#1828 ゼロ金利の罠: Fed targets and transparency Feb. 3, 2012 [74.高校・大学生のためのJT記事]
ジャパンタイムズの2月2日付け社説に気になることが載っていたので紹介する。連邦準備制度理事会のゼロ金利政策と2%のインフレターゲットについて解説した記事である。経済学部を受験する生徒は新聞の社説ぐらいは読んでいるのだろう。でもこの記事は大学受験生にはちょっと難しいかも知れぬ。
キオスクで英字新聞が売っていない根室の高校生のために全文掲載したいのだが、著作権の関係でダメ、URLを記しておくのでダウンロードして読んでもらいたい。
http://www.japantimes.co.jp/text/ed20120202a1.html
冒頭部分は紹介しておく必要があるだろう。
Fed targets and transparency
The U.S. Federal Reserve announced last week that it will keep interest rates near zero in an effort to assist a stumbling U.S. economy. While that news was expected, the length of the extension was not — the Fed plans to keep rates well below 1 percent for three more years. ・・・
さて、社説の中で気になったのは次の段落である。
While the decision to be more aggressive in fighting persistently high unemployment is laudable, there is danger in holding interest rates low: It threatens the livelihoods of those who rely on savings to live. A low Fed interest rate means low savings rates for ordinary depositors and those who live off income generated by pension funds or other investments.
日本の失業率が4.6%であるのに対して米国の失業率は8.5%である。連邦準備制度理事会の今回の決定は雇用対策としては賞賛されるが、金利を低く維持することに伴う危険があると述べている。ゼロ金利は年金生活者のように預金で生計を立てている人々にとっては預金金利からの所得をカットすることになると警鐘を鳴らす。
ゼロ金利は年金生活者の所得を減少させるので、消費需要にマイナスに働き、景気をさらに後退させる副作用を伴う。そうなれば失業率は当初の意図とは逆に増えることになる。だからデンジャラスなのだ。
日本ではもう10年以上もゼロ金利政策が維持され、日本国民がゼロ金利にすっかり感覚麻痺を起こしていることに気がついた。わが国の民は熱しやすく醒めやすい。ゼロ金利が始まったころは、受け取るべき金利が銀行や政府への所得移転になっているとマスコミが騒いだが、すぐに静かになった。
あれから12年、景気がずっと悪いが当たり前の話だ。金融資産からの利息収入が年間30兆円も少なかったのだから。内需も失業率もデンジャラスどころではない、就職氷河期はいつ果てるとも知れない。いまや就業者の40%が非正規雇用である。
つい最近、コメント欄に20代後半の若者が就職先がないのは団塊世代のせいだと怒りのコメントがあった。この意見は論理的には少し無理があるように思えるのだが、心情的には理解できる。
簡単な計算で確認してみたい。日本の金融資産は1300兆円といわれているが、仮に1000兆円が預金や国債で運用されているとすれば、預金金利を3%と假定すると年間30兆円も支払われるべき利息が支払われずに吸い取られていることになる。12年間とすると360兆円である。
大手銀行は手数料を数倍に上げ、利ザヤも拡大して史上空前の利益を上げながら過去の赤字で税金支払を免れている。国民や企業から銀行と政府へ年額30兆円もの所得移転が行われ続けているということだ。この間に国の借金は減ったか?ノーである。逆に増え続けているのだ。昨年度も44兆円増えた。財務省はゼロ金利政策をとっても借金を減らす意思がないということだ。そのうえ消費税増税という手段で国民の懐からお金を巻き上げようとしている。天下りは掛け声ばかりで一向になくならない。
財務省が誰のためにゼロ金利政策を続けているかは明らかだ。その上消費税増税が必要と叫ぶ政府は財務省の傀儡である。自公も民主も財務省の操り人形に過ぎなかった。
ゼロ金利政策は自公政権からはじまっている。民主党政権も財務省の言いなりでゼロ金利政策をそのまま引き継いでいる。国債の金利が3%に上昇したら税収は金利の支払だけで消えてしまう。国家財政の破綻だから、日本は日銀が国債の直接買い入れをしてもゼロ金利政策を続けざるを得ない。
米国が同じ政策をとるということは、財政状況が急速に悪化しているという事情が背景にある。
ゼロ金利政策は問題の先送りであり、問題の処理を遅らせ、問題を雪だるま式に膨らませてしまう道であることは日本の先例がよく示すところである。
米国は10年遅れで日本の後を追うようになった。傲慢で何も学ばぬ、おろかなり米国連邦準備制度理事会。
それにしても感覚麻痺とは怖いものだ。
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*#2256 マネタリーベース270兆円へ拡大:亡国の決断 Apr. 6, 2013
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#2144 成長路線と金融緩和の罠 : 衆院選挙でナイトメアがはじまる Nov. 30, 2012
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#346 これから10年間の日本経済のシナリオ
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#829 国家財政破綻の瀬戸際 Dec.12, 2009
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2009-12-12
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他所からですが、こんな論もありますけどね。なるほどとは思いつつも、実際のところどうなんでしょうね。
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▼財政赤字が個人金融資産を超えることは論理的にあり得ない
※なのに逆転するとうそぶく政治家もエコノミストも多いのには驚きです、無知過ぎます。
※ギリシャの国債は外債と同じなので容易に逆転する、だが日本では内債(円建て)なので逆転はあり得ない
「借金=貸金」で政府の借金は個人金融資産に追加される、すなわち政府の借金が増えるとその借金分が個人金融資産に加わるので逆転することはあり得ない。
※円建てだから全ての国債が日本国民の金融資産に加わるのです、敢えて付け加えます。外国人が日本国債を買ってもですよ。
※「個人金融資産=政府の借金+個人の借金+外貨」がなりたつことは容易に理解できるはずです。
外貨が大きくマイナスにならない限り財政赤字が個人金融資産を超えることはあり得ないのです
by 経済素人 (2012-02-04 21:15)
「ありえない」という事象は有り得ません。
「絶対、必ず、100%」も有り得ません。
その心は…
The unexpected always happens.
「予期せぬ事は常に起こる。」
by Hirosuke (2012-02-04 22:28)
>外貨が大きくマイナスにならない限り
「千年に一度くらいの巨大地震でも起こらない限り」
と同意ですよね。
「~限り」と言った時点で、
「有り得る」ことに気付かない無知な御方。
by Hirosuke (2012-02-04 22:36)
さあ、どうなんでしょうね。
個人金融資産は海外分もありますから個人と政府の借金の合計額ではないでしょうね。外貨と外貨債券は違うと思いますけど。
日銀の直接買い入れ分はこの等式にはありませんね。個人金融資産にはならないでしょう?
いまいえることは、国家財政破綻を避けるために日銀は長期金利を上げられないということです。長期金利が上がれば国家財政が破綻するということ。
この論の論者はギリシアとは違って日本で国家財政破綻がありえないと主張したいのでしょうか?
by ebisu (2012-02-04 22:44)
福島第一原発事故でばれたのは専門家の言うことは当てにならぬということだったはずです。
理論はある前提条件の下で成り立っているのですが、その前提条件を検討もせずに鵜呑みにしてはいけません。
HIrosukeさんのいうとおりでしょう。
人の意見をいったんそのまま肯定的に理解してから、少し休んで自分の頭で考えてみることです。
批判的検討といいます。
団塊世代は退職金をを手にしていますから、段階世代全体では現在膨大な個人資産をもっています。
ですが、今後、これらの個人資産を処分しながら生活することになります。若者たちの個人資産の増加分で埋め合わせるようなことはできませんから、日本人が持っている個人資産は今後減少に向かいます。
国債の市中消化も不可能になっています。だから、政府は日銀の直接買い入れの道を開きました。増税も喫緊の課題になっています。もう時間がないのです。
それにしても、どうしてこういう好い加減な「専門家」の意見を鵜呑みにするのでしょう?
インチキ商法に引っかかるお年寄りがたくさんいますが、そりゃあ、引っ掛ける方が悪いに決まっていますが、なんでそんな嘘に簡単に引っ掛かるの?濡れ手に粟で儲けることを考えるからでしょう。国債をどんなに増発しても国家財政はありえないということにしたいのでしょう。
本当にそうならいいのですが、「だまされた」ではすみませんよ。
例が違いますが、夕張市も破綻の前年までは公営企業会計や第三セクターが黒字だったのではないでしょうか。
自分の頭で前提条件が妥当であるかどうか考えてみることをお薦めしたいと思います。
こまりますね、国民を惑わすようなことをいう「専門家」が世の中にはウヨウヨしています。
by ebisu (2012-02-04 23:21)
>批判的検討
もう疑いを知ってしまった汚れた僕は、
専門用語は知らないものの、
今まで生き長らえてしまった経験から
「有り得ない事が起きる。」
「起きて欲しくない事こそ必ず起こる。」
という【不条理】を理解しています。
by Hirosuke (2012-02-05 00:28)
>The unexpected always happens.
物事の本質を突いた名言ですね。
by ebisu (2012-02-05 01:14)
僕の作だと誤解されるといけないので念の為に。
The unexpected always happens.
--Laurence J. Peter
Canadian writer and teacher, 1910-90
「ピーターの法則」
作者: ローレンス・J・ピーター
出版社/メーカー: ダイヤモンド社
発売日: 2003/12/12
メディア: 単行本
by Hirosuke (2012-02-05 08:49)
この文をHirosukeさんのブログではじめて目にしたときに、"切れる"と感じました。無駄がない。永井荷風の断腸亭日乗が英語で書かれればこういう文体なのかなと。
定冠詞を不定冠詞に変えたり、冠詞ナシの複数形に書き換えたり、thingやthingsを補ったりしてみました。さらにそれをdisasterやdistressに置き換えて味わってみました。
やはりもとの文が優れています。
説明的な文になったら"切れ"が失われますね。削ぎ落とすことで"切れる文"が生まれます。
前に名言集からピックアップして一つずつ紹介したシリーズがあったでしょう。再掲したら喜ぶ読者が多いと思います。
スキルの上がった読者は以前読んだときの何倍も楽しめるはずです。
by ebisu (2012-02-05 11:28)
一応、和訳はHirosuke流にアレンジしましたが。
いいアイディアをアリガトウございます。
あのシリーズでは、
僕の人生観に合うものだけを厳選したのを思い出しました。
「不可欠な余談」に織り込みたいと思います。
by Hirosuke (2012-02-05 12:12)
国債を発行して資金調達できるうちは本気で行革なんてできない気がする。この際国債は凍結して元利返済凍結すればもう借りられないから税収の範囲でしか予算編成できなくなるからいやでも行革せざるをえない。
凍結して一定の年限たっても返済できない時は国債保持者に財政功労勲章をあげて権利放棄してもらえばいいと思う。むかしCMで志村喬が「国債はお国のため」と言っていたから勲章で満足してもらいましょう。
by もやしさんま (2012-02-05 17:06)
もやしさんまさんへ
>国債は凍結して元利返済凍結すればもう借りられないから税収の範囲でしか予算編成できなくなるからいやでも行革せざるをえない。
税収40兆円で収支均衡型の予算編成してみたらいいですね。シミュレーションでもいいからやって公表すればいいのだと思います。
>凍結して一定の年限たっても返済できない時は国債保持者に財政功労勲章をあげて権利放棄してもらえばいいと思う。
大口預金者ではないわたしは構わないのですが、大手銀行は全部消滅します。大量に国債を保有していますから。
わが町の信用金庫も同じ運命でしょう。国会でそういう法律案を審議しだしたとたんに預金の取り付け騒ぎが起きて、日本の全銀行が経営破綻でしょう。
つまり、日本は国家財政破綻の閾値を超えてしまって、身動きの取れない状況下にある。長期金利は上げられない、市中消化ができなくなっているので日銀直接買い入れという禁じ手を採用せざるを得ない。増税しない限り相変わらず年間40兆円もの借金を増やし続けるしかない。がんじがらめです。
日本の国家財政は実質のところとっくに破綻しているのでしょう。家計にたとえると生活実感を伴って簡単に理解できるでしょう。
年収400万円しかないのに毎年900万円使い、借金が9千万円ある。個人なら銀行が融資するはずがありません。とっくに自己破産です。3回ほど繰り返して自己破産でしょう。
無茶でも問題の本質があらわになる面白い提案です。民主党さん、シミュレーションして公表したらいかが?
公共事業は震災がらみのみ、地方交付税交付金は半額、公務員の給与は半額、年金受給額は半減・・・ぞっとするような現実が浮かび上がります。
by ebisu (2012-02-05 18:16)
私の提言に対して誰も試案を提示してくれません。
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日本人よ、時価【7兆7千億円】超の【経営理念】に学べ。
http://tada-de-english.blog.so-net.ne.jp/2012-01-31
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思案に暮れてしまっているのでしょうか。
by Hirosuke (2012-02-05 18:45)
IMFは国連の機関ですが、米国が主導権を握っています。日本もIMFの主要出資国の一つで、財務官僚が出向しているようです。
AFPによれば、IMF提言の要点はたった二つです。一つは公的債務残高がGDPの2倍、もう一つは消費税を上げるということです。
%やスケジュールは示していませんが、読売新聞が2012年度7~8%と報じました。フライングです。読売新聞社は元財務事務次官を監査役に迎え入れています。
財務省が筋書きを書き、IMFに出向している財務官僚とマスコミが連動してマスコミ操作をしているようみえます。
財務省の消費税増税の地ならしと見ていいでしょう。外側から世論操作をするなんてなかなかやるではありませんか。
自分たちの権益には「仕分け」で指一本触れさせず、仕分け作業を終了させました。
そして増税によるプライマリーバランスの回復を正当化しようとしています。冷静に見ると、まことに自分勝手な論です。
日本は実質的に財政破綻しているのですから、破綻すればいい。一度破綻してすべての特権的な権益を廃止すべきでしょう。公務員人件費は民間の1.4倍、年金も退職金もはるかに優遇、天下りも温存。水の需要は減少していくのに続けられるダム建設、廃止すべきものがそのままになっています。財政が破綻しないと是正なんてできっこありません。
明治以来続いている官僚主導の社会システムのリセットが必要な時期なのだと思います。
破綻すべきときには破綻すればいい。それを逃げては日本の未来はない。
フェイスブックの5つの経営理念はそういうことではないでしょうか?
思い切って財政破綻へ舵を切り、再生へ向けてすばやく動き、ワークシェアーをして小欲知足の経済社会を実現する。
財務官僚は問題の先送りを続けるだけで、いったん財政破綻しないと経済社会を根底から変えるような大きな変革はできるはずがないのです。
だまされてはなりません、日本は数年以内に財政破綻すべきなのです。
IMFは無力です。日本の財政破綻がそれを証明するでしょう。
ははは、ちょっと過激だったかな。(笑い)
by ebisu (2012-02-05 21:38)
ありがとうございます。
LMN研究所にて紹介させて頂きます。
by Hirosuke (2012-02-05 22:09)
乱暴な意見でよろしければどうぞお使いください。インターネットでの情報交換、いい時代です。
by ebisu (2012-02-05 22:29)