新聞記者もいろいろ。今回は裏を取らずに取材先の発表をそのまま記事にする記者もいるという具体例をあげて解説している。場所は福島県、例の産婦人科医の訴訟が起きた県だ(それ以来産婦人科医志望の医学生が減ってしまったという、きっかけになった事件である)。
 なお、アンダーラインはebisuがつけた。


「マスコミの功罪」(m3.comより)

福島県立医大、医師を“玉突き”派遣 移動短く診察長く
 へき地医療支援システム
11/03/03記事:毎日新聞社提供:毎日新聞社

 福島県立医大(福島市)から2病院を通して医師を“玉突き”で医療過疎地の診療所に派遣する「へき地医療支援システム」が注目を集めている。都市部の大学病院から直接診療所に派遣する仕組みが一般的だが、県立医大方式は医師の移動時間が短くて済み、診療にじっくり取り組める利点がある。11日に開かれる文部科学省の医学部定員に関する検討会で、菊地臣一学長が全国的にも先進的な「福島モデル」として概要を発表する
 システムは04年度に開始。
(1)県立医大の助手15人を県立会津総合病院に週1回派遣
(2)会津総合は助手受け入れで診療時間が空く医師を県立宮下と県立南会津の両病院に派遣
(3)同じく余裕ができた宮下から柳津町と金山町の国保診療所に、南会津から只見町国保朝日 診   療所に医師を派遣する。

 これにより、柳津町で毎週月曜▽金山町で毎週火~金曜▽只見町で隔週木曜--に内科医と整形外科医の応援が受けられるようになった。 玉突きの元となる助手は、臨床研修が終わったばかりで、県立医大で研究しながら診療に当たる。県が1人当たり年間800万~1000万円の人件費を負担する。安くはないが、立場が不安定になりがちな臨床研修終了直後の助手を好待遇で迎えることで医師確保ができる。県立医大は助手枠を90人に増やし、別事業では地域の拠点病院に定期的に派遣するなど、地域医療再生に取り組んでいる。【種市房子】

以上が日本中の医師の間で毎度お馴染み”医師の敵”な毎日新聞の記事です。それに対して次のような書き込みがありました。

「こんなのうそです」
 当方は、この情報にある地域側に勤務する医師です。県からの補助が出て大学にお金が入り、大学からは県立会津に毎週派遣がありますが、県立会津はそもそも人的余裕がないので、応援は受けますが玉は突きません。 玉突き方式が県民に公表される前から、(玉突きがないころから)宮下病院から金山診療所・柳津診療所の応援は行われていたし、只見診療所ががたがたのときは県立会津から応 援はありませんでしたが、県立南会津病院から只見診療所への応援がなされていました。県および福島県立医大が地域医療に貢献しているような書き方ですが、事実は大きく違い ます。県立南会津病院・宮下病院・只見診療所は自治医大卒の医師で成り立っており、その病院間で助け合っているのが現状です。県立医大から月何回が応援が来ていますが、玉 が衝かれる以上にもっと田舎の診療所への応援が自治医大卒の医師によってなされ、玉が衝かれない分、南会津病院および宮下病院の自治卒の医師ががんばっている事実があるこ とを真実どおり
公表していただきたいです。

毎日新聞の記事と、この医師の書き込みを比べて戴きたい。皆さんはどのように理解されたでしょうか。

本来最初から大学から末端の診療所にワンステップで医師を送れば済む話を、何故に3ステップで? 
それぞれのステップで動くのは勿論常勤医ではなくアルバイト医です。勘の良い方はもうお気付きでしょう。時間当たりの給料が高いアルバイト医がA→B→C→Dと玉突き状態で動けば、1人で済むところを3人が動く事に成り、それぞれの移動で交通費、アルバイト代などの経費の増大が生じます。勿論事務的な手間暇も掛かります。 更に医師を送り出すA、B、Cの病院では、そのスケデュールに依ってはその医師が診ていた患者さんを他の医師が診なければ成らないケースも考えられます。何故こんなシステムを考えたのか・・・思うにA大学病院の医師はプライドが高いので僻地の診療所などには行かない。しかしせめてB県立病院なら我慢して行く。同様なドミノ倒しがB、Cについても起きるなら「末端のD診療所にも医師が来る」と言う理屈です。

しかし実際には、投稿された該当地域の医師のお話では違っている。確かにA→Bまでは有ってもそこから先は無い。C病院やD診療所は自治医大OBの医師が頑張って支えている・・・つまり福島県の発表は事実とは違う。もしその医師の言う通りだとすると、毎日新聞は何時ものように全く調べずに(裏を取らずに)意味も分からず提灯記事を書いていることに成ります

因みに、医師の世界に(主にネットで)”聖域”と言う言葉が有ります。つまり”禁断の地”ですから「行ってはならない場所」と言うわけです。福島県はかって「大野病院」事件で”聖域”の仲間入りを果たしている地域です。あの時福島県当局は大野病院に対して不利に動きました。その事を日本中の医師たちは何時までも忘れません。(実際あれ以降産婦人科医たちの”お産離れ”が加速しています)

by 医療四方山裏話 (2011-03-04 13:32)

*福島県立大野病院産婦人科医逮捕事件(ウィキペディアより)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A6%8F%E5%B3%B6%E7%9C%8C%E7%AB%8B%E5%A4%A7%E9%87%8E%E7%97%85%E9%99%A2%E7%94%A3%E7%A7%91%E5%8C%BB%E9%80%AE%E6%8D%95%E4%BA%8B%E4%BB%B6


【余談】
 只見という地名が出てくるが新潟県と福島県の県境ではなかったか。確かダムがあった。奥只見へ行く途中会津に花泉*という酒造がある。美味い酒だ、銘酒のひとつだろう。この蔵元の酒は地元でもなかなか手に入らない。何本か飲んだ。経営分析をし、出資交渉を担当して出向した会社の専務と2時間ほどで花泉を2本あけたことがあった。お互いにコップで一杯ずつさしつさされつ、楽しい酒だった。3本目を飲み始めたところで、店を変えて今度はバーボンのストレート。常務が来て専務が帰り3時過ぎまで飲んでから、常務と二人で屋台のラーメンを食べた。へべれけ、よく飲み、ほどほどに仕事した。社長も専務も常務もそれぞれに癖がありいいやつらだった、どうしているのかな。
*花泉酒造
http://www.hanaizumi.ne.jp/top.html

 記事中に出てくる柳津という地名はヤナイヅと読む。
 会津には竹田総合病院という1000ベッドの大病院があると記憶する。50キロほど離れた郡山には800ベッドの大田総合病院がある。会津、郡山共に民間の大病院がしっかりあるというのがこの地域の医療の特徴だ。
*竹田総合病院
http://www.takeda.or.jp/3_index/3_zaidangaiyo.html

 会津も郡山もどこを掘削しても温泉が出る。米は美味いし、水もいいから当然のごとく酒も美味い。お蕎麦は郡山市内に何軒かいい店があるが、市内はあえて天麩羅専門店の"奈良木"を挙げておきたい。いい店だ。天麩羅を揚げるオヤジがいい、そしてモンペ姿の奥方の漬けた漬物も絶品である。
 郡山から会津に向かう途中に磐梯熱海があるが、そこに美味しい蕎麦屋が二軒ある。3時には売り切れで店終いだ。店の名前はなんといったかな、思い出した、"石筵"である。国道沿いにあるからすぐにわかる。途中の猪苗代湖の近くには爺さんと婆さんが経営する素朴な蕎麦店"磐梯そば道場"があり、会津には"桐屋"という名店がある。どの店もそれぞれに個性的で、挽きたて・打ちたて・茹でたての蕎麦はどれも美味い。それぞれの店主がとことんこだわりぬいてつくる蕎麦である。
 職人技。

 根室にこれほど蕎麦作りにこだわり抜く店があれば楽しいのだが・・・どの店も石臼をもち、朝5時ころから粉を挽いて蕎麦を打つ。選び抜いた新鮮な材料と磨きぬかれた蕎麦打ちの技術、美味いはずだ。生徒たちに教え、味あわせてやりたい、これが日本の物づくりの原点のひとつだと。
 本物の職人仕事と出会うことが大事なのである。出遭えばわかる。仕事とはここまでやるものなのかということが。そうすることが楽しいのだ。不徹底な仕事は、それをする人も味わう人もどこか気持ちがよくない、引っ掛かりを感じてしまうもの。日本人はそういう微妙で繊細な感覚を大切にしてきたのではないだろうか。


*天麩羅 奈良木
http://www.fukulabo.net/shop/shop.shtml?s=356

*「石筵」⇒写真が載っていました
http://plaza.rakuten.co.jp/junko23/diary/201002250001/

*磐梯そば道場ホームページ
http://www.aizu-soba.com/bandai/


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