国語に苦手な中学1年生の語彙がどの程度のものかお目に掛けたい。決して特別な例外ではない、本を読まないから最近こういう層が厚くなっている。
 テキストは斉藤孝著『読書力』(岩波新書)である。ニムオロ塾で中1の日本語音読テキストに使っている。

 採り入れている 矢印 図化 描写 膨大 執筆 椅子 経済的 人間喜劇  登場人物 後年 迫力 藤沢周平 藩 細部 至る 鍵となる概念 明と暗 父母 矢印 躍動感 各人

 今日の音読トレーニングで8ページのうちで読めなかった漢字を青で示した。24ある、1ページ当たり3個。
 句点ふたつ読んで次の人に交替、女の子はよどみなく読む生徒が多いが、男の生徒はスムーズに読めない者が多い。音読スキルは性差や個人差が大きいのである。
 4月からやってこの水準だ。いささかがっかりしている。こんなことははじめてだ。いくら言っても家で読んでこないし、漢字の書き取りを宿題にしても書いてきたのは一人だけ。家で音読トレーニングをする生徒は短期間で格段に上手になるからすぐにわかる。ごまかしようがないのである。先読みに慣れると読みが高速かつ精確になるからすぐにわかる。上手な生徒が読むとページが変わっても目をつぶって聞いていれば気がつかぬ。

 10ヶ月前の5月のときはどうだったのかを比較のために示しておく。

 物言い 省みない 流れ 負っている 認識 思考力 読書経験 無知 著作活動 持続 摂取 鍛える 軽視する 権威的 欺瞞 相撲 素地 続けて 責を問われる 詰まるところ 叫ばれている 提示 一致 推理小説 厳密 客観性

 わずか3ページで26単語、1ページ辺り8.6個、5月の時点ではこんなに読めない漢字があった。

 お気づきになったかもしれないが、ほとんどが中学1年生の日常会話に出てこない単語である。当たり前の話だが、書き言葉に出てくる単語は本を読まないと蓄積されない。話し言葉と書き言葉は重なる部分と重ならない部分がある。話し言葉をA、書き言葉をBとすると、集合Aは小さく集合Bは膨大である。中1に理解できない語彙群はBからA∩Bを引いた部分である。本を読まない生徒はB-A∩Bの語彙群が増えない。基礎的日常会話の部分は小3あるいは小4程度の語彙で間に合うから、本を読まない生徒が理解し使える語彙はせいぜい小4止まりとなる。こうした生徒は自分の感情すら適切に表現できない。「うぜー」「死ね」・・・である。なにがどのように「うぜー」のか説明できない。ほうっておくとほとんどの生徒が本を読むようにはならないから、大人になっても小4程度の語彙力に教科書からわずかの語彙が付加されるだけである。これでは社会人となったときに、上司の業務指示が理解できないし、お客様のクレームも適切に理解することができないだろう。もちろん自社の商品の特徴もお客様にアッピールすることができぬ。非正規雇用の単純労働しか仕事がないということになる。そういう仕事は中国人やベトナム人などにどんどん奪われていく。強いコネがなければ30歳になっても最低賃金で働くしかない。世の中はそう甘くはないのである。

 10ヶ月やってようやく読めない漢字が三分の一になったが、きちんとやれば十分の一以下にできる。そういう生徒は他の科目も点数がぐんと上がってしまう。
 この方法を初めて試みた生徒は中学3年間5科目合計点が上がり続け現在大学生である。読めない漢字や書けない漢字を自分でピックアップして5回ずつ書いて来いと宿題にしたら、一生懸命に書いてきた。ノートに小さい字でびっしり書いてきた。生活習慣(家庭学習習慣)がきちんとしていて、素直に指示通りやる生徒は確実に成績が伸びていく
 指示に従わず、宿題もせず、家で音読トレーニングをしない生徒の成績は上がらぬ。やれない言訳ばかりすることになる。社会人になったらどうするのだろう。「自分が経営者なら、仕事のできないことに言訳ばかりする人間を社員で雇うか?」と訊ねてみると「ムリ、ムリ」と返事をする。「そういう社員が多いと自分の会社がつぶれるからな、わかっていたら今日からしっかりやれ」、言い訳は要らぬ。仕事は正直に・誠実にやるもので、勉強も同じだ。

 岩波新書に限らず、新書版は中学1年生にはレベルが高い。児童書は読み聞かせをお母さんたちが積極的にするが、大人の本への橋渡しが家庭でも学校でもなされない。だから、読書をしない子どもをほうっておいたらこういう風になるほうっておいたら成績が上がらないから、ニムオロ塾では授業に10分早く来てもらい、毎週20分間音読トレーニングをしている

 じつは、読めない漢字の多い生徒は「てにをは」の読み違えや単語の読み違えが多い。先読みができていないからだ。声に出して読みながら、先に文章をサーチして読み方や区切りを決定しつつ読んでいかないとスムーズに音読ができないし、意味の取り違えが起きる。音読スピードの遅い生徒は黙読スピードが遅いだけではなく、何箇所も読み違えているはずだ。
 学力テストの国語の点数が60点以下なら音読スキルに問題を抱えていると思ったほうがいい

 音読トレーニングと三色ボールペンで重要箇所をマークしたテキストで漢字の書き取りトレーニングをきちんとすると3ヶ月で30~40点の点数の生徒の大半が70点超になる。厄介なのは6年生まで家庭学習習慣のなかった子どもたちである。家で読んでこなければ音読スキルは上がらない。4月から10ヶ月間言い続けてもやってこない。
 読むトレーニングをしないと他の科目も点数が上がらないことになる。日本語能力に欠陥があると学力は伸びない。おそらく、授業で先生たちが使う言葉も理解不能のことが多いだろう。たった3行の重文や複文の数学の問題の意味が理解できない生徒は根室の中学生の60%を越えているだろう

 中学生の日本語語彙がどうなっているのか具体的なデータで示したが、何かの役に立つだろうか。
 テレビで東京の開成中学の合格発表風景が報道されていた。小6の受験生が記者の質問に答えて、国会論議の混迷振りを批判し「・・・(福島第一原発関連)予算の執行をきちんとしてもらいたい」とはっきり意見を述べていた。
 学力テストが60点以下の中1年生の使える語彙に「予算の執行」はないだろう。おそらく意味が理解できぬ。

 きちんと音読トレーニングと三色ボールペンで線を引いたテキストの漢字書き取りをすれば5科目合計点は飛躍的に上げることができるのだが、いくら指示をしても指示通りにやれない生徒たちが増えている。
 私はこういう生徒たちは大脳前頭前野の機能が未発達だと感じている。我慢ができない、姿勢が悪い、お喋りをとめられない、10分も授業に集中できないという点が共通している。
 小学校に入ったらすぐに家庭学習習慣をつけるべき。そこをクリアできたら、ほうっておいても心配がいらない音読は低学年でお母さんが躾ける。このときに本を読む習慣をつけた生徒は、国語力が強いので学力全般のノビシロが大きい。中学校で学力が伸び、高校でさらに大きく伸びることになる。基本をお母さんがしつけ、塾がさらにスキルを磨いてあげるのが理想ではないか。

 前にも書いたが、小学校高学年で国語辞書を引きながら良質のテキストを選んで音読スキルを上げておくと、中学生になって興味のある分野の小説の濫読期が訪れる。漢和辞典はこの頃から引きなれるのがいいだろう。日本語語彙はこの二つの段階で飛躍的に伸びる。高校生になったら古語辞典を引きながら古典文学書を数冊読んでおけば、高校を卒業してから仕事で必要な分野の専門書を自力で読破できるだろう

 中学校へ入学してから日本語能力をなんとかしよう思ったら、それはたいへんな戦いになる。1年かかってようやく読めない単語が半分になる。相変わらずスムーズには読めぬ。生活習慣との戦いだから厄介だ。お灸をすえたが1週間で8割がた元に戻ってしまった。戦いは当分続く。
 小学校6年間続けたことは習慣となり、習慣は6年間で性格にまでなるきちんとした人格や性格はやはり家庭での躾けが基本であり、幼少期と小学校低学年が基本的な躾けの旬の時期にあたる。躾けそこなってもあきらめてはいけない
 いまからでも遅くないから本は読ませよう。素直な心で地道に努力すれば数年かけて必ず取り返しはつく

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