北海道新聞根室地域版から根室の教育問題についての「実況中継」である。シリーズ全体のデッサンをしてから、丹念に取材を重ねたように見える。2回目は思いっきりのよい切り口だ、とにかく読んでほしい。好い仕事に我慢しきれず全文転載。

 教育再考 根室の未来
   学力差 
  細かな指導 継続に不安

 根室西高で1年生が学ぶ「高校数学入門」。<2x+3=x+5>。黒板には本来、中学1年で習う1次方程式が書かれていた。教師が「xを左、数字を右に移行するときは符号を変えるんだったね」と説明すると、生徒は「ややこしいなあ」と頭を抱えた。
 同校には、中学校で不登校などの問題を抱えていたため入試で数学が0点だった生徒もいる。担当の押上恭徳教諭は「九九もできない生徒もおり、小数や分数の計算でつまづくケースが多い」と明かす。

  全道平均下回る
 小中学生を対象にした過去3年の全国学力テストで、根室の点数はほとんどの科目で全道平均を下回り、道内で最も学力が低い地域の一つであることが浮き彫りになった。そのひずみが同校に表れている。
 7月に根室市内で行われた高校配置の説明会。道教委の担当者は堂の財政事情にも触れ、市内で統廃合の検討をはじめることに理解を求めたが、複数の出席者が学力差問題を指摘した上で、拙速な統廃合に懸念を示した。
 出席者が気にしていたのは、国公立大への進学希望者もいる根室高と、根室西高を現状のまま統廃合すれば、根室西高の指導体制に救われてきた生徒がついていけなくなり「混乱が起きるのでは」というものだ。

  習熟度別に授業
 根室西高は高校数学入門で、生徒の理解に応じた習熟度別授業を実施。1学級29人を3コースに分けて少人数指導を徹底し、さらに最も数学の苦手な生徒にコースには教諭を2人配置する。
 また、英語でアルファベットの書き方から指導を始めるなど、さまざまな教科で「勉強の苦手な生徒も何とか卒業させたい」(前田豊校長)と熱心に指導している。
 根室西高の実情を知る保護者は「統廃合できめ細かな指導がなくなれば、中退者が増えるのでは」と心配する。
 一方で、市内の教育関係者の間には、統廃合された場合「進学指導がきちんとできるのか」という不安の声もある。

  小中学校の責任
 「学力低下は高校ではなく、小中学校の問題だ」。説明会の席上ではこうした意見も出た。小中学校での指導がうまく行われていれば、生徒に学力差のしわ寄せが行くことはないからだ。
 市教委の今井泰和教育総務課長は「小中学校の学力差問題は市教委の課題」とした上で、高校問題とのかかわりについて「議論を深める必要がある」と話す。
 統廃合は、高校の生徒と保護者、道教委の問題ではなく、地域全体の問題として考えなければいけない。

< コメント >
 小学校で逆九九を教えない先生がいる。逆九九が言えないと割り算のスピードが落ち、計算が苦手になる生徒が増える。九九は親もチェックすべきだ。小学校低学年のうちに一緒にお風呂に入って言わせればいい。
 計算が苦手の生徒をよく観察すると、割り算の商が思い浮かばない生徒が多い。そういう生徒は九九の特定の部分があいまいだったり、逆九九が言えない。言いにくい部分を見つけてやり、繰り返しトレーニングして1週間で直せることもあるが、、なかなか一筋縄では行かない。そういう生徒はたいてい家庭学習習慣がないという問題も抱えているからである。他の生徒のいる前ではプライドが邪魔をして練習できない。そういうわけで三人に一人程度しか救えないのが現実である。
 分数の乗除算は学習指導要領のまま教えると混乱を招く。きちんとした先生は学習指導要領の悪いところは、そのままやらずに違う教え方をする、それが教師の良心というものだろう。ところが、ほとんど例外なく教科書どおりに教えているようだ。中1の正負の数の加減乗除算でも同じことが起きている。先生たちの教え方、工夫次第で改善できることは多い。

 不登校だった生徒を何度が受け入れたことがあるが、10点以下の点数だった2名は2ヶ月ほどで数学の点数が80点を超えた。一人は根室高校へ進学した。もう一人は根室西高で同級生5人ほどを集めて勉強グループを作り、勉強を続け、学校推薦で専門学校へ行った。
 やり方次第で救える生徒はいる。私そして塾でやるよりも、学校でやるほうがはるかに効果が大きい。なにせ生徒の数が違う。

 ほとんどがいままでブログで書いてきたことだが、意外だったのは7月の道教委での説明会での出席者の意見である。いままでこうしたまともな意見表明を公の場で口にする市民はほとんどいなかったように思う

 根室高校1校に統合されたら、根室西高のような指導体制は不可能だ。理由を挙げておかねばなるまい。
 根室高校も1学年3クラスを4つに分割して、3段階(α、β、γクラス)の習熟度別指導をしているのだが、進行速度は一緒である。高校1年でどのクラスも数ⅠとAをきちんと消化する。
 ところが、西高は小中学校の算数・数学からはじめ、三角比を最初にやり、数Aは2年でやる。進行速度がまるで違うので、習熟度別編成が不可能になるのである。同じテスト問題すら使えない。
 放課後の進学講習を根室高校は頻繁にやっているが、分数や小数の計算ができない生徒の補習まで間口は広げられないだろう。習熟度が低いほど手間がかかるのが現実だから、教える側に人的余裕がないだろう。

 根室高校普通科の枠を広げて、西高の生徒を入れればいままで救えた生徒は切り捨てられざるをえない。中学校で授業をサボっていた生徒や勉強しなかった生徒が大半であるとしても、救いようがなくなる。とうぜん授業内容はわからないから、騒ぐかサボるかどちらかで、根室高校普通科は市街化地域の3中学校がそうであるように授業が荒れる。おそらく、わずか3年間で現在よりもレベルは急激に下がる。中途退学者は現在根室西高が15~?人程度ではないかと思うが、授業についていけずに退学するものが2倍になるだろう。
 このような事態を避けるためには別の科を設置して、そこに収容せざるをえない。根室高校の中に根室西高を創ることになる。こういう具体策を検討しなければならない。
 これらは対症療法である。根本的な対策は小中学校の学校教育と家庭のしつけの中にある。ここが劣化したままでは、高校でどのような対策もむなしい。

 小中学校の学校教育に責任のあるのは根室市教委である。全国学力テスト結果すら公表しない市教委がなんと言っているか?
「市教委の今井泰和教育総務課長は「小中学校の学力差問題は市教委の課題」とした上で、高校問題とのかかわりについて「議論を深める必要がある」と話す」。
 データを公開しないで、何を議論しようというのだろう。そして全国学力テストの結果公表から何年経ったのだろう。「議論を深める」時間はいくらでもあった。なのに具体策すら作れなかったのだから、いまさらデータを隠したままで議論しても結果は見えている。データを公開しないで議論しても意味はない。具体策を作ったとしても、効果の検証すらできないではないか?PDCAは仕事の基本である。市教委は仕事の基本を無視している。市立病院長や事務長や市長の医師招聘もそうだった。この町の市政に関わる部分はどこを切っても、仕事の基本がないがしろにされている現実にぶつかる。
 行政には大きな権限が委ねられており、その権限には責任が伴っている。子供たちの学力向上にまったく役に立たないなら市教委なんていらないから、全員辞表を出されたほうがいいだろう。なす術がない教育長と市長も同様である。

 つまるところ、根室市政と市議会は教育問題を放置し続けて来たということだ。病院建て替え問題一つ、病院経営改革一つとっても不手際だらけ、どこを切っても金太郎飴のように好い加減な市政や市議会という絵柄が出てくる。勉学に関心のなかった人々が市政や市議会を担っているからこういうことになるのかもしれない。いやいや、例外はいる、私もそれは承知している。そういうわずかな人々が例外的な存在だから困るのだ。
 50あるいは60歳をすぎるまで今日まで勉学に関心のなかった市議も、教育問題は根室の将来にかかわる重要問題だから真剣に取り組んで欲しい。根室の30年後はいまわたしたちの行動にかかっている。

 「教育に関する市民会議」を毎週日曜日、総合文化会館で開催するのがいいと私は思うが、もっとよい方法があるかもしれない。具体策を思いついた人や意見のある人はコメント欄へどうぞお書きください。
 いつもの通り、反対意見も歓迎する。

*PDCA:ウィキペディアより
>Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の 4 段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善する
http://ja.wikipedia.org/wiki/PDCA%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AB


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