大津市で昨年10月に起きたイジメ自殺事件については、報道やネット上で加熱状態なのでとりあげるのをためらってきたが、事実関係を整理するにのいい記事があったので紹介したい。
 7月14日付けジャパンタイムズ2面の記事である。冒頭部分のみの抜粋だから、高校生や大学生はURLをクリックし、印刷して全文を読んだらいい。勉強する意欲のある学生にとっては、いい時代だ。

http://www.japantimes.co.jp/text/nn20120714a5.html
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Bullying a crime that goes noticed, ignored

Otsu boy's suicide came after repeated calls for help, father told


Staff writer

Police are finally investigating the suicide of a 13-year-old boy last year in Otsu, Shiga Prefecture, for evidence of bullying, but another father whose son took his own life believes it is too little, too late and doubts the government is taking such tragedies seriously.

"We must be aware that (bullying) is a crime," Hideaki Osawa, whose son, Hidetake, killed himself in 1996 after being harassed and extorted by his classmates, told The Japan Times on Friday.

"It is unacceptable for the teachers and the board of education to claim that there wasn't any bullying or that they weren't aware of it."

The case of the Otsu student, who jumped off a 14-story building last October, has grown into a major scandal as details of his ordeal have slowly surfaced. Last February, his parents filed a damages suit against the city of Otsu and the classmates who allegedly abused him, claiming the suicide was caused by the bullying.

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 bullyの語彙説明から解説をはじめよう。受験生も覚えておくべき単語だね、何しろ学校とイジメは切っても切れない存在なのだから。
 CALDより
 billy: to hurt or frighten someone who is smaller or less powerful than you, often forcing them to do something they do not want to do.(自分より力の小さい者にケガをさせたり脅したり、しばしば当人がしたくないことを無理強いする)
 Bullying is a problem in many schools.(繰り返されるイジメは多くの学校にある困った問題である)


 見出しの文は補足しておいたほうがよさそうだ。
 Bullying [is] a crime that goes noticed, [but goes] ignored.
  []内は省略されただろう単語を補って、中学3年生でもわかるようにしてみた。
  "goes noticed"が引っ掛かるかも知れぬ。ジーニアス4版をみると次のような用例がある。
 Everything is going well with our plan.(我々の計画は万事うまくいっている)
 「繰り返し行われるイジメはある種の犯罪である。気がついていても、それはないものとして扱われてきたし、これからもそうであり続ける。」
 (見出しは現在形を使うことが多いのだが、)現在形を使っているところに状況が変わらないという書き手の深い落胆を読むこともできるだろう。

 ①この事件は昨年10月に起きた。
 ②同級生から繰り返し執拗なイジメにあい、中学生が14階建てのビルから飛び降り自殺した。
 ③2月に被害者の両親は大津市と加害生徒に対して損害賠償裁判を起こした。
 ④警察が25名の専従捜査班を置いたのは7月。

 このイジメが犯罪として立件にまでいたるには、大澤秀明氏(全国いじめ被害者の会代表)の協力があった。この種のイジメ殺人事権はいままでは立件されず、学校や市教委や教育長が事件を隠蔽してうやむやにしてきた。
 大澤さんは次のように言っている。

"It is unacceptable for the teachers and the board of education to claim that there wasn't any bullying or that they weren't aware of it."
(「学校の先生たちや市教委がイジメに気がつかなかったなんて言い訳は通用しませんよ」)

 自殺suicideはいくつか言い方がある。実際の英文では言い換えが頻繁に行われる(語彙が少ないことは恥ずかしいことなのだ)。その内のひとつ。
"We must be aware that (bullying) is a crime," Hideaki Osawa, whose son, Hidetake, killed himself in 1996 after being harassed and extorted by his classmates, told The Japan Times on Friday.

 この事件の被害生徒の両親の支援者でありアドバイザーである大澤さんの息子さんは1996年にクラスメイトからイジメの被害にあい自殺している。彼はその後で自分の経営したいた会社をたたみ、イジメ被害者の支援に専念し、全国を講演して回っている。
"I feel that the school and the city are trying to suppress the scandal," Osawa, 68, said of the Otsu tragedy.
 こんどもまた「学校と市はスキャンダルを隠蔽しようとしている」、大澤さんの率直な感想である。
 次の文を読むのは辛かった。
Osawa's son left a note apologizing to his parents before taking his own life, and in addition to detailing some of the physical abuse he suffered at the school, he wrote that his tormentors had extorted more than ¥300,000 from him.
"I was asked for more money. But I don't have any, so I will die," he wrote.

 
 事件後なされた学校側のアンケート調査表に「(自殺して)よかった」というものがあったと産経新聞が報じたとある。加害生徒が書いたものと巷間の噂である。じっさいにクラスメイトにそう言っていたようだから、まったく反省の色がない。

 この手の事件では学校は自分たちの責任問題を第一に考え、それを回避しようと事件の隠蔽に全力を尽くす。市教委も教育長も同じ穴の狢であり、学校と市教委は調査能力もその気もない。ひたすら隠蔽に走る。これは全国どの学校でも、どの市教委でも、どの教育長でも共通した態度だろう。
 それにしても校長先生の最初のにやけた記者会見、そして大津市の澤村教育長のテレビ会見はひどかった。両者ともにイジメがあったことは確認できなかったとイジメの事実を否定していた。校長はうそを言い、教育長はイジメの調査アンケート票すら眼を通していなかったようだ。仕事がまるで無責任で、事件の隠蔽工作ばかり考えているようにみえる。どうしてこういう劣悪な人材が教育長に任命されるのだろう?わが根室も例外ではないかもしれぬ。

*「滋賀・大津市男子中2生自殺 警察が専従チームで本格的な捜査へ(12/07/11)
 http://www.youtube.com/watch?v=bJNCDm31JOY 

 根室の中学校でもイジメはある。二人の生徒がそういう目に遭って学校を休んで毎日塾で勉強していたことがある。一人は学校へ行けば毎日殴られるので学校へ行くのをしばらくやめた。もう一人はイジメがエスカレートしてダンベルを投げつけられるようになった。足に当たって青あざを作っていた。命の危険を冒してまで通学する必要はないから、生徒から頼まれたらいくらでも塾で勉強させてやる。学校への圧力は生徒が休むことだ。イジメで学校へ行けないと担任教師と校長にはっきり言って休み続ければいい。何月何日何時何分にどこどこで誰にこう言ったと記録しておくといい。「わたしはこう言いましたがあなたたちはいつまでに善処してくれますかと、その場でノートに書けばいい。学校は動かざるをえなくなる。それでも学校が動かなければ大人の塾長が関係者としっかり話しをしてあげる。
 わたしは申し出があれば、イジメ被害の生徒は塾生でなくても受け入れるつもりがある。非常事態だから授業料はいただかない。他の塾だって頼まれたら引き受けるだろう。
 2週間もあれば問題は解決の方向に向かうものだ。学校側は「イジメがあって通学できない、はっきり言ったのに学校側が対処してくれない。教育を受ける権利が奪われている」と言われると困るから、じんわりと動くように圧力をかけて待てばいい。

 北海道教育委員会がイジメ対策チームを設置するという。市教委がダメなら道教委か、いすれにせよ同じ穴の狢ということになり、あまり効果があるとは思えぬ。
* 「道教委、いじめ対策班設置へ 機動的な体制整備(08/08 07:16)」
 http://www.hokkaido-np.co.jp/news/donai/394468.html

 周りに頼りになる大人がいれば、こどもは相談するものだ。誰もいないという状況がさみしい。学校任せにしないで地域ぐるみで取り組めば、悲劇を防ぐことができるのではないだろうか。休むと勉強が遅れることが一番の悩みだろうが、そこは私塾がサポートできる。大丈夫、任せとけ。

 学校でイジメは卑怯者のすることで、人として恥ずべき行為だとはっきり教えるべきだ。
 会津什の掟を毎週月曜日朝に生徒と一緒に朗誦したらいい。

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 会津には藩の子弟を教育する組織として"什"があり、以下の掟を繰り返し朗誦させた。什とは薩摩藩では"郷中"であるというとわかりやすいだろう。西郷隆盛は郷中のボスだった。明治維新では敵味方に分かれたが、若者を育てる仕組みは案外と共通していたのである。

 会津什の掟

  • 一、年長者の言うことに背いてはなりませぬ
  • 二、年長者には御辞儀をしなければなりませぬ
  • 三、虚言をいふ事はなりませぬ
  • 四、卑怯な振舞をしてはなりませぬ
  • 五、弱い者をいぢめてはなりませぬ
  • 六、戸外で物を食べてはなりませぬ
  • 七、戸外で婦人と言葉を交えてはなりませぬ

    ならぬことはならぬものです

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 郷中(ごじゅう)も似た掟をもっている。ウィキペディアより
 
  • 武道第一
  • 武士道の本義を油断なく実践せよ
  • 咄(グループ)外の者との不必要な付き合いは控えよ
  • 仲間との連帯を重んじよ
  • 軽薄な言動を慎め
  • 決して嘘を言うな
  • 負けるな
  • 弱いものいじめをするな
  • 山坂を歩いて体を鍛えよ
  • 質実剛健たれ
  • たとえ僅かでも女に接することも、これを口上にのぼらせることも一切許さない
  • 金銭欲・利欲をもっとも卑しむべきこと 

など

 会津の什の掟にない項目が黒字と青字(太字)の三項目である。この三つが大事だと思う。とくに最後の条が一番大事なことだ。
 「山坂を歩いて身体を鍛えよ」「質実剛健たれ」の条について書いておきたいことがある。
 小学生の頃から手刀や拳骨で生木を叩き折って、身体で弾力のあるものを叩き折るスピードとタイミングを知り、大きな鉞で廃材を叩き折る訓練を続け、ストレッチを繰り返すと、身体は柔軟になり打撃は強靭になる。根室では、昔は冬に備えて「焚き付け」つくりが男の子の仕事だった。こういう作業を通して身体を鍛え技を磨くことができた。
 同時に三人相手にしても素手で大怪我を負わせるか殺すことができるほどになれば、たいがいのことは我慢できるようになる。キレたら人殺しだから、絶対にキレるわけにはいかぬ。自分ばかりでなく、力があればいざというときには友も助けられるし家族も守れる。強靭な自己を幼少の頃からつくりあげることも大事なことだ。そういう奴がクラスに一人いれば抑止力になりうる。
 昭和30年代中ごろからの高度成長とともに生活が豊かになり、石炭ストーブが廃れ、石油ストーブになって男の子は弱くなった。家事手伝いをする中で身体を鍛え技を磨く機会を失ったのである。経済学者の馬場宏二先生流にいえば過剰富裕化が生物としての男子を、身体面と精神面の両方で弱くしたといえるのだろう。


#2014 母校(中学校)の校長・教頭先生との対話(2):イジメ&非行 July 14, 2012  
 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-07-15

 #1567 日本的情緒と価値判断 July 2, 2011 
 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-07-02


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