医療四方山話、医師と市民のコミュニケーション・シリーズです。一般市民の知らない医療の仕事にまつわる問題を医師の視点から市立根室病院の実態に即してコメンテーターがとりあげてくれています。
 最後の段落で、市立根室病院のアルバイト当直医のコスト(1回25万円)と採算の問題が解説されています。
 今年度は常勤医師数が増えたにも関わらず赤字額は拡大しました。おおよそ13億円です。そのうちの2.4億円が常勤医不在時の医師確保のために支払われたコストです(最後の段落の太線部をご覧ください)。このような実態では医師が増えても病院事業赤字の額は減らないわけです。解説を読んでなるほどと思いました。
 それならそうと最初からそうした赤字をきちんと計算に入れて予算編成すべきなのですが、「関係者たち」は正直で誠実な仕事がお嫌いなようで、来年度予算も現実とかけ離れた「辻褄併せ」に精を出すのでしょう。その一方で病院事業の経営改善はないがしろにされたままです。嘘や偽りだらけのところに改善の芽は育たないということです。



「当直医の問題」

先ず次をお読みください。“お上“の「当直医」の解釈です。

厚生労働省労働基準局  2002年3月、
  「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について」
労働基準法における宿日直勤務は、夜間休日において、電話対応、火災予防などのための巡視、非常事態が発生した時の連絡などにあたることをさす。
医療機関において、労働基準法における宿日直勤務として許可される業務は、常態としてほとんど労働する必要がない業務のみであり、病室の定時巡回や少数の要注意患者の検脈、検温等の軽度または短時間の業務に限る。
夜間に十分な睡眠時間が確保されなければならない。
宿直勤務は、週1回、日直勤務は月1回を限度とすること。
宿日直勤務中に通常の労働が頻繁に行われる場合は、宿日直勤務で対応することはできず、交代制を導入するなど体制を見直す必要がある。

 では実際の現場ではどうでしょうか。
 大体地方の中央病院(根室では市立病院)は救急指定と成っていて、夜間帯も救急外来の形で診療を受け付けています。(実態は“救急“とは名ばかりで、いわゆるコンビニ受診の夜間外来に過ぎません)。当直医は大体各科の医師が順番で受け持ちます。時間帯は平日は大体17時~翌日8時の当直、土曜は8時~17時の日直と17時~翌日8時の当直、日曜は8時~17時の日直と17時~翌日8時の当直の事が多く、それぞれの区分を1コマとすると、1週間では9コマで1カ月では平均約40コマに成ります。もし日・当直に関し全ての医師を平等に扱うのが病院の方針であれば、その40コマを常勤医の数で割ります。
 つまり院長以下全部で40人の常勤医が居れば当直は月1と成ります。しかし実際には病院の代表で日頃から対外交渉に忙しい院長や、定年間近い年齢の医師は当直免除、また病院によっては眼科医には当直は酷だとして外している所もあり、結局当直を月1にするには常勤医が50人前後居て初めて可能な事で、医師不足に悩む地方の病院はどうしても最低でも月2程度の当直は割り当てられてしまいます。この点だけは何とか労働基準法をクリアーしています。

 しかし問題はその当直内容です。現実の夜間外来の当直は全く労働基準法で言うところの当直とは違います。夜中ひっきり無しに患者が訪れ、当然まともに寝ている暇はありません。そしてその睡眠不足のまま翌日も通常業務です。労働基準法はその大問題である「夜間救急外來」と言う表現を避けて「宿日直勤務中に通常の労働が頻繁に行われる場合」と言葉を濁しています。更に「宿日直勤務で対応することはできず、交代制を導入するなど体制を見直す必要がある」と全く他人事です。この9年間厚生労働省は日本中の病院の当直の実態を把握していながら何の手も打って来ませんでした。それは“お上”にしてみれば至極当然の事と思われます。「金銭的な事を言うのははしたない」と言う医師たちのつまらないプチブル的プライドや「月に1~2度くらいなら、まあ当直も仕方ないか」と言う医師のボランティア精神を上手く利用して、本来はもっと多くの医師を配置して莫大な費用が掛かる全国の救急病院システムを現行の医師数でしかも安く上げようとしているのですから。ちなみに北海道の公立病院の当直料は2~5万程度(勿論夜間外来もして)です。しかし外部から当直医を呼べば、1晩で10数万は掛かります。ですから「寝た子は起こすな!」。

 ところが最近思わぬ役所が「寝た子を起こし」に掛かっています。それはこのシステムを改善しようなどと殊勝な考えからではなく、「もっと税金を巻き上げろ」と言う下賎な目的です。そう、税務署が病院勤務の医師の当直料に課税し始めました。
 税務署の解釈では、何処の病院の当直も院内の患者に備えるいわゆる「寝当直」ではな、明らかに夜間帯の「時間外診療」である・・・全くその通り! しかし税務署は現行の労働基準法違反の「当直」にメスを入れてくれる役所ではありません。皮肉を言えば、国のいい加減なシステムの被害者である多くの医師の懐から更に税金を巻き上げる「泣きっ面にハチ」的行為ですね。

 これまでの話、「当直医」と言う主語を単数で表現していましたが、実は違います。通常地方病院の救急外来対応は少ない医師で遣り繰りする為、窓口は順番制で専門科は問わずに1人です。その日直接当直医が出ていない科でも、当直医の手に余る場合に呼ばれて出て行く“待機当番”が普通です。その中でもしばしば呼ばれるのが外科、循環器科、整形外科辺りですね。また脳神経外科も結構呼ばれます。或る意味では全科が待機状態にあり、医師が複数の所はまだしも1人医長の科などでは医師は好きな晩酌も控える羽目に成ります。つまり個人の本当のプライベートな時間はありません。この待機状態(つまり拘束されている)に対しては殆どの病院が報酬の対象にはしていません。これは放射線技師や臨床検査技師、薬剤師、看護師、臨床工学士などでも同様です。実際に病院に呼ばれて出勤して初めて時間外の対象(些細な額ですが)に成る病院が多いようです。言ってみれば、「救急外来」をやると言う事は、一部の事務も含めて病院全体がバックアップ体制を採る・・・つまり国が期待している病院は、「365日、24時間open!」と言う事でしょう。それならそれで適合したシステムを作ってくれれば良いのですが、少しでも医療費を抑えようと企んでいる国がその線で動く事は有り得ないでしょう。
 依然としてマスコミなどを使って無責任に国民を煽ります。「医者なんだから」「病院なんだから」

 御当地根室の市立病院では、医師1人当たりの日・当直は月2回までとの事ですが実際の常勤医でのコマ数は20コマ。残りの20コマは主に札医大からアルバイトを雇っているようですので、日・当直料、往復の飛行機代とタクシー代などで少なくとも1回に25万近くは飛ぶでしょう。週末の日・当直ともなれば単価も上がるでしょうから単純計算でも毎月約500の経費が掛かっていることになります。
 更に当直医以外にも日常の外来・病棟勤務や常勤医不在時の待機医(内科、外科、産婦人科、小児科、整形外科、泌尿器科、麻酔科、耳鼻咽喉科、皮膚科、眼科の全科!)に経費が掛かります。その額は年間で約2億4000万円(H市議のHPに載っている市立病院院長の話**より)で、果たしてそれでどの位の収益が上がっているのか・・・医師一人当たりの収益が計算通り1億円などは科によってはとても無理な相談で、今の実態からは医師を増やす事での収益増は望む方が無理でしょう。むしろただ単に増員するだけならば一層赤字が増大して行くと思います。


by NO NAME (2011-02-26 02:55) 


【コメント】
 当直手当ては非課税となっているのですか、民間企業では議論のあるところかもしれません。私は給与計算をしたことがありませんので断言はできませんが、実質から判断すると課税対象でしょうね。食事が外出先でなされるのでその補填のための営業手当ては通常2~3万円程度だったと記憶します。それから出張手当などは課税対象外です。
 判断基準は宿直手当の金額と職務内容次第ということでしょう。通常勤務とあまり変わらないようなコンビニ受診対応のような仕事が多ければ宿直の範囲を超えて通常の交代勤務と判断するのでしょうね。あまりつつくと、やぶをつついてヘビ(課税判断)が出ることになりかねません。微妙な問題を含んでいます。

 もう一つの論点は一人の医師が当直で全科を診るということですが、無理がありますね。どんな患者が飛び込んでくるか分からない、たいへんでしょうね。私が消化器内科の医師なら、外科の患者や脳疾患の患者が来ても困ります。自分の専門外なら診れないですから、専門医のいる病院へ転送するしかありません。

 根室はコンビニ受診が多いようです。はやく根室の医療を守る会のようなものができて、積極的な活動をすることが望まれます。この手の活動は草の根的なものが基本でしょう。おそらく「××ネットワーク」は役に立たない。活動の主体がたんなるイベントです。活動の本質が違います。
 たとえば、柏原病院小児科を守る会のホームページを見ても「飲み会」とか「懇親会」とかその種のイベントはありません。役に立っているのならとやかく言うつもりはありませんが、市から予算まで出ているが疑問に感じる市議は一人もいないのは「異常」と感じます。議会はさまざまな市民の意見を代表してさまざまな意見が表明されるという「バランス」が必要です。


*県立柏原病院小児科を守る会
http://mamorusyounika.com/

**「市立病院東浦院長の講話」(本田市議ブログより)
http://nimuoro.typepad.jp/honda/2011/02/post-8eab.html



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