

 総人口の減少は2078万人だから、総人口減少率(16.3%)よりも生産年齢人口の減少率(29.2%)のほうが大きいことがわかる。省エネ技術が進むだろうから電力需要も30%程度は減少するだろう。
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 26年後の2040年までに約3割生産年齢人口が減少する。企業の数や規模を同じだけ維持しようとすると、たいへんな労働力不足が生じるように見えてしまうが、経済規模全体が縮小するのだから問題はアンバランスな経済縮小、つまり少子高齢化と地域格差の拡大だろう。言い換えると、総人口の減少率よりも生産年齢人口減少率が大きいので、労働力が長期的に不足するという問題が起きつつあるということと、地域が有能な人材を首都圏に送り出す力が急速に失われることによる地方と首都圏の同時衰退。
 さらに別の言い方をすると、人を使い捨てにしてきたブラック企業が人材を確保できなくなって経営破綻するということでもある。それは淘汰というもので因果応報、自然な流れだろう。ブラック企業が人材を確保できずに次々に経営破綻していけば、求人も減少する。経済全体が縮小均衡するということだ。成長路線なんてありもしない幻想を追わずに、縮小均衡と地域格差是正を前提にさまざまな政策を考えればいい。

 安倍総理は自らの幻想の成長路線の看板を掲げ続けるためと財界からの要望に応えたくて、女性を働き続けさせたい、あるいは家庭から出て労働市場へ投入して労働市場の供給量を増大させたいということなのだろうが、米国のように女性が男たちと同じ土俵で勝負するような社会がいいのだろうか?グローバリズムの名の下に、欧米の男女同権=性差無しの経済が望ましいのだろうか?性差があるのにまるでそれがないかのようなルールで働く欧米型の労働市場や家庭のあり方がいいとは思えぬ。

 「むかしむかしおじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯にいきました。・・・」と、こういう物語を聞いてわたしたちは育った。
 性差による男女の役割分担は自然なものと理解しそうした情緒の中で暮らしてきた。そのどこが悪いのだろう?

 男が外で仕事して、女が家庭を守り子育てをする。子育てにおいても男の役割と女の役割は異なる。そうした自然な分担が日本の家庭のあり方だった。美しい日本とはそういう家庭を基本単位としてできていたのではなかったか。全部がそうしろとは言わぬが、基本はそれでいい。その基本からのバリエーションはいろいろあっていいが、男女同権、女も男と仕事で競えというのは女に対して過酷な要求に聞こえる。

 昔話をしたい。正社員が1000人を超える会社で、女の部長が3人いた。二人は言葉づかいがあまり女性らしくはなかった、そしてかたくなだった。課長職としては有能だったが部長職にしたのは失敗のようにわたしの目には見えていた。女性らしい言葉づかいと物腰の持主はお一人のみだった。結局男勝りの二人は淘汰された。ラボは圧倒的に女性が多い職場だが、それでもこうした現実がある。無理に女性の管理職を3割にアップしたらどういうことが起きるだろう?組織機能がガタガタになりかねない。民間企業で働いた経験のない世襲議員である安倍総理はそうした機微が理解できないのではないだろうか?

 女性を管理職に登用して男並みに働かせたら、管理職予備軍の女性たちは子供を産もうと思うだろうか?少子化がさらに進むのではないか?
 少子化は核家族化が進んだことも原因の一つと考えていいのではないのか。いまある働き方が子育てにとってたいへんにまずいからではないのか?
 たとえば、根室から出て東京で結婚して子どもを産み育てるのはたいへんである。子どもが生まれても親の子育て応援は期待できない。地元に居れば、仕事をしていても親に預けることができる。子どもが病気をしても近所にいる親に見てもらえる。東京ではそういうことができないのである。団塊世代はそれでも自分達で何とかできた世代だ。なぜそのようにできたかというと、小学校の時代は日本全体が高度成長期直前でそれほど豊ではなかったから辛抱する力、それがバイタリティの源になっていたからではないのか。物質的に豊ではない時代を経ていない若い人たちにはバイタリティも辛抱力もなくなっている。

 東京の若い人の大半が進学で田舎から集まった者たちである。非正規雇用が全体で40%にも増えており、経済的にも子育てに実に困難な状況下で暮らしている。少子化になるのは当然だろう。

 年代別の働き方や家族のあり方から考えないと生産年齢人口の縮小問題は乗り越えられない。根室を考えると高校を卒業して地元根室の残るのは毎年40人くらいなものだ。おおよそ三分の一である。だから30年もすれば現在1学年250人いるが70人くらいに減少するだろう。老人人口比率は50%近くになり、町は急速に縮小する。

 ありえない成長路線ではなく格差縮小へと舵を切らないといけないのではないか?正規雇用で生まれ育ったふるさとに職があれば出生率は上がる。そういう社会をつくろう。
 当面足りない労働力は60歳を過ぎた元気な「老人」を使えばいい。週に3日働いて、5万円でいいではないか。三人で若い人一人分くらいの仕事は充分やれるだろう。小欲知足、老後を質素に暮らし、次の世代へ蓄えを残して死んでいこう。

 男は外で仕事をし、女は子育てをして家庭を守る、そういう何百年も受け継いできたやりかたのメリットをもう一度見直すべきではないのか?そしてそういう家族のあり方を保障できるような経済の仕組みや産業のあり方を、そして働き方を考えるべきときに来たのではないだろうか。
 日本列島は縄文時代から1.2万年の歴史をもっている。そのとてつもなく長い歴史の中で、長期的な人口縮小と少子高齢化は初めての経験である。いま立ち止まって、これからどのような仕組みの経済社会と家族制度をつくり上げて行くのか考えるべきときなのではないか。

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<余談>
 以下は7月20日ジャパンタイムズ日曜版の社説である。家族、とくに男女の役割分担はに性差を基本にするというのが伝統的な日本人の家族観であって、欧米の男女平等という特殊なスタンダードとは異なるものであることが最近の民間調査データを挙げて述べられている。英文は平明なので高校生や大学生はぜひ読んでもらいたい。もちろんこういう問題に関心のある大人もどうぞ英文読解力のブラッシュアップを楽しんでください。

「明治安田生命福祉研究所が20~40代を対象とした調査で、「夫が働き、妻は専業主婦」との考え方を支持する男女が4割、「子どもが小さいうちは妻は育児に専念」を支持する男性は64%、女性は71%に上った。・・・」
 こうした伝統的な性差に基く役割分担に関する若い人たちの意識は、女性の労働条件が子育てしやすいように変化していけば近い将来変わりうることも指摘されている。
 それを伝統的な家族観の破壊と受けとるか、改良と受けとるかはあなたの考え方次第である。わたしは、日本人は伝統的な価値観を大切にして、欧米とは異なる価値観で経済社会を営むのがよいと思っている。文化や伝統がなくなり、どこにいっても同じではつまらぬ。すくなくとも日本の伝統文化や価値観は人類に残しておくべき価値があるものだと考えている、百花繚乱、豊かな多様性があるほうがいい。


*http://www.japantimes.co.jp/opinion/2014/07/19/editorials/ingrained-ideas-gender-roles/

Ingrained ideas on gender roles
(男女の役割分担に関する伝統的な考え方)

A recent poll has found that 40 percent of both men and women in their 20s to 40s believe husbands should work full time while their wives stay at home. The poll, taken by Meiji Yasuda Institute of Life and Wellness, is a startling challenge to the push by Prime Minister Shinzo Abe to increase the number of women in the Japanese workplace.

What’s more, 65 percent of male and 71 percent of female respondents said women should concentrate on parenting while their children are very young.

This traditional view of gender roles is becoming increasingly outdated despite its persistence. The poll did not make clear whether the respondents were thinking of the current situation, where parents have trouble finding affordable and convenient child care, or whether they were thinking of some improved situation in the ideal future.

The polls clearly reveal how ingrained concepts of male and female roles are in Japan. However, the poll also reveals the degree to which economic and social conditions lock traditional ideas in place. When there is no possibility of change, old ideas persist.

Actual conditions often have to change first before social attitudes and opinions can open toward new realities. In Japan, it seems, those conditions are beginning to change, slowly but steadily.

A recent report from the Japan Business Federation (Keidanren) reported that 60 percent of leading companies have set targets for promoting female workers to management, as an important part of achieving sustainable growth. Business leaders seem to realize the importance of women working, even if a large percentage of average workers do not.

The central government ministries, too, have worked toward hiring a larger percentage of women to revitalize the economy and the bureaucracy. The hiring has not yet reached parity, but has been improving year on year.

The current Abe administration is also considering a bill to promote women to senior positions in the public and private sector.

After these changes are given time to take hold in the daily experience of workers, it is likely that ideas of what is best for men and women will also change.

The Japanese mindset in difficult times tends toward making personal attitudes fit given social conditions. With the tough economic situation for many people, the traditional attitude toward men’s and women’s roles must seem safe and comforting, and so continues.

But as conditions change — when women have access to child care so they can keep working, when more women are in senior positions in business and government, and when working conditions become flexible and supportive enough for both parents to help raise children and stay working — the Meiji Yasuda poll, in some future year, will find very different results.
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*#2645 生産年齢人口の長期的な減少は何をもたらすか Apr. 16, 2014  
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-04-16

 #2565 人口減少社会を問ふ(2) Jan. 17, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-01-17

 #2564 人口減少社会を問ふ(1) Jan. 16, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-01-16






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 山本周五郎は江戸情緒を描く名人である。江戸時代の武家の嫁の生き方にもっと謙虚に学ぶべきではないのか。己に厳しく、崇高で美しい女の生き方が見事に描かれている。何度も読み返したい本だ。

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  • 作者: 山本 周五郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
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