コメント欄へ福島原発事故は「想定外が多すぎる」というご意見をいただいたが、用意周到に「想定内」になっていることもある。
 原子力損害賠償法に原発事故の免責条項がある。1961年に今日あることを予想してきちんと法律を作り、東京電力の賠償責任に限度を定め、免責しているのである。これほどの原発事故の起きることすら「想定内」、何もかも承知で用意周到に準備していた。すべては電力会社のためであり、国民はないがしろにされている。

 『原子炉時限爆弾』と『原発事故』を14日にamazonへ発注したら昨日とどいた。後者は小出裕章氏の同じ京大原子炉実験所の同僚(癌で死亡)瀬尾健氏の遺作である。小出氏が「瀬尾健さんと本書」というあとがきを書いている。そのなかに気になる記述があった。東京電力は原発4基分で合計4800億円(過去5年間の平均売上高は5.4兆円、純利益は1000億円だから税引き前利益は2000億円前後)の損害を賠償するだけであとは免責されるようなのだ。おそらく十兆円を超える損害賠償になるだろうが、国会決議さえあればたった2年余の利益を吐き出すだけで「知らぬ顔の半兵衛」を決め込むことができる。

「当然、原子力発電所を推進している国や電力会社にしても、原子力発電所も大事故をまぬがれえないことを充分に知っていて、あらかじめ対策をとっている。原子力発電所を都会に建てないのもそのためである。また、日本で最初の原子力発電所ができる前、1961年に原子力損害賠償法を作ったのも、大事故の発生を否定できなかったからであるその法律には、万一の大事故に備えて電力会社は50億円(ほぼ10年ごとに改訂され、現在は300億円)分の賠償金を保険で準備しておくこと、それを超える被害が生じた場合には国が国会の議決を経て対処する旨が記されている。電力会社にとって50億円や300億円なら軽い出費であろう。逆にいうならば、そのような法律で保護されてはじめて、電力会社が原子力発電に手を染めることが可能になったのである。」(206ページ)

 この本が出たのは1995年で、現在賠償限度額は「1サイト1200億円」にかさ上げされている。電力会社はそれ以上の損害について法律で免責されているのである。マスコミは一切この事実を報じていない。
  仮に損害賠償額が10兆円となり東京電力の負担限度をはるかに超えたとしよう。そうすると政府が損害賠償の「援助」をするという選択肢が一つ、もう一つは電力料金の値上げで対処するということになる。どちらにしても国民負担であり、東京電力は痛くもかゆくもない。給与を20%カットするだけで済まそうとしているが、そうできるのである。巨大独占事業だから過去にたくさんの官僚たちが天下りしているのだろう。

 あきれた法律だ。この当時の総理大臣は池田隼人(自民党)である。吉田内閣の大蔵大臣のときに「貧乏人は麦を食え」と国会で発言して顰蹙を買ったが、その後総理大臣になり「所得倍増」という標語を生み出した。所得はたしかに倍増し、物価の値上がりも相応のものがあった。そういうさなか、原子力損害賠償法は団塊世代が中学生に入学した年に成立した法案である。

 わたしたちは政府が提出する法案をつねにチェックしなければならないようだ。今回の福島第一原発事故に係わる損害補償の国の肩代わりもそうだが、政権はドサクサにまぎれて消費税増税をしようとしている。約束した歳出抑制は中途でほったらかしにしたまま・・・このような馬鹿なことをしてもらうために政権を委ねたのではない、民主党政権は狂ったのだろうか?平常心を取り戻してそれぞれが正直・誠実になすべきことをしてもらいたい。

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*原子力損害の賠償に関する法律(ウィキペディア)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E6%90%8D%E5%AE%B3%E3%81%AE%E8%B3%A0%E5%84%9F%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%B3%95%E5%BE%8B


*原子力損害賠償法
http://www.fepc.or.jp/present/safety/saigai/songaibaishou/index.html

一部抜粋

「原子力災害は、天災や社会的動乱の場合を除いて、原子力事業者に損害賠償の責任があります。電力会社は「原子力損害賠償責任保険」を保険会社と結び、また、国と「原子力損害賠償補償契約」を結ぶことになっています。事業者の責任が免ぜられた損害や保険限度額を超えた場合は、国が被害者の保護のために必要な措置をとることになっており、事業者と国が一体となって原子力損害の填補を行うようになっています。

賠償措置額については、2009年(平成21年)の原賠法の改正により、現在1サイトあたり最高1200億円となり、適用期間が10年間(2019年末まで)に延長されました。」

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