移住希望者が気にしているのは、次の2点である。
①地域住民とのコミュニケーション
②病気・医療問題

 #2255でとりあげたら、ドクターから根室の地域医療について具体的な解説コメントをいただいたので、本欄であらためて紹介したい。
 地域医療上の問題は移住希望者に限らない、現在住んでいる市民にとっては現実の問題である。解説で心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患や脳出血に地元で対応できない地域医療の現状が浮かび上がる。
 産科病棟が再開できないことや医療療養型病床がゼロであり、老人のターミナルケアでも大きな問題があることは、皆さん承知のことである。生まれるのも死ぬのもふるさとでというのが、お母さん達や老人の切実な願いだ。
 市立根室病院の赤字は昨年度は17億円を超えた。藤原前市長時代の2倍である。いったいどこまで赤字が膨らむのだろう。新病院建物や変えなくてもよいX線CTまで更新したから、償却負担やリース料が重くなり、今年度赤字はさらに膨らみ20億円前後になる。すでに市財政へ影響が出ている。長谷川市長になってから異常に単価の高いハコモノが多い。つい最近市議会でも老健施設への補助金が問題になった。厚生労働省基準の15倍もの補助金支出がなぜなされるのか市側の説明は充分ではない。足りない収入を補うために借金を増やし、その返済で予算規模が増えている。
 藤原前市長時代には概ね140~150億円だったが、今年度の根室市の予算規模は170億円だ。人口は年々減少している。財政規模も小さくして当然だろう。

 地域医療の維持には大きな財政負担がかかっているから、市立根室病院がどのような診療科に重点を置くのか市民の合意形成が必要である。

#2255 根室市の移住促進事業 Apr. 5, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-04-05
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移住促進はどの年齢層や立場をターゲットにするかによってそれぞれニーズが異なると思います。そろそろ次々に定年を迎えている団塊の世代ならば経済的なバックグラウンドよりセカンドライフをのびのびと過ごせる自然環境と並んで自分たちの健康を守ってくれる医療の存在でしょう。

根室には独特の自然環境があります。また新鮮な海産物も豊富でその点では移住先候補としてはまずまず合格点でしょう。しかし彼らの健康の番人たる医療環境は・・・残念ながら中途半端なレベルから一歩も進んでいません。それどころか少しずつ後退している感すらあります。

定年退職組の健康問題で喫緊の課題は、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患と、やはり脳梗塞や脳出血などのいわゆる脳卒中と呼ばれる脳疾患でしょう
残念ながら現在釧路以東には脳外科医は居りません。中標津では釧路孝仁会に医師が外来診療のみ、根室は先頃まで釧路からの出張医が外来をしていた根室脳外科が今度市立病院に入って来ました。しかし毎日ではありません。
一方虚血性心疾患に対する対策ですが、噂では今まで(問題があるにしても)心カテを行って来たK医師が辞めるそうですので、これからは心カテと言う緊急治療は根室では出来なくなりそうです。新しい病院の外来表を見ると週に何回か循環器の医師が出張で来るようですが、循環器系の内科の出身だからと言って全員が心カテが出来る訳ではありません。中には消化器系や内分泌系が主体の内科出身者にもK医師のように独力で心カテを学んだ者も居ます。そんな心カテ専門医の中でも以前根室に在籍していたA医師は、本物の心カテ専門医でその技術も優れたものでした。しかし彼は既に根室を去り、今は道南方面の病院で活躍しているそうです。

脳外科の手術が出来ず、心カテも出来ない根室の地域医療。まあその点では隣町の別海、中標津、標津、羅臼、弟子屈、標茶(、浜中、厚岸)といった広大な釧路以東は皆運命共同体でありますが。

では移住組に取って最大の脅威であるそれらの疾患への対策は・・・残念ながら地産地消とは参りません。釧路の病院(市立釧路や釧路孝仁会etc.)に搬送せざるを得ません。これは救急車で2時間弱、ドクターヘリで40分前後と言う試練の距離です。「なあーに、そのためのドクターヘリだろ!」と思われるかも知れませんが、実際にはドクターヘリの運用には様々な制約があります
先ず夕方以降は赤外線装置が無いドクヘリは飛べません。強風や濃霧も駄目。勿論搬送できる患者は1名だけ。
そしてこれは実際にあった話ですが、先日或る病院から釧路へ搬送するためにドクヘリを呼んだのですが、その患者の体重が何と170キロ! 小さなドクヘリは車で言えば軽自動車のような物。乗員は精々患者を含めて4~5人程度です。ですから2~3人分の体重の患者では重量オーバーとなってしまいます。また実際にご覧に成ればお分かりになりますが、患者を収容するベッドはあのトンボの尻尾のような細い胴体部分に有り丁度CTスキャンの中に入る様な感じで、これも極端に太い方は入れません。その170キロの方は、結局救急車で釧路へ。
ちなみに道東のドクターヘリの基地(ヘリポートや格納庫)は釧路孝仁会病院に有ります。そこにパイロットや搭乗ドクターが待機しています。この搭乗ドクターは釧路を含めた道東の各病院の医師たちのグループで構成され輪番制です。仕事の内容柄か麻酔科医や外科医が目立ちます。では彼らはそんな狭いヘリの機内でどの程度の事が出来るのか。皆さんはTVドラマなどで格好良いイケメンの医師が活躍・・・と思っているかも知れませんが、現実はちょっと違います。まあ、地味なオッサン(一応一目でわかる救命士風の制服はきている)がただ患者の枕元に座っているだけです(笑)。では彼らは何のために登場しているのか。その答えはいわゆる”ABC”要員だからです。つまりAirway Breeze Cardiac=救急蘇生ですね。搬送時に必要な気管挿管や静脈路確保などの措置は殆ど機内では行いません。搬送元の病院を出る前に済ませるか、或いは救急車からヘリに患者を移す際にストレッチャー上で行う事が多いですね。ですからヘリのドクターはいわば搬送先に着くまでの”患者の子守”のような立場です。
このドクターヘリや救急車での搬送で意外と皆さんご存知ない事に、ドクターヘリではヘリ基地から医師が乗って来ますので彼らは帰る訳ですから問題ないのですが、救急車で搬送する場合には搬送元から必ず1名の看護師が同乗します。また患者の状態に依っては医師も同乗します問題は患者を搬送先に下した後、彼らの帰途は? 
本来救急車での搬送業務はこちらから向こうまでの片道切符ですので、医師や看護師などの同乗者は勝手に戻ることに成ってしまいます。もっとも、実際には搬送先の病院に患者を下し先方に申し送りを済ませる間くらいの時間であれば帰りの救急車も待っていてくれますのでそれに乗って戻って来れます。ただ救急車は結構乗り心地は悪く、法律的にも(世間的にも)スピード違反は出来ません。(釧路への道路は規格上80キロ制限とのこと)。救急車の乗り込む患者の家族は大体1名でその他の家族はマイカーで釧路に走りますので、大体肝心の患者を乗せた救急車より家族のマイカーの方が早く釧路の病院に着いていたり(笑)。
もし搬送先で手間取ったり臨時手術に立ち会う必要が有ったりすれば、救急車も待っていてはくれません。自己責任で自分の病院に戻る羽目に成ります。搬送が夜間であればJRもバスも有りません。止む無くタクシーを使う事に成ります。まあタクシーならそのままの格好でも問題ないのですが、JRやバスで帰ると成ると(予想される場合は)帰りの服装も持って行かなくてはなりません。まさか白衣のままで公的な交通機関には乗れませんから。

救急搬送手段にはお馴染みのドクヘリや救急車の他に、ドクタージェットと呼ばれる超小型のプライベートジェットが有ります。ドクターヘリは航続時間が短く札幌までは直行出来ません。(帯広を中継すれば可能)。それでドクタージェットの出番と成ります。しかしその場合どこに搬送するかが問題に成ります。もし札幌に運ぶなら、相手先の空港は丘珠空港か千歳空港に限定されます。ドクタージェットに限らずドクヘリなども札幌側の受け入れ窓口は殆ど丘珠空港に成ります。丘珠ならばジェットや道の防災ヘリ、自衛隊のヘリで運んで来た患者を救急車で札医大などに短時間で搬送出来ます。また近距離から飛んで来たドクヘリならば、札医大や手稲渓仁会病院のヘリポートに直接降りる事が可能です。

先日或る産婦人科医が患者を札幌医大まで搬送することになりました。それで連絡したところ丘珠空港での着陸はOK。早速患者と救急車で中標津空港へ。中標津空港では格納庫内に直接乗り付け小型ジェットにそのまま搭乗。あっと言う間に丘珠空港へ。その後救急車で札医大に向かい患者を下し搬送終了。その後件の産婦人科医は私服に着替えて千歳空港に向かい、何とか最終便で中標津空港に戻って来ました。もし帰りの便が無い時間帯なら、札幌のホテルに一泊する羽目になる所でした

多くの一般の方は「医師なんだから患者に付き合うのが当たり前だ!」と考えていると思います。しかし実際にはその一人の患者を運ぶだけでもこれだけの準備と時間と経費が掛かります。特に搬送後のことなど誰も気にすらしてないと思います。因みにドクターヘリの運用は一回に付き200万の経費が掛かるそうです。

このように医師としての責任の範疇で患者を診る(搬送)だけでもクリアしなくてはならない問題が山積みです。それがまして飛行機や列車内でのドクターコールともなると・・・さっと手を挙げない医師を非難する気にはなれません。もし乗客が心肺停止状態ならば、救急車が空港に来るまで心臓マッサージと言う事に成ります。そして患者を救急車に移してそれでお役御免とは限りません。救急救命士はあくまでも間に合わせの役目です。彼らは医師ではありません。もし乗客の同伴者が居て搬送先までの同乗を懇願されたなら、「いや僕の責任はここまでですから」と冷たく言って飛行機に戻れる医師が果たして居るでしょうか。責任感の有る医師が救急車に乗り込んで外を見れば、自分が乗り込んでいた飛行機がさっさと飛びたって行く・・・。もうその日は地元に帰る便は無い。どこかのホテルに泊まらなくてはならない。職場に連絡を入れて明日の始発の予約の心配もしなくては・・・。

全てが上手く行って患者や患者の家族から感謝されても、その医師が儲かる訳ではありません。あくまでもボランティアとしての行為です。乗客の生命を守って貰った航空会社(本来ならば会社に責任がある)から後日ワインの1本でも届けば御の字でしょう。
しかしもし結果が裏目に出てしまった時には・・・場合によっては訴えられて大変な目に遭う可能性があります昔なら「ご迷惑をお掛け致しました。御親切にどうも!」「いや、力不足で至りませんでした・・・」と言う当たり前の風景は、この世知辛い現代では望むべくもありません

「出る杭は打たれる」
「藪蛇」
「過ぎたるは及ばざるが如し」
「知らぬが仏」

「あっしには関わりがございやせん。失礼いたしやす」

唐辛子紋次郎でした。(笑)
by 紋次郎 (2013-04-06 11:58)

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