標題のスキームは同志社大教授浜矩子が4月7日NHKラジオ番組「ビジネス展望」で最悪のシナリオとして解説したものである。このスキームへといたる論点を箇条書きにしてみる。

(1)日銀の異次元の金融緩和の効果なし
 金融緩和するも市中には資金需要がない。生産を拡張するような状況にないし、大企業は内部留保がたまっているから自己資金が潤沢にあり、投資の必要があっても銀行借り入れをするような状況にない。日銀当座勘定が増えただけで異次元緩和は市中への影響なしというのが実態。

(2)物価上昇
 物価上昇は国内需要が増大したからではなく、円安による原材料高や輸入穀物・食糧の輸入金額が円換算で高くなったことによるもの。当初目的としていた「需要増⇒インフレ」によるものではない。

(3)デフレマインドは改善したか?
 マインドは気分、気分の浮かれているだけ。株価上昇で気分がよくなっている人だけのお話し。その一方で、貧困にあえいでいる人たちの比率が高くなっている。こういう人たちにとって"マインド"は関係ない話だ。

(4)デフレ脱却のために必要なこと
 分配政策が必要。格差が拡大して貧困な人たちの状況を改善し、需要を増大させることがデフレ脱却の本筋である。

(5)貧困層はどういう状況にあるか
 賃金が上がらない。ベースアップは大企業の正規雇用者の話で、非正規雇用や中小零細企業は原料高と消費税アップで収益が圧迫されてベースアップどころではない。
 大企業は正規雇用のベースアップをした分、非正規雇用や下請けのコストカットを行うだろう。ますます所得格差が拡大する。

(6)日銀の金融政策決定会議について
 追加緩和をあまり早くやるとやることがなくなる。新たなことをやっているような見せ掛けのイメージ作りをするのに苦労をするのではないか。

(7)最悪のシナリオ
 日銀に国債がたまっていることにみんなが気がつき、国債をもっているのはリスクを大きくするから、国債の買い手がいなくなる。投売りが始まれば国債は大暴落し、円相場も連鎖的に大暴落する可能性が大きい。

 わずか8分足らずの短い番組だが、浜矩子は日銀の異次元金融緩和の現下の状況をこのように解説している。

 浜矩子はアベノミクスの三本の矢のうち「異次元金融緩和」はまるで効果がなかったと論拠を掲げて解説している。民間企業の資金需要がないのにいくら膨大な金融緩和をしても日銀当座勘定へブタ積みされるだけで成長戦略にはまるで役には立たない。
(円安によるインフレなどいい事は何もないから、ドアホな政策だ。「#2245円安はそんなにいいことか」で解説しているので、そちらも見てほしい。)

 まずいのは、日銀だけが国債の買い入れ機関となりつつあることだ。元々赤字国債の日銀直接買い入れは禁止されていた。それは戦時経済で赤字国債を増発したらついに戦争が終わるまで歯止めができず、戦後に深刻なインフレを引き起こしたからである。財政健全化を保持するためには赤字国債の日銀買取は本来禁じ手なのである。
 銀行は国債保有のリスク回避のために期間の長い国債を短いものに切り換えている。このままだと、国債の買い手が市場からいなくなり、大暴落のリスクが大きくなる。
  国債が売れなければ、借換債も新規赤字国債も消化できないからただちに政府財政が破綻する。借換債は2012年度に110兆円、2013年度は128兆円の規模に膨らんでいる。
 国民はいつ爆発しても不思議ではない爆弾の上に寝ている。そんなことはみんなが知っているが、だれも「王様は裸だ」と叫ばない。それも日本人の特質のひとつかも知れぬ。横並びがいい、大勢に異を唱えない、和をもって尊しとなすという聖徳太子以来、いや大国主命(出雲政権)の国譲り以来つづく価値観に従順なのだろう。

 国債の日銀買い入れをやめ、長期金利を市場に任せればこのような野放図な国債発行はできないから財政規模を半分程度に縮小せざるをえなくなる。人口減少時代に突入してしまったのだからそれでいいのだが、日銀も政府も正反対の政策を続けている。財務官僚と日本政府そして日銀は三者そろって崖に向かってアクセルを吹かし続けている、もうとめられない。日銀が赤字国債の買取をやめたら買い手を失った国債は大暴落するから日銀は国債買い入れをやめられない。もう日銀の政府からの独立性なんてとっくになくなっており、政府と日銀は一蓮托生、自爆テロの様相を呈している。

 国民も、都道府県も市町村も国債とと円相場の同時大暴落に備えなければならない。時間の余裕は3年あるだろうか?甚大な被害は全国民に及ぶだろう。
 そのあとで、日本は伝統的な価値観に基く、職人仕事観をベースにした健全な経済社会を築けばよい。悪いことばかりではない、目が覚めたそのあとにはしっかりした経済を築くことになるのだろう。混乱の時代が始まればかならずそれを打開する能力をもった人物が現れる、日本とはそういう国だ。

 6年前(2008年10月10日)の弊ブログ記事 「#346これから10年間の日本経済のシナリオ」より抜粋引用。 
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《日本の伝統的価値観を基調とする経済社会構築の時代が到来》
 まったく別の、教育のあり方を含めた新産業育成政策が議論されるべきで、日本の伝統的な文化をベースに世界に向けて何かを創りだすべき時だ。
 商道徳の高さや生真面目な職人の労働観がベースとなるような信頼感溢れる安定した経済社会を世界に広めるべきときが来たのだと思う
 売上拡大や利益拡大を至上目的とするのではない社会。高度成長に価値を置かない世界。周囲と良好な関係を結びつつ、高い倫理性に裏付けされ自然と調和しながらつましく生活する経済社会を目指す時代、日本人の伝統的価値観や文化を見直すべき時代である
 高齢化社会を踏まえ今後50年、どういうビジョンで日本という国を運営するのかが議論されるべきだ。

《今後10年間のシナリオ(假説)と対処について》
 まず、米国経済の凋落による円高が始まった。円はこの10年間の間に50~80円/$(10日の外国為替相場は100.12円/$)になるだろう。後半には米国経済が凋落後、安定化する。日本は円高・株安で外為特別会計で保有している100兆円近い米国債で一時的に40兆円以上の為替差損を出すが、後半に起きる円安でとりもどせる。米国市場で運用している年金基金の91兆円も一時的に巨額の為替差損が生じるだろう。
 このまま放置すれば年金のディフォルト(債務不履行・支払い不能)が起きる累積国債残高は1000兆円を超え、10年のシナリオの後半に日本の国家財政は破綻を迎え円安が始まる
 このままでは日本経済は沈没し、そして10年の後半には200円/$を超す円安に向かって走り出す可能性がある。いろいろな可能性の内の一つに過ぎないが、備えておくべき假説である。だから、暫定予算など組んでいるときではないのだ。
 これ以上赤字国債を発行してはいけない。どんなに苦しくともやるべきではない。子どもたちに返済不能な借金を残すことは理由の如何を問わず人の道に外れている


 ドル下落による数年にわたる未曾有の円高、そして国家財政の破綻と高速高齢化による経済構造の大転換等が同時に来るカタストロフイーがいいのか、何度かに分けてショックを呼び寄せ、慣れていくのがよいのかという選択問題がある

 いずれにせよ先を見て仕事をしなかった官僚・政治家、それらを支持し続けた私たち国民が招き寄せた大災害であることは間違いない。政治や経済の流れを見ながら、もはや数度に分けてショックアブソーバーをかませて甘受するしかないというのが私の感想である。そしてその次に何を創りだすのかが議論されるべき時が来た。
 若い人たちのなかでセンスのよい者や何かの才能に秀でた者たちが叡智を絞ってビジョンをつくり上げ、国造りをする時代が来た。たとえて言うと幕末前夜、敗戦前夜である。

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*#2634 職人仕事を中心に据えた経済学の創造(2) Apr.7, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-04-06

 #2631 職人仕事を中心に据えた経済学の創造(1) Mar. 31, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-03-30-1

 #2627 消費税引き上げ+物価上昇>所得増加:三番目の矢はない  Mar. 22, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-03-21-2

 #2565 人口減少社会を問ふ(2) Jan. 17, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-01-17

 #2564 人口減少社会を問ふ(1) Jan. 16, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-01-16

 #2561 物価上昇なんて経済政策はありえない話だ:経済アナリスト藤原直哉 Jan. 10, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-01-10

 #2554 「日本の経常収支と円を考える」 東洋大教授・中北徹の論 Jan. 3, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-01-03

 #2549 アベノミクス批判 (2):内橋克人 Dec.31, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-12-31

 #2543 インフレと自己責任:リスク増大へ対処の方法はあるか? Dec. 27, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-12-27

 #2540 アベノミクス批判(1):『世界8月号』伊藤光晴論文 Dec. 23, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-12-23

*#2523 アベノミクスの行く末: 日本総研調査部長の論点 Dec. 9, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-12-09

 #2502 アベノミクスと企業経営 Nov. 18, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-11-17-3

 #2430 手詰まりの安倍首相 ついに消費税引き上げ決意表明 Oct. 2, 2013 
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  #2401 消費税値上げ延期なら国債価格は下落 Failure to raise sales tax 'could hurt bond prices' Sep. 9, 2013 
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  #2321 株価暴落はどこまで続くのか?:とりあえずの目安は11,250円 Jun. 4, 2013 
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  #2311 どうにも解せぬこと ミャンマーへ債務免除 : プライマリーバランスの回復はするつもりがない? May 26, 2013 
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  #2309 Nikkei dives 7%, ends below 14,500 : May 25, 2013
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  #2298 アベノミクスの罪:日経平均15,096.03円 May 16, 2013 
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  #2270 人口減少の衝撃: 2040年の日本の人口は1億727万人:"Japan's depopulation time bomb" : Apr. 21, 2013
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  #2256 マネタリーベース270兆円へ拡大:亡国の決断 Apr. 6, 2013 
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  #2245  円安はそんなにいいことか? Mar. 17, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-03-17

  #2185 各論(3):'Abenomics' Jan. 24, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-01-24

 #2170 各論(2):貿易収支赤字転落⇒? Jan. 3, 2013 
 
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  #2169 各論(1):国債暴落の可能性とその影響 Jan.2, 2012 
 
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 2168 歴史認識を欠いた安倍新政権の歴史的役割(2):蔵相高橋是清暗殺 Dec. 31, 2012 
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 #2164 歴史認識を欠いた安倍新政権の歴史的役割は何? 
 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-12-28

 #2158 自民党圧勝294されど第2の危機民主党惨敗  Dec.17, 2012 
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 #2144 成長路線と金融緩和の罠 : 衆院選挙でナイトメアがはじまる 
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 #1828 ゼロ金利の罠: Fed targets and transparency Feb. 3, 2012
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 #829 国家財政破綻の瀬戸際  Dec.12, 2009
 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2009-12-12

 #346 これから10年間の日本経済のシナリオ
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