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#1768 あるドクターの米国での入院体験記:日米医療事情比較 Dec. 11,2011 [40. 医療四方山話]

  さて、日曜日ですから、ちょっと毛色の変わった話題をアップします。
 ある方から、米国と日本の医療を比べてみるのにいい材料を提供戴きました。米国に留学中の医師の入院体験記です。専門用語に()で解説をつけて送ってくれました。
 海外へ長期間行く機会のある人が増えていますので、参考になるでしょう。
 日米の医療事情を比較することで、守るべきものが何かもわかるのではないでしょうか。最近話題になっているTPPでは医療も影響を受けます。米国の保険制度と日本の皆保険制度も比べながら読んでいただけたら幸いです。

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米国で虫垂炎+腹膜炎になりました。

… 
 
時折m3を読ませて頂いてます。日本での医療訴訟の報道が余りにもひどいと思い、今回初めて投稿させて頂きました。自分自身に起きたエピソードを通して、日本の医療が他国 と比べていかに恵まれているか、少しでも多くの人に伝われば幸甚です。以下は渾身のノンフィクションです。当時書いてあった文章をそのまま貼った方が臨場感が伝わると考え 、あえて丁寧語ではなく口語文のまま掲載させて頂きます。

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10年以上日本で消化器内科として働き、現在米国に留学中ですが、2年前に虫垂炎+腹膜炎になりました。

土曜夕食後に急に結構強い心窩部痛を認めましたが、放置。
日曜朝、パンを食べただけで増悪し、痛みが下腹部に移動し、圧痛とそこそこの反張痛、39℃台の発熱もあったので、appeを疑い、20時に夜間診療所(Night time care)に行く。本当はそこで抗生剤を点滴してもらって、月曜に消化器の医者に見てもらいたいと簡単に考えてました。そんなに人が待っているようには見えなかったが、2 2時にもう一回来いとのことで、その時間にもう一度行く。iPadほどの大きさの機械の面倒くさい問診票を手渡され、30分かかって腹を抱えながら何とか記入。

その後もしばらく診療室で待たされ、入って来た看護婦さんが友人と並んでいる私を見て微笑みながら「どっちが患者なの?」と軽いジャブを。一見してわかるでしょうが…。そ の後尿検査したあと小一時間待たされ。どう見ても混んでるようには見えないんですが…。やっと医者が来て。

米「どんな痛み?」
日「colic pain.(疝痛)」
米「(ちょっと驚いた顔で)面白い表現をするねぇ…。」
日「日本で医者やってました。」
米「専門は?」
日「消化器。」
米「じゃあ診断は?」
日「たぶんappe。(虫垂炎:盲腸炎)」
米「じゃあそこで跳んでみて。痛い?」
日「響きます。」

何て感じで。触診とdigitalやったあと(採血、エコーなどはせず)、

米「ビンゴ。」「じゃあope。(手術)」

えっ…

(採血、エコー、レントゲン無しで診断です。診断できたこと自体は驚きませんが、問診、触診だけで言い切ってしまう辺りに感服しました。自分なら虫垂炎の「疑い」があるの で救急病院へ紹介しますと言いますが…少なくとも自分なら見えなかったとしてもエコーはやりたいと思います。)

いきなり!?点滴で散らすんじゃあないの?
(このときperforation(破裂)してるとは思ってませんでした)

米「ope。救急病院に行ってもらうから。紹介状書くから」
日「今から行くんですか?」
米「今。」
日「じゃあ友人の車で行きます」
米「ABSOLUTELY NO!!!!!!!!(絶対に駄目)」

日「…だって救急車代が高いから…」
米「診療所からは只だから」

ということで日米通じての救急車デビュー。今まで患者の付き添いはありましたが、自分が横たわって行くのは行きでは初めてでした(患者が降りた帰りに救急車内で寝て貰った ことは何度かありましたが)。

日が変わって月曜0時に救急病院のER(救急治療室)に行くと
「CT撮るからこれ飲んで」と言われ、目の前にガストロ(ガストログラフィン:経口造影剤)1ℓ。皆様ガストロ1ℓ飲んだことおありでしょうか?まずいです。造影剤は静注だけでいい だろうと(自己)判断し、100ml飲んだ後はガストロ放置。

一時間後、技師らしき人が来て

「何で飲んでないんだ!」
「おなかが痛いから(本当はまずいから)。」
「痛み止め静注するから飲め!」

泣く泣く全部飲みました。そんなことせずにさっさとOpeしてくれたらいいのに。静注(造影剤の血管注射)だけでわかるじゃん!
結局運ばれて4時間後にCT撮影。遅っ。perforation(破裂)してるのに。その後Opeは朝6時からということに。
外科医…太ってました。彼のズボンは私2人入ります。自分のappeはどうするんだろうかと心配です。

ムンテラ手術を受ける前にムンテラ(患者への説明)とか全くなし。一言「laparo(腹腔鏡)でやるから。今日夕方には帰れるよ。」今日夕方?ちょっとオツムが弱いかなーアメリカ人。本当か?

「かみさん呼んだ方がいい?」
「お前で十分。お前が判断能力ある訳だから」

いいなぁアメリカ。この日米の違いはなんなんだ。
ていうか、俺に事故があったらどうするんだろうか。

先生の言う通り、ムンテラの代わりに、契約書にサインをさせられました。英語なので読まずにサインしようとしたら、友人が「先生、一応読みましょうよ」

ごもっとも。

でも読んでも、手技に関する記載は一切なし。それこそ、「私、訴えません」って感じのヤツ。これでいいのか!?

サインする前後(Ope前)に、さっき撮ったCTを見せてくれとお願い。すると「フィルムは上の階にあるので持って来れない」

それ通用するのか?

「ここのPCでみるか?」
ええ、そうします。

さぁーっと見ましたが(さぁーっとしか見れませんでしたが)、周囲脂肪織の上昇はすぐわかったけど、free air(自由空気:消化管が破れている)は大きいのはなし。abscess(膿瘍)はよう分からんかった。このときperforation(破裂)しているようだと説明あり。

まぁappeは自分で診断ついてたし、Opeは不可避だってわかってたし。この年で発症ということが受け入れられなかっただけで。まぁ腹膜炎なしでもOpeは妥当かなと思 っていたので、サインしてお願いすることに。

その後麻酔医のほんの2~3分のムンテラ(というより家族に悪性症候群の人がいないかどうかの簡単な問診のみ)後…意識が戻ったのはOpe後2時間後。
いつ麻酔を打ったんだ?
自分の中ではOpe室に入って少ししてから麻酔がかけられると思ったのに…ショック。Ope室見たかった…
極端な話、局麻下のもと一通り見たかったです。

主治医「思ったよりabscess(膿瘍)がひどかったから退院は明後日水曜日ね。」痛い訳だ。
というか、そもそも同日夕方退院って最初から無理だろ。

かみさんからは入院前に「わたしは痛みに慣れているけど」と言われ、「生理痛と一緒にすんじゃねえっ!」と言ったら「生理痛をバカにすんじゃねぇっ!!」と怒られたが…ど う考えてもappeの腹膜炎>>生理痛だろう。一応WBCも17,000だったらしいし。

ちなみにCRPは一回も測ってないようでした。ここら辺はアメリカの医療に同意。高いに決まってんもんね。

さあここからが大変。

2人部屋の廊下側のベッドに寝せられて。トイレは反対の窓側。
腹が痛い。切る前より痛い。どう考えてもOpe前より痛い。一時間のOpeだったのでバルーン(膀胱留置カテーテル)は入ってない。

看護婦「トイレに入ったら力まないように。」

力めるかっっていうの。

正直に言います。バルーン入ってたほうが楽だと思う。
最初の一滴を出すのが辛い。トイレに入ってしばらくしゃがんで我慢しつつ用を足してると、外からノックが。

看「Are you O.K.??」
O.K.……なわけないだろっっっっ!

やっとの思いでトイレから出てくると
看「お前はいつもこんなにトイレが長いのか?」

お前…日本に来てappeで緊急入院したら復讐してやる。どうしてくれよう。

点滴台を支えにして、体を引きずるようにベッドへ。ベッド上に乗るのも痛みとの孤独な闘い。

飯はorderするシステムで、メニューは豊富。当然粥なんてなし。また、何食べちゃ駄目という説明全くなし。
元気なら術後一日目にしてステーキ食っても良し。

…とても食べれません。もう寝るだけ。水もいらん。

二日目。

夜普通に39℃台。でも熱は平気。痛いのが辛い。この痛さ、例えるなら下腹部に鉛の放射線プロテクターが折り畳んで入ってる感覚。

看「今日は歩いてみよう。」
もう好きにして下さい。

まぁOpe日に比べたらましなので、一応歩ける。歩くのはいい。排泄が苦痛。

三日目。

夜普通に39℃台。
看「何でこんなに熱が高いのかわからないわ。」

洗い方足んなかったんじゃあないの?こちらはドレーンは入れないのが当たり前だとか。
それはいいけど、abcsessがひどかったのにlaparoで終わらせて、ドレーン(排液管)留置せずに終わって「何でこんなに熱が高いのかわからない。」

普通は洗い方足んなかったと思うでしょう。当然(?)退院は延期に。この日も病棟内を歩く。
部屋の外には部屋番号の下に"low"のシールが。
聞くと、lowは軽症の患者だとか。確かに扱いは一部lowだったかも。看護婦さんは総じて良かったけど。

四日目。

夜は38℃台に。でも早朝にculture-up.ワンテンポ遅くない?
もう使ってないルートを抜いてくれというと(抗生剤が内服に切り替わったので)使うかもしれないから駄目だって。
アメリカ大した事ないなぁ。も一回入れりゃあいいじゃん。因みに入っていた場所は右肘の正中。他にもあるだろうに。

採血は毎日。でも結果は聞かないと教えてくれない。
朝CT撮るとの事。またガストロか?と震えたが、結局単純のみ。

いつも夕方5時前後に4~5分来る主治医はこの日昼に来て、fluid collection(液体貯留)があるからpuncture(穿刺排液)すると言う。もちろん本人ではなく放射線医が。
看護婦さんにいつ頃?と聞くと分からないが呼ばれたら知らせるとのこと。その日、結局呼ばれず就寝。

五日目。

早朝
看「punctureはどうだった?」
…やってません。
「Really!?(本当?)」
別にこちらは驚きません。アメリカに一年住んで、慣れました。約束の日に事が済むと奇跡だと友人は言ってたし。朝7時に透視室に(慌てて?)呼ばれ、punctureする ことに。もう熱は解熱傾向だったけど。

何か英語でいろいろ言ってるけど、要はまずpunctureして、場合によってはドレーンを留置するという事。
まぁappeについてある程度の知識はあったので、何とも思わなかったけど。
エコーで20mlぐらいのfluid(液体:浸出液?)を確認して(簡単そうな場所。傍結腸ですね。)アルコール(?)で消毒して…

ブスゥッ!

いっってぇ。そのあと、十字切開。

吸った液は濁ってなかったのでドレーンなしで終了(結局十字切開は必要なかった)。
また腹が痛くなった。歩くのがまた辛い。
それより、頭が痒い。清拭はないし。
自分で勝手に行きましたよシャワー室に。当然バスタブなし。
シャワーぬるいし。おまけにシャワーヘッドとれるし。

右腕はルートが入っていて、テガダームなどのprotectionはなかったので片手で頭を洗うはめに。

入院生活は日本に限ります。

術後6日目にしてようやく退院。いい経験でした。

******************************

こんな文章を載せて我ながらしょうがないと思う反面、アメリカでの一連の診療をお伝えすることで、少しでも日本の臨床現場が素晴らしいことと再認識される日を願ってやみま せん。

ご清聴ありがとうございました。
 

読んで頂きありがとうございます。

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